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企業が再エネ電力を導入する際に知っておくべきこと

 なぜ今脱炭素、再エネ電源が注目されているのか

脱炭素の盛り上がり

      • 世の中で脱炭素、持続可能性という言葉をよく見聞きするようになったと思われます。スウェーデンのグレタ・トゥーンベリ氏が声高らかに気候変動対策の必要性を唱えていたことや、小泉進次郎氏が脱プラスチック運動の一環としてレジ袋を有料化したことも記憶に新しいのではないのでしょうか。

なぜ脱炭素は盛り上がっているのか?

      • 近年ここまで急激的に脱炭素への動きが活発化しはじめたのは、2015年にパリで開かれた、温室効果ガス削減に関する国際的取り決めを話し合うパリ協定が理由です。パリ協定では、世界の温室効果ガス排出量の約86%、159カ国・地域が参加しており、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、5℃に抑える努力をする」、「そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる」ことを目標としています。そのため、各国・各地域が脱炭素を推し進め温室効果ガス排出量を削減する動きを活発化させており、日本も例外ではないということです。

発電電源について

 非再エネ電源(化石電源)について

      • 石炭、石油、天然ガス・LNGを原料とし、これらを燃やした際に発生する蒸気でタービンを回し、その動力で発電している電源を指します。現時点では、天候等に左右されず、安定的に発電できることから、ベースロード電源やミドル電源、ピーク電源と呼ばれる電源に用いられることが多く、エネルギー供給の大部分を担っています。太陽光や風力等天候によって発電量が変動してしまう再エネ電源の発電量が発電予測よりも少ない場合に、これらの非再エネ電源を稼働させて、対応させることが多いですまた、後ほど述べますが、今後新たな技術(水素・アンモニア)と組み合わせることで、ガス排出量を低減させられる可能性を秘めています。一方、日本は石炭、石油、天然ガス・LNGを他国からの輸入することで、賄っているため、輸入先が燃料生産量を削減したり、石油が取れる海域で事故が起こったりした場合には、燃料価格が高騰し、輸入し辛くなってしまう懸念があります。

非再エネ電源(化石電源)の種別について

      • 石炭: 新省エネ法により、石炭火力の発動効率が43%未満の発電所は停止、または設備の刷新が行われ、今後は高効率石炭火力発電所(USCIGCCIGFC等)だけが残る見込みです。
      • 石油:石油火力は平時の稼働率自体低いものの、ピーク電源として活用されてきました。また、東日本大震災後の供給力不足等の緊急時における安定電源として活用されています。
      • 天然ガス・LNG:天然ガスはその名の通り気体ですが、マイナス160度まで冷やすことで、液体に変わり、これをLNGと呼びます。LNGにすることで、タンカーに入れられるため、大量に輸送しやすくなります。LNG火力も新省エネ法によって、発電効率が48%未満の設備が停止・刷新を予定しています。

ベースロード電源、ミドル電源、ピーク電源について

      • ベースロード電源:継続的かつ安定して発電でき、発電単価が安い電源が好まれます。稼働を開始させたら、止まることなく、長期にわたって発電させます。主な電源は、石炭火力、原子力、水力、地熱が用いられています。
      • ミドル電源:電力需要によって、ベースロード電源だけで電力量が賄いきれなくなった場合に、発電させます。電源の稼働・停止は随時可能かつベースロード電源に次いで発電コストが低いため、必要に応じて適宜供給できることが利点です。主に天然ガス・LNG火力が用いられています。
      • ピーク電源:ベースロード電源とミドル電源を足し合わせても電力需要を賄いきれない場合に使われる電源であり、主な電源は石油火力、揚水式水力です。石油は電力以外にも燃料としての需要があり、価格が高くなりやすいため、ピーク電源に用いられることが多いです。

再エネ電源について

      • 再エネ限源は、石炭や石油、天然ガス・LNG等の有限資源を用いた非再エネ電源(化石電源)とは異なり、地球資源(太陽光、風力、水力)等を用いた電源のことです。主な特徴として、「有限でない」、「温室効果ガスを排出・増加させない」ことが挙げられます。一方で、発電量が不安定であることから、日本における電源の大部分を担うことは難しいと言われています。

