
Geminiの音楽作成機能を使ったことはありますか。
AIにテーマやテンポ、曲調を伝えるだけで、それなりにいい感じの音楽をつくることができます。
たとえば、
「仕事がはかどる曲を、明るい感じで」
「サウダージな雰囲気のアレンジにして」
そう入力するだけで、メロディやリズムが瞬時につくられていきます。しかも、そのクオリティは年々上がっていて、人がつくったものかどうか、正直わからなくなってきています。
音楽をつくるには、楽器を弾く力や、楽譜を読む力、音を組み立てる知識や技術が必要でした。
術がなければ、自分の中にある感情やイメージを、音楽という形にすることはできませんでしたし、
それがいわば特殊能力として尊敬を集め、職業としての仕事となる源泉にもなっています。
けれども今、AIはその「術」の多くを代替し始めています。
誰でも、自分の感じたことや伝えたいことを言葉で入力するだけで、音にできるようになりました。
「こんな気持ちを、こんな雰囲気で」
そう伝えるだけで、それなりの曲ができてしまいます。
同じことが、ものづくりの世界でも起きようとしています。
設計の補助、品質の検査、工程の最適化。
これまで熟練した職人の経験や勘に支えられていた判断が、データやアルゴリズムによって再現され始めています。
精度の高いものをつくるための「術」は、これからますます一般化していくでしょう。
もちろん、それ自体は悪いことではありません。
多くの人が、より簡単に、より高い水準でものをつくれるようになることは、社会にとって大きな進歩です。
私自身も今年に入ってから、仕事や生活の中で、かなり深くAIを使うようになりました。
文章、画像、動画、リサーチ、設計、分析。
ここ数ヶ月だけでも、さまざまな領域でAIの進歩に驚かされています。まるで飽きることのない玩具箱を手に入れた子どものように、寝る時間も惜しんでAIに触れています。
ただ一方で、AIができることを理解し可能性を感じるほどに、別の感覚も湧いてきます。
それは、
「この驚きは、一過性のものなのか、それとも本物なのだろうか」
という感覚です。
少し前までは、SNSで見たことのないような構図の動画が流れてくると、素直に「すごい」と思っていました。
けれども最近は、同じようなものを見ても、どこかで「どうせAIでしょ」と感じてしまうことがあります。
これは、私だけの感覚ではないと思います。
AIによって、これまで難しかった表現が誰にでもできるようになる。それは、とても大きな変化です。
でも、誰にでもできるようになった瞬間に、その驚きは少しずつ日常になっていきます。
そのとき、改めて問われること。
それは、「人がつくる意味とは何か」です。
少し歴史を振り返ると、似たような変化は過去にもありました。
約200年前、産業革命によって、工場は大量の製品を安定して生産できるようになりました。
それまで手仕事でしかつくれなかったものが、多くの人の手に届くようになりました。
モノは豊かになり、暮らしは便利になりました。
一方で、製品は少しずつ均質化していきました。
どこに行っても、同じような品質のものが買える。
そういう時代になると、人はただ「何を買うか」だけではなく、「どこで買うか」「どんな体験として受け取るか」に意味を求めるようになります。(当時生まれてきた百貨店という流通形態はそのひとつと言われています)
機能価値が揃っていくと、その先に感情価値への需要が生まれる。
AIの時代には、この流れがさらに加速するのではないかと感じています。
AIがさまざまな領域の機能価値を均質化していくほど、
「どこで買うのか」
「どんな体験として受け取るのか」
「なぜそれを買うのか」
という意味の重要性が増していきます。
そのひとつとして、「人がわざわざつくった」ということにも、これまでとは違う価値が宿っていくのではないでしょうか。
AIが高い精度で、再現性のあるものをつくれるようになるほど、人の手がつくるものには希少性が生まれます。
完全には再現できないこと。
つくり手の目や手の判断が入っていること。
その人、その瞬間、その関係性の中でしか生まれないこと。
そうした再現できないことにこそ、まさしく希少性の価値が宿る。
AIは多くのものを高い精度で再現できるようになります。
けれども、
「何を美しいと感じるか」
「何を良いものとするか」
「どこに最後のひと手間をかけるか」
という基準は、最後は人間の感情と意志が決めます。
そこに、人がつくる意味が残るのだと思います。
私たちが取り組んでいるのは、オーダーメイドの結婚指輪です。
ジュエリー全般に言えることかもしれませんが、指輪は機能だけで見れば、腕時計のように複雑な機構があるわけではありません。スマートフォンのように情報を処理するわけでもありません。
けれども、指輪にはとても強い感情的な価値があります。
ひとつは、金やダイヤモンドといった天然の素材によってつくられていること。
それらは、長い時間をかけて自然の中で生まれた、有限で希少な素材です。
もうひとつは、
「その一本だけのためにつくられた」
という事実です。
その人の手のサイズに合わせて。
ふたりの話を聞いて。
ふたりが大切にしたいことを受け取りながら。
世界に一本だけの指輪として形にしていく。
そこに、オーダーメイドの結婚指輪の価値があります。
AIが美しい設計図を描き、優れた3Dプリンターで精密に造形する技術は、これからさらに進んでいくでしょう。
けれども、
「あなたのために、私がつくりました」
という関係性そのものを、AIがつくることはできません。
結婚指輪の価値は、完成したものの美しさだけにあるのではありません。
誰が、誰のために、どのような思いでつくったのか。
ふたりがどんな言葉を交わし、どんな時間を経て、その一本にたどり着いたのか。
その過程まで含めて、指輪の価値になっていきます。
だからこそ、結婚指輪はAI時代にこそ価値が高まるプロダクトのひとつだと、私は強く思っています。
では、AIに背を向けて仕事をしていけばいいのでしょうか。
そうではないと思います。
一部の芸術品や特別なアーティストを除けば、AIを避け続けることは現実的ではありません。
私たちも今、AIを使いこなしながら、自分たちの仕事のあり方を見直し始めています。
オーダー図面のチェック。
仕様内容の確認。
お客様や市場に関するリサーチ。
情報整理や分析の補助。
時間がかかる作業や、正確さが求められる作業を、少しずつ、けれども大きくAIに任せていく。
最初は、効率化の効果がわかりやすい領域から始まるでしょう。
ただし、目的は単なる効率化ではありません。
私たちがAIを使う目的は、つくり手や職人が、本当に向き合うべきことにもっと時間を使えるようにすることです。
お客様と対話すること。
お客様の思いを受け取ること。
形にするために考えること。
手を動かし、目で見て、最後の美しさを整えること。
AIが情報を整理し、下支えしてくれるからこそ、人はより深く、人にしかできない仕事に向き合える。
私はそう考えています。
「AIによって、ものづくりのぬくもりや人と人との関わりが失われるのではないか」
そう感じる方もいるかもしれません。
でも、私はむしろ逆だと思っています。
技術が進むほど、人間が担うべき価値は、より純粋に「人間だからできること」へ近づいていく。
いや、その方向へと近づけていこうとする意志こそがなにより大事なのではないでしょうか。
AI時代のものづくりに必要なのは、AIを使うか使わないかという単純な話ではありません。
大切なのは、
AIによって何を手放し、
何を人の手に残すのか。
その線引きを、自分たちの思想として持つことです。
AIが指輪をつくれる時代だからこそ、問われることがあります。
なぜ、私たちはこの指輪を人の手でつくるのか。
その問いへの答えこそが、これからのithというブランドの核心になっていくのだと思います。
私たちは、時代から目を逸らさず、新しいテクノロジーに挑戦していきます。
そして同時に、人がつくる意味を見失わないものづくりを続けていきたいと思います。
Geminiがこのブログのイメージから生成した楽曲「過程という名の祈り」です。
※タイトルまで自動生成!やば、、
このnoteでは、ithのものづくりを通じて、AI時代のブランドや手仕事の価値について考えていきます。
過去の記事もあわせて読んでみてください。

アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、イノベーション・プロデューサーとしてB2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。
著書『ふるくてあたらしいものづくりの未来– ポストコロナ時代を切り拓くブランディング ✕ デジタル戦略』クロスメディアパブリッシング