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多忙な医療業務を効率化する電子カルテのメリットとは

 

はじめに:電子カルテとは

現在の医療業界では「2025年問題」がささやかれており、戦後すぐの第一次ベビーブーム(1947年~1949年)の時に生まれた、いわゆる団塊の世代が後期高齢者(75歳)の年齢に達することで、医療や介護などの社会保障費の急増の懸念があります。そのため業界では問題解決に向けて様々な取り組みがなされており、「電子カルテ」はその手段の1つです。

そもそもカルテは患者様の診察内容や診断結果、処方薬や経過について記載したもので、それをパソコンやタブレットなどを用いて作成し、電子的なデータとして保存できるものを「電子カルテ」と呼びます。

電子カルテのメリットとして情報がデータベースに保存される為、紙のカルテのように「保管スペースが年々増えていく」といった心配がなくなるだけでなく、業務効率の改善などの期待から電子カルテの普及は年々広がっています。

 

(参照:https://clinics-cloud.com/karte/function/24)

 

上記グラフは、電子カルテの国内販売金額と販売数の推移(2020年以降予測値)であり、今後さらなるニーズの拡大と導入施設の増加が見込まれることが分かります。

本記事では、「紙カルテのデメリット」「電子カルテのメリット」「電子カルテのデメリット」の3点をテーマに、電子カルテ導入を考える医療機関や、電子カルテについての基礎知識を求める方に参考にしていただければ幸いです。

 

紙カルテのデメリット

紙カルテの運用には、以下の課題があります。

  • 医師とスタッフの情報共有に時間が掛かる

紙カルテのメリットは紙とペンがあれば使用でき、PC操作などのITリテラシーも特に必要ではありません。しかし、患者が来院してから紙カルテを用意し、スタッフが診察室まで運び、診察が終わると紙カルテを受付に戻し、そこからカルテの情報を見ながら会計するという手順が必要となります。これによってそれぞれの時間がかかるため、患者にも待ち時間が多く発生してしまいます。

 

 

 (参照:https://www.mdnt.co.jp/insight/mr/wait-time.php)

 

上記は患者が抱える外来時の不満トップ10である。「診察待ち時間」に対する不満が22.2%と最も多く、次いで「駐車場」17.2%、「会計待ち時間」16.7%と続きます。
また、「診察・予約時間への配慮」もトップ10入りしていることから、外来患者からは、「時間」に関する不満が高いことが伺えます。

上記より、紙カルテでの運用は、時間のロスを生み患者の不満度を上げてしまい、結果的に医療サービス全体の満足度を下げてしまうことになると推測されます。

 

  • 手書きの文字読み取れない、読み間違えてしまうリスクがある

実際に紙カルテで運用する医療現場において「文字が読みにくく困ったことがある」などの意見は一定数あり、効率的な業務を進める上での課題になっています。また紙カルテの文字が読みづらいがために、「読み間違い」が発生し誤った医療判断になってしまったり、記入した数字を読み間違えてしまい用量のミスが生まれてしまえば、患者の命に係わる問題にも発展しかねません。

 

上記以外にも、紙カルテは「保管場所の確保が大変」、「誰かが使用中は他のスタッフが閲覧・編集できない」など複数の課題を抱えており、業務改善や生産効率向上、医療の質向上に向けての足かせになっています。

 

電子カルテメリット

では、電子カルテの導入した際にどのようなメリットがあるのか、以下で述べていきます。

  • 各部門で診察情報をいつでも使用できるようになる

診療情報は電子化されクラウド上(オンプレミスの場合もある)で保存されているため、いつでも病院内の各部門で共有することできます。また物理的に情報を所有してないため紙のカルテを探す際の手間が省かれることや、部門間での同時閲覧を可能にします。

診察の際は受付情報を入力すれば、患者のカルテを用意する必要がなく、診察室のパソコンにも瞬時に反映されます。また会計処理も自動で計算されるため短時間で済むことから待ち時間の解消に大きく貢献し上記でも説明した患者の待ち時間の短縮にもつながります。

 

