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【コンサル流】リサーチにおける考え方

リサーチの重要性

昨今のテクノロジーの発展に伴い、企業はDX化や新しいビジネスモデルの創出を求められるようになっています。このような状況下では、市場のニーズや他社の戦略などを分析し、自社が取るべき販売戦略やサービス開発戦略を見つけることが重要です。そのために、必要なのが「リサーチ」になります。

リサーチは経営戦略に近しい場に従事する戦略コンサルタントの主業務の一つであり、市場環境の調査・競合サービスの調査・最新事例の調査を行うことで、戦略策定に必要なファクトを整理しています。

なので、今回は、戦略コンサルタントが実施する「リサーチの基本やまとめ方」について、実例を交えて紹介しようと思います。本内容が、企業の経営企画などに携わる方にとって参考になれば幸いです。

また、他にも、戦略コンサルタントのナレッジとして「思考法」や「議事録作成術」などもありますので、こちらについては下記をご参考ください。

【参考】

「考える」を磨いて市場価値を高める

【コンサル流】議事録作成における考え方

 

リサーチ方法(デスクリサーチ)の紹介

上記にも述べた通り、戦略策定のためには「市場環境の調査・競合サービスの調査・最新事例の調査」等を行います。その手法としては、デスクリサーチ(WEB/市場レポートの検索)・エキスパートインタビュー・アンケート・現地調査などがありますが、今回は主にデスクリサーチに主軸にして、その基本的な考え方を実例交えて紹介します。

デスクリサーチの大きな流れとしては、①リサーチ目的の確認、②リサーチプランの設計、③リサーチの実施、④アウトプット作成の流れで進めます。その中でも、①リサーチ目的の確認、②リサーチプランの設計を丁寧に行うことが、調査の手戻りを無くすためにも非常に重要な部分となります。

①リサーチ目的の確認

リサーチ目的の確認においては、クライアントのニーズに正しく応えるためにも、リサーチを行う背景やリサーチの意味 (=検証すべき論点)と、求められる情報の粒度を正しく理解する必要があります。

例えば、「中国の飲食店市場を調べて欲しい」というリサーチ依頼があった場合、中国市場に参入したい・中国市場にて新規取引先を見つけたい・中国市場における先進事例を知りたい等の意図が想定され、これらの目的によって調査項目が大きく変動します。

そのため、プロジェクトを通して検証すべき論点や、その中で重要性の高い論点を特定し、適切な調査項目を設定することが重要です。

②リサーチプランの設計

リサーチプランの設計においては、「適切な調査範囲や調査軸の設定」を行います。そのためには、調査対象業界や事業に対する前提知識が必要になります。リサーチを依頼された際には、すばやく業界本・業界レポート・HP・有価証券報告書等を通して、「調査に必要な前提知識」をインプットすることが重要です。その上で、調査観点・情報ソースを明確にし、情報の網羅性や正確性を担保するこ必要があります。これが曖昧だとクライアントの納得感を失い、リサーチ結果を基にした討議が滞ってしまいます。

また、以下のようなことに留意することで、調査の手戻りをなくし、調査効率を引き上げることができます。

  • 作業前の段階で、リサーチの枠組み(調査項目)を用意する
  • リサーチ開始後1時間で、まずは参考資料のあたりづけ(調査対象分野ではどこにどんな資料がありそうか)を行う
    • 国会図書館webサイトの「調べ方案内>産業情報ガイド」等が参考になります
  • 枠組みの作成後は、「解答すべき論点にとって十分な軸であるか」を自問し、不足部分が出た場合は、適宜枠組みを改良する

③リサーチの実施

リサーチの実施において、リサーチ結果の納得感は、「情報が多いほど良いわけではなく、提案内容の方針によっても大きく変わる」ことを意識する必要があります。前向きな提案を目指す場合はメリットや魅力を中心に、後ろ向きの場合はデメリットやリスクを提示するなど、各プロジェクトの目的を汲み取りながら調査を行うことが大切です。

