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エキスパートインタビュー(インタビューガイド作成とエキスパートインタビューの紹介サービスなど)

はじめに

突然ですが、皆さんが仮にある会社の社長になったとします。事業で成果をあげるために一定の期間における目標やうつべき施策を考えるには、目的の業界を俯瞰した情報が必要になってきます。そんな時に目的の業界において一定の知見をもつエキスパートからの情報があれば、これらを検討する際に大変有益な情報が得られます。ここではそんなエキスパートのインタビューを実施するために、準備すべきことや必要なツールと関連するサービスについて紹介していきましょう。

事前調査

調査する対象となる業界によりますが、まずは公開情報などから得られる情報を調査するのが良いでしょう。実際のインタビューでわざわざ聞かなくても済むような情報であれば、事前に把握しておくことでより密度の濃いインタビューができます。ここでは調査に関する詳細な内容は割愛しますが、参考になる公開レポートなどを取り上げます。

  • 官公庁が公開するレポート
    官公庁やそれらに付随する有識者の分科会などが、調査会社に対して業界調査を依頼することがあります。非常に精緻に分析されているため、業界を理解する目的でも参考になる情報です。ただしこのような調査は定期的に実施しているものの、一度実施されれば数年程度期間が空いてしまうので実際に調査を実施する段階では古いデータであることが多いです。
  • 有料レポート
    矢野経済研究所や富士キメラ総研などの調査会社は、様々な業界に関する調査を毎年実施しております。かなりニッチな業界でも調査レポートがあるので、目的に合った業界のレポートがあれば必ず参考にすべきです。
    なお有料レポートも調査会社によっては当たり外れがあるものの、部分購入することによって安価で入手することもできる場合があるので、必要な情報だけ入手できるのであればこちらを検討して良いかもしれません。
  • その他の無料レポート
    その他特定の業界団体や特定の企業が発行する調査レポートや、主要プレイヤーに関する情報を掲載したカオスマップなどもあります。こちらは最新情報を反映した形に更新されることも多く、特定業界の動きを追っていきたい場合には定期的に確認するよう習慣づけておいても良いかもしれません。

エキスパートインタビューに関するサービス

事前調査が完了すれば、ここからエキスパートを探してインタビューを実施していきます。
ここではエキスパートを紹介して頂くことができる主なサービスを紹介していきましょう。
たいていはこれらのサイトに対して簡単なスクリーニング質問を提示し、回答が得られるエキスパートとマッチングすることになります。
エキスパートインタビューに関するサービスを提供している企業は他にもありますので、目的に合ったエキスパートとマッチングできない場合は他のサービスを探しても良いです。

  • ビザスク
    同社に実名登録された約10万名(海外では約2万名)の業界経験者が登録しているデータベースの中から、出身業界、所属部署、役職だけでなく「~のサービスに関して知見のある方」、「~サービスの経験者」など経験に基づいて対象を選定することもできます。
    同社はBtoB業界を主な領域としていますが、対象業界によってはBtoC業界に関するエキスパートもマッチングできる可能性があるので積極的に活用してみましょう。
  • ミーミル(NewsPicks Expert)
    600万人のビジネスパーソンを会員に持つNewsPicksとも連携し、大企業ミドル・トップマネジメント層や専門職の方々、スタートアップ幹部、アカデミアの方々、医師の方々など、特定の業界や分野、業務において専門性を持つ方々から情報を得ることができます。
    当該サービスではインタビューだけでなく、24時間以内に複数エキスパートからのコメントが届くFLASH Opinion(1質問5~6万円)などのサービスも提供されています。

インタビューにあたって気を付けておきたいこと

サービス内容によりますがこういったインタビューの場合は時間に対してシビアであるため、1分でも超過すれば30分~1時間に相当する追加料金を請求されることもあります。それだけでなく、特定の企業の役員など豊富な経験がある人にインタビューを依頼する場合他の人よりも金額が高く、30分でかかる費用でも可能であれば節約したいケースもあると思われます。
指定された時間を超過しそうな時に一度内容を整理してから改める方が良いと思われる場合は、当初の予定時間でいったん切り上げてしまっても良いかもしれません。
また、事前に整理した質問内容をリスト化し、インタビュー前に共有しておくことで、インタビューを受ける人も質問内容に対する回答を整理しやすくなります。

インタビューガイドの構成と各項目のインタビューについて

エキスパートに対してインタビューのアポイントが確定したら、いよいよインタビューを実施に移ります。
ここではインタビューガイドの構成を整理しつつ、実際のインタビューの流れを確認していきましょう。

  • インタビューガイドの構成
    にインタビューを実施する際には、一般的に以下のような構成のインタビューガイドに従って進めることになります。

    • (表紙)
    • (目次)
    • 市場(基本情報・商流・営業など)
      ここでは事前調査で得られたデータやサービス・製品に関する情報に認識齟齬がないかを確認します。
      そもそも対象になると考えていた製品やサービスを間違えていた場合、これより先の質問で得る情報があまり有益なものではなくなってしまうことも考えられます。(もっとも、事前調査ではそうならないように裏をとっておく必要があります。)
      また、事前調査で得られた数値データでも計画している数字や過去の実績であることもあるため、エキスパートに提示した際にデータと肌感は全く違うといった回答になることもあります。
    • 対象業界における各プレイヤーのシェア
      こちらについては業界レポートなどで情報を入手している場合は、深く議論する必要はないかもしれません。インタビュー対象者がどのような知見があるかはわからないこともあるため、重要なプレイヤーは一通り整理して示して肌感と合っているかを確認していくのが良いでしょう。
      シェアについての情報が入手できない場合は、インタビュー内で質問することもあります。精緻な回答は得られないことが多いですが、主要プレイヤーの大まかなシェアについては実態に近い回答が得られることもあります。

 
各プレイヤーのシェアのスライドイメージ

    • 提供するサービスや商品(KSF・購買を決定するうえで重要な要素)
      最新の動向では事前調査結果と大きく違ってくることがあるため、業界に関する知見が持つ対象者に対してもこれらの情報は必ず確認する必要があります。
      特に近年ではコロナ禍により数年は回復が見込めないとされる業界であっても、回復を見込んでいる分野とそうでないものを切り分けておくことで、今後の見通しを立てることができます。
      また、事前調査でKSFを整理しておいた場合は図のように整理しておいて、インタビューの時間で議論しながら埋めていくことが理想的です。

各プレイヤーのKSFのスライドイメージ

    • その他質問事項(今後の市場動向・製品や原材料の単価・利益率)
      市場動向に関して議論したい情報や、事前調査で得られた仮説が合っているかどうかを当該項目で提示すると良いでしょう。
      単価に関する情報は精緻な回答が得られないことが多いですが、目安となる数値や定性的な情報(大きくマージンをとっている、状況によりまちまちなど)は回答が得られることがあります。
      業界によっては品質保証のために購入する原料や中間製品などを指定することもあるため、最終製品を提供するプレイヤーの方が価格の決定権をもつことや、政治的な背景により特定のプレイヤーが有利になっていることもあります。

その他の質問のスライドイメージ(※ここでは市場動向・製品単価)

  • インタビュー後の情報整理について
    インタビューが終われば、エキスパートから得られた情報を整理していきます。
    得られた情報は議事録の形式で精緻に記録しておくことが無難ではありますが、取り急ぎ自分が把握していれば問題ない場合など、目的によっては必要な部分だけ抜き出したメモ書き程度でも良いかもしれません。

まとめ

エキスパートインタビューに臨む際のステップについて述べてきましたが、実際の場面では時間が限られている状況では事前調査とインタビューの日程調整を同時進行で進めていくこともあり、これらのステップを頭に入れたうえで、スピーディーにこなすことが求められます。確実に作業を進めてインタビューに臨めるよう、しっかりタイムマネジメントしつつ、優先度整理していくのが良いでしょう。

 

【参考】
矢野経済研究所
富士キメラ総研
ビザスク
NewsPicks Expert

 

藤本光佑

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。得意分野は決済事業、IoT、エネルギーなどの事業戦略の提案や、それに伴う調査