マーケティングを実施する際には「ペルソナ」というものが重要になります。マーケティング上における「ペルソナ」とは、仮想の「自社製品・サービスの顧客」のこと事を指します。効果的なマーケティングを実施するためには、自社の「自社製品・サービスの顧客」となり得る人はどのような人なのかを設計する必要があるのです。
類似した概念に「ターゲット」というものが存在しますが、「ターゲット」と「ペルソナ」の違いはその具体性にあります。「ターゲット」と呼ばれるものは基本的に年齢・性別といった軸で設定されています。「30代男性」「40代女性」「中高生」といった粒度感で設定されています。一方で、「ペルソナ」とはより具体的に、細かく条件を設定したものになります。具体的には、下記のレベルで詳細に設定します。
個人(BtoC)の場合:氏名・年齢・家族構成・居住地・職業・収入・趣味・最近の悩み・使用するSNS 等
法人(BtoB)の場合:営業先企業の担当者(個人)のペルソナ(職種・役職・性別・年齢等)+営業先企業のペルソナ(企業の業種・地域・資本金・売上・規模等)
「ターゲット」も「ペルソナ」も、自社のサービス・製品の「ユーザー層」である点は共通しているものの、「ペルソナ」の方がより具体的であるという差異があります。
ペルソナを設定することによるメリットとしては下記が挙げられます。
・ユーザー像を具体的に絞り込むことができる
・想定したペルソナを実際の人物として想定し、製品を購入するまでのストーリーや詳細なニーズを感じ取りやすくなる
・具体的なユーザー像を想定することで、製品・サービスのコンセプトやデザイン等に関して共通の認識に基づいて開発を実施することが可能になり、時間・リソース面での効率化が図れる
・異なる部門・担当者間で対象ユーザーに対する共通理解が可能になる
・客観的な判断を下せるようになる
まとめると、顧客像を具体的に設定することでコンセプト・デザイン設計に活かしつつ、そのニーズを徹底的に追求し、製品・サービスの設計時やマーケティングを効果的なものにすることができます。
では、そのペルソナはどのように設定設計すればよいのでしょうか。次章では、そのペルソナのを設定設計方法する方法について説明します。
ペルソナを設計するにあたっては2つの軸が存在します。それは「定量分析」と「定性分析」です。定量分析とは、様々な数値・データを活用して分析・評価を実施する方法のことです。一方、数値に表れない「質的データ」を分析することを定性分析と呼びます。「質的データ」といってもなかなかイメージしづらいところがあると思いますが、例を挙げると消費者インタビューやアンケートの回答といったものや、口コミ・SNSでの評判といったものは定性分析に用いる「質的データ」の1つです。一方で定量分析で用いるデータというものは、「〇〇からの売上が〇〇%増加した」「HPへの訪問者数が〇〇%増えた」というような数値・データの事を指します。
定量分析・定性分析はどちらか片方だけでは効果が薄く、双方を併用することでより大きな効果が期待できます。今回のペルソナ設定において、双方をどのように行っていくか、という点について述べます。
デジタルマーケティングにおいて活用すべき定量データとして、まず最初に挙げたいのは販売実績データです。自社の製品・サービスを今までに購入した層はどのような人・組織なのかという点を様々な観点で分析することが求められます。顧客における新規・既存顧客の割合はそれぞれどれくらいなのか、企業であればどういう業種・規模の企業が多いのか、どういった部門からの需要があるのか、販売経路はどこなのか(代理店・営業部・HP等)といったことを分析し、自社の製品・サービスにおける需要を探っていきます。
定性分析に用いるメジャーなデータとして、「クラスター分析」というものがありますを存在します。「クラスター」とは集団という意味で、大量のデータを単純化して理解・考察しやすくするために活用されます。マーケティングの世界においては、顧客の特性分 特性・商圏の特性・ブランドのポジショニング分析といったことをはじめ、マーケティングの文脈では、消費者調査によく使われる手法ではあります。
しかしクラスター分析を実施するには相応にコストがかかってしまうため、資本力のある大企業ならいざ知らず、今回のテーマである「中小企業のマーケティング」という観点からは現実的とは言えません。
他に実施すべき方法として下記2つが存在します。
クラスター分析と同様に消費者を対象として実施する調査として、インタビュー調査を実施するというものが挙げられます。これらの調査を実施している企業に依頼することで、より消費者への理解を深め、上記した「質的データ」を収集することが可能です。インタビュー調査の形式も、1対1で1人の消費者を深堀する調査や、消費者のグループを対象に聞き込みを実施する調査等の形式があり、必要な情報に対して最適な選択肢を選ぶことが出来ます。
他に考えられる有効な方法として、すでに社内の営業マンが持っている知見を共有する、というものが挙げられます。
直接顧客と接点を持つ営業担当者が、それまでの営業経験の中で感覚的にペルソナ像をつかんでいることがあります。言語化されていないこれらの知見を言語化したうえで社内で共有し、そこからペルソナ像を設計する、という方法も有効であると考えられます。
もちろん、マーケティングにおけるペルソナは広く一般化された概念であり、多くの企業のマーケティングにすでに活用されております。しかし、現状のペルソナ設計には大きな課題が存在します。それは、「セグメンテーションを属性情報で実施している」ということです。
