近年、デジタルマーケティングの重要性が高まっていく中で、多くの企業が投資し、失敗している。大手企業でも、もはやWebマーケティングがままならないような状況もあるくらいだ。その背景には、さまざまな要因があるものの、重要なのは「ではどうしたらうまく、デジタルマーケティングができるのか?」であるが、実はポイントさえ掴めば難しくない。ヒントは企業の至るところに落ちており、それを拾い上げるだけでも効果があると筆者は考えている。本テーマでは、そのヒントの拾い方をご紹介し、デジタルマーケティングを始める、チャンレジしているマーケティング担当者様へ参考になればと思う。
ここでは、中小企業のマーケティング担当者様を対象に紹介していきたい。大手企業であればテクノロジーを活用できる予算が潤沢にあるものの、中小企業ではそうはいかない。また、デジタルマーケティングで検索をすると、莫大な予算が必要な印象も見受けられるだろう。ただ、筆者は必ずしも全てに対して、テクノロジーを活用せずとも、うまくアナログも活用する・もしくは別アプローチで代替することはできると考えている。(もちろんやや精度は落ちるものの) 本テーマでは、デジタルマーケティングの土壌づくりとなる部分を中心に紹介していきたいと思う。
インターネットやテクノロジーの進化にともなって、さまざまなモノがインターネットに繋がり、膨大かつ多岐にわたるデータを収集、分析することができるようになった。例えば、世界のトラフィック量は2011年において31エクサバイト/月であったが、2020年には195エクサバイト/月、年平均成長率22.0%と著しく増加するとされている。さらに、モバイルデータのトラフィック量が増えたことにより、動的な行動データなども細かく収集することができるようになった。
多種多量のデータを取得することが容易になっていく中、一方で消費者行動は多様化していき、顧客を特定することは難しくなりつつある。 コトラーによれば、工業化時代すなわち工業用機械がメインだった時代では、製品はかなり基本的であり、マス市場のために設計されていた。規格化と規模の拡大によって多くの消費者にモノを届ける時代であり、マーケティング1.0すなわち製品中心の段階であった。ここからマーケティング2.0である情報化時代に移行するにあたって、マーケティングの仕事は複雑化する。 消費者は十分な情報を得たことにより、容易に商品を比べることができ、製品の価値は消費者によって決められるようになった。ただし、消費者の選好はバラバラである。これにより、企業は市場をセグメント化し、特定の標的市場に向けて他社よりも優れた製品を開発する志向へと変わっていく。 そして、マーケティング2.0から3.0、価値主導の段階へとさらに変化が生じていく。製品やサービスの機能的価値や情緒的価値では満足できず、精神の充足まで求めるようになった。つまり、マーケティング3.0は、マーケティングのコンセプトや製品・サービスのストーリーなど、志や価値、精神の領域まで押し上げたことになる。このように、消費者が商品やサービスを購入する際に、トリガーとなるものは感情や精神に重きが置かれるようになり、従来のマーケティング手法では対応できなくなっている。
一方で、デジタルマーケティングと事業活動の関係性は強まっていった。テクノロジーの進化や情報量の多さから、消費者はオンラインで情報収集をし、オンラインで製品・サービスを購入するようになった。その結果、オンラインでの消費者を把握することやオンラインでのマーケティング施策が、事業活動において重要な役割を担うほど売上に直結し始めている。また、ここ数年前であればリスティング広告を出せば、オフラインと比べて多くのリードを獲得できたり、コンテンツマーケティングを行えば多くのPV数を獲得できたりした。しかし、近年ではWebマーケティングを実施することが当たり前になり、Web広告での競争が激しく、運用するだけでは費用対効果が合わなくなってきている。さらに、オフラインではリード獲得が難しくなってきているのもあいまって、いかにオンライン・オフラインを統合的に考えて、リードを獲得して、売上につなげていくのかがポイントになっている。(リードが獲得できても売上に繋がらないケースも増えているだろう) したがって、「いかに消費者の感情・精神のレベルまで理解をして(=消費者に憑依して)、問い合わせから購入までの流れを設計できるか?」が、近年のマーケティングには重要であると筆者は考える。この設計は、事業活動の理解から詳細なユーザー像までの全体設計が必要であり、従来のマーケティング手法では実現できないものであったが、さまざまなデータが取得でき・つなげることができる現在では可能な手法である。決して、大手企業のみならず中小企業でも対応できる手法であるため、一読いただければと思う。