また、調査の効率化のためにも、WEB検索・文献検索・記事検索や公的・民間調査レポートを活用する際は、以下のようなことに留意することが有用です。

  • WEB検索では、情報掲載者側の視点に立ってキーワードを選定し、類義語での再検索も行うことが重要です
    • 例えば、「電気自動車の市場規模」を調査する際は、「電気自動車・EV×市場規模・市場推移」のような組み合わせなど
  • 定量データのWEB検索(市場規模の推移など)であれば、Googleの画像検索を用いることで、「1件ずつ記事をクリックして、中身を確認し、検索ページに戻る」作業を無くし、欲しいグラフを画像一覧から探せます
    • ただし、全ての情報が記載される訳ではなく、最新情報であるかの精査は必要になります
  • 記事検索では、記載されるファクトと、それが語られている視点に注意する必要があります
    • 例えば、リサーチ依頼者に対して、そのファクトがどう影響するのかをフラットに見る必要があります。
  • 文献検索では、Google SchoLarや国会図書館の蔵書検索を活用することで、専門家がまとめた正式な論文等の資料を入手できます
  • 公的調査や民間調査レポートは、素早く市場の全体像を把握する際に有用です。
    • 有料の場合もあるので、予算に余裕があるのであれば、活用しても良いかもしれません

④アウトプットの作成

アウトプットの作成では、調査事例をまとめたサマリースライド、個別事例をまとめた個票を作成することが多いです。スライド作成術でも一つの記事が書ける程にノウハウがあるため割愛しますが、アウトプットイメージについては、後述する実例を参考にしてください。

実例の紹介

ここでは、調査項目やそのアウトプットの実例を紹介し、リサーチの流れを再確認したいと思います。本件では、「あるIT企業が、5Gを活用したメディア・エンターテインメント領域における新規事業の創出を目指している」ものとし、その一端であるベンチマーク調査の事例を紹介します。

①リサーチの目的(実例)

今回は、「IT企業が5Gを活用したメディア・エンターテインメント領域における新規事業の創出」を狙う際に、有益となり得るベンチマーク事例を収集します。また、クライアントの要望より、国内/海外のメディア事業向け5G活用事例を調査します。

②リサーチプランの設計(実例)

今回は、みずほ産業調査Vol.69を参考にして、メディア・エンタメ領域を「出版・映画・アニメーション・音楽・ゲーム・スポーツ」と定義して調査を進めます。このように、調査対象範囲を定義することで、情報の網羅性を示すことができます。

また、今回のベンチマーク調査の対象は、メディア・エンターテインメント領域における5G活用事例なので、情報の在り処としては、国内外問わず通信キャリアやゲーム制作会社における取り組みが多いことが予想されます。そのため、まずは彼らのプレスリリースを参考にして、最新事例をピックアップしていきます。また、上記プレイヤー以外の取り組み事例は、5G活用事例が記載されたまとめサイトなども参考します。

③リサーチの実施(実例)

今回は「新規事業創出に向けたアイデア整理」が目的ですので、オーソドックスまたはユニークな活用事例を取り上げ、それらの提供価値をまとめることが、クライアントのニーズに訴求できると見込まれます。一方、新規事業創出の検討なので、使用技術/マネタイズ方法等の技術関連・ビジネス関連の情報も必要になります。今回は以下のような軸を設定し、調査を進めていきます。

  • 実施国、活用事例、企業概要(企業名/事業概要/売上高)、活用事例の詳細(用途カテゴリー、エンタメ分類、5G用途、実証or商用、マネタイズ方法、使用技術、提供価値)

④アウトプットの作成(実例)

調査の結果、「エンタメ・メディア業界における5G活用事例は、『パーソナライズされた情報提供』、『ハイクオリティなライブ配信』、『大容量の双方向コミュニケーション』の3つに分類できた」ので、今回もサマリースライドと個票スライドの形でまとめました。

このようにまとめたアウトプットを土台にして、「技術的ケイパビリティからはどの分野が魅力的か?」などの観点をクライアントと討議していくことになります。

おわりに

今回は、コンサル流のリサーチにおける考え方をご紹介いたしました。今回の実例では「エンタメ・メディア領域における5G活用事例」としたため、皆様の生活に身近な事例でありイメージが容易だったかと思います。ただ、他の調査では「首都圏鉄骨市場の調査」や「法面工事事業の調査」など、日常生活ではあまり触れないテーマも多いため、調査前での業界知識のインプットや、調査中での専門家インタビューなどが必要になってきます。

以上のように、調査を実施し、ディスカッションの土台を作ることが、戦略策定などの事業活動の推進に寄与します。本稿の情報から皆様に得るものがあれば幸いです。

また、今回はPPTのまとめ方を詳しく紹介できなかったため、「経済産業書 委託調査報告書(令和3年度 委託調査報告書 HP掲載一覧)」をご覧頂き、アウトプットイメージのご紹介とさせてください。

 

【参考】

増田森一

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト