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近年、膨大な人員を必要とする業務に対して、ITやデジタル技術などを通じて効率化させて、余剰人員をコア事業にシフトさせたり、新規事業への展開したりする取り組みが大手企業を中心に盛んになっています。こうした動きの背景には、日本企業が抱える労働人口不足と労働生産性が低いという問題が存在すると思われます。
上述した日本企業が抱える問題は、大手企業のみではなく、中小企業にも言えるのではないでしょうか。しかし、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「人手不足対応に向けた生産性向上の取り組みに関する調査」によると、中小企業の業務改善への取り組みが82.5%の水準に対して、大手企業が95%と高い水準に位置しています。加えて、中小企業の取り組みの実態は、個々人の改善が全体の3割を占めており、かつ全社的な業務改善の取り組み率をみますと、中小企業と大手企業で約1.8倍の差異があります。
中小企業と大手企業の取り組み実態の差異には、中小企業に業務を俯瞰して改善を進められる人材やノウハウ不足という原因があると思われます。そこで、本稿では、一般的な業務改善を解説することで、これから業務改善に取り組む中小企業のご参考になればと思います。
それでは、まず最初に業務改善とはなにかを見ていきましょう。
業務改善という言葉は、「定常業務の目的や工程を見直し課題点を見つけ、課題を解決することにより業務の一部あるいは全体の生産性/効率を高める行為」を意味します。
しかし、ここ数年、DX/デジタル化、BPR/RPAなどの業務効率化の動きなどにより、業務改善の範囲/対象が語り手によって、まちまちになることが散見されます。そこで本稿では、読者のみなさまに明確な定義を示すため、「ビジネスモデルの変更/維持」、「一部/全体業務改善」という2軸で業務改善を定義していきます。
上記を踏まえて、本稿では、業務改善の既存ビジネスモデルを維持し、全体業務の改善することを業務改善(以下、当該改善のみを業務改善とする)として、話を進めていきます。
業務改善プロジェクトを進める上で、「現状課題の大枠の把握」「業務改善のTo-Be像の策定」、「業務の洗い出し/棚卸」、「業務の評価と改善策の検討」、「改善策の推進と定着」の5ステップに分けることができます。それでは、5ステップの詳細な説明をしつつ、中小企業における注意点を見ていきましょう。
現状課題の大枠の把握とは、経営層や全体把握ができる実務担当者へのヒアリングを通して、業務遂行における企業全体あるいは個別部門ごとの課題を見つけ出すことです。当該ステップでは、業務の詳細をヒアリングせず、企業全体あるいは部門全体で共通で認識されている課題の把握に重点を置きます。多くの企業において、経営層及び実務担当者が共通で認識している課題は、その企業の業務の根本的な課題に該当する可能性が高いです。当該ステップのポイントとして、ヒアリング対象を業務全体を把握している経営層や管理層あるいは、熟練した実務担当者に限定することが挙げられます。個別業務のみ把握している実務担当者にヒアリングすると、個別業務の課題が注目され、業務改善プロジェクトが全体業務に与えるインパクトを下げてしまう恐れがあります。
業務改善のTo-Be像の策定とは、業務改善終了後に想定される理想像を事前に明確にイメージすることです。To-Be像を作成せずに、次にステップである「業務の洗い出し/棚卸」を実施すると、負荷が高い一部業務の改善に注力し、全体最適化されないことになることがあります。あるいは、To-Be像がない状態で業務改善を進めると、第3ステップである「業務の評価と改善策の検討」において、正しい判断軸がなく、企業内で声が大きい人の意見が通り、想定した成果が得られない可能性もあります。上述した事態にならないためにも、業務改善を進める上で、To-Be像を事前に策定することが重要と思われます。
また、中小企業では、業務改善のTo-Be像を策定する人材がいなかったり、ノウハウを持っていない場合があります。 そこで、自社内のリソースのみではなく、外部専門家やアドバイザーから意見をもとに実施していくことも考えられます。
業務の洗い出し/棚卸とは、 各部門が担当している業務を棚卸して内容やフローを可視化することです。様々な業務の可視化の方法がありますが、本稿では代表的な「フローチャート」、「業務一覧表」を紹介していきます。
