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2021.08.05

【事例解説】新しいブランドを次々立ち上げる株式会社I-neの取り組み

 

ブランディング企業「株式会社I-ne」について

近年、ヘアケア用品やメイク品、飲料、禁煙グッズなど多岐に渡る市場で製品開発/販売を進めている、株式会社I-neをご存じでしょうか。株式会社I-neは先述した通り、多角的に商品を展開しており、何をコアコンピタンスとしている会社か説明するのが難しいように見えますが、一言で表すならば「ブランディング」と言えます。公式HPを元にこの会社の事業の概観を紹介すると、自社内で商品のアイデア出しを行ったのち、製品開発までのフローを設計しブランディングを行い、オンライン/オフラインの両軸で販売を行う、という流れになっています。さらに、株式会社I-neでは、そのノウハウを企画中の商品に活かすことで、製品開発の量と質を担保する良いサイクルを生み出しています。

ブランディングのサイクルが完成している同社ですが、実は全くブランディングのノウハウがない中で会社を上場させるまでに成長させており、その成長過程の価値が高いと見られる企業となっています。

そこで、本ブログでは株式会社I-neが行うブランディング手法や、成長過程でどのような課題をクリアしてきたかを明らかにし、これから何かのブランディングを行いたい方に向けた示唆を導きたいと思います。

 

株式会社I-neが乗り越えたブランディング課題

株式会社I-neは、創業当初は仕入れによるECと店頭卸を事業として行っていたため、前段で書いた通りブランディングに関する事業の経験はありませんでした。しかし、ビジネスモデルの限界を感じたことがきっかけで、より商品が愛されるために何が必要かを考えるようになり、結果として自らブランドを立ち上げることを決めました。そして、2013年からブランディング/マーケティングの部署を立ち上げ、現在の主力ブランドである「SALONIA」や「BOTANIST」などを生み出しました。

結果、ブランディング企業としての成功を収めている株式会社I-neですが、「BOTANIST」を開発する前の会社の状況は全く素人であると表現されるような状況でした。具体的には、「BOTANIST」のようなヘアケア商品を販売するために必要な流通ノウハウがなく、かつ業界の経験者がいない状態でした。また、商品の認知を目的とした広告を打つ必要があったものの、広告費をかけられずマス広告が打てない状態にありました。これらの状況を踏まえて、株式会社I-neのヘアケアブランドである「BOTANIST」を発売するまでの行動の事例を見ていきましょう。

株式会社I-ne

まず、「BOTANIST」を発売する以前の同企業には、コアコンピタンスとしてECによる知見が貯まっていたため、これを活かして流通ノウハウの無さをカバーすることを行いました。具体的には、流通ノウハウがないことと実店舗の売り場に参入余地がないことを課題として、主な販路とは違ったECを利用して販売を試みました。そのために、ランディングページのABテストを徹底的に行い、クリエイティブな面での優位性を追求しました。特に、当時のシャンプー製品はアテンション重視のパッケージが多かったため、シンプルなパッケージかつネット上で見栄えが良くなることを重視したデザインを採用しました。

その結果として、ECサイトである楽天市場での売上を作ることに成功し、ランキング上位に載り続けました。これに並行してSNS上での発信も行うことで、広くインターネット上で認知を獲得し、広告費をかけないまま存在感を高めることに成功しました。さらに、この勢いに乗って実店舗での販売を始めた直後には即時在庫切れを起こしてしまうなど、ブランディング事例の代表例と言えるような実績を作っています。

このような実績を元に、株式会社I-neは「SALONIA」などを展開し、事業領域を拡大していきます。そして、「BOTANIST」と「SALONIA」での施策を振り返った際に、共通性があることに気が付きました。そこで生み出されたのが、同企業独自のブランドマネジメントシステム「IPTOS」になります。

 

ブランド開発のフレームワーク「IPTOS」とは

株式会社I-neが生み出した「IPTOS」とは、Idea(アイデア)、Plan(企画)、Test(テスト)、Online/OfflineEC/一部小売での販売開始)、ScaleECスケール/小売本格展開)の各フェーズの頭文字を取った、商品開発におけるフレームワークです。このフレームワークに沿って開発を進めたうえでテストのフェーズをクリアしたものは、実際にある程度売れる見込みが立ちやすく、かつフレームワーク自体の再現性が高いという特徴を持っているため、現在は全ての製品開発に「IPTOS」を採用しているそうです。

補足ですが、このフレームワークの下支えとして活用されているのが、最先端AI予測システム「インサートスコープ“KIYOKO”」です。このシステムによって、トレンドの分析や商品コンセプトの決定などを行い、フレームワークの活用を手助けしています。

これらの状況から、株式会社I-neはフレームワークとAIの活用によってブランドを開発するサイクルを効率化していることが伺えました。しかし、このシステムはあくまで補助的なものに過ぎず、これら以外に同企業のブランド開発に必要な根幹を成す要素が存在していると考えられます。根拠としては、「IPTOS」の先頭がIdea、つまり人間の想像力がベースであることに加えて、AIによる分析自体は新しいブランドを創るための参考情報になるものの、ブランドづくりの土台に成り得るものではないからです。

では、何がブランド開発の根幹となっているかというと、「アイデア原石プロジェクト」のような取り組みや「KnowledgeShare」といった行動指針が示す、全社でブランドを共創するマインドセットであると言えます。

 

株式会社I-neに学ぶマインドセット

ブランド開発の根幹と銘打ったマインドセットですが、このマインドセットを語るうえで必要なのが「アイデア原石プロジェクト」と「KnowledgeShare」の2つになります。

まず、「アイデア原石プロジェクト」ですが、全社員によるアイデア起案制度となっており、年間3,000個以上のアイデアを集めるほどの規模になっています。また、この制度は社内プレゼンを通すことでプロジェクト化することが可能になっており、全社員が商品開発に携わるための間口を広く取っていることが特徴になります。さらに、商品開発に関するアイデアだけでなく、物流や販促などのサプライチェーン全体の意見も求めており、全社一体となって商品開発を進めていく姿勢が見受けられます。

また、「KnowledgeShare」は行動指針となっており、実際に指針に則った失敗例の共有が為されています。ホームページでは、ブランドリーダーが決断したブランド撤退に関するインタビュー記事が掲載されており、その中でブランド撤退を全社員の前で報告したことが明記されています。株式会社I-neは、ブランド撤退のような失敗とされることを全員に共有し、その失敗を繰り返さないように徹底しています。

さて、この2つの行動例からは、共通して「全社員を活用し、開発速度を最大化する」という目的があると推定できます。株式会社I-neは、ブランド開発を始めた当初から、自社内にあるリソースを活用した事業戦略を実行し、成功させてきた実績をもっています。そのため、どれだけ規模が大きくなったとしても会社全体のリソースを活かす戦略を大切にし、成功のために頭脳を共有していると考えられます。

ここから、ブランド開発における重要なマインドセットは「人の考えが一番大切である」という考えであると伺えます。紹介した株式会社I-neの取り組みはいずれも全社単位で行われており、部署に関係なく多くの考えを集めることを重視している状況が分かります。また、別のインタビュー記事では、様々な考えを集めることで思いもよらない画期的なアイデアが生まれるのを期待している、といった旨の発言が見られたことから、様々な角度のアイデアを集めることを意識していると推測できます。

株式会社I-neの成功は、考えの量を求めながらも多様なアイデアが集まるように取り組んだきっかけとなる、考えを大切にするマインドから生まれたと言えるでしょう。

 

まとめ

本ブログでは、株式会社I-neの行動からブランディングにおける重要なマインドを考察しました。ブランディングにおいては、どんなブランドを立ち上げるか、どのようなコンセプトがヒットしそうか、など多くの考えるべき要素があります。それらを解消するためのマインドセットとして、多角的な視点の考えを多く集めることを定着させる必要があります。ブランディングを事業として成立させたい方は、全社から考えを集める制度を構築し、社員が常に考えを持ち発信するような文化を醸成してみてはいかがでしょうか。

 

【参考文献】

伊藤悠真

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。