近年コロナにより、経営者は企業活動の縮小やサプライチェーンの見直しを求められました。モノ消費からコト消費、そしてトキ消費といった消費スタイルの変化への対応、デジタルテクノロジー技術の急激な進歩への対応、環境に配慮した「ESG経営」や「サステナビリティ」への対応など、環境の目まぐるしい変化において、経営者は健全な経営活動を行うために柔軟な対応を求められています。実際、予測困難で不確実な状態という意味から、「VUCA時代(Volatility,Uncertainty,Complexity,Ambiguityの頭文字)」とも呼ばれています。
このような時代に対応するため、既存領域での経営活動のみではなく、新領域での活動に挑戦するために、新規事業の推進を検討する企業が増えているのです。
上記は日本能率協会が2023年に実施した調査結果を基に、日本企業が「現在」および「3年後」の経営活動において経営課題と認識している項目を整理したものです。この調査結果によると、18.9%の経営者は「現在」、「新製品・新サービス・新規事業の開発」を取り組むべき課題として重要視しています。また「3年後」では、「現在」の回答割合より+5.0pt増加(23.9%)しており、他の経営課題と比較しても上位3番目の増加幅を見せています。この結果から、世界情勢や技術革新が激しい現在や未来を見据え、既存市場や既存製品の開発・販売だけに留まらず、新規市場での製品開発を行うことが求められているのではないかと推察されます。
新規事業への参入が注目されている中で、弊社においても多くのクライアント様に対して、新規事業に関するご支援をさせていただいておりますが、そもそも何をもって「新規事業」と言えるのでしょうか。
上記は、経営戦略のフレームワークの1つである「アマゾフの成長マトリクス」と呼ばれるもので、企業が成長するための方向性を検討・抽出するために使われるものですが、このフレームワークを基にすると、新規事業として取り扱われる部分は「①新市場開拓」「②新商品開発」「③多角化」に該当します。それぞれの詳細について、近年の企業の参入事例と合わせて紹介いたします。
自社が進出していない、もしくは開拓されていない新たな市場に、既存製品・サービスを展開していく戦略となります。既存製品・サービスを使用するため、商品開発にかかるコストを抑えつつ、事業を展開していくことが可能です。ただし、事業拡大が見込める適切な市場の特定のためには、専門的な調査および分析が必要となります。
事例: ゴディバ(23年8月~)
チョコレートメーカーであるゴディバは23年8月、ゴディバ初のベーカリーを東京・有楽町にオープン、販売している全てのパンは、チョコレートかカカオ由来の素材を使用している。
ゴディバはもともとギフト需要が主のビジネスということもあり、現在も「高級チョコレートのプレゼント」が必要とされるバレンタインやホワイトデーといったシチュエーションでの購入ニーズが高く、日常使いとするには心理的ハードルが高いと感じる人が多い傾向にある。
そこで、「日常の中でゴディバのチョコレートを楽しんでもらうにはどうしたらいいか」を思案した結果として、「日常的な食べ物=パン」に着目した結果、ベーカリーを構想し、1個200円台からパンを販売。結果として、現在では連日多くの人で賑わっており、新たな顧客層の獲得に成功。また、24年度中には東京以外で1,2店、今後5年前後では全国に20店舗の拡大を目指している。
既存市場へ新たな製品・サービスを投入し、事業拡大を図る戦略であり、商品開発に対して、研究施設や従業員など、新たに投資を進めていくことが必要となります。
事例: キリンホールディングス(24年5月~)
キリングループでは、「食から医にわたる領域で価値を創造する」ことを目的として、19年から「ヘルスサイエンス」領域へ本格的に事業参入。「食・医」に次ぐ第3の経営の柱に育てあげ、30年以降には売上の2割程度まで拡大させる考えを南方社長(24年3月就任)が示している。そのヘルスサイエンス領域の新規事業として、24年5月に、電気の力で減塩食品の塩味やうま味を増強する食器型デバイス「エレキソルトスプーン(減塩スプーン)」を販売。スプーンが口に触れているときに微弱な電流が流れ、塩味、うまみを増強させ、少量の塩でも十分な塩味を感じさせる。
19年度に新規事業としてアイデア提案し、20年から実験機の試作を重ねて完成した新商品であり、大きな反響を呼んでいる。24年7月までに公式サイトにて2回の抽選販売(200台)を実施しているが、申込数が多く、買えない人が圧倒的であったとのこと。
多角化は新しい市場向けに新規製品・サービスを展開していく戦略であり、従来馴染みのない市場・分野への進出となるため、4つの戦略の中で最も難しいと言われています。
事例: りそなホールディングス(22年7月~)
りそなグループでは、地域の活性化など持続的な社会の構築に資する事業を主事業として、22年7月に子会社「Loco Door(ロコドア)」を設立。地域の抱える課題や困りごとを一体となって解決し、教育に優れ、環境が豊かで、仕事も溢れる街の形成に貢献することを目的として、りそなグループの持つ地域との緊密なリレーション(産・官・学との連携)を通じて、魅力ある地域の価値を高めている。
主に、「農業」と「教育」を結びつけたモデルを展開。未来を担う子どもたちに「食べものをつくる」を体験する教育アプリの提供と、「食べる喜び」を体験するリアルな遠足の場を提供することで、農業における「担い手不足や休耕地問題」、教育における「保育業界の競争力強化やデジタル化対応」などの解決を目指している。
なお、近年、銀行については業界ごと「③多角化」に進出している傾向にあります。何かと法規制が多く様々な制限の多い銀行ですが、21年5月の銀行法改正にて「業務範囲規制」の見直しがされ、内容の大幅な緩和により業務領域の拡大が可能となりました。
従来の銀行業務では、経営の健全性を維持するために「固有業務(預金または定期積金などの受け入れ、資金の貸付けまたは手形の割引、為替取引)」「付随業務」「他業証券業務」「法定業務」に限定されていました。しかし、近年のデジタル化や地方創生などの持続可能な社会の構築を実現するため、限定されていた銀行(および子会社・兄弟会社)への業務範囲規制の緩和が発表されたことを受け、銀行は銀行業務に留まらない事業展開が可能と容易となりました。
また、銀行業界においては異業種からのネット銀行への参入が相次いでおり、顧客獲得に向けては、同業者間の競争だけでなく、異業種との競争も激化しています。そのような背景もあり、各銀行は新たな収益の柱の探索・新たな顧客基盤の確保を強いられており、今後も事業多角化が加速していくと考えられます。
新規事業への注目度が高まる一方で、新規事業を成功させることは簡単ではありません。
企業の新規事業開発担当者に対する調査では、「新規事業開発の成功を実感できている」と回答した企業は全体の31.4%であり、「新規事業から将来の主力事業になりそうな事業が生まれている」と回答した企業は、そのうちの35.3%程度。すなわち、新規事業開発を成功させ、その事業を主力事業にまで成長させることができた企業の割合は、全体の約1割にとどまっています。
新規事業の取り組みに向けては、どのようなペインやニーズが存在するのでしょうか。
新規事業推進は、大きく3段階のフェーズに分けることができます。
【調査・分析】
まず、新規事業のテーマを決定するために調査・分析を行います。市場動向や競合プレイヤの動向の調査、顧客のニーズ・課題の洗い出しを実施し、その結果と自社アセットとの親和性や既存事業とのシナジーを考慮し、有望なセグメントを分析します。
【新規事業立案】
次に、新規事業立案のフェーズに移ります。ビジネスコンセプトの策定、戦略骨子の作成、サービス設計、収益計画の作成といった事業計画を策定したのち、ロードマップ、実行プラン、アライアンス計画の作成といった実行計画の策定を行います。
【実行】
計画を策定したら、いよいよ実行のフェーズに移ります。新規事業の実行にあたっては、WBSの管理・見直し、マイルストーンやKPI・KGIの確認・見直しを行いながら事業を進めていくことが必要です。
新規事業推進の各フェーズにおいて、企業は様々なペインを抱えています。
約4割の企業が、「新規事業開発を担う人材の確保が困難」であること、「新規事業開発に関する知識・ノウハウが不足」していることに課題を感じています。
次いで、「意思決定スピードが遅い」、「評価制度が新規事業開発に適していない」、「新規事業開発の業務プロセスが構築されていない」といった、組織の体制に関する部分に課題を感じている企業も約3割存在します。
さらに、「社内の連携がうまくいっていない」、「社内の知見や情報の整理・把握が困難である」といった社内連携における課題や、社外のネットワーク不足など、新規事業推進に向けては多様なペインが存在していることが分かります。
新規事業推進のフェーズの中でも、「調査に基づいた戦略策定」や、「先進事例などの市場調査」に課題を感じている企業が多く存在します。市場調査においては、「ノウハウを持った人材が不足」していること、「コストの負担が大きい」こと、「情報収集源をうまく活用できない」ことなどが課題として挙げられています。
また、「アイデアの発想」に課題を感じている企業の割合は86.0%にのぼり、具体的には、「アイデアが属人的」、「社内のアイデアだけでは偏りがある」、「アイデアの発想に時間がかかる」、「アイデアのエビデンスが欲しい」といった課題感が存在します。
以上のように、市場調査に基づくアイデアの発想に課題を感じている企業が多く存在します。
では、なぜこれらのフェーズにおいて課題が発生するのでしょうか。よくある失敗のパターンとしては、保有データありきで無理やりビジネスを発想する「シーズ思考」が挙げられます。シーズ思考では、データ活用自体が目的化されてしまい、保有データに関連する新規事業を優先して検討を行うことで、拙速な事業拡大を模索してしまうことになります。
新規事業開発では、目指すべき姿を定め、そのためにどのデータをどのように活用するかを検討する「ニーズ思考」が求められます。目指すべき姿の実現に必要なデータ活用の形を模索し、目指すべき姿とのギャップを埋める手段としてデータを活用することによって、既存事業との連続性を考慮した最適な事業拡大プランを策定することが可能となります。
前述でまとめたペイン/ニーズを踏まえると、各社は新規事業開発の推進のために、関連する知識・ナレッジの所持(調査/分析、ビジネスアイディアの発想、新規事業の立案)、新規事業開発を推進する業務プロセスの構築、各種意志決定スピードの迅速化、さらに、新規事業開発を反映できる評価制度の構築、人材獲得などを自走している状態(インハウス化している状態)があるべき姿だと言えます。
では、上記のようなあるべき姿を自走するために必要なことは何か。それは、論理的思考力・批判的思考力/情報収集能力/企画立案能力/財務計画策定力/行動計画策定力などのケイパビリティを習得または強化することだと考えています。
論理的思考力とは、物事を論理的に組み立て、矛盾や破綻なく思考する能力のことであり、他者との齟齬が生じないコミュニケーションにも活用できます。また、批判的思考力とは、物事を批判的に考察し、本質的な課題発見や課題に対する仮説立てができる能力のことです。これらはビジネスにおける非常に重要な能力の一つであり、新規事業開発以外の場面でも求められる汎用性の高いスキルです。
情報収集能力とは、企画立案に必要な論点整理ができる能力、また企画立案に必要な情報を“効率的かつ効果的に収集できる”能力のことです。調査のハウツーに関するナレッジが重要ですが、まずは調査開始前の“論点設計(初期仮説の構築)”が最も重要です。この論点設計は必要な調査項目をクリアにし、調査業務の生産性を大幅に向上させます。
企画立案能力とは、企画/戦略立案に必要となるビジネスフレームワークを理解し、実践でも活用できる能力のことです。また、ドキュメンテーション能力も含みます。ドキュメンテーション能力が高いと、ステークホルダーとの共有理解の構築がスムーズになるため、伝えたい情報を齟齬なく伝えられ、討議の生産性向上や合意形成の迅速化を実現できます。
財務計画力とは、Excelの操作方法を習得しており、基本的/応用的なデータ分析ができる能力、収支計画モデルを構築できる能力のことです。これは前段で策定した事業戦略/事業計画に関するシミュレーションを行うことで、将来の財務状況の予測、複数シナリオにおけるリスク評価、シナリオに沿った資金調達計画などを検討できます。
行動計画策定力とは、事業推進に必要な要素によりWBSなど行動計画表を策定できる能力、またプロジェクトマネジメントにより事業計画を推進できる能力のことです。この能力により、プロジェクトの進捗管理/リスク管理ができるようになり、事業推進に必要な意志決定スピードを迅速化することができます。
さて、上記にて様々なケイパビリティを紹介しましたが、これらをいきなり自社のみで習得/強化することは容易ではありません。そのため、弊社は“新規事業開発に必要なケイパビリティの習得/強化に向けて、実行支援型のコンサルティングサービスを提供しております。当サービスの最終ゴールは、貴社が各種ケイパビリティを習得/強化し、新規事業開発を自走できるようにすることです。そのために、プロジェクト期間内では、弊社コンサルタントが各ケイパビリティの研修と実務面でのフィードバックをしながら、貴社ご担当者様/弊社コンサルタントが並走した事業開発を推進いたします。
当サービスは、「新規事業の立案フェーズ」と「実行支援フェーズ」に分かれます。
まず、新規事業の立案フェーズでは、弊社は貴社と連携し、事業アイデアの検証に必要な調査/観点を補足いたします。
当フェーズにおける貴社の役割は、各種資料のインプット(過去検討内容の共有、社内ルールの共有など)や一部調査業務の協力が主な実施事項になります。また、弊社は共有頂いた情報を基にして、「不足情報の補充調査、有識者へのヒアリング、事業計画作成に関するナレッジ共有など」を実施し、次フェーズの実行支援に向けた準備を支援いたします。(事業計画案/投資回収計画案の策定、想定販売価格案の策定なども含む)
次に、実行支援フェーズでは、弊社はWBSを作成し進捗管理を行うとともに、ネクストアクションに向けた論点の整理、営業・パートナーとの交渉、必要資料の作成を行います。そのため、貴社のご担当範囲は、弊社のアウトプットのご確認・微修正、必要な社内申請・社内説明、弊社との連携による営業・パートナーとの交渉、資料作成となります。
これらの新規事業支援における体制は、弊社コンサルタント1名、貴社のご担当者様1名が中心となり、両者が進捗や論点について日次・週次で討議を行います。また、貴社内における新規事業テーマの全体管理・運用は貴社のご担当者様に行っていただきます。
このような体制をとることで、クライアントご担当者様に新規事業の立案・実行のノウハウの全てが集約され、結果として新規事業の立案・実行の自走が可能となり、新規事業ノウハウのインハウス化が可能となります。
弊社がご支援させていただいたクライアントは100件を超えており、その業種・業界も多岐にわたります。その中で最も多いのはサービス業界で、具体的には業務改革や戦略策定に関する支援を行っております。また弊社は事業部内にIT部門を有しており、大手通信事業者やITインフラ事業者に対するITコンサルとしての支援も可能です。
また、新規事業の立案についても多数の支援実績を持っています。特に国内大手自動車メーカーに対する支援では、海外市場の開拓に向け、進出先となる現地市場のニーズやトレンドの調査と分析、新規事業案の提案を行い、「それまで10位以下であった現地での売上台数が、弊社の支援後には1位を達成」という実績もございます。
新規事業をご提案する領域については、これまで展開されてきた事業と関連する領域でのご提案に加えて、ご支援先の強みや社内リソースを活用した、新たな領域での新規事業のご提案も可能です。他にも従来の「モノ」を売るビジネスモデルから、社内リソースや先進的な取り組みを踏まえたソリューションやサービスの提供などといった「コト」を売っていくという、発想を転換した新たなビジネスモデルのご提案も行っています。
新規事業のインハウス化に課題を感じている企業の担当者様、弊社の新規事業のご支援・ご提案に興味を持っていただけた企業の担当者様、まずは下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。
【参考】
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト