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[ith10周年インタビュー#1]ithの始まりを支えた三人が語る、“お客様に寄り添うものづくり”とは -後編-

 

前編では、ithの始まりから深く関わってきた代表の高橋さん、工房長の石川さん、表参道アトリエの遠藤さんより、ithの初期の思いを中心にお聞きしました。後半では、10周年を迎えたithの歩みをさらに深掘りしていきます。

 

お客様のために――。その思いはずっと変わらない

 

――ithとしてこの10年で変わらないものはありますか? また、これほど多くのお客様から支持された理由は何だと思いますか?

 

高橋さん(以下、高橋) ithのコアはものづくりです。そこから始まっているので、スタッフが増えた今も、ものづくりを大切にするというスタンスは変わりません。作る人を大事にする、作られたジュエリーを大事にする。それは新しいスタッフたちにもきちんと伝えています。

 

遠藤さん(以下、遠藤) お客様のことを考えながらのものづくりは、ずっと変わらないですね。

 

石川さん(以下、石川) もともと職人の高橋さんが立ち上げたブランドだからこそ、ものづくりをきちんと理解して、それをお客様に伝えることは変わらないと思うし、ithが選ばれる理由もそこにあると思います。

 

高橋 私は、お客様から支持されているのは、“ithなら何とかしてくれそう”という雰囲気が感じられることも理由のひとつかなと思うんです。たとえば、難易度が高いオーダーがあっても、条件だけでは断りません。まずはお客様から詳しくお話を聞き、どうしたら形にできるかを工房や生産管理と相談します。

 

石川 簡単には断らないですよね。むしろ、ithの職人たちは難しいことにも前向きに挑戦しがちなので(笑)。僕らが抑えるくらいです。でも、それは一連の工程をすべて任されることが嬉しくて、楽しくて仕方がないんだと思います。その結果、お客様のご要望に応えたケースはたくさんありますよね。

 

高橋 もちろん、すべてのオーダーに応えられるわけではありませんが、お客様の期待に応えられるブランドであるためにも、難しいオーダーにも対応できる余力は残しておきたいと思っています。

 

石川 ここまでこだわって作る指輪はあまりないと思います。ひとつひとつの指輪に彫りもテクスチャーも入れて、まさにオーダーメイドの醍醐味といえますね。

 

遠藤 結婚指輪婚約指輪は、お客様の人生の中でもとても大切なシンボルですから、つくり手はお客様のことをとことん考えますし、そこでできあがった指輪はお客様の思いが詰まったものです。それがお客様にも伝わるので、指輪の完成を楽しみにしてくれるのだと思います。

 

 

それぞれの立場で感じるithの変化と課題

 

――それでは、この10年で変わったと思うところはありますか?  

 

高橋 一番は一緒に働くスタッフが増えたことですね。最初は職人経験のあるスタッフが多くいましたが、今は多様な人たちが働いています。あとは、接客時の確認漏れや誤解、齟齬が生じないように、細かいルールやマニュアルが整ったことも大きいですね。時々、そのルールの細かさに戸惑うこともありますが(笑)、それらが整ったことで入社したばかりのつくり手たちもスムーズに業務に取り組める環境になったと思います。

 

遠藤 私もルールがきちんとできたことですね。あとは会社として雇用環境が整ってきたことも。最初のころは、アトリエの一室くらいの広さに本社機能まであったので、いつも人がぎゅうぎゅうの状態でした(笑)。

 

石川 それはあるね(笑)。工房としては、一人の職人が最初から最後まで全工程を行えることが大きいですね。この業界は分業制がほとんどなので、一人の職人が全工程を担うのはかなり難しいのですが、それを組織としてきちんとできたことが一番大きく変わったことかなと思います。

 

 

――それでは、今、課題を上げるとしたら、どんなことが思い浮かびますか?

 

石川 まず宝飾業界全体で特殊な加工技術が行える職人が減っていることですね。その技術が途絶えると作れないものが増えてしまうから、僕らはその優れた技術を若い職人たちにしっかり継承していかなくてはいけない。それが大きな課題ですね。

 

遠藤 私は、ルールができたのはブランド全体のためにはよいことだと思うのですが、ふと前はもっと広い視野で提案ができていたように思うときがあります。これは長く働くスタッフほど感じることかもしれません。

 

高橋 ithのヴィジョンは、お客様のためによいリングを作ることですが、社内の都合を優先してしまうと、それがどんどん薄まってしまうと感じています。だから、私の役目は、常にお客様の期待に応えられる環境、雰囲気を作り、スタッフがお客様の方を向き、思いに寄り添い続けられるように働きかけていくことかなと思っています。

 

 

ブランドの価値を深め、お客様に寄り添っていく

 

――最後に、この先もずっとブランドが続いていくためには何が必要だと思いますか?

 

石川 工房としては、ithの商品を作るためにそれぞれの加工技術のスキルを継承し、高め続けていくことです。もうひとつは、さらに成長するためにコスト削減など生産管理的なことも考えていかなくてはいけない。そのためには制作にかかる一連の技術のほか、新しい技術を導入することも必要かなと思います。これらすべてに対応できる職人が揃ったら、これほど強いものはないでしょう。ものづくりを大事にするつくり手がいるアトリエがあり、そのバックによいジュエリーが作れる工房があったら、この先、何十年もブランドとして価値を高めていけるはずです。

 

遠藤 今は私も教える立場でもあるので、ithが当初から大切にしてきた思いを守り、それを後輩たちにしっかり伝えていく必要があると思っています。

 

高橋 私は、これからも続けていくためには、手間ひまがかかることに目を背けてはいけないと思っているんです。もともと小さいことをコツコツと積み上げてきたブランドですし。初心を忘れず、細かな要望に応えていかないと、お客様から「何かやってくれそう」という期待感や、ほかにはないithの価値は簡単に失われてしまうと感じています。

 

石川 手間ひまがかかる=コストだから、多くの会社はカットする部分だけど、ithは逆ですよね。でも、それがあったから10年も続いてきたと言えますね。

 

高橋 ithはお客様視点が強いブランドだと思っています。そのためには、ithの中で誰かがお客様の気持ちを代弁しなくてはいけないと思うので、私はつくり手でもなく、職人でもなく、お客様の代表として一番よい方向を目指します。その視点はこれからも変わらずに持ち続けて、お客様にとってベストな指輪を提供していきたいと思います。

 

 

写真左:石川さん[工房長]
写真中央:高橋さん[ithブランド代表]
写真右:遠藤さん[表参道アトリエ主任]

【プロフィール】

高橋さん[ithブランド代表]

2014年にith吉祥寺アトリエを構え、接客と指輪づくりの両方に携わる。現在も自らアトリエで接客を行い、ithを最前線で牽引する。指輪は「着ける人こそが主人公」ということを大切に考えており、お客様のために何ができるかを常に考え続ける姿勢はオープン当初から変わらない。

 

石川さん[工房長]

2015年に入社し、工房を統括する責任者として、高橋とともにithのものづくりを支える。ジュエリー職人である父親の影響を受け、幼少期からものづくりに携わってきた。週末は、アトリエのつくり手たちにオンラインでお客様の指輪制作をアドバイスするなどサポートも行う。

 

遠藤さん[表参道アトリエ主任]

2015年に「ものづくりに携わりたい」とつくり手として入社し、その後、生産管理へ異動。そこでキャリアを積んだ後、再び、つくり手に復帰し、現在は主任として表参道アトリエをまとめる。担当したお客様の数はithの中でも多く、800組以上にものぼる。