近年、人手不足により、経験者採用だけでは十分な人員を確保できないことから、コンサルティング業界では未経験者の採用も多く行われています。多様なバックグラウンドを持つ未経験者が、コンサルタントとして活躍するためには、当然のことながら、一定のスキルが必要となり、雇用する側は採用した未経験者を如何に育成するかということが重要な課題となります。
本記事においては、未経験者をコンサルタントとして育成するにあたり、どのような育成/評価を行うべきか述べてまいります。
未経験者をコンサルタントとしてどのように育成するか検討するにあたり、まずは、どのようなスキルが必要になるのか、以下に整理します。
市場や企業・組織内にある「ファクト」を正確に調査し、把握することが求められます。調査、把握した「ファクト」に基づいた分析を行い、仮説の設定や戦略の策定・実行を行います。
ロジカルシンキングは、散在する情報を漏れなく捉えて分類・体系的に整理することで全体を俯瞰しやすくするために、コンサルタントとして重要な思考方法です。情報を捉え、整理し、俯瞰することは、課題を発見することにもつながります。
コンサルタントはプロジェクトに必要な業界情報を素早くインプットすることが求められます。情報収集をする際には、ツールやプラットフォームなどを的確に使いこなすことも必要です。
クライアントに対して、戦略や問題の解決策を提案することがコンサルタントの仕事ですが、提案をするにあたり、クライアントの意見や考えをよく理解し、クライアントにとって価値のある解決策や戦略・方針を立案することが求められます。また、クライアントからの納得を得ながら、あるべき方向に計画や事業を動かすこともコンサルタントには求められます。
各種調査や仮説に基づき、経営や組織の課題・問題を解決することが求められるため、問題解決能力や問題解決のための各種施策を推進するリーダーシップが求められます。
プロジェクトを推進するにあたり、スケジュールを決め、設定したフェーズのタスクや関わっているメンバーの進捗を逐次把握することが求められます。
コンサルタントとして、解決することが困難な案件に関わることは珍しくありません。そのような状況下においても、「突破してやりきる」意志や能力は不可欠だと言えます。
これらのスキルは、コンサルタントだけでなく、業務内容に類似する面がある、事業会社の経営企画などにおいても求められ、コンサルティング人材は事業会社においても求められます。
詳細は、経営企画部に必要な人材とは-必要なスキルと育成方法を公開、をご覧いただければと思います。
正しい経営判断をするためには、正しい情報を得なければならず、経営企画人材は、正しい情報を広く深く集められる高い情報収集能力が必要です。
貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)などに代表される財務会計知識に通じていることは、経営企画に携わるうえで評価される要素です。
企業において、頭脳の役割を担う経営企画部は、社内外のデータを正しく分析し、論理的思考に基づいて的確な答えを導きだすことが求められ、説得力のある報告書や企画書という形でアウトプットする際にも、論理的思考能力が必要となります。
収集したデータや企業情報をもとに、具体的な企画を立てられる企画立案スキルが必要です。
経営陣の考えを、具体的で実現可能な戦略として落とし込むためには、高いコミュニケーション能力が求められます。検討されている方針に多くの賛同を得るために、周囲を巻き込んで進めていく際にも、高いコミュニケーション能力が必要です。
経営企画部の業務には、社外取引先との折衝や海外市場の分析、海外の現地社員とのやり取りなども含まれます。
以上のようなスキルが、経営企画において求められ、情報収集能力や論理的な思考能力、コミュニケーション能力等、コンサルタントと経営企画人材は、求められるスキルの共通点が多くあります。
それでは、上述のスキルを有するコンサルタントは、未経験からどのように育成すべきなのでしょうか。
育成/評価制度を設計するにあたり、まずは、求められる人物像を明確にすることが必要です。
求められる人物像からどのようなスキルが求められ、スキルの習熟度にどのような段階が存在するのか。スキル習得のためにどのようなアプローチが考えられるのか。また、求められる人物像に対して、どのような評価体系を組むのか、そして、評価体系にあわせて、どのような報酬体系とすべきか。これらの内容の検討が、育成/評価制度の設計において必要ではないでしょうか。
実際に、コンサルティング会社でどのように人材育成がなされているのか、以下の具体的な事例を参考にしていただきたく思います。
弊社の特徴としては、まず、研修とスキルシートが紐づいていることが挙げられます。
