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リラクゼーション業界における業務効率化の事例

 

業務効率化の意義

近年、働き方改革やコロナ禍以降の働き方の変化によって、ITツールの導入などを通じた業務効率化に取り組む企業が増えています。

業務効率化とは、業務における「無理」「無駄」「ムラ」を排除してプロセスを改善し、より効率的に業務を遂行できるようにするための取り組みを指します。業務プロセスを改善することで、時間や労力を捻出することができ、企業の利益増大や生産性向上に繋がります。

本記事では、リラクゼーション業界での業務効率化を志向したプロジェクト事例と、プロジェクトから見える業務効率化の必要性について紹介させていただきます。

 

リラクゼーション業界俯瞰

【リラクゼーションの定義】

一般社団法人 日本リラクゼーション業協会「リラクゼーション業界におけるヘルスケアサービス品質向上に向けた自主ガイドライン」によると、リラクゼーションとは、手技・空間演出・コミュニケーションを用いて、心身の緊張を弛緩させることでストレスを解消し、心と身体を心地よい状態にすることを目的とする行為を指します。

医師の医学的判断および技術を以て行われる「医行為」や、医行為ではないが一定の資格を有する者によって行われる「医業類似行為」は含まないと定義しています。

皆さんにとって聞きなじみがあると思われる「マッサージ」は、治療を目的とする行為であり、医療行為に含まれるためリラクゼーションとは異なるのです。

リラクゼーション業界の企業/店舗のメニューでは、「ボディケア」「もみほぐし」「リフレクソロジー」といった言葉が使われています。

 

【リラクゼーション業界の市場規模】

2024年2月にホットペッパービューティーアカデミー(運営:株式会社リクルート)が実施した、過去1年間におけるリラクゼーションサロンの利用に関する実態調査による2024年の市場規模は3,674億円。

 

 

コロナ禍となった2020年以降、一時は市場規模が縮小しましたが、人々の健康や美容への関心が高まった影響により、2022年以降は再び拡大傾向にあります。

業界内の競争は年々激化しており、メニューの充実化だけでなく、特定の施術に特化したサービス(足つぼ専門店、ドライヘッドスパ専門店など)を展開するプレイヤーも登場。

今後も、多様なアプローチによって新たなビジネスモデルが登場することが予想されるため、顧客のニーズや市場の動向を把握すること、また新しい技術、サービスの導入によって他社との差別化を図る動きが見られるでしょう。

 

【育成、品質における課題】

ボディケアやもみほぐし等の施術を提供する人をセラピストと言います。

施術/手技に関する正しい知識と技術があれば、資格がなくても働くことができるため、未経験からスタートして活躍しているセラピストは多く存在し、一部の企業やサロンでは、未経験者やブランクのある経験者向けに研修制度を設け、セラピストの育成に注力しています。

ことリラクゼーション業界において、顧客満足度の維持/向上や企業の利益増加に直結するのが、セラピストの品質ないしは技術力であると言えます。

講師やトレーナーの指導力に差があり育成されるセラピストの技術力にも差が生じる可能性、また新たな手技や情報を共有する際に在籍するセラピストの理解に差が生じる可能性があるなど、セラピストの品質の均一化やさらなる事業成長は、どの企業においても共通課題として認識され、主眼を置かれているのではないでしょうか。

どの店舗でもセラピストの品質が一定基準を満たしており、顧客に満足感を与えられる施術を提供することが望ましいため、育成や情報共有の際は、技術や知識および施術時のルールの「理解」と「定着」が求められます。

この観点において、施術時のルールの変更に際して「理解」と「定着」を実現するための仕組み構築およびシステムの自動化の事例をご紹介しましょう。

 

