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地方圏における不動産テックの活用可能性

本記事の概要(不動産テックの活用可能性)

近年の日本の不動産業界では、人口減少・少子高齢化などの社会課題や、新型コロナウイルスの蔓延といった社会情勢が逆風となり、各企業の売上の伸び悩みが目立ちます。
特に、地方圏の不動産会社では、利益を生まずに管理費のみを継続的に発生させる「負動産」がボトルネックとなっています。

その中で、2020年に登場した、不動産テックの1つの「マッチング系サービス」は、負動産をはじめとした地方の不動産会社の経営課題を解消するものになりうると思われます。

本稿では、注目を集める不動産の顧客と売り手を繋ぐ「マッチング系サービス」が地方圏の不動産会社にもたらす影響について、主に述べてまいります。
※本稿は、IT導入を検討中、或いは売上不振でお困りの地方圏の不動産会社の担当者様を対象とした記事となっております。

不動産業界の現状と課題

先述した通り、不動産業界では、社会課題や社会情勢の影響によって、各企業の売上が伸び悩む状況が続いています。実際、不動産業界の市場規模は2020年以降、約3%減少しており、2019年をピークに減少傾向にあることがわかります。

市場規模が縮小する不動産業界の中でも、地方圏の不動産会社は特に苦境に直面している状況です。
なぜなら、地方圏の不動産を購入・賃貸する潜在的な顧客自体が主要都市への移住によって減少傾向にあるためです。

そして、潜在的な顧客の数が減少することによって生じる問題が、負動産の比率増加でしょう。
不動産会社にとって負動産は、利益を生まず、継続的な管理費を要することから経営におけるボトルネックになりえます。
そのため、地方の不動産会社はまず空き家の比率を下げるべきなのですが、従来はその方法が存在していませんでした。
しかし、不動産業界で注目を集めている「不動産テック」の活用によって、地方の不動産会社の課題は解消できると考えられます。

不動産テックの概要と潮流

不動産テック(通称Prop Tech、ReTech:Real Estate Tech)とは、「不動産」×「テクノロジー」の造語であり、不動産業界の課題や独自の商習慣を変革するためのテクノロジー全般を指します。

近年、日本の不動産業界で注目を集めており、矢野経済研究所によると、日本国内の不動産テック市場はこのまま右肩上がりに成長を続け、2025年度には現在の約2倍となる1兆2461億円にのぼるとされています。

注目を集める不動産テックですが、その事業領域は多岐にわたり、12のカテゴリーに分類することができます。

https://retechjapan.org/retech-map/

AR・VR AR・VRの機器を活用したサービス、AR・VR化するためのデータ加工に関連したサービス
IoT ネットワークに接続される何らかのデバイスで、不動産に設置、内蔵されるもの。また、その機器から得られたデータなどを分析するサービス
スペースシェアリング 短期〜中長期で不動産や空きスペースをシェアするサービス、もしくはそのマッチングを行うサービス
リフォーム・リノベーション リフォーム・リノベーションの企画設計施工、Webプラットホーム上でリフォーム業者のマッチングを提供するサービス
不動産情報 物件情報を除く、不動産に関連するデータを提供・分析するサービス
仲介業務支援 不動産売買・賃貸の仲介業務の支援サービス、ツール
管理業務支援 不動産管理会社等の主にPM業務の効率化のための支援サービス、ツール
ローン・保証 不動産取得に関するローン、保証サービスを提供、仲介、比較をしているサービス
クラウドファンディング 個人を中心とした複数投資者から、Webプラットホームで資金を集め、不動産へ投融資を行う、もしくは不動産事業を目的とした資金需要者と提供者をマッチングさせるサービス
価格可視化・査定 様々なデータ等を用いて、不動産価格、賃料の査定、その将来の見通しなどを行うサービス、ツール
マッチング 物件所有者と利用者、労働力と業務などをマッチングさせるサービス(シェアリング、リフォーム・リノベーション関連は除くマッチング)
物件情報・メディア 物件情報を集約して掲載するサービスやプラットフォーム、もしくは不動産に関連するメディア全般

 

不動産業界の課題解消を目的とした様々なサービスやツールが見られますが、全体の潮流としては3つに分類できます。

1:マッチング系サービス

物件所有者と利用者、また不動産営業担当者同士のマッチングさせるためのサービス
(例:利用者のニーズに合った物件を提示するAIマッチングシステムを搭載したプラットフォーム)

2:データ蓄積・分析系サービス

不動産に関するデータを蓄積するツール、また蓄積したビックデータを分析するためのサービス
(例:ビックデータのAI分析によって、不動産の適正価格を算定するサービス)

3:業務支援系サービス

不動産売買・賃貸の仲介業務、また継続的な不動産の管理業務を効率的にするための支援サービス
(例:スマートフォンのSMS(ショートメッセージサービス)で見込み客へ自動的にアプローチをかけるツール)

上記の内、地方圏の不動産会社の課題を解消する上で大きな役割を果たすのがマッチング系サービスだと考えます。

マッチング系サービスのもたらす効果

マッチング系サービスは、先述した通り「物件所有者と利用者、また不動産営業担当者同士のマッチングさせるためのサービス」を指します。

不動産会社はこのサービスを活用することによって、長期間成約していない空き物件を、有用な(=利益を生み出す)物件に変えられる可能性が高いと考えます。
その理由は、マッチング系サービスを活用することによって「効率的な顧客開拓」「空きスペースの収益化」が可能となるためです。

1:高精度AIマッチングサービス(効率的な顧客開拓)

  • サービス概要:事業者間の不動産売買に特化したプラットフォームにおいて、非公開物件情報をベースに、物件と顧客をAIがマッチングし、新たな不動産売買の機会創出を実現するサービス
  • 見込める効果:従来よりも効率的に見込み客へとアプローチすることができる

2:スペースシェアリングサービス(空きスペースの収益化)

  • サービス概要:空きスペース(=空き家)などの遊休資産を、インターネットを介して貸し出すことができるプラットフォーム・マッチングサービス
  • 見込める効果:空きスペース(=空き家)を収益化できる

これらのサービスを用いることによって、従来よりも効果的に見込み客へとアプローチすることができ、かつマネタイズの手段が不動産売買・賃貸に限定されなくなったことで、空き家を腐らせずに有効活用できると考えられます。

ここまでで、マッチング系サービスが不動産会社の売上拡大において効果を発揮することはご理解いただけたかと思いますので、次項では、地方圏の不動産会社に対して特に大きな効果が発揮されると考える背景について述べていきます。

地方圏に対して効果的な背景

マッチング系サービスが地方圏の不動産会社に対して大きな効果を発揮すると考える理由は種々ありますが、大きく不動産の需給バランスと社会全体のトレンドの2つによるものと考えております。
以下に詳説します。

1. 不動産の需給バランス:地方圏の不動産の供給過多

冒頭でも述べたように、地方圏の不動産は供給過多の状態にあり、人口減少や少子高齢化といった社会課題によって、その傾向はますます顕著なものとなっています。
実際、地方圏における不動産の空き家率は都市部と比較しても年々増加しており、都市部が約10%であるのに対して、地方圏は約17%を占めている状況です。

このような供給過多の状態は一見すると良くないことのように思えますが、逆に言えばそれだけ利用者に対して不動産を供給するキャパシティがあることを示しています。
マッチング系サービスは、空きのある不動産と利用者をマッチングさせるためのサービスですので、需要のほうが大きい都市部よりも地方圏においてより効果を発揮するものと思われます。

2. 社会全体のトレンド:テレワークの普及による地方移住への関心増加

内閣府の行った調査では、東京圏在住者の34.2%が「地方移住に関心がある」と回答しました。
新型コロナウイルスの影響によって、新たなワークスタイルとして定着し始めているテレワーク環境での勤務であれば、わざわざ都心にいる必要がないため、ゆとりをもって生活できる居住空間を求めて地方移住に関心を持つ人が増加しているようです。
このようなトレンドは、地方圏の不動産会社にとっては追い風であり、地方移住に関心を持った利用者と効果的にマッチングできる高精度AIマッチングサービスは、地方圏の不動産会社に対して、大きな効果を発揮すると思われます。

地方圏の不動産における供給過多の現状、また日本社会全体で見られる住環境に対する意識の変化から、地方圏の不動産会社は都市部の不動産会社と比較して、よりマッチング系サービスの恩恵を受けることができると考えられます。

総括:不動産テックが地方圏の不動産会社にもたらす効果

本稿では、不動産業界の現状および、地方圏の不動産会社の課題について述べた後、不動産テックのマッチング系サービスがもたらす効果について、その背景とともに述べてまいりました。

結論、注目を集めている不動産テックの中でも、特にマッチング系サービスが地方圏の不動産会社の売上不振を解決できる可能性を秘めていると思われます。
そして、本稿で解説した不動産テックをはじめとしたITサービスの進歩は目覚ましく、マッチング系サービスに限らず、革新的なITサービスを取り入れることが、今後の不動産業界で生き残るカギになるのでないでしょうか。

空き家を有効活用できず悩みを抱えている不動産会社にお務めの担当者様にとって、本稿が一助となれば幸いです。

 

【参考】

安原 拓海

アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/アナリスト
2020年早稲田大学文化構想学部卒業。ITコンサルティング分野において、CRM/SFAシステム導入支援の実績を保有。