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企業は、経営上の予算(目標・計画)を設定し、達成に向けて活動します。予算達成のために行われる、予算と実績の管理(予実管理)とはどのようなものなのでしょうか。
予実管理とは、企業の予算と実績を管理することを指す言葉です。企業が経営目標を達成するため、予算と実績を比較して、分析を行うことが必要です。予算を策定しても、その後の状況を確認し、分析しなければ、進捗状況が順調で予算の達成が見込まれるのか、あるいは、状況が厳しく、何らかの追加施策や軌道修正が必要であるのか、判断することができません。分析を行うことで、課題や要因を把握して、対応策を講じることが可能となります。
「予実管理」と似た言葉として、「予算管理」があり、予実管理は予算管理に含まれるプロセスの1つですが、同じ意味の言葉として用いられることもあるようです。
「予算管理」は、年度で策定される企業の予算計画を指し、過去の実績や市場の動向、企業や業界によっては、気温影響なども加味した上で計画を策定し、計画と期末の実績の比較・分析を行います。
企業としての成長と、実現可能性のバランスがとれた予算を設定します。達成が不可能な目標を定めても、目標としての意味をなさず、目標があまりにも低いようであれば、企業として成長することができません。
月次で決算を行い、実績を把握することで、予算と実績の乖離について比較・分析することを可能とします。また、月次で行うことは、予算と実績の乖離を早期に発見し、対策を行うことを可能とします。
月次決算の結果、予算と実績の乖離が見られる場合は、要因の分析を行い、分析内容をもとに目標達成のための施策を検討し、実施します。
予実管理を行う上で重要となるポイントとして、適切な予算を設定することが挙げられます。達成が困難な予算が設定された場合、従業員が目標を達成しようとするモチベーションの維持が難しくなることが想定されます。
一方で、あまりにも容易に達成できる予算が設定された場合においても、従業員のモチベーションが上がらない可能性があり、そもそも予算の意義自体が疑われます。
また、無理な予算が設定されるとともに、予算の達成を強く求められた結果、モチベーションの低下に留まらず、粉飾決算などの不正会計や、自爆営業などの問題を招く場合もあるため、予算設定は適切なレベルで行うべきではないでしょうか。
予実管理においては、定期的なチェックを、月次などの比較的短期の頻度で行うことが重要です。予算と実績の乖離の発見が遅くなった場合、対策が手遅れになり、予算の達成が困難となる可能性があるため、定期的に実績のチェックを行い、予算と実績の乖離の要因分析や対策を行うことが重要です。
PDCAサイクルとは、「Plan(計画)」、「Do(実行)」、「Check(評価)」、「Action(改善)」の頭文字によるもので、1950年代に提唱された、仮説構築・検証のフレームワークです。このフレームワークは、W・エドワーズ・デミング博士が提唱したもので、生産や業務のプロセスにおいて、改善や改良が必要な箇所を特定し、PDCAのループを継続的に行うことで、品質や業務を改善し、目標達成につなげるものです。
定めた予算に向けて業務をすすめ、予実の比較・分析、乖離の要因や課題に対する施策を検討・実行し、予算の達成を目指します。また、「Check(評価)」、「Action(改善)」は、次年度の予算の精度を高めることにもつながります。このように、PDCAサイクルを繰り返すことで、より高精度の予算設定や目標達成のための対策につなげることができます。
KPI(Key Performance Indicator)とは、重要業績評価指標で、会社における目標達成のための重要な業績評価の指標を意味し、KPIの設定により、目標を達成するために必要な成果や行うべき行動を明確にすることができます。
また、似た言葉として、KGI(Key Goal Indicator)があります。こちらは、企業としての最終的なゴールであり、売上高や利益率などが設定されることが一般的です。一方で、KPIは、KGIを達成するための中間指標としての性質を持ちます。
KPIを設定せずにKGIだけを設定しても、KGIを達成するための正しい道筋が辿れているのか把握することができません。KPIという中間指標を設定することで、KGI達成のための過程の進捗状況をより良く把握できるようになります。
効果的に予実管理を行うためには、KPIを設定しておくことが重要です。例えば、営業部門におけるKPIとしては、売上目標を達成するための数値やアクションが該当し、成約が見込める顧客に対する訪問件数や各顧客の単価などが挙げられます。また、製造部門であれば、生産量や品質に関する指標などがKPIとして挙げられます。
KGIを頂点に、KGIを分解して定義したKPIをツリー上に示す「KPIツリー」と呼ばれるものがあります。このKPIツリーを作成することは、問題を整理し、ボトルネックの発見や施策の立案や効果検証を行うことに役立ちます。
https://www.arts-crafts.co.jp/post-8167/
KPIの詳細やその設定については、【基礎から学ぶ】デジタルマーケティングにおけるKPIの設計方法、【実践事例】KPI活用で生産効率向上をご覧ください。
予実管理においては、PDCAサイクルを回すことや、KPIを設定することが重要ですが、これらが適切に行われない場合、問題が生じる可能性があります。
予実管理のPDCAのサイクルが適切に行われない場合、現場のモチベーションが低下する場合があります。
月次決算を行い、予実分析を行うためには、各現場における実績の情報を収集し、比較・分析や評価を行うことになりますが、比較・分析や評価した内容について、各部門に対するフィードバックが適切に行われない場合、予算達成のためのActionに繋がらず、各現場部門の目線では、予実分析の意義がわからないという状況になります。予実管理を行う部門から定期的に情報や実績の提供を求められ、本来の業務以外の負担や工数が増大する一方で、Actionにつながるフィードバックがなければ、予実分析の必要性や意義を頭では理解していても、現場部門の目線では、意義に欠ける業務に時間をとられ、モチベーションが低下します。
適切なフィードバックがされない原因の例として、どの部門が予実管理を行い、どのように現場部門にフィードバックを行うのかという役割や責任が曖昧であるということが挙げられます。
このような状況を避けるためには、役割や責任を明確にし、PDCAのサイクルを適切に行い、現場部門に対してActionにつながる適切なフィードバックを行う必要があります。
予実管理を行うために、現場部門に対して過剰な情報や資料の提供を求めることにより、現場部門において、本業ではない予実管理業務の工数が増大し、生産性の低下を招く場合があります。
会社組織が巨大で複雑な場合や、予実管理を行う部門の責任や役割の所在が明確でない場合などにおいて、複数の部署から当該部署に対して同様の情報・資料の提供依頼がなされ、さらに、提供した資料や情報に対する説明等が求められる例があります。当然のことながら、このような状況では、現場部門における本業以外の業務負担の増大を招く可能性があり、生産性の低下に繋がります。
また、役員やコーポレート部門が「なんとなく」で行う情報収集も現場部門の負担となります。業務を行う中で、一応把握しておきたい情報や、必要性はないものの知っておきたい情報(例:以前いた部署に関する業務の状況)などについて、役員やコーポレート部門が現場部門に対して状況や資料の提供を求める場合があります。現場部門では、特に役員からの依頼に対しては、忖度のような形で、やや過剰ともいえる情報の提供を行う場合があります。このような例においても、本業以外の業務負担の増大や、生産性の低下が生じる可能性があります。
現場部門における予実管理での必要以上の工数を抑制するためには、予実管理を行う部門から各現場部門への情報提供依頼の合理化を図ることが一つの方法として考えられます。複数の部門で予実分析や現場部門に対する情報提供依頼を行う必要がある場合においても、依頼元の部門同士で事前に連携して共同で依頼を行い、依頼元の部門同士で提供された情報を共有することなどで、各現場部門における予実管理の負担を軽減することが可能です。
また、現場部門における予実管理に関する業務負担を適切なものとするのであれば、「なんとなく」の情報や資料の提供を求めることは控え、必要な情報を適切に求める姿勢が、役員やコーポレート部門において求められるかもしれません。
PDCAにもとづく予実管理を適切に実行した場合においても、予実管理自体の実効性が欠けている場合があります。
例えば、事業年度が始まった直後の月の予実分析は、あまり意味がない場合があります。事業年度が4月から翌年3月である場合、4月や5月の実績について、社内外の情報を収集し、予実分析を行い、乖離があったとしても、年度単位でみた場合、軌道修正すべき予実差であるか判断できない場合があります。
また、事業年度が4月から翌年3月である場合、2月や3月の予実分析を行い、Actionを行っても、年度内のその後の実績に、ほとんど、または、全く影響を与えられない場合があります。または、予実分析が完了した時点で、事業年度が終了しているのであれば、予実分析を行ってもActionに繋がりません。
あるいは、組織体制が必要以上に重層化している場合、予実管理を行い、分析内容や軌道修正の方針が決定しても、実際に業務を行う現場部門にフィードバックがされる頃には、軌道修正を行うタイミング逸してしまっているという可能性もあります。
このほか、事業の実績が気温や為替などの影響を強く受ける場合において、気温や為替の想定と実際の乖離の予測・分析は困難であり、分析したとしても、その後のActionに繋がらない場合があります。
会社経営において、予実管理は重要ですが、予実管理自体が目的になるべきではありません。効果に対して負担が大きいようであれば、予実管理を簡素化し、より実効性のある予実管理を行うことも検討すべきです。
事業年度開始直後の月次の予実分析や時期的に意味をなさない事業年度終了直前の予実分析を簡素化することで、より効率的な業務の遂行を行うことができるほか、組織体制が予実管理のPDCAを阻害する可能性がある場合、組織体制を見直すことで、より実効性のある予実管理を実施できると考えられます。
また、事業に与える影響は大きくとも、コントロールすることができない要素についても、分析を簡素化し、自社でコントロールすることが可能な他の要素の予測や分析に重点を置くべきと考えることもできるのではないでしょうか。
KPIの設定により、目標を達成するために必要な成果や行うべき行動を明確にすることができますが、設定が適切でない場合、KPIが目標達成に繋がらないことが懸念されます。
例えば、営業部門において、製造や調達に関する部門との連携を十分に行わず、原材料価格や為替相場を踏まえると営業を抑制すべき状況においても営業活動を推し進めた結果、KPIとして設定した「契約件数」は目標を達成したものの、会社全体としては、むしろ確保できる利益が減少するということがあります。
また、避けるべきKPIの設定例として、以下が考えられます。
各現場部門単位では重要といえるKPIであっても、そのKPIの達成が、結果として、KGIや会社全体のレベルでの売上や利益の向上、経営や業務の効率化などに繋がらないのであれば、設定するKPIやその達成へのアプローチについて再考すべきです。
企業が経営目標を達成するために、予算と実績を適切に管理し、次なる経営の一手に繋げる予実管理は不可欠と言えます。当然ながら、その予実管理の在り方についても、会社にとってより意味があることが求められ、業務において過剰な負担とならないことが求められます。本記事の内容が、予実管理の在り方を検討する際の一助となれば幸いです。
【参考】
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト