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M&Aに着目した市場分析-化粧品市場における市場動向-

はじめに

M&Aを行う際、買い手側の企業は必ず対象会社に対して「デューデリジェンス」(以下DD)を行います。DDとは、買い手側の企業が対象会社を財務、法務、ビジネスの観点で分析し、買っても問題が無いか、買うことで企業の利益になるのかを判断することです。これら3つのDDをそれぞれ「財務DD」、「法務DD」、「ビジネスDD」と呼びます。(参考: 【よくわかるビジネスデューデリジェンス実務】デューデリジェンスの目的を知る)。

今回はビジネスDDに着目し、その行程の1つである対象会社の市場分析方法を、化粧品市場を例に説明します。

 

なぜ市場分析をするのか

ビジネスDDの際に市場分析を行う理由は大きく2つあります。

一つは、対象会社が属する市場自体の傾向を判断するためです。市場が大きくなっていればそれだけその市場に参入するメリットは大きく、逆に縮小している市場に参入しても損する可能性が高くなります。

もう一つは、対象会社が市場の中でどのポジションにいるのか把握するためです。市場の中で競合となる相手は誰なのか、M&Aをすることで彼らに勝てるのかなどを判断します。

このように、市場分析はM&A後の収益性を判断するための材料として必要になります。

 

市場分析の手順1: 市場規模の把握

まず市場の傾向を知る上で最も基本となるのが市場規模です。市場規模がどのように推移しているかによって市場の成長度を測ることが可能です。以下が、化粧品市場の分析結果です。

化粧品市場は、2019年まではCAGR2.5%と堅調に推移していましたが、2020年には10%ほど減少する見通しとなっております。ただ、減少した原因はコロナウイルスによる外出頻度の減少や訪日外国人の入国規制などであるため、コロナ禍が収束すれば、市場は再び成長すると見込まれています。

また、化粧品市場を製品軸でセグメント分けすると、スキンケア製品の売上シェアは47.2%と市場の約半分を占めていることが分かります。

 

市場分析の手順2: PEST分析

PEST分析とは、市場の動向を「Politics」・「Economy」・「Society」・「Technology」の観点から分析する方法です。これらをもとに、外部環境に影響されやすい市場なのか、今後成長性がある市場なのかを判断します。化粧品市場のPEST分析は以下のようになります。

分析結果から、化粧品市場は現在コロナウイルスの感染拡大による悪影響を受けていることが分かります。特にマスクをして外出することが当たり前になった今では、口元に使うメイクアップ用品の売上が特に落ち込んでいます。そのため、この先コロナ禍が収束した後に、マスクを着用する習慣が無くならない限り、売上を再び増加させることは難しいことが推察されます。

一方で、インターネットやDXの普及による販売戦略の変化も着目すべきポイントと考えられます。ニューノーマルに対応した販売戦略を行えるようになれば、落ち込んでいた売上を増加させられる可能性があるからです。そのため、今後どのような技術やシステムが開発されるのか、また化粧品メーカーが今後IT企業と協業するのかなどにも着目する必要があると思われます。

 

市場分析の手順3: バリューチェーンの把握

次に分析するのはバリューチェーンになります。バリューチェーンを把握することで、該当市場のビジネスはどのような業務で構成されるのか、どの様なステイクホルダーが要るのかを明確化させることができます。そのため、特に外注していた業務を内政化させたいときには、このバリューチェーンの把握が重要になります。以下では、大手化粧品メーカーのバリューチェーンをもとに、ステイクホルダーとの関係を説明します。

化粧品メーカーのバリューチェーンは大きく「研究・開発」、「生産」、「輸送」、「営業」、「販売」に分かれており、ホールディングス化している大手メーカーではそのフロー全体を自社内で完結させております。ただ、原材料や容器などの調達、製品の販売においてはステイクホルダーと連携している場合もあります

 

市場分析の手順4: プレイヤー分析

バリューチェーンまで把握出来たら、次は市場を構成するプレイヤーを把握します。プレイヤーを把握することで他社の市場カバー範囲や、自社の将来的な競合やベンチマークを確認することができます。2020年の化粧品市場における主要プレイヤーとシェアは以下のようになります。

売上から、資生堂が日本市場の半分近くのシェアを獲得しており、独走状態にあることが分かります。また、コーセーや花王、ポーラ・オルビスのシェアも高いため、新規参入する際はこれらのメインプレイヤーとの差別化をする必要があるでしょう。

また、最近では海外からの化粧品輸入が増加傾向にあります。特に韓国からの化粧品輸入額は2015年から2019年にかけて3倍以上増加しています。現在韓国の化粧品市場ではM&Aや業務提携などの動きが活発なうえに、韓国政府も化粧品製造に注力しており2022年までに世界第三位の化粧品輸出国になることを目標にしております。そのため、今後はより多くの韓国製化粧品が日本市場に流通することが見込まれます。 

 

国内化粧品企業のM&A動向

これまではどのように市場分析を行うかについて説明しましたが、ここでは実際に化粧品メーカーがどのようなM&Aを行ってきたのかを紹介しようと思います。各社M&Aをする際にどのような目的をもっているかなどを分析することにより、企業の今後の動向を分析できるようになるうえに、今後市場がどのように変化するのかを読み解くための材料にもなります。以下は大手化粧品メーカーが2018年以降に行ったM&Aの事例です。

大手メーカーは事業拡大を目的に海外の企業を買収する傾向にあり、これからは海外市場開拓に注力する方針をとったことが分かります。この動きは将来日本の人口減少に合わせ、市場規模が小さくなることを見込んだものだと思われます。また、大手メーカーはホールディングス化しているためバリューチェーンが既に統括されているため、事業拡大を目的としたM&Aが多くなっています。

 

最後に

今回は化粧品市場をM&Aの観点で分析しましたが、今後は他の市場の分析や、市場分析以外のビジネスDDでの分析事項について紹介する予定です。コロナ禍で厳しい状況に立たされている企業も多いと思われますが、この機に自社のビジネスを振り返り、M&Aも視野に入れた事業戦略の再検討を行うことで、コロナ禍が収束した後の急成長が実現できると思われます。そのため自社の立ち位置を再確認するための方法の一つとしても、本記事を役立てていただければと存じます。

 

【参考】

大須賀功

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。


5F, 1-3-18 Hiroo, Shibuya-ku, Tokyo
150-0012 Japan

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