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現在、日本を含めた世界中が“サスティナブル”という観点を重視して活動を行っています。この活動の背景で、消費者も巻き込んだインパクトを与えたのが、2015年に採択されたSDGsです。
SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の頭文字を取ったものです。意味は「持続可能な開発目標」で、中身としては環境保護に関する目標や人々の権利を守るための目標など、様々な内容が書かれています。このSDGsによって、サスティナブルという概念が広まり、人類の産業や生活様式にも少なからず影響を与えています。
例えば、最近話題になったのはプラスチックスプーンやプラスチックストローの廃止などです。このような例を始めとして、生活の小さなところにもサスティナブルが浸透しており、気づかないうちに人々の生活の景色を変えています。また、こうした取り組みは人類の生活を変えるだけに留まらず、海洋問題にも変化をもたらします。
プラスチックのように分解されにくいゴミが海洋に流れ着いた際には、景観を阻害するだけではなく、生物が体内に取り込むことで命を落とす事態に発展します。さらには、海洋生物による生物濃縮が起因して、人類がマイクロプラスチックを取り込むことに繋がります。このような問題を解決するため、小さなサスティナブルが生活の中で見られるようになった、という流れになっています。
こうした側面から、かつてのようにものづくりを繰り返すだけではなく、ものを消費した後のことを考えて行動すべき世界に変化している、という推測ができます。つまり、SDGsを起点とした潮流は、ものに対してもライフサイクルを考えることこそがサスティナブルという考え方の一つである、というメッセージになっていると読み解けます。
では、もののライフサイクルを考えたものづくりとはどのようなものなのか、そしてどんな取り組みが評価されるのか、これらの疑問を解消するべく、大量生産が問題視されているアパレル業界の事例から紐解きたいと思います。
サスティナブルなアパレルブランドとして著名な例を挙げるとしたら、クリストファーレイバーンは最適解の一つだと言えるでしょう。クリストファーレイバーンはアパレルブランドとして、バーバリーやプラダなどが名を連ねる世界的なファッションイベント「The Fashion Awards 2020」で表彰されるほどのユニークなものづくりを行っているブランドです。
クリストファーレイバーンの国内における事例では、2021年3月にイソップ(AESOP)とコラボして、ハンドケア製品を収納するポーチを発売したことが挙げられます。一見特徴のない製品に見えますが、この製品のユニークな点はクリストファーレイバーンの考えが前面に押し出されたところにあります。
このポーチは、リサイクルコットンを80%使用しており、環境に配慮した素材を用いています。また、ポーチのリサイクルも考慮して、ボタンやチャックなどの金具を一切使用していません。これだけでもクリストファーレイバーンの考えが強く反映されているように思えますが、さらには航海用の海図をリメイクしたデザインのポーチを限定販売するなど、素材を再利用することを重点的に考えたコラボ製品を販売しています。
加えて、このポーチの作成方法を無料で公開しており、誰もがポーチをリメイクする手段を持てるようにしています。ポーチの作成方法を無料公開した場合、作成方法だけが出回ることで利益が減るというシナリオは想像に難くないと思いますが、それでも無料で公開をしているという部分に、クリストファーレイバーンのらしさが現れています。
さて、コラボ製品だけでも特色が強く見受けられるクリストファーレイバーンですが、その根底にある理念とは一体どのようなものでしょうか。
クリストファーレイバーンは、自身のブランドに対して「われわれはリメイク、リサイクル、リデュースを軸に、クラフト、クリエイティビティー、コミュニティーを大切にしている」と語っています。その言葉の通り、先ほど紹介した例では海図をリメイクしたプロダクトを発売し、そのプロダクトの作成方法を公開するという取り組みをしています。これ以外にも、例えば余った布を利用したぬいぐるみづくりのワークショップをし、収益の一部を世界自然保護基金に寄付する活動など、環境とコミュニティーにアプローチする動きが見られます。
また、クリストファーレイバーンを手掛けるクリストファー・レイバーン氏は、ティンバーランドのグローバルクリエイティブディレクターに就任しており、2018年にはカプセルコレクションを発表しています。
ちなみに、ティンバーランドもサスティナブルな取り組みを意識しており、2020年までにアパレル製品に用いる素材を持続可能なものにするためのアクションを起こしています。ティンバーランドのような有名ブランドに招聘されてコレクションを出すという点からも、クリストファーレイバーンのものづくりの姿勢が評価されており、世界規模で影響を与えるブランドであることが見受けられます。
このようなブランドの取り組みを総括すると、やはり一貫してリメイク/リサイクル/リデュースを軸にものづくりを展開していることが伺えます。そして、ここまで一貫した活動を行っている裏テーマとしては、次世代型のブランドはサスティナブルが必須である、という流れを作る目的があるようにも受け取れます。
その根拠として、クリストファー・レイバーン氏は以下のように語っており、次世代へサスティナブルのバトンをつなぐことを意図しています。
「サステナブルな素材を使ったアイテムを売ることや、製造方法を見直すだけでは不十分。各ブランドや企業の取り組み自体は勿論必要で、さらに消費者自身がサステナブルについて考えられるようなメッセージを発信することが重要(一部抜粋)」