スキルシートを通じて従業員が目指す像を明らかにし、育成基準を規格化することにより、従業員の成長を促しつつ、スキル面の評価に対する納得感を持たせています。
研修は、Analysis、Writing、Thinking、Research、Oral Communicationの5つに大別され、ExcelやPower pointの基本的な機能の講義や実習、リサーチやプレゼンテーションなどのスキル研修が行われており、昇格するためには、これらの研修をすべて修了することが必須となっています。なお、これらのほかにもITコンサルタント向けの研修やマネージャー向けの研修等が別途設けられています。
これら、弊社のコンサルタント向けの研修内容は、スキルシートに紐づくものであり、スキルシートは、「Ownership/Task management」、「Presentation/Facilitation」、「Hearing/1on1 Communication」、「Research/Fact Finding」、「Analysis/Modeling」、「Visualization/Slide Creation」に分類され、それぞれの習熟度により、レベル分けされており、各職位に応じて求められる役割に応じたスキルについても、スキルシート上に落とし込まれています。
詳細については、【コンサル事業部紹介★第1弾!】アーツアンドクラフツ独自のコンサルタント育成制度をご紹介!を参照ください。
ベイカレント・コンサルティングでは、職位に応じて、コンサルタントとしてのコアスキルを体系的に習得することができるトレーニング制度のほか、専門的な知見を習得するためのトレーニング制度を提供しています。
続いて、実際に、コンサルティング会社でどのように評価制度が運用されているのか、以下の具体的な事例を参考にしていただきたく思います。
弊社の人事評価においては、スキルの習得状況と稼働(売上)状況の2つが評価の基準となります。
スキルの習得状況による評価では、上述のスキルシートにより昇給・昇格を設定します。稼働状況も評価対象ではありますが、スキルの習得も昇格・昇給の要件とすることで、スキル習得の意欲向上や稼働以外での昇給によるメンバーの意欲減少や離職を防止しています。
また、昇給・昇格の幅には制限を設け、無理な稼働による昇給・昇格を抑制しつつ、育成を行います。
シグマクシスでは、事業を推進するために必要な能力と、レベルに応じた基準を明確化しており、能力を考慮して各メンバーが能力開発計画を策定し、計画に沿ってプロジェクトと自己研鑽を両立させる制度が設けられています。
計画に関する結果は、各メンバーのプロジェクトにおけるパフォーマンスを複数人が評価し、年に1度の社員の能力レベル(クラス)を決める評価は、能力領域ごとに複数のシニアクラスのプロフェッショナルが決定します。能力のレベルが上がることは、市場価値の向上を意味し、コンサルタントとしてのクラスおよび年俸が上がることにつながります。
現在、企業において、360度評価という評価制度が普及しつつあります。
360度評価とは、評価対象者の上司や同僚、部下など様々な立場の人物が、評価対象者を多角的に評価する制度であり、特徴として、従来の上司からのみ評価される制度と比べ、公平で客観的な評価が得られやすいことから、評価対象者が納得しやすいことが挙げられます。
また、リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、360度評価の導入率は、5.2%(2007年)から31.4%(2020年)と上昇しており、企業の人事評価制度として普及しつつあるようです。
なお、360度評価を人材育成や社員のモチベーションアップを目的とする、教育制度の一環として用いられる場合、評価結果は、給与等へ反映されない場合が多いとされます。
多くの企業で導入が進む360度評価は、メリットとして、以下が挙げられます。
評価の客観性を保つことができる
上司の評価能力が不十分な場合や、部下の業務について十分に把握できていない場合、評価される側が、評価結果に疑念や不満を抱く場合があります。
終身雇用/年功序列の人事/評価においては、上述の疑念や不満を定期的な昇給や昇進で抑えることが可能でしたが、雇用や就業がより流動的になりつつある現在においては、人事/評価に対する不満が人材流出の原因となり得ます。
社員が評価に納得できる
複数の関係者が同一の項目の評価をした場合、一人の上司だけが評価を行う場合と比較して、評価は受け入れられやすいものとなります。これは、様々な立場の人間が評価することにより、評価の客観性が保たれると考えられるためです。
職場の評価体制がより公平であることは、従業員の職場への信頼感を醸成し、結果的に、仕事に対するモチベーションが高まることが期待されます。
