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BtoBマーケティングにおけるカスタマージャーニー

はじめに

インターネットの普及・高速化や様々なシステムの開発、昨今のコロナ禍等に伴い、デジタルマーケティングに対する注目度が高まっている。だが、いざデジタルマーケティングを実践しようと考えも、具体的に何から始めればよいのかわからないと悩む人も少なくないと思われる。事実、どうすればよいかわからないために、とりあえずデジタルマーケティングをやってみようと成功した企業の事例をもとに同じようなシステムを導入した結果、失敗したという企業もいる。

彼らの失敗の要因は、システムを入れることがデジタルマーケティングだと考えてしまっていたからだ。デジタルマーケティングを成功させるには、システムを入れる前に自分の実践したいデジタルマーケティングの全体像を把握しなくてはならないのだ。そしてその把握のために有効になるのが、今回とりあげるカスタマージャーニーである。

 

BtoBにおけるデジタルマーケティングへの重要性

デジタルマーケティングの注目度や重要性は、BtoBビジネスにおいても急激に増している。ここ最近で注目を集めるようになった一番の理由はコロナウイルスによるビジネスのデジタル化・オンライン化が急務となった事だが、そもそもデジタルマーケティングを積極的に実践しているBtoB企業の収益性が向上していることから、従来のビジネスより進化したビジネスと考えられている

参照:BtoBにおけるデジタルマーケティングと営業戦略について

 

Webマーケティングからデジタルマーケティングへの進化

カスタマージャーニーの重要性を理解する上で、先ずはWebマーケティングからデジタルマーケティングへの進化の過程を把握しなくてはならない。

WebマーケティングはSEO対策やLPの最適化、CV率の増加などを目的とした施策である。そのため、サイトの訪問者、利用者の増加及び会員登録やサイト内で紹介している製品購入などの、Webサイト自体の最終目的を果たしてもらうための方法を考えるものである。

一方デジタルマーケティングは、WebSNS以外の、例えば顧客の位置情報や行動履歴、使用しているデバイスの情報等といったものから顧客特性などを分析し、それらをもとにマーケティングを行う施策である。このように、デジタルマーケティングはWebマーケティングより広義な施策であり、より進化したものであるといえる

この進化はひとえにインターネットの普及によってもたらされたといえる。今や11台スマートフォンを持っていることが当たり前になりつつあり、インターネットとつながる機会が増え、それに合わせてオンラインチャネルも多様化している。そのため従来のWebマーケティング施策だけでは潜在顧客との接点を持ちづらくなった。この変化に適用するためには、様々なチャネルへの対応や顧客データの分析、分析結果をもとに一人ひとりのニーズに合った情報提供を行うことが求められるようになり、結果としてデジタルマーケティングへと進化したのだ。

参照:デジタルマーケティングを実践するにあたって、気をつけなくてはいけないこと

 

カスタマージャーニーを描く必要性

カスタマージャーニーとは

前述のとおり、デジタルマーケティングにはデジタル世界での顧客の特性や行動を分析、予測する必要があるが、それを行うに置いて最も考えなくてはならないことがカスタマージャーニーである。

そもそもカスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスを認知した後、実際に購入するまでの間にどのような行動をするのかを旅に例えて追うものだ。また、それを実際に図式化したものをカスタマージャーニーマップという。つまり、カスタマージャーニー及びカスタマージャーニーマップを作ることで、顧客がどのようなプロセスで認知・行動・購買を行っているのかを具体化する事ができる。

カスタマージャーニーを描くに置いてまず考えなくてはならないのがゴールペルソナである。

ゴールは言葉の通り、デジタルマーケティング施策の最終目的にあたる。ただ、そのゴールがサービスを購入してもらうことなのか、それとも資料請求や会員登録をしてもらうことなのかによって分析する事項は変化する。

ペルソナとは、自社のサービスを利用する顧客像を指す。しかしこれは、20代女性や30代男性などといった粒度ではではなく、より詳細な人物像を描く必要がある。

例えばスマートフォンのニュース記事アプリの場合なら、「電車通勤・通学を行っており、新聞を購読するつもりはないものの、電車に乗っている時間の暇つぶしにニュースを読みたいと思っている20代男性」などといったペルソナが考えられる。身近にいる人を例にするなどして、対象となる顧客をより具体的に思い浮かべることが、ペルソナを設定するにおいて重要なポイントである。

カスタマージャーニーの重要性

ここまで述べた通り、カスタマージャーニーとは顧客の購買行動を可視化するものであり、カスタマージャーを描くことによって以下のメリットが得られる。

  • 顧客の行動を俯瞰することで、現状のマーケティング施策の課題を可視化できる
    • 現状の施策に顧客の意思も織り交ぜるため、より網羅的かつ多角的に課題を確認できる
  • 把握できる顧客行動の幅が広がる
    • スマートフォンの位置情報等を知ることにより、従来の方法では把握できなかった顧客行動まで網羅することができる
  • マーケティング関係者が共通の認識を持てる
    • マーケティング関係者全員から情報や見解を持ち寄り、1枚のカスタマージャーニーマップを作成するため関係者全員が施策の状況や課題を同時に把握することができる
  • サプライヤー目線ではなくユーザー目線でマーケティングを考えられる
    • カスタマージャーニーの主観はペルソナに設定した顧客であるため、企業の希望的観測などが入る余地が少ない
  • 解決するべき課題の優先度が明確化する
    • カスタマージャーニーマップによって、顧客の行動順番に追うことができるようになるため、マップ内で発生している課題を顧客行動のフェーズごとに見つけ、時系列化する事ができる

これらのメリットにより、デジタルマーケティングに求められるデジタル世界での顧客行動の把握ができる上に、マーケティング施策の課題やその優先度が可視化され、どの様に施策を改善すればよいかが一目でわかるようになる。そのため、より迅速かつ的確な施策の改善が行えるようになり、急速に変化するデジタル世界での顧客行動の変化に対応しやすくなる。

BtoBビジネスにおけるカスタマージャーニー

カスタマージャーニーの描き方は、BtoCビジネスとBtoBビジネスとでは大きく異なる。特に異なるのがペルソナの対象と設定方法だ。

前述の例のようなBtoCビジネスなら、ペルソナはサービス利用者1人に設定することができるが、BtoBビジネスにおけるペルソナは企業に属する複数人となる。そのため、購入までの意思決定に複数の意見が反映され、より論理的な判断がされる上に、稟議等により購入までの意思決定の時間が長引く。

BtoBにおけるペルソナの設定を行うにおいて、2段階の絞り込みを行う必要がある。最初の絞り込みはターゲットとする企業のセグメントだ。自社の売上上位企業の業種、商材、企業規模、サービスを購入した部門や担当者を分析し、企業のペルソナを設定する。次の絞り込みは企業内の購買関係者及びキーパーソンの絞り込みだ。キーパーソンとは、サービス導入までに関わる全ての人のうち、サービス導入のために稟議を回し、導入のために他者を説得する人を指す。それがサービスを導入する部門内の人か、またはその上司か、それとも稟議を承認する役員なのかを探し出さなくてはならない。

つまりBtoBにおけるペルソナは、自社サービスの顧客となり得る企業セグメント内での、実際にサービス導入に尽力するキーパーソンなのだ。

また、BtoBビジネスのカスタマージャーニーにおいてもう一つ検討しなくてはならないのは、購買後の継続的取引だ。BtoCビジネスは消費財を取り扱うことが多いのに対し、BtoBビジネスではシステム等の継続して利用してもらうサービスが多い。そのため、サービスを継続的に利用してもらうためにも、導入後の顧客行動の把握が重要になる

実装までに行うステップについて

デジタルマーケティングを実装するにあたって、カスタマージャーニーを描くだけでは意味がない。実際に活用するために必要なステップを、以下のカスタマージャーニーマップを例に説明する。

 

デジタルが関与する顧客との接点を抽出

カスタマージャーニーを描き、顧客がどのようにサービスを認知し行動するのかを可視化する事ができたら、まずは顧客の行動の中でデジタルと接点を持つ機会を抽出する。
以下の例においては黄色の個所が顧客のアクション・チャネル・思考においてデジタルとの接点がある個所にあたる。

 

収集できる情報や実施可能な施策の精査

デジタルとの接点が全て把握できたら、どのような情報を集めることが可能か、またどのようなデジタルマーケテイング施策が有効かを、接点ごと以下のように洗い出す。

 

例えば顧客がサービスを認知する際、Webやブログを訪れるのであればリスティング広告を、SNS広告を見ることが多いのであればSNSマーケティングを行う必要がある。

また、Web検索やSNS広告から自社HPやサービスサイトを閲覧したした場合は訪問履歴が、そこから問い合わせ等を行った場合は顧客の所属する企業や業種、連絡先まで把握可能だ。そしてこれらの情報があれば、例えば手にした顧客情報をもとにMAを行い、顧客との接点をよい広げることができる等、新たなデジタルマーケティング施策を検討することも可能だ。

このように、カスタマージャーニー内でどのようにデジタルを活用するべきかを把握することが、デジタルマーケティングを行うまでに考えなくてはならないステップである。

 

【参考】

大須賀功

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。