KNOWLEDGE & INSIGHTS

デジタルマーケティングで必要な分析手法

はじめに

 皆さんは「パレートの法則」をご存じでしょうか。

 これは「上位の20%にあたるセグメントが、全体量の80%を生み出している」ということを表す法則です。より有名な働きアリの法則(20%はよく働き、60%は普通に働き、20%は怠ける)は、このパレートの法則の亜種と言われています。

 

 このKnowledge & Insightをご覧になっている方はほとんどがビジネスマンだと思いますので、企業内の事例で具体的に例えますと「会社の上位20%の社員が、全体の利益の80%を生み出している」「仕入れ先企業の上位20%が、全体の仕入れ量の80%を供給している」といった状態がそれにあたります。

 パレートの法則はあくまで経験則であり、必ずしも全ての場合に当てはまるというわけではないのですが、昨今のビジネスの世界で仮説を立てる際には一定の信頼性を伴って使われているようです。

 

 B2Bマーケティングに関してこの法則を当てはめて考えると、「上位20%の顧客が全体の80%の利益を生み出す」という一つの仮説が成り立ちます。定義は種々ありますが、この上位20%の顧客をロイヤルカスタマー等と呼称することもあります。

 上記の「上位20%の顧客が全体の80%の利益を生み出す」ことを正として考える場合、企業のB2Bマーケティングにおける以下の2つの重要課題が浮き彫りになってきます。

 

  • 上位20%になりうる顧客をどのように特定するか
  • 特定できたとして、その顧客へのアプロ―チとして最も効果的な方法は何か

 

 上記2つの課題に対応していくという考え方は「ABM」と呼ばれています。この概念自体は新しいものではないのですが、近年になって注目されていることもあり、今回の記事ではこのABM及びABMを実施するにあたって基本となる、企業の属性分析について紹介していきます。

 

ABMとは

 

 ABMとはAccount Based Marketing(アカウント・ベースド・アカウンティング)の頭文字で、ターゲットアカウントを定義し、アカウント別に営業・マーケティング情報を集約・分析し、アカウント別に営業・マーケティング組織を再編成し、ターゲットアカウントのLTV最⼤化を⽬指すマーケティングを指しています。平易に表現すると「自社にとって価値の高い顧客を抽出し、最適なマーティング方法でアプローチする」という概念です。

 

 従来のマーケティング手法はこれと対比して「リード・ベースド・マーケティング」と呼ばれており、とにかくリードをたくさん集めて担当者リストを作成し、地道に一つ一つアプローチを実施していくというものでした。このような方法は、受注期待値の低い企業と高い企業に対して同様にリソースを割く必要があるため、効率が悪く、営業人員への負担が大きくなる傾向が強いという特徴があります。現在でも多くの企業がこのような営業手法に頼っているのが現状です。

 

 これに対して、ABMを実現することができれば、膨大な企業アカウントの中から購買期待値の高い企業を選出して、限られた営業リソースを集中して効果的にアプローチを実施していくことができます。また、ターゲット企業の属性を事前に把握することで、ある程度個別に提案をカスタマイズして営業を実施することが可能になり、成約率を大きく向上させることができるのです。

 

 MAツールやSFAツールの台頭により、膨大な顧客データを一つの場所で一括管理することは比較的容易になってきています。それに加えてABM分析ツールを導入し、組み合わせて利用することで、販売率/販売数の高い属性のセグメントを特定することができるのです。このように近年簡単にABMを実施できるような体制が整ってきていることが、ABMが注目を集め始めた原因でもあります。

 

ABMの属性分析について

 

 ABMの実施のためには、膨大な企業データを分析することが求められるため、FORCUSuSonerといったABM機能を搭載したツールを用いるのが通常の方法となっています。

 このようなABMツールには全企業の属性情報の網羅的なデータベースが組み込まれており、既存顧客データから「どのような属性を持つ企業がターゲット企業なのか」仮説を立てた上で、あらゆる企業の中からその属性を持つ企業を自動で抽出していくことができます。

 

 以下に属性情報の一部を列挙してみました。

 

  1. 財務情報や開示資料からの定量データからの属性

 人件費率が高い企業、棚卸資産回転期間が長い企業、販売管理費率が高い企業、IPO実施企業、設備投資が大きい企業、オフィス移転需要が高い企業・・・等

  1. IR情報に掲載されているキーワードからの属性

 コンプライアンスを強化している企業、IT投資を積極的に推進している企業、CSR活動を積極的に実施している企業、オープンイノベーションを推進している企業・・・等

  1. 求人媒体サイト掲載情報からの属性

 新設部署/拠点の募集がある企業、新卒を募集している企業、リモートワーク/古フレックスをアピールしている企業、女性活躍をアピールしている企業・・・等

  1. 利用サービス情報からの属性

 Facebook利用企業、企業HPに埋め込まれたサービスタグが1つ以下の企業、HPA/Bテストを実施している企業、ウェブ接客ツール導入企業・・・等

 

 上記はあくまで一部ではありますが、ABMツールを用いることで、このような切り口で販売期待値の高いセグメントを特定していくことが可能になっていきます。(ツールによりますが、適切な属性の選択は、ABMツールがほぼ自動的に実施してくれます)

 

 そのセグメントの個別企業の属性情報を精査し、個別の企業に対して「どのようにアプローチしていくべきか」という示唆を案出することができます。この示唆出しを正確に実施するためは、マーケティングに関する知識だけではなく、営業担当者による経験に基づく知見も必要になってきます。

 そのため、ABMツールにより抽出されたリードに対してのアプローチ方法を分析していく会議には、マーケティング部門だけでなく、営業部門の担当者なども含めた会議体を設けていくことが必要になってきます。

おわりに

 今回はマーケティングにおける分析の1つ、ABMツールを用いた属性分析を紹介しました。

 

 FOCUS等のABMツールでは、既存顧客情報と様々な情報が付与されたオリジナルの企業リストを連携することで、ロイヤルカスタマーとなりうる企業の属性を特定します。そしてその個別の企業の状況を属性から分析し、適切なマーケティング/営業施策を実施することで、人的リソースを集中して効果的なマーケティングを実現するのです。

 このような規模の大きな企業属性の分析は、現実的には専門のツールを用いなければほぼ実施不可能であり、そのためABMを実現するためにはABMツールを導入することが不可欠になっています。

 

 最後になりますが、ABMは目に見えて営業効率が上がるために、マーケティング技術の進歩とともに近年注目を集めています。しかしその一方で、部門の垣根を越えた全社的な協力が必要となる場面が多く、その協力の下で適切なターゲティングやアプローチ方法を討議/実行していく必要があります。そのため、ややもすると営業部門とマーケティング部門の軋轢を生みやすいなどのリスクも存在しています。

 ABMツール導入の際には、社内の調整をよく実施し、マーケティング部門だけでなく部門横断的なプロジェクトチームを編成することで、その効果を最大化することができるでしょう。

 

【参考】

 

 

鈴木勇剛

アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/コンサルタント
防衛省自衛隊において幹部自衛官として3年間勤務し、その後アーツアンドクラフツに参画。新規事業領域の調査/計画から、BPRや海外マーケティングを始めとする実行支援まで、多岐に渡るプロジェクトにおいて顧客へ価値を提供している。全体最適を念頭に置いた戦略的発想に優れ、常時顧客とフェーシングしてきた経験から柔軟なプロジェクト推進が可能。