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2020.11.02

ワークマンの成長の裏側

はじめに

 コロナウィルスによる外出自粛などの影響によって、アパレル業界はおろか、多くの業界で著しい業績悪化が現実のものとなっています。しかし、そんな2020年においても、順調に業績を伸ばしている企業があります。「ワークマン」という企業を皆さんご存じでしょうか。本記事では皆さんに、そんなワークマンの戦略について紹介していきたいと思います。

 

 ワークマンは、作業服関連製品を販売する上場フランチャイズ企業で、前述のようにコロナウィルスが猛威を振るう今年も業績を伸ばし続けている稀有な企業です。3月の全店売上高は前年比17.7%増、4月は5.7%増、5月も19.4%増と、ベンチャー企業のような急勾配で成長を続けています。

 この企業は群馬県に本社を持つ1984年創業の老舗企業です。主に建設業などの職人が使用する「作業服」というセグメントの中で、日本最大手の企業として長年安定した業績を残してきました。

 2015年より、高機能の製品を製造する技術を携えて「ワークマンプラス」というPB(プライベートブランド)を設立しました。レッドオーシャンと見られていたアウトドアファッション分野への進出は、当時大きな話題となりました。業績はその進出を転機として急激な成長を見せ、全店の総計売上は、20163月期から20203月期の間CAGR14.27%と大きく伸長。2019年には1,000億円を突破するなど、今に至るまでまさに破竹の勢いで成長を続けています。

 その成功の裏には、社員育成や販促活動、商品開発など、他分野に渡る改革・企業努力がありました。

https://xtrend.nikkei.com/info/18/00006/00058/

 「ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか(20206月、著:酒井大輔)」には、現在に至るまでの改革・企業努力が詳細に記載されています。今回はこちらの書籍を参考に「データ活用のための制度構築」「インフルエンサーを用いたマーケティング戦略」の2つに焦点を当て、考察していきます。

 

データ活用のための制度構築

 在庫管理、新規出店地の選定、広告・販促など、企業を経営していくにあたって、データを活用して最適化するべき事象は無数に存在します。しかし、一般的な日本企業にそのような能力を持つ人材が多数在籍していることは稀であり、ITの専門人材を雇用、またはコンサルタント企業に発注して、その道のプロフェッショナルにデータ活用やシステムを一任するという解決方法が取られることがほとんどです。

 そんな中、ワークマンでは、「データ研修」を徹底して行うことで、社員11人がデータを分析する能力を身につける仕組みを構築しました。新入社員(入社4年目まで)に対して義務付けられる研修の内容は過度に難しいものではないですが、入社五年目以降の中級者向けコースに進めば、データ分析チームへとステップアップすることも可能な制度設計となっています。

 また、別途で経営幹部には毎年データ分析講習を課しており、社内一丸となってデータリテラシーの維持/底上げを図っています。

 なお2015年からは、部長への昇進条件として「データ分析力」を必須条件としています。データに強い人材が組織の中枢を担うべきという、ワークマン社内の価値観をよく表すものでしょう。

 

 2020年現在、AIを始めとする様々なシステムが導入され、分析力の有無を問わず、簡単に欲しい情報を獲得できる仕組みが整備されている企業も増えています。

 しかし、「AIは、たちどころに結果を教えてくれる。だからこそ、社員が考えなくなってしまう」とワークマンの専務取締役が語っているように、そんなデータ前提の社会に遷移していく現代だからこそ、エクセルによるシンプルなデータ分析や、ベーシックなバスケット分析などのハウツーは、ビジネスマンの素養として重要度を増しています。AIによるアウトプットを理解してビジネスに生かしていくため、データを扱う思考回路や、正しく因果関係を見極める判断力がより強く求められるのです。

 

 企業としては「AI」「ビッグデータ」「DX」といった、週刊ダイアモンドなどの表紙を飾るトレンドに投資していくのも成長のための一つの手段ではあります。しかし一方で、社員へのデータ教育体制を整備していくことは、より建設的かつ本質的な企業の将来への投資となる可能性があるのではないでしょうか。

 

インフルエンサーを用いたマーケティング戦略

 ワークマンには「製品開発アンバサダー制度」と呼ばれる制度が存在します。これは、一般のインフルエンサー(SNS、ブログなどでの情報発信者)の中で、ワークマンの製品を好んで着用している人を広報部が探し当てて、ワークマンの「アンバサダー」として任命するという制度です。アンバサダーは「この商品のここを改善してほしい」「こういう機能が欲しい」といった具体的な商品開発提言や、ワークマンの製品情報や使用感等を宣伝するといった活動を実施します。2019年に始まった制度で、2020年中に50人まで増やすのが目標ということです。

 

  この制度の特徴は、選ばれたアンバサダーはワークマンから直接の報酬を受け取ることはないという点です。金銭的な報酬の代わりに、アンバサダーのPVやフォロワー数、動画の再生回数が伸びるよう露出拡大に全面協力を実施しているとのことです。例えば、新発売の商品の情報を事前に開示したり、ワークマンの公式HPインスタグラム等にアンバサダーのURLを貼ったりするなど、アンバサダー自身の影響力が拡大するような手助けを実施しているため、互いにWin-Winの関係が築かれているのです。

  似通ったマーケティング戦略の例として、企業アンバサダーに著名な芸能人を迎え入れることや、有名なインフルエンサーに商品の紹介を案件として依頼することが挙げられますが、これらとワークマンの戦略は一線を画しています。

 芸能人や著名人による販促活動のもたらす宣伝効果はあくまで一過性のものに過ぎず、加えて大なり小なり費用を必要とします。一方で、ファンを見つけ出してアンバサダーとして身内に取り込むワークマンのマーケティング方法は、長期に渡る販促効果が見込める上、販促費をほとんど必要としません。商品開発のアイディアも享受でき、非常に費用対効果の高い方法と言えるでしょう。

 

 もちろん、ワークマンのようなマーケティング手法は、既に多数のファンが存在するという事実の上に成り立っており、地道な商品企画やコスト削減などの企業努力がベースにあることは忘れてはいけません。また、ターゲット層に一定以上の訴求力を持つインフルエンサーを探し当て、アンバサダー就任を依頼するというやり方は、多くの工数を必要としているという側面もあります。

 しかし、特にB2Cのサービスや製品を提供している企業において、販促費の効率的な使用法に課題感を持っている場合、ワークマンのこの新たなマーケティング手法はベストプラクティスとして一考の価値があるのではないかと思います。

 

終わりに

 今回取り上げた「データ活用のための制度構築」「インフルエンサーを用いたマーケティング戦略」以外にも、ワークマンによる独特な戦略は数多く存在します。独自のオンラインストアによる「クリック&コレクト」の試みや、日本初の「善意型サプライチェーン」を始めとして、日系の老舗企業とは思えない革新的な施策が導入されています。共通しているのは、短期的なメリットを追求するような施策ではなく、企業風土や制度設計など、長期的な目線でサステイナブルなものを積極的に導入しているということです。

 

 前述の「ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか」という書籍には、これら2020年現在のワークマンの方向性や施策が詳しく記述されていますので、興味のある方は是非一読をお勧めします。

 

【参考】

  • ワークマンHP
  • 酒井大輔(2020)『ワークマンはなぜ二倍売れたのか』日経BP

 

鈴木勇剛

アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/アナリスト
メディアの新規事業企画支援や大手メーカの工場コスト削減等のプロジェクトに参画

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