国内における経営企画室の役割は、企業によってさまざまであるが、「中小企業における経営企画室の役割とは」にて紹介したとおり、売上100億円未満の企業においては広報機能を兼務しているケースが多い。筆者の経験でも200億円以上の売上を有する企業であっても、経営企画室は社長秘書やIRなどを担っている場合も見受けられた。弊社では、本来あるべき経営企画室とは「経営陣の意向を汲み取りながら会社の中長期的な経営方針を定め、ゴールまでのプランを立案すること」と考えている。
つまり、まず大事なミッションとしては自社の中期経営計画を立案することである。しかし、このテーマは非常に難しい。そのためか、決算月が近づくに連れて、コンサルファームに相談するお客様が多かったと感じている。課題はさまざまで、M&Aを多数実施している企業や役員がそもそも中期的なビジョンを持っていない。そもそも中期経営計画の必要性を感じていないなどが挙げられる。ちなみに実際に中期経営計画を必要としているのは、現場サイドであることが多いのも事実である。
また、経営企画室が本来の役割を担っていないことから、各部門から中長期の目標をインプットし、それを纏めていくような進め方で中期経営計画を立案することが見受けられる。それによって、管理会計の指標と施策が紐づいていないといったことも。本件では中期経営計画を立案し、事業戦略とアクションプランが定量的な指標を持って紐づき、それに沿って各部門がアクションプランを遂行していくための、進め方について紹介していく。
今回は2通りの中期経営計画の立案方法をご紹介する。まず1つ目は、現状の経営状況から課題を抽出し、事業戦略の方向性を検討する方法である。これは「経営企画の進め方」にも一部紹介している方法で、主にマネジメント層に対してヒアリングを実施し、現状のビジネスを紐解きながら自社特有の課題を抽出する方法である。そして、各課題を纏めて優先順位付けを行い、タスクフォースを立ち上げる。タスクフォースごとにゴールを設定し、そのゴールと中期経営計画が紐づく形である。具体的に筆者が経験したPJをベースにご紹介する。
売上100億円規模の地方に本社を構える、産業用機器メーカーを開発・販売する会社にて、売上のV字回復を目的としたPJでPMとして参画した。売上の9割以上はグローバルであり、販売代理店網を中心として販売形態を取っていたこともあり、自社に情報が集約されない状態で、代理店の声だけをベースに機器を開発・販売していた。その結果、市況の変化に対応できず、上下を繰り返しながら売上が落ちている状況だった。その中でPJをスタートしたのだが、クライアントには代理店に対する販売実績データがあるのみで、各国の市場環境については把握していない状況だった。そのため、販売実績データとデスクリサーチをベースにマネジメント層にヒアリングを実施した。例えば、「なぜ、この国は前年比xx%も売上が下がったのか」「この国と比べて、市場規模は大きいか」など、実際に業務を行っていく中で掴んでいる市場環境に対する感覚を取り纏め・定量化していく作業から始めた。そして、市場環境の概要を理解した上で、自社の課題把握を行った。例えば、以下のような質問を投げかける。
参考例———————————————————————————————————————–
<管掌業務について>
<課題について>
<今後効率的に対応していくために>
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上記の内容を踏まえて、各マネジメントが抱えている課題やその大きさ、根本原因を把握した。そして、本件では10つの取り組みテーマを抽出し、優先順位付けを行った。
一部紹介すると、先ほど述べたとおり、情報が圧倒的に足りなかったため、まずは意思決定の判断材料となる情報を収集する基盤を作ることだった。クライアントは子会社を有していたが、連結していなかったこともあり、グループ全体での利益率が見えない。また、そもそも自社の利益率も想定で行っており、現実と乖離している実態があった。また、販売代理店のみが市場環境を把握しているため(場合によっては、市場環境を把握せずに売っていることも)、代理店を含めた情報共有のスキーム構築を図る必要があった。情報基盤を構築した上で、事業戦略/代理店・販売戦略を策定した。(余談にはなるが、情報基盤を構築する際にシステムを導入することはしなかった。中小企業においてシステム導入は大きな負担となり得るため、なるべく仕組みでカバーすることを心がけた。)そして、数カ年の売上・コスト目標や目標達成するためのKPI、アクションプランなどを検討した。さらに、事業戦略に紐づく形でマーケティング戦略を策定し、それらをモニタリング・検証できるようPDCAサイクルの仕組み化を構築した。