セグメンテーションとは、「マーケティング目標を達成するうえで、どの市場を狙い、どの立ち位置で市場にアピールするか、そのために最も効果的な方法は」という方針を決定することです。一般的にマーケティングを実施するうえでS(セグメンテーション)・T(ターゲティング)・P(ポジショニング)の順で分析を実施するため為、このプロセスをSTP分析といいます。ペルソナ設計は、このSTP分析でいうところのT(ターゲティング)にあたるフローですが、その前提となるS(セグメンテーション)の分析を属性情報で実施しているということです。属性情報とは、「企業規模」「売上」「従業員数」「業種」といった情報で、これに基づいてセグメンテーション・ペルソナ設計を実施するというのが既存のやり方ですが、現代のビジネス環境においてこれは1つ大きな問題に直面することになります。
それは、「消費者行動の多様化」です。多様化が叫ばれて久しい現代では、消費者行動も多様化しております。下記2記事でも言及されていますが、既存の「大企業だから○○」「飲料業界だから○○」というようなセグメンテーション・ペルソナ設計だけでは、多様化した消費者行動に対応できないのです。
【連載】BtoBデジタルマーケティング概論 Part1~デジタルマーケティングとは?~
デジタルマーケティングに欠かせない”事業や課題の理解”とは何か
そこで重要なのが、次章で説明する、属性だけでない要素(感情等)を考慮したペルソナを設計になります。
設計するペルソナの種類として、下記3種類が存在します。
既存のペルソナ設計で最もなじみのあるタイプのペルソナがこれになります。製品・サービスを通して、ユーザーが何をしたいのか、という点にフォーカスしたペルソナになります。
このペルソナでは、ユーザーが現実の世界・組織・コミュニティ等の中においてどのような役割を果たしているかを調査するものになります。人々(BtoBでは企業)が生活の中で果たしている役割を明らかにすることにより製品開発・デザイン決定に役立つ情報を取得することが可能となります。
上記2点とは異なり、可視化できる3次元のユーザーを作成するというタイプのペルソナです。ユーザーの感情を調査したうえで、目前のタスクについて意思決定する際に、その心理がどのような影響を及ぼすかを明確にしたうえで設計するペルソナになります。1.で述べたように、BtoBでは担当者と企業双方のペルソナを設計する必要がありますので、双方の感情等を考慮したペルソナを設計する必要があります。
既存のペルソナ設計ではa.の形式のペルソナが主流ですが、b.やc.のように、役割や感情といった、属性情報以外の情報を活用してペルソナを設計することにより、より効果的なマーケティングを実施することが可能となるのです。
上で述べたような「定量分析」「定性分析」の双方により得たデータを活用したうえでペルソナを設定する必要があります。
上記してきたペルソナマーケティングの成功事例をBtoB・BtoCそれぞれ1つずつ紹介します。
BtoCのペルソナマーケティング成功事例として紹介したいのは「食べるスープ」がコンセプトのスープ専門店、「Soup Stock Tokyo」です。
僅か10年間で売上高42億円・店舗数52店舗という急成長を遂げ、BtoCマーケティングの成功事例として有名な企業ですが、こちらの企業が設定したペルソナは下記のようなものです。
「秋野つゆ」という名前の37歳女性、都心で働くキャリアウーマン、装飾性のよりも機能性を重視するタイプ、フォアグラよりもレバーが好き、プールではいきなり豪快でクロールで泳ぐ…等々
上記のようなペルソナを満足させることが出来るかどうか、という点で商品企画や店舗の雰囲気を決定する方針をとりました。
上記の1人に向けて店舗運営に関わる全てを決定したため、結果として多くの同じような感情・感覚を持った人の心に刺さり、結果として短期間での急成長を遂げるに至ったのです。
BtoB事例の成功事例としては「日立グローバルライフソリューション」が挙げられます。業務用のエアコン等を取り扱う会社で、ペルソナを綿密に設定することにより、市場シェアを9.8%から11.1%にアップさせることに成功しました。
設定したペルソナは、「自社のエンドユーザーと直接やり取りをする設備店の経営者」で、実際の1800社以上の設備店にアンケート・インタビューを実施し現場の声を集めてペルソナを設計することでマーケティングを効果的なものにすることに成功しました。
上記の例はまさに【4.設計するペルソナの種類】で述べたc.の「感情型ペルソナ」の例であり、より具体的な人物像をペルソナとして設定することが効果的なマーケティングを可能にするのです。
1~4で述べてきた点に留意してペルソナを設計した後のフローについては下記2記事に詳細が記載されております。
「デジタルマーケティングってコンサルティングファームでもできるの?」
こちらの両記事では、デジタルマーケティングの全体的なフロー・ペルソナ設計後に実施するべき事項と実際のユースケースについて言及されています。
本記事でここまで述べてきた、「ペルソナ」の設計と、上記リンク先に記載のあるフローを組み合わせて実施することで、実施するデジタルマーケティングを効果的なものにすることが期待できます。
本稿では、デジタルマーケティングを実施する際の「ペルソナ」についての概要と、それをどのように設計すべきか、という点を見てきました。
これからデジタルマーケティングを実施する企業の方やマーケティング部門でお勤めの方々にとって有意義な情報となっていれば幸いです。
また、弊社では業界・業種問わずマーケティングのご支援もさせていただいておりますので、お悩み・経営上の課題等ございましたら、ぜひともお問い合わせください。
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト