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2020.10.30

ローソンの実証実験にみる新たなマーケティングの形

ローソンで始まる実証実験

9月24日から10月31日、ローソンでは新たな顧客マーケティングの実証実験が行われます。au IDに基づいたデータとローソンでの購買情報を使用して、特典の提供や値引き情報の配信を行うという実証実験です。
今回の記事では、一体どういった技術やアプリを使用してこの実験を行うのか、予想されるメリットや今後の展開などを書いていきます。

 

実証実験の内容

今回の実証実験では、二つの情報配信を行います。一つ目は、時間・年代・性別に合わせてau PAYにおすすめ商品の紹介通知を送信し、それを購入すると特典としてPontaポイントを付与する、というものです。これを通して、より顧客のニーズや状況を踏まえた施策による購買効果の検証を行う予定となっております。20代から40代ほどの、働いている女性に向けて帰宅時間頃にその近くにある店舗のおすすめスイーツの情報を通知するというのが例として挙げられています。
次に、店舗の状況に合わせた値引き情報の通知実験です。こちらは埼玉の限られた店舗限定となっています。夕方など、消費期限の近づいてきた商品が出てくる時間にその商品の値引き情報をその店舗を利用する確率の高い人に通知を送る、というものになっています。今までは店舗に行かないと値引き商品があるかどうかわからなかったものを、通知が届くことで店舗に行かずとも知ることができるようになります。こちらもまたau PAYアプリに通知を届ける方法をとっています。

 

使用される技術

au IDはKDDIの提供するサービスを利用することのできるアカウントを指します。auという名を冠してはいますが、auを使用している人以外でも登録が可能です。au PAYやauスマートパスもこれの一部です。今回の実証実験では、このアカウントの情報に紐づいた位置情報や属性情報、決済情報などがデータとして使用されます。そして、ローソンでの購買情報はPontaカードやアプリなどから取得されています。この購買情報に関しては、許可した利用者の物だけを取得し、その後個人を特定できない形にしてデータとして利用されています。
実証実験の内容である特典の提供や値引き情報はau PAYのアプリにプッシュ通知等で配信されるようになっており、個別に近隣店舗や過去の購買情報から得られたおすすめ商品の情報などが届くようになります。
モバイル決済サービスの認知度自体は現在進行形で増えており、だからこそそれを使用することを検討しています。更に、コロナ対策として現金の使用を控える人が増えたり、モバイルオーダーなど端末上でほぼ全てのやり取りを可能にするサービスを利用する人が増えたりといったことにより、各種アプリへの抵抗感も減っていると考えられます。

 

実験によって得られるメリットと予測されるデメリット

まず、客としてのメリットを挙げていきます。
携帯に届くセール情報は便利ではありますが、多すぎれば読むことなく捨てられてしまう可能性もあります。ですが、今回の実証実験で行われるように必要な情報だけが届くようになれば、読まれることも増え、購買の機会につながるでしょう。近隣店舗のセール情報が届けば、遠出せずとも近くで買い物が済ませられるという利点もあります。コロナ対策としてあまり店舗に長居することや、遠くの店舗まで行くことを躊躇う人も中に入るでしょう。そういった人たちでも、近隣店舗でのおすすめ商品、ポイント増加やセールの情報があれば足を延ばしてみるきっかけとなる可能性もあります。
店舗側としてのメリットも挙げていきましょう。
店舗側としては、より商品を購入する可能性の高い顧客にそのニーズにマッチした情報を届けることで機会損失を防ぐことができるようになります。更に、近隣店舗や帰宅途中の店舗などにある消費期限が迫っている商品の値引き情報を通知することで、購入される可能性が高まり、廃棄されてしまう食品を減らすこともまた一つの狙いです。ポイントという付加価値を付けることで、キャッシュレス決済の広まっている今よりその決済サービスを使用する人が増える機会を作り出すことができるようになるかもしれません。利用者が増えれば、それだけデータも増えるということなのでさらに精度の高い提案を可能とすることもできるようになってくるでしょう。
デメリットとしては、顧客側にとっては自分の個人情報を取得されていることによる不信感や恐怖を覚えてしまう可能性がある点、アプリがないと利用できない為最初は登録などの煩雑な作業が必要となってしまう点などがあるでしょう。
店舗側としては、基本的にメリットの方が大きいのではないかと考えられますが陳列された商品の中から値引きするものを選定したり、値引きのシールを貼付したりと細かな作業が増えてしまうかもしれません。

 

実証実験のその後

今回はあくまでも期間限定の実験ですが、2021年度中に全国のローソン店舗への普及を目指しているとも語られています。
現在は集めたデータを使用して予想される利用者に通知を届けていますが、今後AI技術が進歩、普及すると共によりニーズや状況に合わせた情報を届けることができるようになるとも考えられます。購買情報から推測して新商品のおすすめ情報を通知したり、関連した商品の情報を配信したりすることが可能になってくると考えられます。
更に、AIとこのサービスが発展していった先ではどういった商品をどれだけ値引きするか、という提案をAI側が店にするという形も考えているそうです。
また、メリットとして挙げたように食品の廃棄を防げるようになれば、SDGsと呼ばれる国連によって定められた持続可能な開発目標という取り組みにも貢献することが可能になります。この廃棄をなくすという取り組みに関しては今回の施策と同様のことをセブンイレブンが過去に実施しており、そこで効果が証明されていることもあり、期待が高まる点です。

 

他のアプリや店舗への広まりに対する期待

今回の実証実験では対象がローソン店舗において、au PAYアプリやPontaカードを使用できる人に限られています。ですが、当然利用者が全員この環境を使用できるわけではありません。
以下は現在主流と考えられるモバイル決済サービスのアプリ会員数のグラフです。これを見ると、au PAY以上に会員を持つサービスもあり、こういったところで同様の通知サービスを行えば更なる効果が期待できます。より多くのサービスでこういった取り組みが実施されれば、より多彩な特典や施策が見込め、利用者としても自分に合ったサービスを選びやすくなるとも考えられます。

また、コンビニでは定価販売が原則となっており、値引きでの販売は一部に留まっています。しかし、店で制限して値引き販売することが独占禁止法に当たる可能性があるとしたため、値引き販売がより広まる可能性も考えられます。そうなった場合はより近隣店舗のそういった情報を求める顧客は増えるのではないでしょうか。そうであれば、この実証実験によってもたらされた結果はより有効的に活用されると考えられます。

 

顧客のニーズに答えつつより社会に貢献するサービス

各種のメリットを考えていくと、今回の実証実験で得られる結果は良いものとなる可能性が高いでしょう。キャッシュレスサービスやアプリによるポイントシステムが普及したからこそ実現できるものだと考えられるでしょう。更に、購買の機会を逃さないというだけではなく、今まで廃棄されてしまうことが多かった食品を値引きして販売することでそうさせなくするという環境への配慮も考えられたシステムだと言えます。
今回の実証実験はあくまでも一部ではありますが、今後の展開が期待できるシステムでしょう。

 

【参考】

 

熊谷菜海

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/プログラマー。得意分野はRPA