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2021.04.01

成長企業が実践しているインナーブランディングとは

 

成長企業が実践しているブランディングとは何か

皆様が「ブランディング」と聞いて思い浮かべるものは何でしょうか。一般的には、商材が消費者に対して与えるイメージを決めるもの、のような考えを思い浮かべる方が多いかと思います。このような企業が、消費者に対してイメージを与えるブランディングを「アウターブランディング」と呼びます。

一方、成長企業が実践しているブランディングは、従業員に向けたブランディングである「インナーブランディング」です。簡単に説明すると、企業理念を浸透させる活動を指したブランディングを指す言葉で、アウターブランディングと比較して認知度が低いブランディングであると言えるでしょう。

本ブログでは、認知度が低いであろうインナーブランディングを、なぜ成長企業が実践しているブランディングであると表現しているか、その根拠を解説していきます。

 

インナーブランディングの必要性

まず、簡単にですが、インナーブランディングを成長企業が実践しているブランディングと銘打った根拠を説明いたします。

企業が成長するということは、売上高が増えていくことが前提になるのは想像に難くないと思います。では、売上高を増やすためには何を行うべきか、を考えると、ソリューションやプロダクト、サービスを生み出すための人材の確保が必要になります。そのため、成長を企図する企業は、必ず人材の確保を目的に活動をする必要があると言えます。

このことから、企業がブランディングにより良い印象を持ってもらうべき相手は消費者だけでなく、従業員と自社への就職希望者である生活者を含めた三者であると考えられます。

つまり、ブランディングはアウター/インナーと分けて考えるのではなく、企業に関係する人を含めた、全ての生活者に対して行うべき活動だと言うことができます。

現状、全ての人に対して適切なブランディングができている企業は多くなく、大半がアウターブランディングのみに注力していると感じます。そのため、本ブログでは、足りていないと想定されるインナーブランディングの必要性を解説しています。

 

企業のブランディングを支える企業理念

冒頭でも説明した通り、インナーブランディングは従業員向けに企業理念を浸透させる活動である、ということを押さえていただきたいと思います。これを言い換えると、そもそもインナーブランディングを行うためには企業理念を持つ必要がある、と解釈できます。この企業理念は、顧客だけでなく従業員にも浸透させるべきものになっています。

余談ですが、私たちの会社では、「”つくる”の力で、世界をより豊かに」という企業理念の元、実際にジュエリーを製造し販売する事業や、何かをつくる企業に対するコンサルティング、これらの知見を混ぜ合わせた新ブランドの開発など、多様な企業活動を行っています。また、こうした“つくる”を支える従業員に対して、社長によるインナーコミュニケーション(こちらのリンクから見れます)や表彰制度などを通して、企業理念の浸透を行っています。あくまで参考程度にはなりますが、有名企業だけでなく弊社のようなベンチャー企業も、企業理念の浸透を行っております。

このように、企業理念の設定があった上で、顧客向けにどんな会社かを認識させるアウターブランディングや、企業活動の軸を決めて浸透させるインナーブランディングの実施が可能になると言えます。

 

成長企業が持つ企業理念と取り組みの紹介

では、先述した企業理念を元に、どのようなインナーブランディングを実践しているのか?と疑問に思う方がいらっしゃると思いますので、インナーブランディングにより成長したと見られる企業の事例を紹介していきます。

  • 伊那食品工業株式会社

伊那食品工業株式会社は寒天の製造を行っており、寒天の日本シェア80%/世界シェア15%を誇る企業です。また、2017年時点で50期連続の増収増益を記録している企業でもあります。シェア比率は競合数が関係してしまうため評価がしにくい部分ではありますが、50期連続の増収増益というのは簡単に実現できることではありません。

しかし、現在の業績とは裏腹に、創業時には経営危機に陥っていました。そこで再建を任されたのが、現在の最高顧問である塚越寛氏です。この方は、従業員を第一に考える経営方針に則り、従業員のケガをきっかけに倒産を覚悟するほどの高額な設備投資を行いました。その結果、従業員の安全性が確保され、かつ生産性が向上し、業績が上向きになっていきました。その経営方針は、現代表取締役社長の塚越秀弘氏の代になっても受け継がれ、50期連続の増収増益を記録する企業に成長しました。

