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2020.08.28

触れずに操作できるこれからの時代のスタンダード:非接触型デジタルサイネージ

デジタルサイネージの普及と非接触型デジタルサイネージの登場

デジタルサイネージの技術は、現在身近のいろいろなところで見かけられるようになりました。例えば、JR博多駅の駅ビル「JR博多シティ」ではビル内のイベントや催事の案内、各店舗の新商品案内を表示させたり、また東京ビッグサイトではスマートフォンと連携した多言語表示機能のついたデジタルサイネージを活用しています。矢野経済研究所の調査によれば、2024年度にはデジタルサイネージの市場規模が4,180億円にまで拡大するという予想も出ています。

 

しかし、コロナ禍においてこの技術には一点懸念があります。サイネージ上の情報を切り替えたり、コンテンツを再生したりしようと思ったとき現在広く使われているサイネージではスマートフォンなどと同様に触って操作しなくてはなりません。不特定多数の人間が触れるであろう現在のデジタルサイネージの形は、この状況下において望ましいものではありません。更に、そういったものは消毒する必要が生じます。その端末だけの消毒といえど、不特定多数の人間がかわるがわる触れていくものです。使うたびに従業員が消毒しなくてはならないとなると、その作業にかかりきりになってしまう従業員も出てきてしまうでしょう。
そこで今注目されているのが、非接触型のデジタルサイネージです。

 

ジェスチャーで操作するデジタルサイネージ

そもそもデジタルサイネージというのは、店舗や街頭に設置された電子式の看板や掲示板を指します。広告としての意味だけではなく、店舗や商品の案内、情報の掲示としても使用されています。表示された情報をタップやスワイプすることでさらに詳しい情報を表示したり、言語や案内の切り替えをしたりできるようになっています。
本記事で取り上げる非接触型デジタルサイネージは、このタッチ操作の代わりにジェスチャー操作ができるようになるという技術です。液晶画面に触らず、画面の前で上下や左右に手を振ることで、サイネージに備え付けられたカメラが読み取り、そのジェスチャーに応じた操作を端末の方で実行する、という流れとなっています。

 

触らないことで生まれるメリット

非接触型デジタルサイネージは触れずに操作ができるという点以外でこれまでのサイネージと大きな変化はありません。つまり、もし既にデジタルサイネージを導入している場合はジェスチャー対応させることができれば元々使用していたコンテンツを利用することができる可能性も高いでしょう。新たに使用方法を理解する手間や準備がいらないというのはコンテンツを配信する側にとっては利用しやすいのではないでしょうか。
触らないことがどれだけのメリットになるかというと、まず大前提として、コロナ禍の現在は触らないというだけで非常に衛生的であると考えられます。物に触らないのはもちろん、案内や商品説明を聞く際に人に聞かなくても機械の操作だけでよくなるため飛沫を避けることにも繋がります。また、従業員にとってはサイネージ本体を消毒する頻度も減らすことができるでしょう。
コロナ対策以外の観点で見ると、ディスプレイの汚損を減らすことができるようになるというのがまず一つです。人の手が触れるということは当然皮脂や水分などで画面は汚れてしまうでしょう。そして、同じところを触ったり、反応がないからと強く叩くよう触ったりした場合ディスプレイが破損してしまう可能性も考えられます。触らずに操作ができるようになればそういった可能性はずいぶん減らすことができるでしょう。
もう一つはより直感的に操作ができるようになるということです。言葉の書かれているボタンをタップして操作するよりも、ページをめくるように手を動かして情報を切り替えるという操作の方がわかりやすいのは当然でしょう。画面上に必要な操作をアイコンとして表示しておけば、文字を読みにくい人でも外国の方でもより簡単に使用できるでしょう。

 

コストとジェスチャー操作は考慮すべき点

しかしメリットばかりではありません。もちろん導入にコストがかかるというのは考慮すべき点の一つです。今回メインに取り上げているジェスチャー操作ができるデジタルサイネージは、本体だけで80万円程度の費用が発生します。通常のサイネージであれば、ディスプレイ本体でも10万円前後とかなりコストを抑えることができます。初期費用としては大きな負担となってしまいます。また、本体を導入しても再生するコンテンツを作成するのに別途時間と費用を必要とします。
また、ジェスチャー操作であることに気が付かず画面に触れてしまう可能性も考慮しなくてはならない点です。そして、路上などでディスプレイに向かって自らの体を動かさないと操作できないということは慣れていないうちは使うことに抵抗を覚える人がいる可能性もあります。

 

サービス提供会社の紹介

現在ジェスチャー操作が可能なデジタルサイネージを提供しているサービス会社を二社紹介します。

INFOWAVE

INFOWAVE株式会社大谷デザイン研究所の開発したジェスチャー式のデジタルサイネージです。スタンダードなものは42インチのスタンド一体型で、初期費用として80万円程必要とします。32~50インチまでのモニタサイズを選べるだけではなく、スタンドタイプと壁付けタイプからサイネージの形を選ぶことができます。コンテンツ配信は使用しているPCでデータを作成、そのデータをUSBに入れ、それをサイネージ側に挿入すればあとは設定した時間通りに配信されるようになるという形です。また、導入に際して幅広くカスタマイズに対応しているためサイネージ本体のカスタマイズだけではなく、配信する静画や動画の作成にも応じています。広告や各種案内を使用したい場合はこれ一つで完結できるようになっています。

http://www.ohtani-design.com/infowave/

 

Kinesys

Kinesys株式会社ネクストシステムが開発したデジタルサイネージです。AR技術を応用しており、サイネージに設置されたカメラで人の動きを読み取り、ジェスチャーで操作したりスマートミラーのような使い方をしたりすることも可能になっています。
元々サイネージを導入していた場合はカメラやUSBなどの基本セットのみの購入で導入ができるようになっています。基本的にはサイネージに追加するカメラや機能を販売していますが、本体なども相談に応じてオプションとして同時に導入することが可能です。また、動画・静止画の再生だけではなくAR機能を利用した合成素材もオプションとして購入することができ、広告としての利用だけではない使い道も考えられます。

https://www.next-system.com/kinesys

 

導入事例とそこから見える新たな活用方法

商品案内としてではなく非接触型サイネージの特徴を生かした活用事例として挙げられるのが関東や近畿地方にスーパーを展開している株式会社ライフコーポレーション桜新町店です。
こちらの店舗では、大型ディスプレイをキッズスペースに導入しています。ジェスチャーに反応してこどもでも気軽に遊べるコンテンツを配信することで、スーパーの雰囲気作りに一役買っています。この導入事例では、こどもがターゲットとなっており、ジェスチャー操作がいかに簡単に操作できるか示しているとも考えられます。
情報案内や商品説明だけではなく、実店舗であるからこそ得られる店舗自体の雰囲気をより店のテーマに沿うようなコンテンツを再生することができるというのもまたデジタルサイネージのひとつの魅力です。

https://www.next-system.com/kinesys/casestudy/life

触らずに操作ができる、というのはwithコロナ、アフターコロナの世界で特に重用されるでしょう。例えば整理券や受付などは現在もタッチ操作で行われているところも多いですが、それらをジェスチャー操作やそのほかの非接触型デジタルサイネージに置き換えられるというのはわかりやすい導入の一案でしょう。
また、従来のサイネージよりもカメラでの動作読み取りなどによってより注目を集められる可能性も高いでしょう。イベントや展示会などでの集客といった導入も提案のひとつと考えられるでしょう。

 

進化し続ける非接触型デジタルサイネージ

今回取り上げたのはジェスチャーで操作が可能になるものでしたが、空中に操作パネルを投影してそれで操作できるようにするという技術も開発に成功しているようです。例えば、株式会社博報堂プロダクツは新型コロナウイルス感染症の拡大予防対策として、非接触タッチパネルのニーズの高まりを考慮し、非接触サイネージのソリューションを7月から提供開始しました。

https://robotstart.info/2020/07/09/air-touch-parity-mirror.html

ディスプレイを触らないという点はジェスチャー操作とも変わらず衛生的でありかつパネル操作なので操作する際も小さな動きでできます。現時点では技術や素材が複雑すぎてしまい量産することは実現できていません。しかし、今後こちらのタイプが量産できるようになれば、導入目的に合わせてどちらかのタイプを選べるようになり、より幅広く店舗へ導入されるようになるでしょう。

 

非接触型デジタルサイネージが当たり前になる世界

デジタルサイネージ自体は、最初に述べた通り市場を拡大しつつある技術です。非接触型デジタルサイネージはそれをさらに進化させる技術であり、コロナ禍の現在だけではなく、アフターコロナの世界でも濃厚接触回避という世間のニーズにマッチしているものということで更なる注目を集めるでしょう。
非接触型デジタルサイネージがもつ様々な役割、例えば価格や商品の案内を非接触で行えることによる顧客への安心感の提供、また動画や音声などと組み合わせた商品紹介などによる顧客への興味喚起や商品との出会いのきっかけ提供などが挙げられます。そして、導入事例で紹介したように商品との出会いだけではなく、店舗の雰囲気作りやこどもでも楽しめるコンテンツの再生など様々な活用方法が考えられます。今後ジェスチャーで動くものだけではなく、投影型など多くの手段が選べるようになれば、事業者への導入機会もさらに広がっていくでしょう。アフターコロナにおけるニューノーマルの日常生活の中に非接触型デジタルサイネージを散見する日も近いかもしれません。

 

【参考】

 

熊谷菜海

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/プログラマー。得意分野はRPA