特に重要なのは、「各ブランドや企業の取り組み自体は勿論必要」とコメントしている部分です。この部分から、消費者にサスティナブルを意識させるためにはブランドが主体的に動く必要がある、というメッセージが受け取れます。つまり、クリストファーレイバーンはものづくりを通して、消費者だけでなく他社ブランドも巻き込みサスティナブルを推進していく為に存在している、と考えられます。
では、クリストファーレイバーンが実現したいサスティナブルなブランドは日本にも存在しているのか、その事例を見ていきたいと思います。
クリストファーレイバーンのような、廃棄されるはずの素材を用いたリメイクブランドは徐々に広がりを見せています。
例えば、クラウドファンディングサイト「Makuake」では、古着活用ブランド「2nd existence」と豊島株式会社による古着アロハシャツのリメイク販売プロジェクトが立ち上がりました。このプロジェクト自体は、目標金額の4倍近い額を集め2020年7月に受注を終えており、サスティナブルやリメイクといった潮流が成果を挙げた事例の一つと言えるでしょう。その他にも、2nd existanceへの別注アイテムの依頼事例もあるため、ブランドの価値が世間に認められていると推測できます。
また、「a.v.v」や「MICHEL KLEIN」などのブランドを展開している株式会社イトキンでは、2020年10月よりリメイクD2Cブランド「re:mine(リマイン)」を立ち上げました。小さい規模のデザイナーブランドとしてではなく、既に多数のブランドを抱えた会社が新しくリメイクブランドを立ち上げた事例であるため、次の時代を見越したブランド展開が前提となっていると推測されます。
このような事例からも、アパレル業界の中でサスティナブルや、それに付随したリメイクといったキーワードが重要視され始めており、徐々に影響力を持ち始めていることが伺えます。
これまでの事例で、日本を始めとした世界にサスティナブルの意識が根付いており、新しいムーブメントが起こり始めていることが明らかになりました。また、これからのブランドの在り方として「サスティナブルであること」が要素の一つになりうる可能性も出てきており、消費者自身も意識的にサスティナブルな行動を取る必要がある時代になっています。
では、もしも事例のようなサスティナブルが当たり前になったとしたら、SDGsが掲げるような環境保護は実現できるでしょうか?恐らく、実現は出来ないと考えられます。
大前提として、余ったものを廃棄せずにリメイクしよう、というのが本ブログ内でのサスティナブルな取り組みになっています。余ったものが廃棄されずに生まれ変わるため、大量廃棄による環境破壊は免れることが可能だと想定できますが、リメイクするきっかけとなっている過剰な生産量を抑えることが出来ないため、結果的に大きな影響を与えることは難しいでしょう。
また、リメイクする過程でも機械による縫製などを行っていればエネルギーが使われるため、結果的に環境保護にならない可能性すらあります。さらに、大量生産するメーカーは「どうせリメイク用に衣料品が売れるのであれば、今の生産量を保っても問題ない」という判断を下す可能性もあるため、一概にリメイクが正しくサスティナブルであるとは言い難い状況です。
つまり、リメイクなどの二次生産は「消費について考えるきっかけ」として有効ではあるものの、環境保護を含めた話をするのであれば完全にサスティナブルとは言えない状況なので、根本的に生産する量を減らす必要がある、という考えに至ります。
ただし、上記のような「生産量を減らさないといけない」という視点に至ることで、「生産量を減らすためにはどうすればよいのか」を考えることが可能になるため、クリストファーレイバーンを始めとしたサスティナブルな取り組みは本質的には問題提起であり、直接的なサスティナブルには結び付かないと結論付けられます。
では、直接的なサスティナブルを実現するために出来ることについてですが、最終的には個人が考えて行動し発信し続けるしかないと考えられます。端的に言えば、生産するのは消費するからであって、大量生産を否とするのであれば不買運動を起こすなどのインパクトを生産側に与えなくてはなりません。現代は資本主義であるため、利益が出るのであれば生産を続け、利益が出なければ撤退する、という構造であるため、利益を出さないためにものを買わないというアクションが有効である、という単純な話です。
一方で、先進国で不買運動を起こしても新興国では大量購入が発生する、といったことも想定できますので、不買運動が正しいとは言えませんし現実的でないと考えています。他にも打ち手を考えることは可能ですが、私一人で考えても机上の空論となり、成果に結びつかないのが現状です。最終的には、一人一人が自分で考えて行動することで、世界全体に大量生産を否とする大きな流れを作るのが一番効果的である、と結論付けられます。
本ブログの結論として、一人一人が考えて行動することが一番サスティナブルに効果的である、と結論付けましたが、こういった気付きを得させることがクリストファーレイバーンを始めとしたリメイクブランド全体の狙いではないかという考察を得ることも可能です。そういった意味では、アパレル業界のサスティナブルな変革として、第一歩となる「考えるきっかけとしてのリメイク」が起こっていることに価値があると言えます。
実際にブログを執筆している私自身も、本テーマに触れるまではリメイクブランドの背景にある事柄までを見通すことは出来ていませんでした。しかし、執筆を通して得られたサスティナブルの中のリメイクという観点から発想を広げると、ものが産まれる背景やものを捨てた後のストーリーを考えることに繋がり、サスティナブルな変革を起こすための意識を得ることが出来ました。
アパレルブランドに限らず言えることですが、本ブログのように新しくブランドを立ち上げる際には、ブランドコンセプトとして問題提起を行うことで社会に対しても顧客に対しても影響を与えらえる良いブランドになると考えられますので、実践してみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。