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世界を豊かにするものづくりvol.01 /手漉き和紙の招待状

「つくる」の力で世界をもっと豊かに

アーツアンドクラフツでは、ものとものづくりの中に、社会をより良くし人生を豊かにしていく可能性があることを信じ様々な取り組みを行なっています。ジュエリーや家具などの本業に関わるものづくりはもちろんのこと、自社の販促物や店舗などをつくる際のものづくりやその中に秘められた思いや価値についてもご紹介していきます。

第一回目は、この度新たにオープンしますith新宿アトリエ/WELL新宿三丁目ショールームのレセプションイベントの招待状の作成にお力添え頂いた佐賀県唐津市で紙漉き業を営む紙漉思考室さんのクリエイションをご紹介します。

手漉き和紙でつくったイベント招待状

最初に今回手漉き和紙で招待状をつくるに至った私たちの経緯をお話ししたいと思います。

継続的に事業活動を行なっていくなかで、個人向け/企業向けを問わず案内状やリーフレットといった販促印刷物を制作する機会が多々あります。私たちの事業においても、これまで期間ごとのフェアの案内などで度々カードやリーフレットのようなものを制作してきました。

大抵の場合、お客様に商品やサービスを知ってもらうため気軽に手渡しできるようにという観点から制作されることから、できるだけ安く、かつそれなりに見栄えのよいものをという考え方で制作されることが多いと思います。

けれども逆に消費者として自分自身の目線で考えると、たしかに気軽にリーフレットやハガキをもらっておくことでその企業/ブランドのサービスや商品のことを知ることはできるけれども、そのリーフレット自体はそのままポイと捨ててしまうことも多い。

たとえ気軽に渡すものでさえ、視点をひとつ掘り下げて考えると、原料採集や素材の生産製造、さらにそのうえに乗せられたデザインや思いといった誰かの仕事で生み出されているということに気づきます。そう思うと、捨てられることを前提に何かをつくるというのもどこか味気ないなあ、という気持ちが心の片隅に浮かび上がってきました。

そんな経緯から「新規オープンする店舗に大切なお客様をお招きするための招待状だから、あえて手間暇をかけて、用が済んでもちょっと気軽に捨てにくいな」と思ってもらえるようなものを作ってみようというところに至った次第です。

洋紙に比べて繊維が長くて強いことから寿命が比較的長い和紙を用い、さらに独特の風合いを生み出す活版印刷で印刷を行うことで、ありきたりのものでない招待状にしようというのが最初のアイディアでした。

デザインは、Arts&Craftsの様々なクリエイティブ制作を担当してもらっているo-flat様に依頼。アーツアンドクラフツの社名の由来でもあるウイリアム・モリスの図版と、ithのアトリエのキーモチーフになっているアーチ型の扉をベースデザインに、QRコードをテクノロジーの扉と見立て、私たちの原点と理想のものづくりを結ぶ扉として表現しました。

 

手漉き和紙が生まれる過程

日本の紙作りの歴史は古く、3〜4世紀頃にはすで紙づくりが始まっていたという説もあります。長い歴史を経て培われてきた和紙は様々な地域に広がっており、製法にも様々な種類があります。

今回ご協力頂いた紙漉思考室では、「流し漉き」「溜め漉き」「流し込み漉き」と呼ばれる3つのやり方を行なっているそうですが、今回の制作では流し漉きを用いて制作頂いています。

流し漉き

楮などの紙料に、トロロアオイ(植物)から採ったネリ(粘々した抽出液)を加え、簀桁で何回も何回も紙料液を汲み込み、繊維を絡ませていくやり方。そうすることにより強いフラットな紙が出来ます。紙の表情はムラが少ないためすっきりとした上質な質感に見えます。

 

原料となる楮

和紙の原料には様々な素材が用いられますが、今回は楮100%を使用。国産の楮はコストの高騰などにより近年手に入りにくくなり中国などの海外ものが主流になりつつあるそうです。

楮の皮をはいで白い部分の繊維を中心に残し、大釜にアルカリ成分(ソーダ灰、石炭、木炭など)を加え煮立たせていきます。

原料を一本一本確認し、繊維の傷や小さな異物を取り除いていきまます。

いくつかの工程を重ね、原料をほぐし液体状にしたうえで、何度も水を汲み込み、道具を上下左右に動かしながら紙の厚さを均等にしていきます。

漉き重ねた紙(紙床)に圧力をかけて水分を搾り、乾燥の際に一枚一枚剥ぎやすくしていきます。

乾燥機や天日干しを使い分け乾燥させたのち、一枚一枚丁寧にチェックし紙の重さ別にわけて完成させていきます。

今回はさらに厚くてフラットな紙にするため、障子紙程度の紙を3枚重ねて1枚の紙として乾燥させています。1枚でこの厚さの紙を漉くよりも均一な薄い紙を3枚重ねた方がよりフラットな上質な紙が出来る為です。ムラがない紙にすることで紙面が平滑になり細かな印刷に適した紙になります。

 

道具へのこだわり

このような手間暇をかけて生み出される和紙ですが、今回の取材においてもおよそ優れた職人仕事全般に共通する「道具に対するこだわり」を感じとることができました。

これらの紙漉き道具は、高知の専門職人の手によるものだそうですが、隙間の幅一つ一つや、ゲージとなっている木のひとつひとつの緩やかなカーブなど、良い紙をつくるためにより使いやすい工夫が施されています。

私たちはなんとなくのイメージで「手仕事」という表現を使いますが、大抵の場合道具を工夫し、どれだけ融通無碍に使いこなせるようにするかというのが、優れた手仕事の肝になっています。

紙漉きにおいても海外の有名な作家がこっそり日本の道具を使っていた、というようなエピソードがあるとのこと。やはり手工業の道具に対する日本人の考え方には、優れたものがあるように思います。

技術はいつも表現のとなりに

今回、私たちのために制作してもらった招待状は和紙に活版印刷を用いて印刷をしましたが、よりクッキリと印刷するために二度印刷を重ねて頂いたとのこと。大抵の印刷会社はこのような手間を嫌がるそうですが懇意にしている福岡市の印刷工場さんのご協力で文字通り手間暇をかけた招待状に仕上がったとのことでした。

思考室の前田さんは様々な分野のデザイナーとコラボレイトすることで面白いプロダクトを生み出しておられますが、基本的な考え方は「自分たちは素材としての紙漉きに徹する」ということです。

自分たちが培った知識と技術を活かして、様々なクリエイティブを支えたい。その考えをあらわすのが「技術はいつも表現のとなりに」という言葉。

自分自身を強く主張するのではく、誰かの表現を地(ベース)として支える。けれどもその地がなければクリエイティブは絶対に完成しない。その控えめな矜持も、ものづくりに携わる優れた職人に共通するもの。

引き出しの奥から次々に出てくる素材や和紙を用いた作品を紹介頂きながら、自分自身の仕事に対するかざらない誇りと愛着が、「いつかこの人と一緒に仕事をしてみたいな」という気持ちにさせる人間的な魅力も生み出しているように感じました。

出会うはずのなかった人間が出会って、新たな結びつきを作っていく。ものづくりには人と人を結ぶこんな力も備わっているのです。

 

吉田貞信

アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、B2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。

 

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