デジタルマーケティングを取り組むにあたって、3つのステップを踏んでいく。まず、最初に行うべきことは現状分析である。ここでポイントなのが、事業構造を理解すること・顧客の感情まで深掘りすることである。事業構造では、どのようなビジネスモデルなのか・業界や市場においてどのような機能で価値を提供しているのか・自社の強み/弱みな何かを理解する。その上で、どのようなKPIで目標管理をしているのか・それがどう売上とつながっているのかを把握していく。 顧客については、属性情報のみではなく、顧客の感情まで踏まえた上でどのような顧客タイプがいるのかを纏めていく。そして、顧客タイプごとに情報収集から問い合わせ、さらに購買に至る流れを整理し、それぞれのフェーズにおいて、必要なコンテンツとタッチポイント(場所/デバイス)を設計する。すると、どのタイミングでどのコンテンツを顧客にあてると、問い合わせ、そして購買まで至るのかが分かってくる。繰り返しになるが、重要なポイントは「その時、顧客はどのような感情か?」を検討することである。コンテンツをあてて、そのとき顧客はどのような感情を抱き、何を欲するのか?を顧客になったつもりで検討することが重要である。それらを明らかにしていために定量分析と定性分析の組み合わせが必要になってくる。 現状分析を終えたのち、売上と顧客のユースケースに合わせたKPI設計を行う。ここで検討すべきことは、あまり複雑にせずシンプルにかつ、取得可能なデータを前提としたKPIを作ることである。大手企業であれば、システムを用いて複雑かつ詳細なKPIもモニタリング可能だろうが、あくまでアナログでの対応を前提としたときには、現実的ではない。また、指標を多く持つことによって一体何が売上に効いてくるのか分かりづらくなり、結果混乱を招くケースを多々見てきた。 そして、KPIに効く施策を検討していくわけだが、デジタルマーケティングではリード獲得のみではなく、問い合わせ後にどう購買へと繋げるのか(ナーチャリング)まで見ていく必要がある。そのため、施策はリードジェネレーションとナーチャリングそれぞれで検討していく。 最後にその施策をどういう体制でどうのように実施していくのか。さらに、それを自社でどう回していくのかを検討していく。これは企業の状況や方針によって変わるが、なるべく内製化を図っていくべきである。筆者がコンサルティングを行うときは、必ず内製化を勧める。もしくは、ベンダーへ作業指示を出せる・理解できるレベルまで落とし込むことは行う。やはり、商品やサービスのことを十分に理解しているのは、その企業にいる方々であり、運用が分からないからや知見が無いからで、まるっとベンダーへ依頼すると、途端にコンテンツの訴求したいポイントやメッセージが変わったり、薄くなったりする。そのため、デジタルマーケティングの最終形態は全て自社で対応できるようになっていることだと考えている。 今回は導入部分であるデジタルマーケティングの概要についてお伝えしてきたが、次回から具体的に各ステップの取り組み方についてご紹介していきたいと思う。
【参考】
Cisco HP
コトラー(2010)「コトラーのマーケティング3.0」
竹内(2018)「統合デジタルマーケティングの実践―戦略立案からオペレーションまで」
竹内(2020)「デジタル時代の基礎知識『BtoBマーケティング』 「潜在リード」から効率的に売上をつくる新しいルール」
アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/プリンシパル
新卒で広告代理店に入社。Webコンサルタントを経て、2015年当社に入社し、C&S事業部の立ち上げに参画。多岐に渡る業種、分野のプロジェクトを経験し、戦略から実行まで支援をしてきた。クライアントの期待値を超えることを前提とした、コンサルティングを常に心掛けている。