事例概要

本プロジェクトは、セラピストの技術力向上と均一化に向けた施策のひとつである理解度テストの合否結果メール自動送付による業務効率化を目的としていました。

当初、施術時のルールの変更にともない、ルールに関する理解度テストを実施し、「理解」と「定着」を図るため、合格基準の点数に満たないセラピストには合格するまで繰り返しテストを受検してもらう仕組みを検討しました。

技術を磨くための当然のプロセスですが、一方で業容拡大中の企業にとって、数千人のセラピストに対し、テストの合否判定と結果に応じたメール送付を行うことは業務負荷が高くなりがち。加えて一部手作業のオペレーションが発生しているなどもあわせ、それに拍車を掛けていました。

また、手作業の場合にはミスの発生も懸念されるため、理解度テストの目的であるセラピストの「理解」と「定着」が実現する土台として、運用の安定化・効率化を第一義としてアプローチすることを志向するに至ったのです。

こうした背景を踏まえ、当該企業が以前から使用していたGoogleスプレッドシートで採点データを集約できるよう、Googleフォームを用いてテストを実施することにし、Googleの各種サービスの自動化/連携を行うためのローコード開発ツール「GAS(Google Apps Script)」にてコードを設計することで、メール自動送付を可能にする仕組みを構築し、実行することとなりました。

 

実施したアプローチ

本プロジェクトの目的は業務効率化ですが、滞りなくメールが送付され、セラピストが合否に応じた次のアクションを実施することで、理解度テストの目的も達成されるため、双方の目的達成を実現するべく、用いる各ツールの特性や、機能を組み合わせた場合の動作確認、調査を精緻に進めました。

 

1.メール自動送付システムの大枠設計

「理解度テストを実施し、合否結果をメールで伝え、不合格の場合は再度テストを受検してもらう」という一連の流れを分解すると、以下のように考えることができます。

 

  • メールアドレスの取得
  • 理解度テストの実施
  • 理解度テストの採点
  • 受検者の情報(メールアドレス、テストの点数等)の集約
  • 採点結果を踏まえた合否の判定
  • 合格者には合格通知、不合格者には再受検通知をメールにて送付

 

不合格者の再受検時にも同様の流れを繰り返し、合格するまで再受検を繰り返すように促すメールを送付する仕組みにしました。構想しているシステムのフローを分解することで、それぞれの動作にどのツールを用いるべきかが明確になり、思い描いている自動化が可能なのかを調査できます。

 

 

2.スプレッドシートの仕様とGASのコード簡素化

各フローに対応するツールを選定した後、実際にシステムの構築を進めます。

メール自動送付の実行時に取得するファイル内のシートや列/行の指定、また条件分岐でどのように動作してほしいかをコードで記載していきます。

再受検用に複数の理解度テストのGoogleフォームを作成したため、ひとつのGoogleスプレッドシート内に情報を集約できるように連携させて、Googleフォームで回答されると即時、自動でメールが送付されるシステムが採用されました。

 

 

3.単純かつエラー回避を可能にするシステムの構築

設計したコードによって各フローが正しく動作し、思い描いた通りにメール送付が実現されることも重要ですが、最も重要なのは、誰が作業しても円滑に効率よく運用できることです。

今回構築したシステムを別のプロジェクトで使用する可能性や、メール送付する担当者が変更になる可能性は大いに考えられるため、システムが簡素化され且つ作業手順の明記がされており、誰でも作業を実行できる状況になることを重視します。

理解度テスト実施後、テスト未受検者や再テスト未受検者に対するリマインドメールの送付対応が必要となりました。

この場合、テスト実施時のように即時自動的にメール送付を行うことはできず、リマインドメール対象者をリスト化した上で、一部手動での作業が必要となります。

事前に考え得る問題として、GASのメール自動送付にかかる制限とメールの誤送信が挙げられました。

GASは1日で自動送付できるメール数の上限が決まっており、制限を回避する方法もありますが、自動送付実行中に意図せずエラーが発生した場合、誰にメールを送付できたのか把握できない状況になっては非常に問題です。