  • 手書きに比べて文字が読みやすい

カルテ上の文字情報は基本的に印字(PCやタブレット上で入力された文字)になるので、読み間違いや転記ミスは大幅に減ると考えられ、医療事故の防止が見込まれます。またこれまでカルテの解読に時間がかかっていた医療機関に関しては生産性の向上も期待できるでしょう。患者側も電子カルテで入力情報に不備や漏れがなくなれば、安心して診察・治療を受けことができます。

 

  • CTやMRI検査といった画像データなどの取り込みもできる

電子カルテでは、診療における細かな文字情報でだけでなくCTMRI検査といった画像データなどの詳細な情報を記録・共有することができ、紙カルテ以上の質の高い患者情報の記載が可能です。一箇所に医療データ集約できる点から業務の効率化や業務品質の向上を実現します。

 

  • 情報の不備を補完してくれる機能がある

医師がオーダーした薬剤に対し、電子カルテ上に不足している病名があった場合や診療において投与限度量を超える場合のアラーム機能などがあり、実務でおこりえる不備を電子カルテ上で発見し、未然に通知することでより安全な医療の提供が可能になります。

 

  • 関係者間での情報共有がスムーズになる

電子カルテは各パソコンまたはデバイスにデータが保管されているため、複数の医師やスタッフが離れた場所からでも同じ診療情報を参照し、診療計画の検討や、患者の状態把握を行うことが可能です。患者が医療機関を移る際も紹介状や診断書などをわざわざ作成しなくても関係医療機関間で電子的患者情報の共有が可能になります。患者のカルテ情報や病院内での情報を、法人内の介護施設や事業所と共有でき、スムーズな医療・介護連携の実現にもつながります(病院と介護施設の両方を運営する医療法人の場合が該当)。また医師は紹介状や診断書など各種書類の作成時間を短縮でき、その分、カルテ画面を見せながら丁寧に説明するなど、患者のために時間を取って、診察が可能になります。

 

電子カルテのデメリット

上記で述べたように、電子カルテには医療機関や患者に多くの恩恵を与えることができる反面、いくつかののデメリットがございます。

以下が電子カルテのデメリットです。

  • 慣れるまでに時間を要する

電子カルテには様々な機能が備わっており、操作に慣れるまでにある程度の時間を要するケースがあります。そのため、スタッフ全員が使いこなすまでは想定以上に時間と労力がかかってしまうことも考えられます。ほとんどの医療機関は紙カルテの使用歴が長く、これまでのルーティンを変えるには、それなりの苦労が必要になります。

また大型クリニックにくらべれば相対的に患者数は少ない地域密着型の医療機関では、カルテ自体も院の医師と看護師が見る程度であり、特に電子化せずとも不便があまりない場合も考えられます。そのために、紙カルテの使用歴が長く、「いまさら電子カルテにしなくてもいいだろう」「電子カルテより紙のほうが慣れている」などの理由から、電子カルテを導入しない選択をしている病院が多いようです。

 

  • 費用面の負担が大きい

電子カルテは、導入費用に加え、月々の運用コストも必要になり、小規模の病院には高価であり、ランニングコストを加味すると費用対効果が見込めないという考えから、電子カルテの導入を見送っている病院もあります。最近ではクラウド型電子カルテの登場により、電子カルテ導入費用は比較的安価になってきており、徐々に小規模の病院の障壁も取り除かれつつあると言えます。

 

  • IT人材の不在

大手の病院の場合、IT部署が存在し、メンテナンスや問い合わせに対応してくれます。しかし、小規模医院の場合は、医療IT専任担当者が不在なことが多く、院長や看護師が自ら対応する必要がありました。人的・時間的余裕のなさから、導入を見送ってきた病院もこれまであったと考えられます。

 

まとめ

以上が「紙カルテのデメリット」「電子カルテのメリット」「電子カルテのデメリット」です。

病院の規模や体制によって電子カルテ導入に費用対効果はそれぞれです。

コストとリターンのバランスを考慮して各病院が導入するか否かを決めていく必要があります。

本記事が電子カルテ導入を考える医療機関の方々等の一助になれば幸いです。

 

 

 

 

【参考】

CLINICクラウド診療支援システム「クラウド型電子カルテとは?普及率と今後の見通しなども解説」

株式会社メディネットHP

株式会社ワイズマンHP

株式会社ワイズマンHP

板倉勇輝

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト