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2024.08.05

[ith10周年インタビュー#2]10年の歩みを受け継いだ職人とつくり手が感じたものづくりへの思い -後編-

 

前編は、職人の神山さんとつくり手の岩木川さんに、それぞれの仕事の内容や指輪に込める想いなどをお聞きし、代表・高橋さんに職人とつくり手が目指すべき方向性などについてお話していただきました。後編は、はじまりの場所・吉祥寺で働くからこそ感じる、ithらしさを中心にお聞きしていきます。

 

吉祥寺はたくさんの想いが詰まった大切な場所

 

ー吉祥寺のアトリエはithのはじまりの場所です。特に高橋さんにとって特別な場所だと思いますが、皆さんにとって吉祥寺のアトリエはどのような場所ですか? 

 

高橋 吉祥寺は、私が独立して初めてお客様と会った場所なので、特別な想いがあります。でも、その一方で、はじめは本当に一人だったので、忙しすぎてつらかった記憶が残る場所でもあるんです。いい思い出とつらかった思い出の両方がありますね。

 

神山 僕は、工房とアトリエの両方がある吉祥寺は、お客様が工房を見学されたり、制作を体験される機会もあるので、とても貴重な環境だと思います。職人としては、お客様が見学にいらっしゃるときは少し緊張します(笑)。

 

岩木川 私たちつくり手にとっては、身近に職人がいるのでとても心強いです。デザインや仕様に迷ったら、実物を見ながら相談しています。あとは、ithのはじまりの場所だからと、わざわざ遠方からお越しくださるお客様もいらっしゃるので、その分、期待値はとても高いと感じています。その期待に応えるためにも、ithの世界観をしっかり伝えなくてはというプレッシャーもあります。

 

高橋 私の中でひとつの基準があるのですが、吉祥寺のアトリエは「はじまりの場所を守ってくれる人」に任せたいんです。それくらい私にとって大切な場所なので。だから、つくり手は情緒的過ぎず、お客様に寄り添いながら、指輪制作の知識を持って会話ができる人がよくて。岩木川さんは人柄も含めて、一番ここに馴染む人だと思っています。

 

岩木川 ありがとうございます。お客様には、見た目のデザインだけではなく、職人である高橋さんの視点からの着け心地への配慮や遊び心、そして、職人がひとつひとつ大切に作っていることをお伝えしています。

 

 

ひとつひとつを丁寧に、そして自らも楽しむ気持ちを忘れずに

 

ithのコンセプトは「たくさんよりも、ひとつをたいせつに」ですが、それぞれの業務の中で、「たくさんよりも、ひとつをたいせつに」を守るために心がけていることはありますか?

 

神山 ジュエリー業界の職人は、一般的に指輪1点当たりの制作時間や納期などに追われるのですが、ithは効率よりも完成度が求められます。だから、彫りからテクスチャーに至るまで、“ひとつひとつを丁寧に”と心がけています。

 

岩木川 私が心がけていることは“自分も楽しむ”ことです。他ではなかなか体験できないithの指輪づくりのプロセスをお客様と共有し、私自身も一緒に楽しみたいと思っています。

 

高橋 「たくさんよりも、ひとつをたいせつに」というコンセプトは、ithのお客様に向けた“私たちの約束”と捉えているんです。そして、目の前のお客様が一人一人違うように、たとえ見た目は同じデザインの指輪であったとしても、そのデザインを選ばれた理由やこだわりはひとつひとつ違います。だから、つくり手も職人も、その指輪は“一組のお客様のために作っている”という気持ちを忘れないようにという、私たちの共通言語でもあるんです。

 

 

 

 

2024年、ithが10周年を迎えましたが、それぞれの立場から感じることはありますか?

 

神山 職人としては、ブランドの規模が大きくなればなるほど、僕たちの技術や知識をしっかり備えていかなくてはいけないので、この勢いに負けないように気合を入れ直さなければと思っています。

 

岩木川 これは入社して驚いたことなのですが、ith社内の情報システムは日々進化しているんです。それはブランドの価値を高めるために必要なことで、柔軟に成長しているんだなと感じています。

 

神山 そうですね、ithは組織としても、ものづくりとしても柔軟な印象がありますね。

 

高橋 今できることをただ繰り返すだけでは成長しないですから。ブランドとして進化するためにも、私たちは新しいことにも挑戦していかなくてはいけないんです。

 

“ithらしさ”を受け継ぎ、成長していくために

 

ー高橋さんはもちろんですが、神山さんも岩木川さんも今は後輩たちを指導する立場でもあります。そこで心がけていることはありますか?

 

神山 ithはテクスチャーのバリエーションも豊富ですし、風合いもとても独特です。僕は職人として、高橋さんが考えた“ithらしいものづくりからブレないこと”を伝えていますね。

 

岩木川 つくり手の場合、接客デビューしたばかりのつくり手だとどうしても成約数を気にしがちですが、私はそれよりもお客様に寄り添いながら、一組一組のストーリーや背景、要望を汲み取り、ともに指輪を作っていくことが重要なんだと伝えています。それは、指輪の仕様をただ説明するだけではいいものは生まれないと思っているからです。前職でも後輩に指導することはありましたが、ここまでみんなと一緒に細かく考えることはなかったので、私自身も多くのことを学んでいます。

 

 

 

 

ー最後に、今後、皆さんがithで叶えたい夢はありますか?

 

神山 今、工房には若くて腕のいい職人が集まっていますが、まだそれぞれ習得中の加工もあるので、その技術をしっかり指導し、“最強の職人集団”を作りたいです。

 

高橋 工房の技術力が高ければ、つくり手も安心できるし、ithで働くみんなの自信にもなります。今後、職人の人数が増えても、工房全体でそれらを価値として継承し続けていってほしいですね。

 

岩木川 私は、このはじまりのアトリエを守っていくのはもちろんですが、もうひとつ、つくり手としての夢があって。それは、私が結婚指輪婚約指輪を担当したお客様のアニバーサリーリングづくりをお手伝いすることです。またithで指輪を作りたいです」話してくださったお客様と、またここで再会できる日を楽しみにしています。


高橋 吉祥寺のアトリエは、はじまりのアトリエだからこそ、お付き合いの長いお客様が多いんです。だから、そういうお客様がいつでも戻って来られる場所として、どんな要望にも応えられる環境を発展させていきたいと思っています。

 

写真左:神山さん[工房主任]
写真中央:高橋さん[ithブランド代表]
写真右:岩木川さん[吉祥寺アトリエ主任]

 

【プロフィール】

高橋さん[ithブランド代表]

2014年にith吉祥寺アトリエを構え、接客と指輪づくりの両方に携わる。現在も週末は自らアトリエで接客を行い、難易度の高いオーダーに対応するなど、ithを最前線で牽引する。指輪は「着ける人こそが主人公」ということを大切に考えており、お客様のために何ができるかを常に考え続ける姿勢はオープン当初から変わらない。

 

岩木川さん[吉祥寺アトリエ主任]

2020年にジュエリー業界未経験でありながらつくり手として入社。熱心に知識を習得し、異業種からの転職とは思えないほど、多くのお客様の期待に応える。2022年に吉祥寺アトリエの主任となり、現在はお客様の対応だけではなく、後輩スタッフの育成にも取り組む。

 

神山さん[工房主任]

2021年に職人として入社。前職でもブライダルジュエリー会社に職人として勤務し、主に石留めの工程を担当していたが、ひとつの工程ではなく、指輪制作においてさまざまな工程に携わりたいとithに転職。現在は、工房の主任として、中堅スタッフの技術指導も行う。