KNOWLEDGE & INSIGHTS

AI時代のブランドと関係性

責任と信頼はどこに宿るのか

AIの進化によって、私たちはこれまでにない速度で「それらしいもの」を手に入れられるようになりました。

企画は数分で立ち上がり、デザインは瞬時に生成され、文章や提案も、一定の水準までは誰でも到達できます。

かつて専門性や経験に依存していた領域が、急速に解放されつつあります。

私自身も、事業戦略の思考補助から日々の業務、企画書、広告運用、さらにはプロダクト制作に至るまで、AIを前提に仕事を組み立てるようになりました。
一人であっても、従来の組織に匹敵するアウトプットを生み出すことが可能です。

その変化には、初めてインターネットに触れた頃のように自由を手に入れたような高揚感がありますが、同時にもうひとつ別の感覚も立ち上がってきます。

このアウトプットを、そのまま意思決定に使ってよいのか。
このサービスに、重要な情報を預けてよいのか。

表面的には整っている。しかし、その裏側にあるものは確かなのか。

より具体的にいうと、表面的に何ら違和感を感じないWebサイトのなかに、何か危険なものが埋め込まれていたとしても、普通の人たちはほぼ気づかないでしょう。

AIによって個々の制作や発信コストが下がり供給が増えるほど、「このコンテンツは信頼できるのか」「この発信者は責任をもっているのか」を問うようになると思います。

ここに、これからのブランドを考える起点があります。

関係性はどこから生まれるのか

ビジネスにおいて「関係性が重要だ」と言われます。しかし関係性は、意図して設計できるものではありません。

企業ができることはシンプルです。

約束を守ること。
品質を裏切らないこと。
困難な状況でも逃げないこと。

そうした行為の積み重ねによって、はじめて信頼が生まれます。そしてその結果として、関係性が成立します。

順序は明確です。

責任があり、信頼が生まれ、関係性が続きます。第一義的に、関係性は原因ではなく結果だということができます。

循環としてのブランド

けれども、ここで重要なのはこの関係が一方向ではないという点です。

一度関係性が生まれると、今度はそれを維持しようとする意思が働きます。

「この顧客との関係を壊したくない」
その意識が、次の責任を生みます。

責任が信頼を生み、
信頼が関係性を生み、
関係性がさらなる責任を生む。

この循環構造を支える枠組みこそが、これからのブランド形成においてより重視されるポイントになっていくはずです。

顧客と企業はどこで接続されるのか

この循環構造は外側に向けた表現であると同時に、内側にとっても重要な指針でもあります。

自社ブランドのith(イズ)について考えるとき、しばしば感じることがあります。

私たちが「たくさんよりもひとつをたいせつに」という言葉のもとに、できるだけ顧客に寄り添い、その願いを実現することは、一見利他的な行為に見えます。

しかし同時に、それを実現し続けること自体が自分たちの存在理由になっています。

自分たちは何者か。
何のために存在するのか。

その問いの答えは、お客様の期待に答えつづけること、つまりその関係性の関係の中にしか存在しません。

ブランドとは、顧客の期待と企業の存在意義が交差する場でもあるのです。

ブランドの重心は移動している

従来のブランド論やブランドに関するソリューションの多くは、

ストーリー
世界観
共感
感性

といった領域を中心に語られています。

当然これらは今も重要ではありますが、AIによってこれらの領域を整えることがよりスピーディで簡単な時代において、ブランドにおいて本当に重要な力点はそこではなくなっていくように思います。

この状況において問われるのは、どれだけ魅力的にみせられるかではなく、どれだけ一貫して引き受けられるかです。

つまり、

責任を持ち続けられるか。
信頼を維持できるか。

ブランドの重心は、感性から継続性へ、表現から責任能力へとより移動していくと考えています。

BtoBでこそブランドが重要になる

こうした変化は、BtoBの領域においてより顕著に現れると考えています。

企業間取引における営業やマーケティングも急速にデジタル化・自動化が進んでいます。AIによってこの流れはさらに加速するでしょう。

提案資料の作成、リード獲得、比較検討のプロセス、さらには意思決定に至るまで、これまで人が担っていた領域の多くがAIによって効率化され、情報の非対称性は急速に縮小しています。

その結果、表面的な提案力や情報量だけでは差がつきにくくなっています。どの企業も一定水準以上の「正しそうな提案」を提示できるようになっているからです。

 

けれども、価格、スペック、納期、供給安定性。
これらを総合した合理的判断が重視されるBtoB取引においては、企業として一過性ではない信頼ある関係性を構築できるかどうかこそが取引の成否に大きく影響します。

この関係性こそがブランドにおける重要要素になっていることはさきほど述べたとおりです。

 

しかしここで一つ、見落とされがちな点があります。

それは「人」の要素です。

どれだけスペックが優れていても、どれだけ条件が良くても、いざ問題が起きたときに、この会社は逃げないか。最後まで付き合ってもらえるか。

決断のギリギリのところに近づいてくるとき、一見すると非合理にも見える「人と人」の関係性の重要さが浮かび上がってきます。

担当者の顔が浮かぶか。
過去の対応に一貫性があったか。
約束が守られてきたか。

数値化しづらい要素ですが、企業としての意思決定においても無視されることはありません。

むしろ、リスクが大きいほどこの要素の比重は高まります。

つまりBtoBにおける「人と人」の関係性とは、単なる情緒的なつながりではなく、合理的判断を支えるための信頼の基盤です。

そしてその信頼は、個人を超えて企業としての一貫性をもつとき、そこにその会社のブランドとしての価値が存在しているはずです。

AIによって能力が均質化し、情報が透明化する時代において、最終的な差を生むのは、提案内容ではありません。

責任を引き受ける主体として、信頼される構造を持っているかどうかです。

こういった意味において、ブランドはBtoB領域でこそ重要な経営資産になっていくと考えています。

結びに

AIは能力を拡張します。
しかし責任を引き受けることはできません。

だからこそ、これからの時代において人と組織、ブランドに問われるのは、何をつくれるかではありません。何を引き受けるのかです。

あなたの会社/ブランドは、何に責任を持っているでしょうか。

その責任は、外から見える形になっているでしょうか。そしてそれは、継続されているでしょうか。

ブランドとは、責任・信頼・関係性の循環を成立させるための構造です。

その前提に立ったとき、ブランドという言葉の意味は、これまでとは少し違ったものとして見えてくるはずです。

吉田貞信

アーツアンドクラフツ取締役/ブランド事業部長。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、イノベーション・プロデューサーとしてB2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。
著書『ふるくてあたらしいものづくりの未来– ポストコロナ時代を切り拓くブランディング ✕ デジタル戦略』クロスメディアパブリッシング