KNOWLEDGE & INSIGHTS

2020.09.14

オンラインコマース(EC)の弱点を補完する動画コマースの形とは

動画は購買の手段として付加価値を持つ時代へ

動画の存在は、私たちにとってますます身近になってきています。YouTube等の動画プラットフォームでの視聴が定着したことをはじめ、Twitterインスタグラム等のSNSでは当たり前のように動画が投稿され、再生ボタンを押していなくても動画が流れて自然と目に入ってくることすらあります。さらにコロナ禍で自粛期間を経たこともあり、動画は人々の生活の中で一層存在感を増しています。そんな動画を用いたオンラインコマース(以下、ECと表記)である「動画コマース」が、今注目されています。

動画コマースは、商品を動画内で販促し、視聴者はその場で購入まで進むことができるECの形です。通常のECよりも商品イメージを具体的に伝えられるため、訴求力が高く購買に繋げやすいことが主なメリットです。いわゆる衝動買いECでも促すことのできる手法として注目されています。通信インフラの面でも、今後5G通信の普及により、動画はさらに身近な存在となり、同時に動画コマースの優位性も高まっていくと考えられます。

 

本記事では、動画コマースの中でも触れる動画として今後さらなる展開が期待される「TIG commerce(ティグ コマース)」を中心に、事例も交えて紹介いたします。

 

オンラインコマースの弱点は商品購入への繋がりづらさ

以前、オンラインコマース(以下、EC)について「【事例解説】オンラインコマースを活用した小売業の成功術」にて紹介いたしました。(未読の方は是非ご一読ください)

記事では、ECのメリットとして「店舗を持たないことによるコストの削減、インターネットの普及に伴う顧客の拡大、購買データを利用した売上アップ、購入場所や時間を選ばない、商品やブランドなどを簡単に比較」できることを挙げ、事業者側、消費者側どちらにとっても魅力的である反面、デメリットとして「購買体験が印象に残りにくい、特定の商品にたどり着くまで難しい、ブランドイメージが伝わりにくい、有名企業に比べて商品などの信頼が低いと売り上げを伸ばしにくい」ことを挙げました。つまり、ECの弱点は「商品購入への繋がりづらさ」であるといえます。

この弱点を補完できるのが、「TIG commerce」という新たな動画コマースの形です。

 

革新的な触れる動画TIG commerce(ティグ コマース)」

幅広い業種への応用力を持ったデジタルマーケティングツール

株式会社エスキュービズムパロニム株式会社が提供する触れる動画TIG commerce(ティグ コマース)」は、動画コマースの一種です。20183月のローンチ以降、アパレル、小売等の企業や自治体に導入され、世の中に新しい購買体験を発信しています。動画の任意の部分にコマース機能をTIG付けする(付与する)ことで、動画視聴者はTIGをフリック(PCの場合はクリックもしくはドラッグ&ドロップ)すると商品をストックでき、そのまま決済まで可能になります。パロニム社で開発した次世代インタラクティブ動画技術であるTIG(ティグ)を活用したものです。

http://media-incubate.com/media/2018/12/03/scubism-TIG commerce/

 

動画の様々な箇所にTIGを散らすことで、視聴者は動画自体を楽しむことに加えてTIGを探す楽しみも得られ、動画の尺も最大3分と長すぎず、最後まで飽きずに高揚感を保って視聴することができます。TIGにクーポンを仕込んでおく等、より視聴者にとってメリットのある作りにすることで効果を高める工夫を施すこともできます。

一般的に、通常の動画では最後まで離脱せずに視聴する人の割合は5%程といわれているところ、株式会社エスキュービズムの実験によると、TIG commerceの動画は驚異の52.8%を記録したそうです。

 

また、TIG commerceの使い方は商品の販促に留まらず、無形の商品を扱う業種に対しても幅広い応用力があります。例として美容室においては、美容師のカットテクニックを動画にして指名予約に繋げるなどといった使い方ができます。このように動画の内容とTIGに付与するURLを工夫することで業種に応じた強みを発揮することができ、非常に高い汎用性を備えているといえます。

 

ひと手間を省くことで購買意欲を高めるデザイン性

通常の動画コマースとTIG commerceそれぞれの動画視聴から決済までの流れが以下です。

「動画視聴」のフェーズにおけるポイントは、入り口の”広さ”が異なる点です。通常の動画コマースでは特定の商品をPRすることが多く、視聴者は欲しい商品を目的としている可能性が高いですが、TIG commerceは一つの動画の中でTIG付けした分だけ商品をPRすることができるため、漠然としたニーズを持った消費者を引き込むことができるため、入り口が比較的広く、より多くの視聴者を獲得できると考えられます。

そして何より「商品検索」のフェーズが不要となることが、TIG commerceを利用する視聴者の最大の特徴といえます。通常の動画コマースでは、購入意欲が湧いた商品に関する詳細を調べるために別途検索行為が発生することが多いですが、TIG commerceでは動画内にストックしたTIGをタップすることで直接ECサイトの商品個別の詳細ページへ遷移でき、「購入手続き」のフェーズへ進むことができます。商品個別の検索フェーズが不要となり、手短に且つストレスフリーに購入手続きを進めることができます。

 

手軽に導入できるマーケティングツールとしての側面

高度な技術を用いた動画コマースのため導入が難しそうなイメージを持ちがちですが、動画公開までの流れはシンプル操作の4ステップで完了できるため、動画制作の経験がなくても問題ありません。

また、TIG commerceではアクセス解析も可能で、再生回数や商品ごとのタップ回数等、様々な角度からレポートを作成してくれます。事業成長のためのデータを手軽に集め、PDCAサイクルを回し、より効果的にアプローチ方法の改善に努めることができます。

 

TIG commerceの導入事例

セブン&アイの事例にみる動画コマースの課題とTIG commerceの強み

20188月、株式会社セブン&アイ・ホールディングスはグループ横断のECサイト「オムニ7」において、ベビー用品の紹介や、アウトドアワゴン、ビールサーバーの実演販売動画をTIG commerceを用いて期間限定公開しました。(現在は公開終了)

セブン&アイ・ホールディングスでは、動画コマースを用いた宣伝は「再生するだけで直接商品の購入につなげられない」ことを課題として考えていましたが、TIG commerceで商品をフリックするだけで購入できるようになったことで、課題が一気に解決されました。また、FacebookTwitterといったSNSへ直接投稿できるボタンを動画上に付与して容易に拡散できる仕組みを作った点も、より多くの視聴者を獲得するためのポイントといえます。

https://netshop.impress.co.jp/node/5697

ニトリの事例にみるリアル店舗と絡めたTIG commerceの活用

20205月、株式会社ニトリホールディングスは自社メディア「ウチソト」(「お家でも外でも心地よく暮らしたい」をテーマとしたライフスタイル提案サイト)にて、TIG commerceを採用した動画を公開しました。前述の仕組みの通り、気になった商品をフリックしてストックし、タップするとニトリネットECサイト)へアクセスし購入手続きを進めることができます。

 ポイントは、リアル店舗で配布しているリーフレット「ウチソトPASSPORT」にTIG commerce動画へアクセスできるQRコードを掲載している点です。新たな購買体験を提供することで、リアル店舗へ来店した顧客も二次的に集客できる導線を敷いています。

https://www.nitorihd.co.jp/news/items/d8ab6e58ed94844a9adc89de0f36e43d.pdf

 

動画は見るものから触れるものへ

TIG commerceでは動画視聴者へ詳細に商品情報を伝え、手軽且つストレスフリーな購入への導線を敷いていることで、ECの弱点であった「商品購入への繋がりづらさ」を補完できる新たな形であるといえます。記事中で紹介した事例以外にも様々な企業とタッグを組んでおり、今後ますますの拡がりを見せていくでしょう。

TIGcommerceに見られるように、動画コマースはその価値をさらに拡大させており、動画の在り方が見るものから触れるものへ移り変わる日も近いかもしれません。

 

【参考】

・株式会社エスキュービズムHP「TIG commerce」

・パロニム株式会社HP

株式会社ヒューマンセントリックス「動画コマースって何?動画コマースと従来のEコマースとの違いも解説」

・Media Incubate「エスキュービズム社、動画コマースサービス「TIG commerce」の提供開始。新しい買い物体験をもたらす」

Yahoo!ニュース「動画コマースの新潮流“触れる動画”、ファッション通販に新たな可能性」

株式会社インプレス インタビュー記事「動画から直接買い物ができちゃう「TIG commerce」が画期的︕」

・プロモーション×デジタルの未来を届けるメディア ベイ「動画コマースの次の潮流は“見て触る”――次世代ECの行く先」

・株式会社セブン&アイ・ホールディングス NEWS RELEASE 2018年8月6日

・株式会社ニトリホールディングス NEWS RELEASE 令和2年5月8日

・通販通信「新感覚のEC購入体験を提供、ニトリが次世代動画技術「ティグ」導入」

 

川上雄也

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/プログラマー。得意分野は業務コンサルティング。