特に中小企業では、業務が明文化されておらず、属人化している可能性があります。そこで、業務を把握する際には、業務担当者に個別ヒアリングするのではなく、関連する業務担当者を一同にヒアリングすることで、隠れた業務もあぶり出し、業務間の繋がりを理解できます。
業務の評価/改善策の検討とは、棚卸された業務を目的に則して業務改善の必要性/重要度を評価し、業務効率化する施策を検討することです。棚卸された業務の評価及び改善策を検討する方法はたくさんありますが、本稿では、シンプルな例として、本質業務、補助業務、その他業務(ムダ業務)に区分し評価改善策の検討を見ていきましょう。
棚卸された業務を最初に策定したTo-Be像に資する業務を本質業務、その本質業 業務を円滑に実施する上で、必要不可欠な業務を補助業、それ以外の業務をムダ業務に区分します。このように区分された業務において、以下の考え方で業務改善の施策を検討していきましょう。
上記の中で業務改善プロジェクトで主に検討されるものが補助業務ではないでしょうか。そこで、補助業務を改善する場合に、頻繫に使用される施策を見ていきましょう。補助業務を効率化させる場合、人的作業の効率化から検討して、徐々に自動化させていくという考え方が一般的です。
改善策の推進/定着化とは、決定した改善施策を現場に落とし込み、日々の業務の一部として定着化させていくことです。 企業における改善策の推進は、既存業務の変更となり、初期段階では現場に負担が発生します。多かれ、少なかれ抵抗勢力が発生します。とりわけ、中小企業では、既存業務の仕組みを作り上げた本人が業務担当しており、否定されている気分となり、抵抗勢力がより一層強まる可能性があります。解決方法の一つとしては、最初の推進チームに抵抗勢力を入れて、推進させることも考えられます。
企業における改善策の定着化は、施策を日常業務として定着させるとともに見直しをしていくことも求められます。具体的な手法として、定例会の実施が挙げられます。定例会では、業務の定着率をもとに施策効果を確認するのみではなく、機能していない施策の見直しも同時に実施することができます。
ここまで業務改善の5ステップの詳細を説明してきました。最後に人材やノウハウが少ない中小企業が陥りやすい失敗ケースとその防止策を見ていきましょう。
ツール/システムの導入に執着し、ベンダー主導型のシステム導入プロジェクタになって失敗するケース
業務改善の初~中盤によく見られる失敗例です。中小企業では、ITやシステム導入に関する知識を持った人材が不足しており、外部のシステムベンダーに頼ることが多いです。そのため、どの業務がITやシステム導入で改善可能かの判断が社内で難しく、ベンダーに判断を委ねることになります。しかし、ベンダーは自社の利益を追求するため、必要以上の業務システムを提案することがあります。結果として、コストパフォーマンスが低い業務改善となることがあります。
さらに、ベンダー主導型では自社のIT人材の成長が制限され、中長期的には外部ベンダーにシステムの運用・保守を依存することになります。ベンダーのサービス終了時や中止時には、内部のIT人材不足で解決策を見つける必要があります。
このような状況を避けるためには、自社主導のシステム導入が有効です。ただし、中小企業ではIT人材が不足しているため、外部のITコンサルタントを活用することも検討すべきです。ただし、ITコンサルタントを選定する際には、ITベンダーに近い動きをしないことや、社内のIT人材育成も行えることに注目する必要があります。また、関連企業からベンダーを利用する場合は監視役としての役割が果たせません。
さらに、ITコンサルタントが導入初期の設計や要件定義だけを行い、実際の導入や定着はベンダーに任せるケースも避けるべきです。そうすることで、企業内でのIT人材育成が行われず、長期的にベンダーに依存することになります。適切な選択をするためには、独立したITコンサルタントや、関連企業に依存しないITコンサルタントを選定し、クライアント社内のIT人材の育成実績があるかどうかを重視することが重要です
本稿では、中小企業における業務改善の必要性から始まり、具体的に進めていく際のステップまでを説明してきました。業務改善の洗い出しを実行する上における方法や注意点や改善策の種類やツール/システムも別記事にて紹介していますので、一読いただければと思います。
また、弊社でも業務改善のトータルサポートをとして提供しています。「業務改善を実施して、生産性をあげたい」、「過去に部分改善して、全体最適化された業務改善を実施したい」という考えがありましたら、最下部のフォームより是非お問い合わせください。
【参考】
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。