2019年に施行が開始された「働き方改革」は多くの企業にとって重要な課題の一つであり、早急な対応が求められている。厚生労働省によると「働き方改革」は、働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革であり、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や「働く方々のニーズの多様化」に対応するための施策だとされている。近年はこれら課題を解決する対策として労働生産性の向上に焦点を当てる企業が増加傾向にある。その中でも特に、営業職の労働生産性向上を目論んだ施策が各企業で実施されている。厚生労働省が発表している公表データによると、一般就労働者の平均残業時間は12.4時間であるとされているが、これに対して営業職は平均20~30時間の残業を行っているとされている。一般就労働者の平均と比較し、約2倍の数値であり、労働状況の改善が求められているようだ。本記事では、営業職の働き方改革最先端の事例を紹介する。各企業がどういった手段でどのような生産性の向上を実現しているのかを知ることで、業務改善のヒントとなれば幸いである。
第一三共エスファ株式会社は株式会社アドバンスト・メディアが音声認識技術「Amivoice®」を提供する営業支援アプリ「MR活動報告アプリケーション」を導入することで営業活動の改善を図っている。
2018年9月25日に開示された「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」に基づき、同社はより適切な医薬品の販売情報提供活動における業務記録の作成と保管が求められることとなった。これを背景としてさらなる情報の保守性強化と業務効率化が必要との判断のもと、当アプリケーションを導入したのが全体の経緯だ。
当アプリケーションは医療関係者への情報提供・収集に関する業務記録の作成と共有を行う機能を保持しており、リアルタイムでの情報共有を行うことも可能である。さらに音声認識技術「Amivoice®」を搭載することによって、音声検索・音声入力が可能となり業務効率化の向上に貢献しているようだ。音声検索機能では、訪問先の病院名・医師の名前を音声で検索することができ、MR(医薬情報担当者)が過去の活動内容を確認する際の利便性を向上させた。音声入力機能では、フリック入力・キーボード入力と比べ顧客の反応や、現場でのアイデアを即座にまとめることができ、活動報告作成における効率および質の向上が実現された。加えてそれらの情報をリアルタイムで共有することができるため、全体として情報のボリューム・アクセス性に改善が見られ、営業力の強化に貢献しているようだ。
コクヨ株式会社は文具の製造・販売、オフィス家具の製造・販売、空間デザイン・コンサルテーションなど事務に関する製品およびサービスを提供している会社であり、その中でもオフィス家具の製造・販売やオフィス空間構築などを行っている「ファニチャー関連事業」が営業効率化のためアドビ株式会社の提供する「Marketo Engage」を採用した。
同事業内では、2020年東京五輪以降の景気の冷え込みを想定し、早期から新規顧客との接点を増やすことによって事業の安定収益確保と持続的成長を実現する考えがあり、営業活動の改善を図る際に同サービスが選ばれた。
同事業では営業活動の一環として大企業向けのセミナーが開催されていたのだが、作業効率および集客面での問題により従来は100人未満での規模が限界であった。しかし同サービス導入以降はセミナー実施前後の対応を「Marketo Engage」によって自動的に行うことが可能になったため作業効率が上がり集客面での負担も減少され、300人規模のセミナーを毎月開催することが可能となった。さらに、資料請求率においても改善が見られ、従来の40%から50%に上がるなど量・質ともに導入の成果が確認できているようだ。中小企業向けのセミナーにおいても新規顧客・案件化率は前年と比べ10%増加しており導入の成果が見られている。
マツダ株式会社は、ノウハウや経験が必要となる問い合わせ対応・トラブル対応に「FUJITSU Software Systemwalker Cloud Business Service Management」のAI技術を活用することによって、業務効率化を実現している。
現在、自動車業界ではカーシェアリングやEVの一般化など大きな変革が訪れている。同社はその最中においても継続して選ばれる自動車会社であるために、顧客体験価値の向上に注力している。そして、その一環として販売店向けのヘルプデスクの改善に目を向けた。
同社は販売店から問い合わせを受けた際に、精度の高い情報を迅速に提供することが、自動車購入を検討するお客様の満足度にも関与すると考えている。しかし、情報を正確かつ迅速に提供することは容易なことではなく、経験の浅いビギナーほど時間を要する傾向にあった。この課題を解決するため同社はAIに着目し、富士通のAI「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」を活用した「FUJITSU Software Systemwalker Cloud Business Service Management」を導入するに至った。従来はビギナーが問い合わせに対する回答を検索する際、業務知識が浅いため有効な回答にたどり着けず時間がかかってしまうケースが多かった。しかし、AI導入後は自動でキーワードを補完し回答候補の提示を行うなど検索の難易度が下がったため30分から18分へとリードタイムを短縮することが可能となった。またベテランの作業プロセスをAIに学習させることによって、運用保守における改善も実現することができ、トラベル発生時の対応調査に要する作業時間は最大で65%短縮され、顧客満足度の向上に寄与しているようだ。
スマートキャンプ株式会社は新型コロナウイルスによって生じていた営業活動における悪影響を、メールを用いた新しいアプローチ法・SNSを用いたオンライン上での名刺交換によって改善し、営業活動の改革を図った。
同社では緊急事態宣言が発令されて以降、インサイドセールスの着電率が平均30%から10%にまで低下していた。さらにフィールドセールスにおいても、先が見えない中での投資を再検討する各社の意向から受注率が低下し、営業メンバーのモチベーションも低迷していた。この状況を打開しようと取り組んだ施策がメールを用いたアプローチとSNSを用いたオンライン上での名刺交換であった。
メール送信時には
①簡潔に内容をまとめる
②日程調整ツールのURLを記載する
③具体的な実績数値を提示する
という3点を遵守することにより、メール開封率は30%から59%へ、CTRは1.7%から13%へと改善された。さらに、商談終了後にはSNSにおいての名刺交換を徹底することによってメール以外の連絡手段を確保し、メールや電話のつながらない顧客に対しても有効なアプローチ経路を獲得することに成功した。2020年5月にはコロナ前と比べ130%の商談化を実現し、着実な営業活動の改善が見られているようだ。
「働き方改革」が施行された2019年以降、多くの企業が労働生産性を向上させるために多種多様な施策を講じている。本記事ではその中でも営業職における改革事例を取り上げた。従来の方法を徹底的に見直すことで新たな活路を見出す企業もあるが、AI等新たな技術を積極的に活用し現状の改善を図る企業が多い傾向にある。労働状況に大きな改善をもたらすには、新規テクノロジーの性質を理解し、適用領域とのシナジーを考慮した上での活用を行うことが効果的だと言える。以前から続けている限られた方法に固執せず新たなテクノロジーで実現しうる、より理想的な労働形態を追求することが今後さらに重要となっていくだろう。
参考:
BALES 「新型コロナによる危機的状況から商談数130%まで回復させた方法」
FUJITSU HP資料「導入事例:マツダ 販売店でのお客様対応のスピードアップとサービス品質向上を実現DXで運用保守の仕事のやり方を変革し、関係部署とのコミュニケーションも活性化」
Marketo Engage HP資料「導入事例:コクヨ After2020を生き抜くために営業の効率化を図りたい」
アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/マネージャー
2016年上智大学大学院経営学部卒業、大手量販店入社。2018年当社入社、Consulting & Solution事業部にて戦略コンサルティング案件、BRP、RPAを始めた業務改善に伴うITコンサルティングなど、豊富な実績を有する。社内効率化のために、最適なソリューションをご提案いたします。