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経営企画部は中期経営計画策定、新規事業立案、既存事業の見直し等を行う企業の旗振り役を一任されている花形部署です。企業上層部として様々なステークホルダーにコミットメントしながら企業の将来を舵取りしていくその機能は企業の今後を大きく左右させる重要な役割を担っています。
一方で経営企画部が円滑に企業推進を行うことを可能にするためには、「どのようなスキルが必要で、どのように社内育成するのか」等の経営陣が頭を抱える課題も見受けられています。近年では組織が洗練された大企業であってもこの「人材育成」という課題に直面しています。
そこで本稿では経営企画部と精通した業務を遂行している我々コンサルタントと並べながら「人材育成」について触れていきます。
「人材育成」方法に触れる前にまずは経営企画部に必要なスキルを知ることが重要です。必要スキルを棚卸した後にそのスキルを身に付ける為にどのようなアクションを起こすのかといった順序が重要になります。
まず業務に紐づき必要なスキルを整理すると大きく分けて「情報収集/知識/思考力/企画」のデスクワーク系スキルと「対人力」が求められるコミュニケーション系スキルになります。デスクワーク系スキル、コミュニケーション系スキルそれぞれの詳細は下記をご覧ください。
正しい経営判断をするためには、正しい情報を得なければならず、経営企画部には、正しい情報を広く深く集められる高い情報収集能力が必要です。論理的思考能力が高くても、前提となるデータが間違っていたり、社内外の状況を正しく把握できていなかったりすると、導き出される結論が的外れなものになります。
経営企画を立てる際には、数字に落とし込んでいく必要があります。貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)などに代表される財務会計知識に通じていることは、経営企画に携わるうえで評価される要素であります。企業は利益を得るために活動する為、経営企画部も、最終的には利益を生むためのものでなければなりません。
企業の頭脳の役割を担う経営企画部は、社内外のデータを正しく分析し、論理的思考に基づいて的確な答えを導き出せなくてはなりません。経営企画部は、分析結果や策定した計画を経営陣や社員に対して提示しなければならず、説得力のある報告書や企画書という形でアウトプットする際にも、論理的思考能力が必要になります。
収集したデータや企業情報をもとに、具体的な企画を立てられる企画立案スキルが必要です。魅力的な企画立案をするためには、予算編成、管理能力、経営計画、財務計画といった項目をもとに論理的に考案する必要があります。予算感はもちろん、企画が適切に管理できる体制を整えられるかも考えることが重要です。
経営陣の閃きを汲み取り、具体的で実現可能な戦略として落とし込むためには、高いコミュニケーション能力が必要です。CEOなどの経営陣のなかには、自分の考えを言葉で表現することが得意ではない人もいます。検討されている方針に多くの賛同を得るために、周囲を巻き込んで進めていく際にも、高いコミュニケーション能力が必要です。
海外に事業を展開している企業や、今後海外進出を検討している企業などでは、経営企画部として携わるうえで、最低限の英語力が求められます。経営企画部の業務には、社外の取引先との折衝や海外市場の分析、海外の現地社員とのやり取りなども含まれます。英語に関わらず、現地で使用されている言語にもある程度通じているとさらに有利になります。
優れたプレゼンテーションを行うことで、なぜ、その取り組みが必要であるのか、その取り組みを実施することで、どのようなメリットがあるのかを効果的に伝える必要があります。経営企画部は、企業の成長を実現させるための戦略や方針、企画などを経営陣に伝えたり、社内に発信したりしていかなければなりません。
次に経営企画部及び経営戦略部に必要な人数を整理します。企業規模によって必要とされる人数は異なりますが、経営企画部に配属されている人数は下記図の通りです。
図において中小企業は100億円未満に該当しますが、現状平均2.8人となっております。
通常中小企業が中期経営計画プロジェクトを実行するにあたり、各部署1名以上または6人以上の人員がタスクフォースメンバーとしてアサインされますが、2.8人は非常に少ない数字とみて取れます。プロジェクト遂行に当たり、不足している人員は他部署協力の下補填していると思われます。このことから現状経営企画部は本来の役割を果たすことが出来ていないことが推察されます。
経営企画の役割につきましては中小企業における経営企画室の役割とはに纏めております。
中期経営計画プロジェクト一つとっても他部署の協力が必要な状況から、各企業(特に中小企業)において経営企画部のケーパビリティや人員不足が懸念となっていることが想定されます。また、経営企画部は外部登用が難しいため、自社で人材を育てることは重要なミッションの一つとなっています。
前章で取りまとめたように経営企画部はプロジェクト遂行における必要人数に対し人員が不足しております。人員が不足している事象には原因があります。原因を追究するにあたりまずは経営企画部が抱えている課題から整理します。
経営企画部としての現状課題は下記の図をご覧ください。
注目すべき課題の上位項目において「経営企画部員としての経験不足」、「部員のスキルが不足している」、「雑務に追われている」、「調整役に終始している」という意見が見られます。スキルや経験不足、業務の煩雑性が課題に挙げられますが、これら対しての背景が人員不足を招く原因と考えられます。原因につきましては下記の通りになります。
経営企画部では、複数の高度な能力を持っていることが求められます。経営企画の仕事は多岐にわたり、経営方針の策定、市場および競合他社についてのデータ収集・分析、事業提携やM&Aの主導、組織再編など企業のあり方を左右する重要なものばかりであります。
つまり、1つの能力を高めただけでは、経営企画の仕事を十分にこなすことは難しいといえます。
ざっとあげただけでも、情報収集力や分析力、プレゼンテーション力、会議参加者の相互意見をまとめるファシリテーション力、駆け引きや交渉術なども身に付ける必要があります。
会社の経営に直結するため、会議参加者も経営層であり、彼らとの駆け引きや、自身の提案が経営方針に大きく関わることになるプレッシャーが大きくてつらいと感じる人も多いのです。
経営企画部では、経営に関する知識はもちろん業務に関する幅広い知識が求められます。常に最新の情報を頭に入れなくてはならないため、平日・休日に関係なく勉強して知識を習得している人もいます。
部署に配属されたばかりの新人の場合、まずは経営企画に必要不可欠なデータ分析力を身に付けるために財務諸表や管理会計、統計学に関する知識を深める必要があります。
関連書籍を読んだり、セミナーに参加したりと、経営企画に配属されて数年間は勉強漬けの日々になるかもしれません。
経営企画部は、経営陣と現場を指揮する事業部門との間で板挟みになりがちです。経営企画は経営陣をサポートする役割を担いますが、それと同時に経営陣と現場を指揮する事業部門との橋渡しを行う調整役も担っています。
事業部門ごとの利益計画や設備投資計画、予算などを取りまとめるのも経営企画の仕事ですが、このとき経営目標や経営課題、各部門の過去の実績・業績なども加味して最終的な計画や予算を策定しなくてはなりません。
事業部門の希望や意見と経営陣の考えが噛み合わないこともあり、その際は調整に時間がかかってしまいます。
上層部からは「経営視点で考えなさい」といわれ、事業部門からは「現場のことを何もわかっていない」と憤りをぶつけられるため、それが多大なプレッシャーとなり、つらさを感じてしまい辞めていく人も多いのです。
また、別の視点になりますが経営企画部の類似職としてコンサルタントが存在し、そちらに魅力を感じる人も少なくないようです。経営企画部よりもコンサルタントの道に進む方の観点は以下の2点になります。
経営企画は、自社の経営課題に携わるポジションですが、コンサルタントはプロジェクト毎に様々な企業の経営課題に携わることが出来ます。
自社のプロダクトやサービスにとらわれず、経営課題解決のプロフェッショナルになりたい、という場合には、コンサルキャリアに進む人が多いようです。
コンサルタントになると、幅広い業界・職種へのキャリアチェンジが可能になります。
特に上から降ってきた定型的な仕事をこなすタイプの経営企画だと、自社の意思決定に携わるには10年・20年待たないと難しいケースも見られます。
コンサルタントとしてクライアントの意思決定に関わる経験を積むことで、次のキャリアで自ら意思決定に携わるハイクラスのポジションに「ショートカット」を実現している例もあるようです。
このように人材不足の原因を纏めると
①経営企画部に配属されたことは良いものの、休日も使いスキル習得に長い年月が掛かってしまうこと、経営陣と現場の板挟みになることでストレスを感じ途中リタイアしてしまうこと
②経営企画部よりもコンサルタントに魅力を感じキャリアパスを歩む者が多いこと
が人員不足に陥る原因と思料しております。
コンサルタントへのキャリアパスに進む人材、経営陣と現場で板ばさみになってしまう観点は業務上仕方がない一方で、スキル習得における人材育成においては今後改善を図ることが出来る課題ではないかと推察しております。
続いて具体的な育成方法を見ていきます。前章で経営企画部の人材が育つにあたって長い道のりであり、途中でリタイアしてしまう課題がありました。
一方で経営企画部または経営人材育成に積極的な企業もございます。具体的な企業事例を見ていき参考にして頂けたらと思っています。
基礎情報
業種:商社
従業員数:5,209人(単体)
育成方法:研修
主導カテゴリー:トップダウン型
長期・選抜プログラムは、経営人材育成の場と位置付け、短期プログラムでは習得が難しい経営観の醸成、自己改革、実践的リーダーシップの習得を目指しています。各研修とも第一線で活躍している者、今後リーダーとしての活躍が期待される者を選抜し、多様な分野におけるTop Tierのプロフェッショナルの育成・活躍を推進するプログラムを実施しています。経営人材育成 長期・選抜プログラムとして下記を実施しております。
Sumitomo Executive Program/8カ月間
将来、住友商事グループの経営を担うポジションでの活躍が期待され、全社的な経営視点を持つことが望まれる社員を対象に、シニアマネジメントとの対話・外部有識者との議論を通じ、経営者が持つべき大局的な視点・思考にストレッチし、自身が今後身につけるべき経営者としての視点や覚悟について気づきを得るプログラム。エグゼクティブリーダーとしての志・軸を確立することを目的にコーチングを実施し、これまでの人生を振り返り、今後リーダーとして何をなすべきかを考え、行動に繋げる機会とします。
MIRAI Creator Program/7カ月間
今後事業を牽引するポジションが期待されている管理職を対象に、自身のリーダー哲学を確立し、継続的に稼ぐビジネスモデル創出に必要なビジネス構想力・戦略構築力を磨くための知識・スキルを習得するプログラム。座学に加えて社会課題を考える機会としてフィールドトリップを実施し、社会課題解決に向き合うリーダーとの対話を通じて、自身の価値観やリーダーシップの在り方について深く考える機会とします。約25人が約7カ月間、全20回程度の講義を受講後、「本部長目線で10年後の本部戦略を描く」をテーマに社内プレゼンテーションを行っています。
PX(Personal Transformation)Program/8カ月
非管理職層を対象に、2021年に新設したプログラム。8カ月間、全11回のプログラムでは、外部経営者や異業種人材との対話を通じて自身・自社の強みや成長課題を認識し、その上で新規事業創造(戦略策定・実行)の一連のプロセスをやりきることで自己変革を起こし、社外でも通用するプロフェッショナル人材へ成長することを目指します。
エグゼクティブ・プログラム
各組織において将来の経営幹部候補人材として活躍が期待される部長~課長クラスを、国内外ビジネススクールなどのエグゼクティブ・プログラムへ社費にて派遣しています。
「将来の経営者としての意識および発想の醸成」、「総合的なマネジメント知識と経営判断力の習得」、「他社人材や経営者との交流による啓発」などを目的に、国内ビジネススクール等へ年間30人以上、海外トップレベルのビジネススクールにも年間5人程度、派遣しています。
基礎情報
業種:海運
従業員数:1,099人(単体)
育成方法:研修
主導カテゴリー:トップダウン型
商船三井の選抜型プログラムは次世代の経営者・リーダー育成を意識し、高く広い視野を持ちビジョンを実現する力を磨くことを目的として実施しています。内容は下記になります。
One MOLグローバル経営塾(MGMC)
異文化環境におけるダイバーシティマネジメント力を向上させ、次世代のグローバルリーダーを育成する目的で2014年に開講し、毎年継続して実施しています。毎年世界各国からの参加者を日本に迎え、グローバルな事業環境における戦略思考、組織運営、リーダーシップの講義に加え、グループ共通の価値観である「MOL CHARTS」をもとに自分自身のキャリアを振り返っています。また、研修を通して自社グループの課題や進むべき方向について、数人のチームに分かれて議論、調査を行い、最終日には経営陣への提言を行っています。毎年の研修後アンケートでの満足度が非常に高く好評を得ています。
One MOL経営スクール
当研修はグローバル社会の動向に敏感で、中長期的な視点で全体最適を意識する次世代経営者育成を目的に2010年に開講、2021年に内容を刷新し、開催。毎回、6カ月にわたる研修の最後は経営層に向け、自社及び自社グループ会社の経営を担う者として企業理念・ビジョンの下で 実現したいことを、その時にありたいポジションとともに描き、そこに向けた経営資源の強化と配分を提言しています。実際にいくつかの提言は、事業化へとつながっています。
基礎情報
業種:コンサルタント
従業員数:~50人程(C&S事業部のみの人数)
最後に当社の研修方法も簡単に紹介します。
当社では①研修制度、②チーム制度、③プロジェクト共有会制度、④社内プロジェクト制度によって経営人材を育成しています。
詳細は【コンサル事業部紹介★第1弾!】アーツアンドクラフツ独自のコンサルタント育成制度をご紹介!を参照ください
これらの育成方法を通じ実際に事業部への貢献を行っております。
実績例をあげると
等がございます。経営人材を育成することで自社内の事業に大きく影響を与えることが出来るようになります。単にコンサルタントや経営人材として育成するだけではなく他事業部とのシナジーを生み出すことが出来るのが当社の育成方法の強みになっているのです。
経営企画部の人材育成には多大な労力や研修の工夫、従業員のエンゲージメント向上などあらゆる要素を考えた上で方針の策定を行わなければなりません。人材育成を試みるも途中で社員が退職してしまったりとリスクがある中で近年では経営企画部の仕事をコンサルタントに依頼するケースも少なくありません。
一方で経営企画や経営人材を上手く育成することにより、自社の事業部に還元できる大きなリターンもあります。このように自社還元できる人材育成が出来る企業が増えることを当社では願っており、実際にご支援させて頂いております。
経営企画部の経営人材育成にお困りの場合は是非とも当社お問い合わせフォームにご一報いただけますと幸甚です。
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アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト