皆さんはBeaconという技術に聞き覚えがあるでしょうか。
デジタルマーケティング関連分野で聞くことが多いですが、最近では3密を回避する必要性が論じられる中、「お出かけ混雑マップ」などのアプリサービスにおいて用いられることで、注目が集まっています。
高齢者や子供のスマートフォンに専用のアプリを入れることで見守りのために用いることもできるなど、大きな可能性を持つ技術です。
本記事においては、そんなBeaconの日本における今後の展望について、デジタルマーケティングの観点から述べていきます。
ご存じの方も多いとは思いますが、そもそもBeaconとは「Bluetooth Low Energyを用いたスマートフォン端末の位置特定技術」です。Beaconデバイスが、スマートフォン端末から出ているBluetooth電波を感知することで、端末の現在位置や行動履歴を取得することができます。
Beaconデバイス自体はそもそもの値段もそう高くなく、消費電力やBluetoothの届く範囲などにより異なりますが、最も小さいタグやボタン型であれば2,000~3,000円程度で購入できます。一般的な据置型やUSB接続型になると3,000~5,000円前後です。
このBeaconの特徴は、Bluetoothの電波を通じて端末の位置情報を取得するため、カバーできる範囲は数十メートルと比較的小さいものの、屋内の位置が判別可能な点です。精度も高く、数センチから数10センチの単位で位置情報を取得できるほか、これまでの行動履歴の情報(動線)を取得すること、接続した端末にプッシュ通知を送付することも可能です。通信データ量が少ない分、消費電力が少ない点も特徴として挙げられ、モバイルマーケティングに応用できる技術として、リリース当時には日本でも大きな話題となりました。
モバイルマーケティングとは、スマートフォンの爆発的な普及により顕在化した「スマートフォンにフォーカスしたデジタルマーケティング手法」のことで、自社アプリケーションを使ったマーケティングや、SMS(ショートメッセージサービス)を用いたマーケティングなどが含まれます。
2013年にAppleが「iBeacon」という規格をリリースしてから遅れること2年、2015年にGoogleがAndroidにも正式に対応した「Eddystone」という規格をリリースし、2020年現在に至るまで、上記の二つの規格が市場の覇権を争っています。
Beacon技術は、リリースから7年も経過しているにも関わらず、当初予想されたような普及を見せていません。それには、主に2つの理由があると考えられています。
Beaconには、Bluetoothをオンにしているスマートフォンに対してしかアプローチできないという欠点があります。Bluetoothをオンにすることで電池の消耗が激しくなることから、Bluetoothをほぼ日常的にオンにしている生活者の割合は約2割前後と言われており、大半の生活者に対して販促アプローチができませんでした。
しかし、近年はAppleがiPhoneのイヤホンジャックをなくしたこともあり、無線イヤホンとのBluetooth接続が一般的になるなどの動きがあり、その課題は徐々に解決されつつあります。
消費者が全員Bluetoothをオンにしたからと言って、全員の位置情報を受け取ることはできません。特定のアプリをダウンロードしているスマートフォンにしかアプローチできないのです。
そもそもマーケティングを行う前にアプリをダウンロードしてもらうハードルが非常に高いため、Beaconの大規模で効率的な運用は現実的ではないと言われてきました。
日本では、Beaconを局所で活用する事例は散見されたものの、上記の理由もあり、その高いポテンシャルを生かすことができていませんでした。
しかし、近年「Beacon Bank」という革新的なBeaconのオープンプラットフォームサービスが生まれ、規模を拡大したことで、Beaconの潜在能力を如何なく発揮できる土台が整ってきたと言えます。
https://www.beaconbank.jp/signups
このサービスを運営している株式会社unerryは、複数の大手アプリと連携しています。これにより、1700万のアプリ―ユーザに対してプラットフォーム内の誰もがアプローチすることができるため、Beaconの「特定のアプリを入れたスマートフォン端末にしかアプローチできない」欠点を補完するサービスとなっています。
原則無料と、比較的廉価に利用できるということもあり、自社のプロモーション活動の1つとしてBeaconを検討している方は、まずはBeacon Bankの活用をお勧めします。
ではここからはBeacon Bankがどのような革新を起こしているかを見ていきましょう。
Beacon Bankには既に様々な企業のBeaconデバイスが登録されており、日本全国で計70万以上のBeaconデバイスが登録されています。
これらのデバイスは、プラットフォームに登録することで原則無料にて使用することができるため、企業は自分のBeaconを購入したり維持費をかけたりすることなく、多くのBeaconデバイスを利用することができるのです。
登録されている日本中のPublic Beaconの反応ログを収集することが可能になり、アプリユーザがよく訪れる場所や重要導線などを分析することができるようになりました。
ヒートマップ分析、動線分析等、ビーコンと反応したログをグラフィカルに分析することができ、各商圏の評価や、屋外広告・イベントなどプロモーション計画の参考情報として活用可能です。
このことは、ビックデータ収集ツールとしてBeaconの可能性を大きく広げました。
自分の店舗だけでなく、最寄り駅やターミナル駅などの町中にあるBeaconから、情報やクーポンがプッシュ配信できるようになり、大規模なプロモーションが可能になりました。
エリアごとに配信内容を変えるなどの細かなアプローチも可能であり、地域活性化のための相互送客などにも生かすことができます。
最近10年のスマートフォンの普及によって、マーケティングの方向性は大きく変わり、デジタルマーケティングの需要が爆発的に増えました。それに伴い、現在インターネット上の広告は多様化し、数知れぬ量の広告が打たれています。
今後は、デジタルマーケティングの成熟に伴い、今後は見境なく広告を掲載するような「数打てば当たる」型の広告は次第に姿を消し、CVRをより重視した「量より質」型の広告が追及される傾向が、さらに顕著になると予想されます。それにより、企業がCVRの高まりという恩恵を享受するだけではなく、消費者としても無駄な広告を見るために割く時間を減らすことができるという側面もあります。
その中で、ビッグデータ・AIと相性が良く、消費者動向を把握でき、位置情報から個別に適したマーケティングを実施できる可能性を持つBeaconのニーズは高く、間違いなく今後のデジタルマーケティングの一翼を担うはずです。
現に2020年1月にGLOBAL INFO RESEARCHが発表した「Global Smart Beacon Market 2020 By Manufacturers, Regions, Type And Application, Forecast To 2025」によれば、Beaconの世界の市場規模は現在1億2,244 万米ドルに達しており、2025年にかけてCAGR30.5%という急勾配の成長を続けていくと予測されています。
日本においては、欧米を始めとする諸外国に比べて現在のBeaconの普及率は低いですが、欧米から数年遅れてトレンドが巻き起こるという日本のマーケティング事情や、本記事でも焦点を当てたBeacon Bankの台頭を考えると、今後更に注目が集まっていく分野となることは間違いないと言えるでしょう。
【参考】
アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/コンサルタント
防衛省自衛隊において幹部自衛官として3年間勤務し、その後アーツアンドクラフツに参画。新規事業領域の調査/計画から、BPRや海外マーケティングを始めとする実行支援まで、多岐に渡るプロジェクトにおいて顧客へ価値を提供している。全体最適を念頭に置いた戦略的発想に優れ、常時顧客とフェーシングしてきた経験から柔軟なプロジェクト推進が可能。