その伊那食品工業の企業理念は「いい会社をつくりましょう」です。この企業理念の通り、歴代経営者である塚越氏らは従業員への心遣いに富んだ方です。上記の設備投資のほかにも、製造ラインに立つ従業員の負担を減らすための設備投資を1週間で行ってしまうなど、とにかく従業員が働く環境を快適にすることに注力をされている方です。

また、人事評価や売上目標といった、ノルマになるような数字を設けていないことも特徴的な取り組みで、従業員の心理的な負担を取り除く効果があると考えられます。

これ以外にも、全額会社負担のがん保険の加入や従業員の自宅に車庫を建てる際の補助制度など、他の企業では見られないような福利厚生が多数見られます。

  • 未来工業株式会社

未来工業株式会社は電気設備資材や給排水設備資材などの製造を行っている企業です。特徴的なのは、「日本一幸せな会社」というキャッチフレーズが付くほどの福利厚生を整備し、かつ設立年である1965年から赤字がないという、伊那食品工業株式会社に負けず劣らずの業績を記録している部分です。

その未来工業株式会社の企業理念は「常に考える」です。創業者である山田昭男氏は、創業当初の業績が伸びていない時期に「高額所得法人ではない97%の企業がやっていないことをやろう」と考え、常識を疑いながら行動を起こしてきました。例えば、高級料亭などに行ったとしても靴を揃えないことで常識を破ってきた方です。

その創業者の意思を反映させた企業理念を元に、従業員にも当事者意識を持って考えてもらうため設けられた特徴的な制度をご紹介します。未来工業株式会社では、業務改善などの提案を出すと500円が支給されます。これはどんな小さな提案でも支給されるもので、毎年約5,000件もの提案が提出されているそうです。従業員数は約1,200人なので、年間で一人当たり4個の業務改善の提案を出していることになります。

また、「ホウレンソウ」を強制しないという社内制度も特徴的なものです。この制度により情報共有を社員の判断に任せ、共有の必要性を自身で考えさせる仕組みにしています。

加えて、伊那食品工業株式会社と同様に、売上に関するノルマが設定されていないことも特徴の一つとして挙げられます。正確には、売上のノルマは課せられていないものの、情報収集が仕事の一つとなっており、企業が成長を続けるための考える行為を支える土台づくりとなっています。

  • ザッポス

ザッポスはアメリカに拠点を置く企業で、靴を始めとした衣類やアクセサリーなどのアパレル製品を販売しています。事業は一般的なECと変わりありませんが、Amazonが約800億円で買収するほどの価値が認められた企業です。なぜザッポスはそのような価値が付いた企業なのか、その答えは企業文化にあります。

まず、ザッポスの企業理念は「to live and deliver WOW(ワオを生で提供すること)」となっています。これは、彼らが商品を販売することで成功するのではなく、顧客を驚かせるようなサービスを提供する企業として成功することを目的としていることを表しています。

そのため、従業員には人間の感情を大切にするような制度を設けています。例えば、ザッポスのコンタクトセンターでは、一日に何人の顧客の対応が出来たかを指標とするのではなく、対応した顧客の満足度を指標として業務を行っています。また、満足度を重視した指標であるため、自社に在庫がない商品の問い合わせを受けた際には、別の靴屋に出向いて買ったうえで顧客の滞在先まで届けに行く、という型破りな対応をしたことがあります。他にも、コンタクトセンターの最長通話時間が7時間半という記録を持っていたり、深夜にデリバリー注文の電話がかかってきた際には注文可能な店舗の連絡先を調べて教えたり、などの一般的な企業ではありえないほどの親切な対応をしています。

また、こうした対応を生み出す自由な発想を醸成する社内制度として、あえて固定デスクにすることで個性を追求できるようにしたり、社内へのペットの同伴が可能であったり、昼寝をするための専用スペースを設置したり、従業員同士の褒賞制度であるピアボーナスを設けたりするなど、自分自身を大切にできる自由な社内制度が設けられています。