このような問題を踏まえ、メール未送付や重複の送付を回避するため、送付/未送付のステータスを管理して、エラーや制限がかかった場合には未送付の対象者にのみメールを送付できる仕組みにしました。

また、スプレッドシート上に送付ボタンを設け、ボタンを押すだけで自動送付が実行される仕組みにしたことで、誰が作業を行っても円滑に効率よく運用することができる状況を可能にしました。

起こり得る問題を事前に列挙し、エラーを回避するための解決策の検討およびシステムへの反映を行っていたことで、業務効率化の実現確度を高められたようです。

 

業務効率化の必要性

働き方改革は、労働者一人ひとりの個々の事情や希望に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で選択できるようにすることを目指すもの。こうした取り組みの背景として、少子高齢化にともなう生産年齢人口(15歳~64歳)の減少と、働く人のニーズの多様化が挙げられます。

 

1.少子高齢化にともなう生産年齢人口の減少

生産年齢人口とは、労働の中核的な担い手として経済および生産活動を支える人口層のことで、15歳以上65歳未満の人口が該当します。

日本の生産年齢人口は、1995年をピークに減少の一途をたどっている状況です。

ピークの1995年では、総人口(1億2,543万人)の69.5%を占める8,716万人だったのに対し、2015年には7,629万人まで減少し、生産年齢人口が占める割合も60.7%まで低下。

今後も少子高齢化は急速に進むと考えられ、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計(出生中位・死亡中位推計)によると、日本の生産年齢人口は2030年には6,773万人、2060年には4,418万人にまで減少すると見込まれています。

 

 

労働力の不足、生産能力の減少は深刻であり、日本経済の成長の停滞につながるとともに、更なる労働環境の悪化を招く可能性があるのです。

 

2.働く人のニーズの多様化

少子高齢化、グローバル化、女性の社会進出、経済の動向など、あらゆる社会の変化に影響され、人々のライフスタイルや価値観は目まぐるしく変化します。

それにともない、長時間労働に対する肯定的な考え方や、仕事第一という価値観が少しずつ淘汰され、ワークライフバランスを重視した働き方を推進する動きが加速しました。

また、新型コロナウイルス感染症の拡大は、テレワーク実施率の大幅な上昇や時差出勤の対応など、働き方や労働者の意識に大きな影響を与えたと言えます。

 

「仕事」と、育児や介護、学習、趣味、休養といった「仕事以外の生活」の双方の調和の実現を希求し、性別や年齢等に関わらず誰もが意欲と能力を発揮して生産活動を行うことは、日本経済の成長力や活力を高め、持続可能な社会の実現にも資することになります。

企業にとっては、限られた労働力でどのように業務を遂行し、事業成長していくかが重要な課題です。

 

しかし、今なお多くの企業で「実情に即さない無理のある目標や成果が設定され、毎日残業しないと仕事が終わらない」「IT化/自動化が進んでおらず、データ入力作業等に膨大な時間を要する」「担当者によって業務工数やクオリティ、成果にバラつきが生じる」といった、業務上の「無理」「無駄」「ムラ」が発生しています。 

労働時間や職場環境の改善によって、多くの人が意欲や能力に応じて活躍できる場を作り、働き方を自律的に決定して仕事を進められるように支援することが、喫緊の課題と言えるのではないでしょうか。

 

業務効率化を推進するためには

本記事では、リラクゼーション業界での業務効率化を支援したプロジェクト事例を紹介させていただきました。

今や、生産活動や事業運営でITを活用していない企業はないと言っても過言ではありません。

前述した業務効率化の必要性を意識し、どの業界においても長期的な事業成長や人材確保に向けたアプローチを推進することが求められると考えております。

本記事が、業務効率化の実施方法についてご興味をお持ちの企業やその担当部署・担当者の方にとって、有意義な情報提供となれば幸いです。

 

【参考】

 

加藤 千聖

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト