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【よくわかるビジネスデューデリジェンス実務】デューデリジェンスの目的を知る

 

 

はじめに

本コラムでは、一からMA戦略を推進する投資チームならびにそれを外部からサポートする戦略コンサルタントを目指される方向けに、実務的なアプローチでビジネスデューデリジェンスの本質を探っていきたいと思います。

近年、事業承継問題や投資志向性の高まりによって、MAとそれに紐づくビジネスデューデリジェンスは、多くの企業にとってより身近なトピックとなっております。

また、MAにおける投資可否判断分析に限らず、こうしたビジネスデューデリジェンスの手法は、広く企業研究・調査で求められる汎用性の高いスキルです。

本コラムでは、MAの一般的なステップをベースにビジネスデューデリジェンスの在り方と実務面でのTipsを織り交ぜながら、理解を図っていきたいと思います。

 

「デューデリジェンス」を考える

デューデリジェンスとは、主にM&A取引において、「当事者(≒買い手)が、買収対象会社の経営の実態とその経営環境を調査すること」です。

そしてその目的は、当該M&A取引を実行するか否かの意思決定と、もし実行する場合、買収価格(価格のバリュエ―ション)を含めた買収条件をどう設定するかを検討するためです。

 

殊に近年は、M&A取引実行時のみならず、買収後の全社戦略立案や、経営体制の構築に、デューデリジェンスで抽出された情報を活用することに重きが置かれており、投資実行後の長期にわたって、大きな指針となる役割を担っています。

この考え方は、MA取引の目的について考えてみるとよくわかります。M&A取引は、企業価値向上のための戦略実現の手段であり、取引を実行すること自体は単なる手段に過ぎないのです。

 

よって、買い手にとってのデューデリジェンスの必要性は、当該MA取引が、自社の戦略実現にとって価値を生み出せるかどうか、これを見極めるところにあります。

MAを「手段」でなく「目的」としてとらえてしまうと、将来的な戦略設計のイメージを設定することは難しくなりますし、必ずしもMAを行わなくても(事業提携や人材のヘッドハンティングなどで)獲得できる価値を、みすみす多額のコストとリソースを割いて検討することにもなりかねません。

 

MAで対象会社を買うことは、その顧客(販路)・技術(サービス・製品)・組織(人材)を作り上げる時間を買うことを意味しますが、その成否は買い手の企業戦略や財務インパクトに大きな影響を及ぼすリスクを孕んでいます。

ゆえにMA取引を実行する目的が経営戦略上に明確に位置付けられない場合は、その取引を実行する意義は失われてしまいますし、デューデリジェンスにおいても目的を持たないまま実施していくことになりますので、将来的な価値を測れない企業調査となってしまうでしょう。

 

デューデリジェンスの目的を考える

前段でデューデリジェンスの目的を「当該M&A取引を実行するか否かの意思決定と、もし実行する場合の買収価格(価格のバリュエ―ション)を含めた買収条件をどう設定するかを検討するため」としましたが、これをもう少しブレークダウンしてみましょう。

主に①買い手の投資意思決定に資する情報取得と、②買い手株主に対する当該取引の有効性についての説明責任を果たすストーリーの構築に大別されます。

①については、投資実行の可否を判断するのに大きな役割を果たしますが、少なく見ても、

  • 買収価格
  • 売り手との譲渡契約書上で明記すべき取引実行条件
  • 買収後の期待されるシナジー効果
  • 買収後に負うことになるリスクの抽出とその治癒方法
  • 企業価値を最大限引き出すための経営体制の構築方針

といった、事項を精査する必要があるでしょう。

デューデリジェンスで収集された情報および分析から導き出された示唆は、企業価値の算定(=バリュエ―ション)方法を構築する材料になります。

適正なバリュエ―ションを行うためにデューデリジェンスを行い、対象会社の状況を把握することが重要であるのは言うまでもありません。

 

そして②については、株主に対して当該取引実行のために適切な判断を行ったことを示すことが目的となります。

当然ながらMAは企業経営にとって、大きな経営判断です。

企業戦略上、当該取引の実行の必要性(=ストーリーの構築)とその買収価格の妥当性を示す証左を提示し、理解を得られなければなりません。

デューデリジェンスで検出された事項を再構成し、上記要件を満たす説明事項の整理をすることも、一連のプロセスでデューデリジェンス担当者が担うべき役割といえます。

 

MAプロセスとデューデリジェンス実施タイミング

一般的なMAにおけるプロセスの中で、デューデリジェンスが実施される前には、当該企業との機密保持契約・基本合意書(LOI)を締結します。

 

機密保持契約が締結されると、対象会社から企業分析に必要な内部情報(基本的な資料として財務諸表と事業計画資料などが挙げられる)が提示されます。

買い手は、対象会社からの資料を基にまずは初期的なデューデリジェンス(PreDD)とバリュエーションを実施し、対象会社の買収価格の目線感と、対象会社の経営状況、事業基盤、外部環境を把握に努めます。

この段階では精緻な分析は難しいですが、買収意向表明を示しLOIを締結する前段階として、対象会社がコストをかけて精査するに値する企業であるかどうか、経営戦略上意義深い取引となりえるかを判断するための重要なステップです。

また、本格的なデューデリジェンスを行うにあたって、当該取引の重要論点を洗い出す目的も内包されています。

 

LOIを締結し本格的なデューデリジェンスに進む際は、対象会社と取引実行までのスケジュールイメージを握りつつ、より詳細な分析を進めていくために追加の資料開示依頼と分析、資料だけでは判別できない事項について対象会社のマネジメントに対してQ&A、インタビューを交えながら、精緻なバリュエ―ションにつなげていくのです。

 

MAプロセスのうち、対象会社抽出を目的としたソーシングおよび対象会社とのコンタクト方法については、「M&A戦略に基づくソーシングの進め方-投資ターゲティング~企業選定-」、「M&Aプロセスにおける対象会社との交渉-企業選定~初期的なアプローチ-」、「M&Aを成功へ導く-M&A仲介会社の活用方法-」を、バリュエーションの基本的な考え方については、「【基礎から分かる】バリュエーション(企業価値評価)の目的/方法」をご参照ください

 

デューデリジェンスの類型

ひと口にデューデリジェンスといっても、買い手はさまざまな角度・アプローチから対象会社を分析することになります。以下は代表的なデューデリジェンスの類型です。

  • 事業の将来性(内部の事業基盤と外部の市場環境)を測るビジネスデューデリジェンス
  • 実質的な資産・負債項目を評価する財務デューデリジェンスと税務リスクを評価する税務デューデリジェンス
  • 顕在しているあるいは潜在的な法務リスク(訴訟・届け出・知財/特許・契約等)を評価する法務デューデリジェンス
  • 社員のスキル・モチベーションを評価する人事デューデリジェンス
  • 取得している不動産の管理状況や時価評価を精査する不動産デューデリジェンス
  • 特定の技術優位性を測る技術デューデリジェンス
  • 情報システムの管理状況・セキュリティ・オペレーション上の課題を洗い出すITデューデリジェンス

上記のうち①~③は、基本的にどのMA取引においても実行される頻度の高い代表的なものです。

売り手の事業内容や規模、買い手のコスト許容範囲や重点的に精査したいポイント、検証にかけられるスケジュールなどを勘案した上で、デューデリジェンスのスコープを決めることになります。

  

また、これらを検証する体制づくりも十分検討が必要です。

対象会社の規模と、買い手のリソースによるところもありますが、基本的に各検証論点・デューデリジェンスについては、それぞれの専門家たる外部アドバイザーをアサインさせるのが一般的です。

本格的な交渉・デューデリジェンスに入る前に外部への相談を行い、これらの体制を早期に構築することは、デューデリジェンスの成否を分ける一要素となりえるでしょう。

 

日下部峻

アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/マネージャー
新卒で大手飲食チェーンに入社。2018年当社に入社し、C&S事業部に参画。主に、M&Aサポートやビジネスデューデリジェンス、新規事業の事業性検証や事業モデル策定といった戦略コンサルティング案件、BPRをはじめとする業務コンサルティング案件においてセクターを問わず多数実績を有する。クライアントへの価値創出に全身全霊をかけて取り組み、最大のパフォーマンスを発揮することをモットーとしている。


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