規範意識をもって行動するようになる
従来の評価方法では、上司の評価さえ高ければ、昇給や昇格という結果を得ることも可能です。このことは、上司と、その他の同僚や部下等で、被評価者に対する評価に大きな隔たりがある場合においても成り立ちます。このため、従来の評価方式は、「上司の顔色を窺い、気に入られる部下」を生み出す一因となる可能性があります。
360度評価では、上司だけでなく、同僚や部下、場合によっては顧客からの評価されるため、上司の顔色を窺うことに長けていたとしても、部下に対する指導やマネジメントが不適切である場合、高い人事評価を得ることはできないでしょう。
一方、360度評価のデメリットとして、以下が挙げられます。
主観が評価に影響する可能性が高い
評価者が評価することに慣れていない場合、自分の主観や好みに合わせて評価を行う可能性があり、業務とは無関係の好悪の感情や人間関係が評価に影響を与えることが懸念されます。
社員同士で互いに評価を示し合わせる/感情的な評価を行う可能性
同僚・同期間ではコミュニケーションがとりやすく、同等の業務を遂行することもあるため、互いの業務について把握・評価しやすい面はあるものの、評価者と被評価者が近しい場合などにおいて、以下の問題が生じることが懸念されます。
相手が自分を高く評価したことに対し、返礼的な意味で評価を高くする
相手が自分の評価を低くしたことに対し、意趣返しのような意味で評価を低くする
評価を高くするために、評価者と被評価者で取り決めや取引を行う
同情や嫉妬、被評価者の出世妨害などを理由とした評価を行う
また、360度評価は、成果や能力ではなく、執務態度を中心とすべきとされ、一般社員を対象とする360度評価の評価内容の例として、以下が挙げられます。
また、上記に加え、リーダーを対象とする評価内容として、以下が例として挙げられます。
コンサルティング業界への志望理由の一つとして、コンサルティング業界が実力主義的であることが挙げられるようです。コンサルティング人材、あるいは、職務内容や求められるスキルが近い経営企画人材が、実力主義的な評価制度を重視しているのであれば、主観的、恣意的な評価が懸念される360度評価は、コンサルティング人材や経営企画人材にとって望ましい評価制度ではないのかもしれません。
弊社、アーツアンドクラフツにおいては、スキルに基づく定性評価と、稼働に基づく定量評価を併用した多面的な評価体系を構築することで、メンバーに対して、より客観的で適切な評価を行っていると自負しています。
実力主義的な評価を求めるコンサルティング人材にとって、より主観的な要素を排除し、スキルや実績を評価する、アーツアンドクラフツの評価方式が、より望ましい評価方式なのではないでしょうか。
未経験者をコンサルタントとして育成することは、当然のことながら可能です。ただし、求められるスキルを適切に習得することができるか、評価や組織について納得してもらえるか、という部分について、育成/評価制度が与える影響は大きいのではないでしょうか。
弊社、アーツアンドクラフツでは、上述のような育成/評価制度を運用することで、未経験者を事業会社においても活躍することができるコンサルタントとして育成しており、弊社が展開するブランド事業においても、コンサルタントとして育成された人材が活躍しております。
コンサルタントや経営企画人材の育成にお困りの場合、是非とも人材育成のノウハウを有する当社お問い合わせフォームにご一報ください。
【参考】
ジェイ エイ シー リクルートメント「【2024年予測】コンサルティング業界の転職動向」
リクルートダイレクトスカウト ハイクラス転職コラム「【2023年】コンサルティング業界の転職市場は今後どうなる?」
【ハイパフォキャリア】コンサルタントの転職・求人・キャリア相談サイト「コンサルタントに求められる必要なスキル・能力とは」
アーツアンドクラフツ「経営企画部に必要な人材とは-必要なスキルと育成方法を公開」
アーツアンドクラフツ「【コンサル事業部紹介★第1弾!】アーツアンドクラフツ独自のコンサルタント育成制度をご紹介!」
ベイカレント・コンサルティング「Training Programs トレーニングプログラム」
シグマクシス「CAPABILITY DEVELOPMENT 能力開発について」
リクルートマネジメントソリューションズ「360度評価活用における実態調査結果を発表 導入企業の意外な活用目的や、効果的に活用できている企業の工夫が明らかに」
カオナビ人事用語集「360度評価とは?メリット・デメリット、テンプレート、項目例」
SUMUS「なぜコンサルティングファームは就活生に人気があるのか?【第4弾】実力主義」
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト