3回目は、「二人の指輪の肖像 / A Portrait of Your Rings」と題して実施したithのお客様の指輪撮影会についてです。
http://rings-staging.ateliermarriage.com/10th_anniversary
この10年の間にithで指輪をおつくりいただいたお客様をithのアトリエにお招きし、ithのメインビジュアルを撮影いただいているフォトグラファーの鳥巣佑有子さんに指輪と一緒に家族の記念写真をとってもらうという企画です。
もともとは「ブランド10周年だし記念のブランドムービーでもつくるかな」というありきたりな思いつきから検討を始めたのですが、少しづつ考えを深めていくなかであえてスチール写真にこだわった企画にしたいと思い至りました。
ひとつには、ithが大切にしてきたお客様との関わりと感謝の気持ちをカタチとして表現したかったこと。
もうひとつは、ithでお仕立てした指輪がお客様の人生においてどんな意味合いをもっているのか。それを知りたかったこと。
それを実現する手段として、「アトリエで家族と指輪の写真会をやろう」というところに辿り着きました。
できる限りたくさんのアトリエで、なるだけ多くのお客様に参加頂きたいと思いつつ、いろいろな制約もあり吉祥寺と梅田の2アトリエ、10組のお客様限定で募集をかけることになりました。
告知前は10組ちゃんと集まるかどうかすら心配していましたが、蓋を開けてみると650組を超えるお客様からの応募がありました。
今回は無償での実施としたことも大きいと思いますが、それでもこれだけ多くのお客様がithのことをちゃんと覚えていて頂けたことを大変ありがたく思うと同時に、お客様たちの中に、夫婦として、家族として、何かの記念や思い出をかたちに残したいというという気持ちがあることを改めて認識しました。
もちろん今回ご応募いただいた方だけでなく、私たちithの10年の歴史はそのままひと組ひと組のお客様とひとつひとつの指輪の積み重ねの歴史でもあります。まずなによりこのお客様たちの存在に感謝を表したいと思います。
撮影会の当日は、お客様と担当したつくり手との再会、指輪と過ごした数年間を振り返りながらお二人、ご家族が写真に収まっていく様子、本当に心温かく感動的なシーンに出会うことができました。
指輪をお納めしてから時間が経ってもこんな親密でやさしい空気感を生み出せたのは、それぞれのお客様とithの関わりが本当に濃密なものであったからに他ならないのだと思います。
アトリエで過ごしたのはたったの数時間かもしれませんが、つくり手たちと一緒に過ごした時間の濃さと、その結晶として職人たちの手により生み出された指輪が本当にお客様の想いを宿すものになっているからこそ、数年の時を経てもその熱量が劣化せず、むしろ増幅されて再現されたのだと感じました。
私たちが最も大切にしてきたアトリエでのオーダーメイド体験が時間を経ても価値を持ち続けていること。私たちの存在価値にもつながるそれを確認できたことは、改めて大きな自信となりました。
当日参加されたお客様の他に、残念ながら参加できなかった方からも、アンケート形式で指輪に対する思いを教えて頂きました。それぞれの方がそれぞれの言葉でその思いを表現してくださいました。
お互いを思い合う気持ち。
過去と今、そして未来。
自分自身のお守り、支え。
表現の仕方や捉え方は多様ですが、どの言葉もリアリティを伴って心に響いてきます。
指輪というカタチあるものだからこそ、時間や空間を超えたカタチのない何かを考えたり、思い出せたりするきっかけになりうる。
10年の間、ithの指輪作りを通じて大切にしてきた「指輪が宿す意味」を、お客様自身の言葉を通じて実感できたこと、可視化できたことも大きな収穫だと思います。
最後に。
それぞれの言葉の意味を無理に集約するものではないと思いつつ、そこに通底しているものをあえて一つの言葉にするのならばそれはやはり「愛」と呼ぶべきものなのではないだろうかと思います。
誰かが誰かを思う気持ち。
その気持ちを託した指輪づくり。
ithがこれまで大切にしてきたこと。そしてここから先に進んでいくなかでも大切にし続けていくべきことをこの企画が教えてくれたように感じています。
アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、イノベーション・プロデューサーとしてB2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。
著書『ふるくてあたらしいものづくりの未来– ポストコロナ時代を切り拓くブランディング ✕ デジタル戦略』クロスメディアパブリッシング