このコラムは連載企画です
<前回コラムはこちら→>【実践事例】テレワーク時代のタイムマネジメント vol.2
前回コラムでは、ドラッガーのタイムマネジメントの要諦を紹介しましたが、本コラムからいよいよその実践編に入りたいと思います。実践の方法については時間配分の可視化をするステップと、その後の具体的な改善ステップの2つに分けます。
本コラムでは、最初の可視化のステップについて紹介いたします。
タイムマネジメントを実践するため、まず行うべき第一歩は、ドラッガーの言うように「自分の時間の可視化」からになります。ドラッガーは、自分の時間配分を可視化するためには「3~4週間記録を取るべき」と述べておりますが、Google Calendar の予定表レベルの粒度であるならいざ知らず、より細分化された時間記録を行うのは大変な作業です。そこでお勧めするのが、以下のようなやり方です:
時間計測シート例
ここで重要なのが、記入する時間単位を細かく分解する点(15分刻み等)と、その時間を使用する目的を個人向けと組織向けに分けて書くことです。
まず最初の時間を細かく分解する点ですが、これは即ち、自ら行っている作業をより細かい活動レベルに棚卸しすることに繋がります。例えば、経理業務の場合、単に「月締作業」と書くだけでは大まかすぎます。その月締作業の中の売上に関するものだけを取っても、各事業部からの売上計上の集計、不明点の各事業部への問い合わせ、請求書のチェック、売掛金計算など複数の業務に分解されます。業務をより細かく分解することで、あとでその時間表を見返した時にどこかボトルネックになっているのかの判別が容易になります。
次に重要な項目として挙げました、時間使用の目的を書く点ですが、ポイントとなるのは「個人向け」と「組織向け」を分けて書く事です。自ら行っている作業について、個人向けの目的を書くのは比較的誰でも容易にできます。例えば、業務で何かのベンチマーク調査をしなければならないとした場合、個人向けの目標は「●●の事例について調査する」で済むかもしれません。しかし、ここで大事なのはビジネスマンとして勤務中に何かしらの時間を使うという事は、すべて何かしらの価値貢献を会社組織もしくはプロジェクトにもたらさなければならないという視点です。先述の調査の例で言えば、組織向けで目的を語るならば「●●の事例調査によって、クライアントの▲に■■の意思決定の材料を提供する」というようになります。この組織向けの目的の視点は、目の前の作業に埋没してしまうとどうしても忘れてしまいがちなものです。しかし、この組織の目的が判然としない時間の使い方は、はっきり言って時間を浪費している可能性があり、他のタスクに従事するほうが組織上正解だったりします。そのような時間の使い方の改善機会を見出すためにも「組織向け」の目的を作業者自身が理解しておくことは自らを省みる上でも重要です。
この「目的を見極めよ」というのは実は深い示唆を含んでいます。著者も自分自身や社員のメンバーにこの時間計測シートに自身の行いを記録させる取り組みを実施しましたが、その際に改善機会を発見するのは、常にこの「目的が何かを見極めよ」という視点からでした。実は人間というものは目的意識が明確に無くても目の前の与えられた作業に没頭できる生き物です。従って、この作業の目的は何か、とくに組織やプロジェクトにとっての目的は何か、それに対して自分は何の価値貢献をしているのかという意識を常に持つのは重要です。えてして、それほど貢献価値の無い作業に多大な時間を割いていたり、本来の目的の趣旨から外れた点で拘泥していたります。こういった改善機会を見つけるというのは一種のひらめきです。ひらめきや発見というものは得てして真の目的を深く洞察することで生まれます。これは、コロンブスの卵や、アレキサンダーが剣で縄をぶった切ったような故事からも言えることだと思います。
そして最終的には、その目的を書いた横に、成果/反省を書いてみることをお勧めします。時間の記述単位が細かくなっており、かつ時間使用の目的がしっかりと書かれているならば、その成果や反省点も挙げやすくなっているかと思います。逆に、この成果/反省がうまく書けない、何を書いて良いのか思いつかないという場合は、時間の細分化が十分でないか、もしくは目的の定義がまだ不明瞭である可能性があります。その場合は、再度前ステップにもどり、時間の細分化、目的の明確化を再考することをお勧めします。
本コラムでは、タイムマネジメント実践編の最初のステップとして、自分の時間の使い方を可視化するステップを紹介しました。次コラムでは、具体的な改善アイデアの抽出のステップに入ります。
<次回コラムはこちら→>【実践事例】テレワーク時代のタイムマネジメント vol.4
米国戦略系ファームBooz & Company(現PwCネットワークStrategy&)を経て2010年当社設立に参画。コンサルタントとしての経験と知見をもとに、当社のB2B領域における事業開発及び業務運営を一手に担う。独自の社会観と戦略眼に基づき、次世代型のコンサルタントとエンジニアの育成に従事。ペンシルバニア大学(米国)卒業、東京工業大学大学院修士課程修了。