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プロジェクトの運営において、対面でのコミュニケーションは依然として重要ですが、それだけで全てをカバーすることは不可能です。なぜWikiという「ストック型」の共有手段が不可欠なのか、その背景を探ります。
理想を言えば、チーム全員が同じ場所に集まり、ホワイトボードを囲んで細かな作業のすり合わせを行うのが最も効率的です。しかしそれだけでは、下記のようなリアルタイムな相談や記憶の風化などの問題が生じてしまいます。
この「ちょっといいですか?」ができないことで、メンバーの手が止まる。この「待ち時間」を、単なる効率低下で片付けていないでしょうか。
10人のチームで、全員が1日30分「誰かの回答待ち」や「資料を探す時間」に費やしているとすれば、月間で約100時間ものリソースが無駄になっていると言えます。あるいはコンサルの現場でメンバーがこの丸一日「ちょっといいですか?」ができないことによって、半端な成果物しかあがらないなんてことがあれば目も当てられません。
私たちが本当に問うべきは、リアルタイムのコミュニケーションの限界ではなく、「情報の蓄積共有を怠ることで、毎日どれほどの見えないコストを支払っているか」という経営・マネジメント上の損失です。
チャットツール(SlackやTeams)は情報の「フロー」(直近の状況報告、資料の即時連携など)には優れていますが、重要な仕様や手順がログの彼方に流れていってしまいます。Teamsの場合、ログを検索して確認することもできますが、メンバーの記憶があいまいになってくる可能性もあり、参照する際にはログを地道にさかのぼっていく必要があります。
Wikiはこういった記録を「ストック」(過去の重要決定事項や大多数のスタッフが確認しておくべき情報などを記録)し、いつでも誰でもアクセスできる「チームの脳」として機能します。
Wikiを作ることは単なる「ドキュメント作成」に留まらず、手順書という資産になることやナレッジトランスファーの効率化など生産性向上に寄与します。
個人の頭の中にしかないノウハウをWikiに書き出すことで、作業の標準化が進みます。
プロジェクトへの新メンバー参画時、Wikiがあるのとないのでは立ち上がり速度が数倍変わります。
事務手続きや環境構築は、プロジェクトの「成果」を直接生み出すものではありません。
ここで私たちが直視すべき問いは、「優秀なエンジニアや高単価なコンサルタントに、なぜ『本業以外』のコストを支払わせ続けているのか?」ということです。Wikiによるセルフオンボーディングの確立は、単なる親切心ではありません。チーム全体の稼働時間を「付加価値を産むコア業務」へ100%シフトさせるための、シビアなリソース最適化戦略なのです。
なお属人化が非常に激しい状況では、作業者自ら手順書として記録することは難しい可能性も高いため、場合によっては他のメンバーが作業を見ながら記録を付けて手順書化してあげたりするなど柔軟な対応を検討しましょう。
「最新の仕様書はどれ?」という混乱をなくします。「Wikiを見れば必ず正解がある」という信頼感が、チームの心理的安全性を高めます。
Wikiを作っても、中身が散らかっていては誰も読みません。
設計段階で「整理軸」を決めておくことが重要です。
作業者によって担当領域が明確に分かれている場合は、他の担当領域のメンバーが参照しやすいようその区分に従うのが最も直感的でしょう。
これはプロジェクト全体としてナレッジの蓄積が急務とされている場合、Wikiという形式で構築していくことで課題の解決につながります。

図1. Wikiの構成イメージ(プロジェクト全領域)
自分のチーム内など限られた領域に閉じる場合、まずは手順書などを中心に細分化する余地もあります

図2. Wikiの構成イメージ(プロジェクト担当領域)
具体的なイメージを持つために、構成例を検討してみましょう。
今回は、プロジェクトの担当領域に絞って検討する場合を考えてみます。
手順書は、「誰が読んでも再現できること」がゴールです。
OneNoteの場合、1つの文書の中に複数の階層を組み込むことができます。
一つのページに対して組み込めるサブページは2階層までなので、それ以上の階層になるようであればページを変更するなど工夫しましょう。

図3. OneNoteでの活用イメージ
一つの文書にまとめることにこだわらないのであれば、クラウドストレージ上でWikiを作ることもできます。
フォルダで階層を組んで個別に文書を設置する場合、掘り下げる階層に制限はありません。
ただし階層が深くなりすぎて検索性が落ちないように配慮しつつ構成を調整する必要があるでしょう。
さらにこの方法であれば、GoogleDriveに留まらず、OneDriveやDropboxなどのデータ格納ができるクラウドサービスにも活用することができます。

図4. GoogleDriveによる活用イメージ

図5. 個別の手順書ファイルの作成イメージ
Wikiは「作った時が完成」ではなく、「運用が始まってからが本番」です。
放置される「廃墟Wiki」にしないための工夫が必要です。
「いつ、誰が、何を変えたのか」がわからないドキュメントは、信頼性を失います。
多くのツールには履歴機能がありますが、重要な変更についてはページ上部に「Last Updated: 202X/XX/XX – 仕様変更に伴い追記(担当:○○)」といったメモを残すと親切です。
また大幅な変更が必要な場合は事前に管理者と相談し、具体的に変更したいところをすり合わせておくことで、「ここはいつのまにこんな記載になったの?」といった混乱を与えずに済みます。
Wikiの管理者を一人に決めすぎないことが大切です。
「ここは古いな」と思ったら、気づいた人が即座にアップデートする権限と空気感を作ります。
また質問されたら、口頭で答えるだけでなく「Wikiのここを更新しておいたから確認して」と誘導することで、Wikiを情報の中心に据えます。
細かい作業の流れを確認しながら説明する必要がある時は、すぐにWikiにある手順書を見せながら説明することで、Wikiが重要だと感じる文化をさらに醸成させることにつながるでしょう。
月に一度、30分程度で良いのでリンク切れの確認や運用されていない作業、作業自体の重複確認などの「Wikiの掃除時間」を設けます。
特にクラウドストレージで管理する場合、設定したリンクが期限付きであることもあります。
そのまま放置してしまってリンク切れになってどこにあるかわからないとなってしまうと、Wikiが機能しなくなってしまうので、こういった事態を避けるためにもメンテナンスをするようにしましょう。
また本業の業務が忙しくなってしまってメンテナンスが追い付かないとなってしまうような時は、リスト形式にして1つだけでもいいから確認しつつ、確認した期間が著しく古いものを優先的にチェックするといった工夫も有効でしょう。
ここで想定される導入ステップについてまとめてみましょう。
プロジェクトWikiを作成することは、最初は手間に感じるかもしれません。しかし、長期的に見れば、情報の検索コスト、教育コスト、そしてコミュニケーションエラーによる手戻りを劇的に削減してくれます。
Wikiを作ることは、単なるドキュメントの整理ではありません。それは、プロジェクトにおける『情報の不透過性』『属人化リスク』『時間的損失』という3大悪に、チーム全体で立ち向かうための構造改革と言えるでしょう。
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。得意分野はサステナビリティ、決済事業、エネルギーなどの事業戦略の提案や、それに伴う調査