このように、マネジメント層のヒアリングを中心にして課題やその根本原因から施策を定めていく方法で中期経営計画を立案していくことができる。一方で、業界の未来地図を検討した上で、自社の戦略やロードマップを策定する方法もある。
添付のように、主に5つのアプローチで中期経営計画を策定する方法である。
まず、市場の外部環境を分析(PEST分析)して、将来にどのような変化が生じるかを把握する。
その上で、インパクトファクター✕不確実性にて各ファクターをマトリックス化して分析を行う。
そして、4象限のうち関心の高い領域において、シナリオを策定していく。
定めたシナリオを基に、対象セグメントのカスタマージャーニーとバリューチェーンを策定する。
必要に応じて、対象セグメントやエキスパートインタビューにて補強し、どのようなカスタマージャーニーやバリューチェーンが理想的かを定めていく。
2.で策定したカスタマージャーニーやバリューチェーンと現在のカスタマージャーニーとバリューチェーンを比較し、GAPを把握する。
そして、GAPを埋めるためにどのような施策や取り組みが必要になるかを検討する。例えば、xx技術の開発が必要やxxとパートナリングをして、新たなビジネスを創出するなどである。
ここでポイントなのが、この取り組みによってPLの何にヒットするのか?と定量的に落とし込むことである。この取り組みが完了したときには、●●が実現されており、
結果売上がxx%増加/コストがxx%低減といったような形で設定する。
上記の取り組みについて、短期・中期・長期に区分し、具体的にどのステップで何をアクションしていくのか、アクションに対するKPIを設定していく。
このように業界の将来像/理想像を把握した上で、それに向けてどのような取り組みをしていくのかを検討し、中期経営計画を立案していく方法がある。このパターンを選ぶクライアントの多くは、現状の市場環境を正しく把握したい、将来どのような姿になるのか検討したい・社内で検討したが本当にそうなのか?といった場合である。2つの中期経営計画における立案方法をご紹介したが、自社の状況や検討内容によってアプローチの仕方が変わるため、どのような進め方が自社にとって適切かは、社内で議論しながらないしは、第三者を含めながら討議していくことをおすすめする。
ご紹介した2つの中期経営計画立案の方法は、2つとも施策やアクションレベルの洗い出しができる。一方で事業戦略に紐づかないまま、個別にアクション・モニタリングに入ってしまうケースがある。まさに、そうならないように経営企画室の役割が重要になってくるわけだが、添付の通り事業戦略との紐づけを経営企画室にて取り纏める必要がある。もちろん全てがロジックツリーのように因数分解できるわけではないが、「何の指標にインパクトを与えるのか?」それによって、KGIはどの程度改善されると見込んでいるのか?を設定しておく必要がある。
これは営業部門のみならず、生産や人事などにおいても設計が可能であり、各部門の取り組みによって自社のPLにどのようなインパクトを与えるかを検討することによって、地に足のついた中期経営計画を立案できると考えている。
弊社では、経営企画室が本来あるべき姿になるため、3つのステップをゼロから支援する「社長の右腕を育成して、経営企画のあるべき姿に」というサービスを提供しております。「中期経営計画の作り方」「経営判断に資する情報集約の方法」、「経営人材リソースの育て方」などでお悩みでしたら、是非とも一度お問い合わせください。
アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/シニアマネージャー
新卒で広告代理店に入社。Webコンサルタントを経て、2015年当社に入社し、C&S事業部の立ち上げに参画。多岐に渡る業種、分野のプロジェクトを経験し、戦略から実行まで支援をしてきた。クライアントの期待値を超えることを前提とした、コンサルティングを常に心掛けている。