ithのつくり手の中には、ブライダルジュエリー業界未経験者も少なくありません。そこで、今回は異業種からのキャリアチェンジを果たした、個性豊かな三人のつくり手に注目しました。入社後の研修期間で指輪制作の知識やヒアリング力を身につけ、今ではアトリエの要としてたくさんのお客様の想いを受け留める三人が、お客様の一生ものの指輪づくりに携わる想いや楽しさ、難しさを話してくれました。
―皆さんがithに入社したきっかけをお聞かせください。
板橋さん(以下、板橋) 僕は入社前にithで結婚指輪を作ったのですが、担当のつくり手がすごく僕らに寄り添ってくれる方で、とても納得感があったんです。もともと接客業が好きだったこともありますが、そのときに僕が望む接客業はこれだ!と思ったし、この仕事なら年齢を重ねても続けられると思って、その翌年に面接を受けました。
庄形さん(以下、庄形) 私も入社前に吉祥寺のアトリエで結婚指輪を作りました。でも、そのときは自分が働くとは全く思っていなかったのですが、主人から「ここで働いていそうだね」といわれたんです。前職はイベント業だったのですが、コロナでイベントができなくなり、また結婚という人生の節目を迎え、そろそろ自分の生活スタイルを見直そうと転職を考えたとき、たまたまithの求人情報を目にして…。指輪を作ったときのアトリエ体験と主人の言葉を思い出し、ithで働けたら素敵だなと思って応募しました。
前堂さん(以下、前堂) 私はイベントや舞台の仕事をしていました。転職を考え始めたきっかけは、年齢的なこともありますが、一番はコロナの影響ですね。それで、以前から興味のあったジュエリーの世界で、人と一緒にものを作る仕事がしたいと探し始めて、ithの求人情報を見つけました。今は、お客様と一緒に指輪のデザインを考えていくのが一番楽しいです。
―ご自身の指輪づくりのきっかけは何だったのでしょうか?
庄形 私は、せっかく作るなら、他の人が着けていないような結婚指輪が作りたいと思ったんです。そこでithのブログに辿り着きました。そのブログには、自分らしいものを作りたいという思いから、この指輪は生まれたと書かれていて…。その指輪がとても素敵だったんです。それで主人に「ここへ行きます!」と宣言しました(笑)。
板橋 僕の場合は妻の要望でした。当時の僕は、結婚指輪がオーダーメイドできることも知らなかったし、好みもこだわりも全くなかったので、こんな僕が行っても大丈夫なのかなと思っていたんです。でも、担当のつくり手に“好き”だけではなく、“苦手なもの”からもこだわりが見つけられると教えてもらったんです。まさに逆転の発想ですね。それに気づかせてもらったことが大きかったですね。
前堂 私はすでに結婚指輪を持っていましたが、この仕事に就いてからいろいろなデザインに触れて、これまでの指輪のイメージが大きく変わったんです。それで、入社後に婚約指輪を作りました。こんなに好きなものが自由に作れるなら、私も好きなものを作ろうと(笑)。ithでの指輪づくりは、新しい自分を知るきっかけになりました。
板橋 指輪を作ってから時間が経つし、僕はithに入社してから好みも変わってきたと感じているけど、お二人はどう?
庄形 かわいいと思う指輪のデザインは増えたけれど、自分の指輪が一番私らしくて好きですね。
前堂 私は好きなものは変わらないけど、お客様と打ち合わせしていく中で、以前はそれほど興味がなかった素材やデザインも美しいと思うようになりました。“好き”が増えた感じですね。
―初めて担当したお客様のことは覚えていますか?
庄形 私はお客様の表情や指輪などは覚えているのですが、どんな会話をしたのかは覚えてないんです。接客中にどれだけ時間が経過したか、どんな状況なのかを把握する、今のような余裕は一切なかったです。目の前のことに必死だったんでしょうね。
前堂 私は鮮明に覚えてます。指輪の地金の色を選ぶ基準もお二人それぞれだったり、どうして色違いじゃなくてお揃いがいいのかという理由も、ご夫婦それぞれに理由があるんだって。初めてのお客様と対話することで、それが分かって面白いなと思いました。
板橋 僕は、完成した指輪をお渡しするときの、箱を開けた瞬間のお客様の顔が忘れられないですね。この瞬間のために、この仕事をしていると思えるほど、僕のモチベーションはそこにあると気づかせてもらいました。
―お客様から言われて印象に残っている言葉はありますか?
前堂 特に印象に残ってるのは、旦那様から「妻の喜ぶ顔が見られて嬉しい」とメッセージをいただいたことですね。結婚指輪だからこそいただける言葉だと思ったし、私自身も幸せな気分になれて、本当にやってよかったと思いました。
庄形 私は、ithの指輪に込められたひとつひとつの意味が、お客様の思い出と重なったらいいなと思ってお伝えしているのですが、あるお客様から納品後に「指輪の知識や意味、背景などを聞いて、まるで美術館を巡ったようで楽しかった」とメッセージをいただいたんです。そんなふうに表現してくださったことが新鮮でしたし、嬉しかったですね。それからはますます大切に伝えていこうと思いました。
板橋 同性同士のカップルのお客様とお話させていただいた際に、お客様から「こんなに気持ちのいい接客は初めてです」と言っていただけたことがありました。特に意識せずにお話をしていたのですが、お客様が話しやすい雰囲気を作れていたなら、自分の感性も活きたのかなと思い、嬉しかったです。
―前職での経験が活きている、もしくは反省する点などはありますか?
庄形 私はイベントの仕事をしていたころから、同じ環境で同じ仕事をするよりも、その時々でいろいろな人たちとものを作る方が好きでしたし、誰とでも物怖じせずに話せるんです(笑)。それがあって今に至るので、これまでの経験や過ごしてきた時間は活きているなと感じています。
前堂 私は演劇の世界で磨いた物覚えのよさですね。それとお客様と一緒に楽しむための雰囲気づくりは、前職での経験が活きていると思います。今思うと、仕事って全部繋がっていますよね。
板橋 僕の前職は、お客様の洋服などを買い取り、再販する仕事だったのですが、お客様と話すのはお金のことがほとんどで…。だから、最初のころは、その感覚で話してしまうことがありました。でも、結婚指輪は一生ものなので、もっとお客様に寄り添わなければだめだと思ったし、そこは今も意識しています。
…後編へつづく
写真左:庄形さん[マネージャー兼 名古屋栄アトリエ主任]
写真中央:前堂さん[サブマネージャー兼 銀座アトリエ主任]
写真右:板橋さん[サブマネージャー兼 新宿アトリエ主任]
【プロフィール】
板橋さん[サブマネージャー兼新宿アトリエ主任]
ithで自身の結婚指輪を作った際、担当のつくり手の寄り添う姿勢に感銘を受け、2019年につくり手として入社。柏アトリエなどでキャリアを積み、現在は新宿アトリエの主任兼サブマネージャーとして、接客をはじめ、アトリエの運営や後輩の指導などに携わる。
庄形さん[マネージャー兼 名古屋栄アトリエ主任]
ithで結婚指輪を作った3カ月後、2020年につくり手として入社。業界未経験でありながら、持ち前の明るさとバイタリティーで多くのお客様に寄り添う。現在は栄アトリエの主任兼マネージャーとして、運営サポートや後輩の指導なども行う。
前堂さん[サブマネージャー兼銀座アトリエ主任]
舞台を中心に役者として活躍後、以前から興味のあったジュエリーの世界に転身したいと2020年にithに入社。現在は、銀座アトリエの主任として多くのお客様の指輪づくりをサポートする傍ら、吉祥寺の工房に通い、指輪制作の知識や技術を学ぶ。