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2020.07.10

【先進事例を解説】顔認証システムを用いたサービス提供とライフシフトを考察

顔認証システムはこれからも成長する市場

近年、顔認証システムが人々の生活に広まってきています。富士経済によると、2022年には顔認証システムの市場規模が58億円になると予測されており、これからも規模が拡大していく見込みです。また、顔認証システムを活用することで、新型コロナウイルスによる“三密”防止にも役立てられますので、より一層の成長が期待できる市場だと考えられます。

 

顔認証が生活に馴染むには課題がある

一方で、顔認証システムには様々な問題が絡んでいるため、日本ではいまだに試験的運用の例が多いです。クレストホールディングス株式会社のアンケートによると、およそ65%の人が顔認証技術を用いたサービスに抵抗があると答えており、理由は用途の不明瞭さやプライバシーに関するものが多いです。つまり、日本における問題は技術に関する信用性だと考えられます。

 

 

また、日本だけではなく、海外でも顔認証システムに慎重な姿勢が見られます。執筆時点で世界的に話題になっているのは黒人差別に関する問題ですが、顔認証システムもその一因となっています。アメリカの国立研究所NIST(米国標準技術研究所)の研究結果によると、顔認証システムには白色人種と比べて白色人種以外の誤認識率が10~100倍あるとされており、その点が差別的だと問題視されています。また、警察がこのシステムを利用することで黒人の誤認逮捕が増加することや、顔を含めた個人情報の悪用など、様々な問題を指摘する声があります。そうした問題に伴い、IBMAmazonMicrosoftが相次いで警察への顔認証システムの提供を中止する動きが出ました。そのため、世界中で顔認証が活用されるのは先の話になると考えられます。

以上のような事情があるため、iPhoneなどのスマートフォンのセキュリティ以外に生活で見かけることがないと考えられます。そこから、消費者に受け入れられる体制を整える必要があると考えられるので、今日においては導入の難しい先端技術と言えるでしょう。

 

課題とは裏腹に、日本には顔認証が広まる契機が存在する

このように課題を抱えている顔認証ですが、徐々に私達の身近に浸透してきています。例を挙げると、iPhoneを始めとするスマートフォンのセキュリティシステムや、レジレス決済の試験導入、アミューズメント施設での入園~退園までの流れの効率化など、徐々に浸透を見せていると言えます。他の例としては、日本国内の空港の一部の出入国ゲートに顔認証技術が搭載されており、空港の利便性の向上に貢献しています。

また、来年の東京五輪の開催では日本への入国と競技会場への入場の効率化を図るために顔認証システムの活用が期待されています。そのため、これらのきっかけをもとにスマートフォン後続機や空港、競技会場での顔認証技術の導入が進み、消費者の認知度や親近感が増していくと考えられます。

https://jpn.nec.com/ad/2020/op/face-recognition/index.html

 

徐々に生活に近い存在となっている顔認証システム

認知が広まっていく契機として、小売業向けのソリューションが存在します。小売業に関連性がある顔認証システムの活用事例としては、大きく「決済」「防犯」「認知」の3つに分類ができます。実際に導入されている分野もありますので、以下の提供元/メリット/デメリットをまとめた表を見ながら、導入できるかどうかを考えても良いでしょう。

 

決済においては、決済時間の短縮による接触時間が減らせる、というコロナ禍において重要と言えるポイントが含まれています。また、決済の時間が短縮できることは回転効率向上による売上/顧客満足度の上昇につながるので、顔認証システムの導入は小売業において大きなメリットがあると言えます。加えて、防犯対策を可視化することで被害を減らせることや、客層に合った宣伝を表示し販促できることなど、様々なメリットがあります。

反対にデメリットは、個人とデータが連動しているため、データの漏洩や悪用のリスクがあること、システムの判別ミスによる誤認逮捕などのリスクがあることです。生活が豊かになるにつれて、情報を一点に集中させる必要があることから、メリットに比例してデメリットが強くなっていくことが分かります。そこから、顔認証サービスの拡大よりも前に、情報を保護する基盤を整えることが必要になると考えられます。そのため、今後拡大していく顔認証サービスにとって、どれだけセキュリティなどの基盤を整えて信用を得られるか、がとても重要なカギとなります。

 

活用事例の紹介

顔認証万引き防止システム -LYKAON®-

ここからは、実際の導入事例を見ていきます。一つ目は、エナジール株式会社LYKAON®(リカオン)です。このシステムの主な流れは、カメラで捉えた顔情報を自動でデータベースに登録し、手動での編集で要注意人物の情報を登録します。その編集したデータベースを基にカメラで店内の監視を行い、要注意人物を検知した場合はアラートや通知などで知らせる、という流れになっています。また、このデータは小売店の本部で一元管理が可能なので、チェーン店での防犯や顧客分析にも利用ができます。

https://www.face-lykaon.com/

 

この事例のポイントとしては、万引き犯を捕まえることではなく、万引き防止に特化していることです。従来の防犯カメラは、映像を基に万引き犯を捕まえるものです。一方、LYKAON®は怪しい人物が来店した際に知らせるものなので、万引きを防止することに特化しています。そのため、導入した小売店では、体感で8割程度の万引き防止効果があると評価されています。実際に、万引き被害額を1/3程度まで減らすことが出来ているので、導入効果があると言えます。

このようなシステムを利用することで、従業員の負担軽減、店舗の損失の減少、顧客分析が同時に行えます。そのため、店舗の利益につながりやすく、類似したシステムが今後も拡大していくと予測できます。また、このシステムを応用することで、優良顧客やリピーターに対する特別サービスなどの付加価値を生み出すことも可能になるかもしれません。

今後は、人口減少や企業の利益拡大などが背景にあるため、省人化や情報分析などのリソース活用ができるLYKAON®のようなツールのニーズがさらに高まると言えます。こうしたサービスを活用するのはもちろんですが、このツールから読み取れるBPRの観点に近いリソースの活用は小売業にとっても必要になると考えられます。なので、導入事例としても、今後の展望としても参考にしてください。

 

レジレス型店舗 -NEC SMART STORE-

二つ目は日本電気株式会社(以下、NECと表記)の事例です。NECは、本社ビル内にレジレス型店舗「NEC SMART STORE」をオープンしました。同店舗は、NECの顔認証AIエンジン「NeoFace」を搭載しており、顔認証を基に退転するだけで決済が完了するという仕組みになっています。その裏では、店舗内に設置してあるカメラや画像認識技術の組み合わせ、給与管理システムとの連動、売上管理や顧客管理などの店舗システム、データ解析技術、商品棚には重量センサーなど、あらゆる技術が導入されています。加えて、NECですでに利用されていた顔認証システムの顔情報をそのまま使っているので、顔情報を登録しているユーザーの手間はほとんどないと言えます。

これに伴い、同店舗の省人化や、購買データの管理、買うか迷った商品の記録まで行えます。そのため、導入コストはかかりますが、人件費の削減や発注量の調整にも用いることが出来ます。

このことから、最も省人化している事例ともいえるレジレス店舗の肝は、人の負担を減らすだけにとどまらずに、より広い視野での負担軽減を考えたことだと言えます。競合との競争に勝つためには、競合よりも良いものを提供し続ける必要があります。そのため、今あるものを組み合わせたら何ができるか、何があればアイデアを実現できそうか、といった挑戦的なマインドが大切になると言えます。このあとの事例でもNECが登場しますが、NECは顔認証システムに関する様々な取り組みを行っていますので、企業はこのような姿勢を見習っていく必要があると言えます。

 

IoTおもてなしサービス実証 -南紀白浜-

最後の事例は、南紀白浜の事例です。南紀白浜は観光地として関西で有名ですが、関西以外の注目度が高いとは言えないという問題を抱えていました。そこで、南紀白浜空港が中心となって地域活性を行うために、NECとの「IoTおもてなしサービス実証」に取り組んでいます。

実証には顔認証システムを用いており、旅行前に自宅や空港で顔情報とクレジット情報を登録します。その登録した情報をもとに、空港では観光案内やお出迎えなどを表示し、レストランでは手ぶら決済、ホテルでは客室の入退室やサイネージでの広告表示など、あらゆるサービスに顔認証システムが連結しています。また、南紀白浜では温泉やビーチが有名なため、貴重品を持ち歩かなくていいことが大きなメリットになります。20207月時点では、サービスに参加している施設は空港を含め12施設となっており、ホテルやテーマパークなどの参加が確認できました。

https://jpn.nec.com/biometrics/face/shirahama-iot/

 

この事例では、中盤でお見せした分類の三つの要素が盛り込まれています。ホテルでは入退室時の防犯とサイネージによる広告の表示、レストランでは手ぶらでの決済など、すべての要素が盛り込まれています。このことから、地域一体で連携したサービスの提供が見られる未来の街をイメージすることが出来ます。

また、この街の考えられる特徴として、以下のようなものが挙げられます。

  • 全てが顔で完結するためセキュリティ面が安全で盗難などのリスクがないこと
  • 犯罪発生率が下がるため地域の風土が良くなること
  • 顧客に合った商品や観光場所の表示ができるため効率良く消費を促せること

こうした近未来的なシステムを体感する目的で観光客が増える可能性も十分に有り得ますので、地域活性につながる良い循環が生まれるのではないか、と考えることが出来ます。

地域活性の観点でいえば、通貨の換金を行わなくて良いことが顔認証決済のメリットとして挙げられるため、インバウンド対策につながり、観光収入が増加を見込むこともできます。

このように、多くのメリットをもたらすと予想されるのが顔認証システムですが、この事例によって問題が可視化されています。例を挙げると、セキュリティ面での問題です。こうした顔認証システムは顔情報を基にサービスを提供しているため、どのシステムも顔情報にアクセスできるようになっている必要があると考えられます。そこから、データベースに対するクラッキングのリスクの大きさと、クラッキングの入り口の広さをイメージすることが出来ます。もしデータベースにアクセスされた場合は、個人の生活が丸わかりになってしまいますし、クラッキングの入り口はシステムの数だけあると考えて良いでしょう。なので、自分たちの身を守るためにも、セキュリティ面には注意を払いつつ利用を開始する必要があります。

冒頭で挙げたように信用性の問題を抱えている技術ですが、この事例のように正しく運用することで技術を活かすことが出来ます。この事例からはセキュリティに関する取り組みは見えませんでしたが、実現に向けて基盤を整えていることは間違いないでしょう。先ほどの事例と同様に、技術を使うかどうかではなく、技術をどうやったら活かせるかを考えていく姿勢こそが大切だと言えます。

 

これからも「生活のデジタル化」は進んでいく

顔認証システムは技術の進歩と倫理的問題が同居する先端技術であります。システム開発や活用においては、信用問題や社会的問題をはじめとした課題が残っているため、社会に浸透するには少し時間がかかると考えられます。しかし、今回のコロナをきっかけに三密防止や非接触型の取り組みが進んでいるため、決済の自動化や入退店管理などの、店舗のデジタル化を推進する顔認証システムの価値が高まっていると言えます。そのため、今後は実証実験などが現在より多く行われるとも考えられるので、近い将来、店舗での導入が見られるようになると予測できます。

また、店舗にとって省人化/機械化ができることはコスト削減や損失機会の減少につながりますので、結果的に収益が増えると言えます。なので、顔認証システムの導入を検討する必要があると言えます。

もし顔認証システムの導入を検討される際には、本記事で掲載した消費者の感じ方/顔認証ツールの種類、事例から導出された複合的なサービスの視点/リスクを乗り越えようとする挑戦的な姿勢、の4つを意識してみてください。

 

【参考】

伊藤悠真

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。