これらの企業理念や制度から成り立った革新的な企業文化こそ、EC企業に約800億円もの値段がついた一因となっています。

 

優れた企業理念の要件とは

これらの事例から、企業が成長するための企業理念の要件として考えられる二つの共通点を提示し、分析していきます。

一つ目の共通点は、文の構造が単純である点です。このようにワンフレーズで簡単に覚えられそうな企業理念を設定することで、従業員の記憶に定着しやすくする効果を狙っていると見受けられます。例えば、「三方よしを目指し、従業員を大切にする」を企業理念にするよりも、「いい会社をつくりましょう」の方が、文の構造が単純で覚えやすいと感じていただけるかと思います。そのため、結果的に企業理念を体現しやすくなると考えられます。

二つ目の共通点としては、企業理念の目的がハッキリしているものの、手段は広い解釈が可能で個人毎にイメージを持ちやすい点が挙げられます。参考事例の中では、「いい会社をつくりましょう」「ワオを生で提供する」など、一人ひとりイメージする手段が違っていながらも目的だけは明確であることが伺えると思います。「常に考える」に関しても、従業員が主体性を持つことだけを目的としており、何について考えるかは従業員の裁量に委ねられていることが分かります。

一方、製造業に関しては機械が作業をしているため、仕事におけるノルマの設定や具体的な行動の提示が必要ないのでは?という疑問が浮かぶと思います。これに対しては、平準化された業務への行動指針として企業理念を設定していると考えられるため、各業界で重要視するべきことだけに言及するべきだ、という示唆があると考えます。

例えば、運輸業は速く多く物を運ぶことで売上が立つので、配送効率を重視することが大切になります。そのため、配送効率を直接的に左右する人員のモチベーションを高めることを経営方針として設定することが良いと考えられます。得られた示唆を元にクレドを掲げるのであれば、「運ぶことに楽しみを」のような企業理念を掲げ、強制力が働く精神的に疲弊する職場ではなく、やりがいや楽しみを感じられるような職場であることを言及するのが良いと考えられます。

また、製造業を始めとした、作業工程が機械により平準化されている業界に関しては、従業員が業務に対する工夫を意識したり、従業員のモチベーション管理を行ったりすることで企業の成長を促す必要があります。コンタクトセンターに関しては、電話を受けるだけではやりがいを見つけられない従業員がいると想定できるので、顧客接点の一つとしてワオを届けられる仕事だと認識してもらうために、顧客満足度を測るように指標設定を行っていると考えることが出来ます。

そのため、一定の作業工程従業員が業務に向かう際に持っていて欲しい姿勢だけを提示し、その後は自立した行動を求めるような企業理念を設定することが大事であると考えられます。

なお、企業理念の特徴以外にも、企業が企業理念に従って設備投資や制度設計を行っていくことが、成長企業への条件になっていると考えられます。そのため、インナーブランディングに着手する際には、短文で本質的な裁量権のある企業理念の設定に加えて、企業が真っ先に企業理念を体現する必要がある、と意識することで、企業が成長していけると考えられます。

 

まとめ

本ブログでは、成長企業が実践しているブランディングとして、インナーブランディングを紹介しました。そして、本当にインナーブランディングを行う企業は成長しているかを明らかにするための事例紹介、そして事例から見えるインナーブランディングの要点を考察しました。

また、今回紹介した三社の事例からは、インナーブランディングで大切になる要点を三つ抑えました。企業理念は短文で分かりやすい構造の文にすること、企業理念は本質的に大切な姿勢だけを提示しながら従業員に裁量権を与える内容にすること、企業理念を真っ先に企業が体現すること、の三つになります。

この三つを意識してインナーブランディングを行う、または企業理念を設定することで、企業が成長していくための一因を獲得できると考えられます。成長企業を目指したい方は、本ブログを参考にブランディング改革を行ってみてはいかがでしょうか。

 

【参考文献】

伊藤悠真

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。


5F, 1-3-18 Hiroo, Shibuya-ku, Tokyo
150-0012 Japan

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