再エネ電源の種別について

      • 太陽光:太陽光を受けて、発電する太陽電池を利用する方法です。枯渇の恐れが無く、発電時に温室効果ガスを排出しないことがメリットである一方、日射量によって、発電量が変動するため、季節や天候の影響を受けやすく、夜間は発電できないことから、発電量の不安定さや、大量の電力を発電するには広大な土地が必要となること等がデメリットとして挙げられます。
      • 風力:風力を用いて発電機に繋がれた風車を回し、発電する方法です。この方法も太陽光同様、風を利用するため、燃料が枯渇する心配もなく、温室効果ガスが排出されないというメリットが存在します。一方で、風向きや風速が季節や時間帯によって変動するため、それに合わせて、発電量が変動するため、不安定な電源であるというデメリットが存在します。
      • 水力:水力発電は流水や落水等の水力を用いて水車を回転させ、発電させる方式です。河川やダム等の水力が使われており、再エネ電源のため、温室効果ガスが発生しません。また、風力や太陽光は天候等の影響を受けるため、発電効率が1040%と言われている一方で、水力は80%とも言われており、発電効率が非常に良いことがメリットです。ただし、ダム等の大規模水力発電の新規開発は、膨大な土地、費用、労力が必要なため、新設の水力発電は、小規模であることが多いです。
      • 地熱:地熱発電とは、地下のマグマ等によって熱せられた高温の水や水蒸気の力を用いて発電する方式を指します。火力発電に比べて、温室効果ガスの排出量が少なく、太陽光や風力のように、季節や天候に左右されない安定電源として、期待されています。しかしながら、地熱発電に必要な井戸を掘るためには、1本で数億円以上の費用が掛かると言われており、地熱発電に適した場所を探し当て、発電機を据え付け、発電するためには、10本を超えることも珍しくないそうです。そのため、今後はAI等を用いて、地熱発電に最適な場所を調査することが期待されています。
      • バイオマス:自然の中で生まれた資源である「バイオマス燃料」を燃やして発電させる方法です。具体的な「バイオマス燃料」として、木くず、間伐材、動物の糞尿等が挙げられます。動植物によって、生成された再生可能な燃料であることから、非再エネ電源(化石電源)と異なり、化石燃料等の有限な物質を消費しない発電です。バイオマス発電は、化石燃料を使用しない火力発電であるため、発電量が安定しており、温室効果ガスの増減が実質ゼロである(植物が光合成でCO2を吸収しているため)ことから、注目されている発電方法です。ただし、「バイオマス燃料」の調達や運送、管理にコストが掛かるというデメリットも存在しています。
      • 原子力:原子力発電も温室効果ガスを排出しないため、再エネ電源として分類される場合があります。少ない燃料で、大量の電力を発電できるため、安定した再エネ電源という見方がされます。しかしながら、東日本大震災の事故の時同様に、大災害が起こった場合に、放射線物質が放出されてしまう危険があります。

証書

証書について

      • 現在、再エネ電源から生成される環境価値を証明する「証書」というものがあります。これは、政府が再エネ電源の新設を促進させるために、再エネ電源のメリットとして、再エネ電源から発電された電力に環境価値という付加価値が生み出されました。この環境価値を証明するために存在するのが「証書」です。電力を消費する会社等が非再エネ電源(化石電源)由来の電力メニューに別途、証書を購入し、組み合わせることで、実質再エネ電力として、消費することで、自社の排出する温室効果ガスを削減しています。現在、証書の種類として、「グリーン電力証書」、「J-クレジット」、「非化石証書」の3種類が発行されています。

証書の種類について

      • グリーン電力証書:太陽光、風力等の再エネ電源から作られた電力に対する付加価値を証書化したものであり、一般財団法人日本品質保証機構という第三者機関の認証を得て、グリーン電力証書発行事業者が発行しています。発電事業者は再エネ電源によって発電した電力から発生した付加価値をグリーン電力証書として、他者に売ることでプラスアルファの収入が得られます。また、グリーン電力証書購入者は、再エネ電力を消費していることになるため、対外的に環境に配慮していることをアピールできます。グリーン電力証書の取引は発行事業者から直接購入する相対取引となっており、2022年度で07.0 /kWhの価格帯で取引されています。取引量や販売事業者によって販売価格が変わりますが、相対で安定的な取引が可能です。
      • J-クレジット:再エネ電源や省エネ設備の導入により、削減できた温室効果ガスを国が認証し、発行した「証書」です。再エネ電源や省エネ設備の導入企業は、温室効果ガスを削減できることに加え、J-クレジットを売却することで新たな収益を見込めます。企業や団体等が購入できますが、転売可能な点、再エネ電源だけでなく省エネ設備も認証対象になるというメリットがあります。国が認証したJ-クレジットの仲介業者、またはJ-クレジット制度事務局が実施するオークションへの入札によって購入が可能です。入札で取引されることもあるため、確実に入手できる保証がないことが懸念として挙げられます。入札の場合、2021年に平均落札価格3/kWhで取引されています。
      • 非化石証書:非化石証書は、グリーン電力証書、J-クレジット同様に再エネ電源から発電された電力の付加価値を電力と浮体させる、または分離させられます。今回は詳細に触れませんが非化石証書は「FIT非化石証書(再エネ指定)」、「非FIT非化石証書(再エネ指定)」、「非FIT非化石証書(指定なし)」に分かれており、用途に合わせて購入することができます。また、購入者は小売電気事業者のみとなっているため、企業や団体が購入することはできません。小売電気事業者は非化石取引市場で入札し、落札することができます。2023年度の平均落札価格は30.4/kWhであり、最低落札価格は0.3/kWh、最高価格は4.0/kWhとなっています。

新技術

新技術について

      • 昨今、温室効果ガスの排出量を削減させるために、様々な技術が開発・実証実験されています。電力の蓄積や、CO2の削減に加え、CO2を貯留、再利用することも可能になってきています。今回の記事で、新技術のいくつか紹介します。

注目されている新技術の例

      • 蓄電池:蓄電池は、電気を蓄える機能を持った電池を指します。一般的な乾電池は一度使い切ると、それ以上使用できませんが、蓄電池は充電と放電を繰り返して、何度も使用できます。太陽光発電に併設させることで、夜間の電力を昼間充電した蓄電池を放電させることで賄うことができます。また、災害時に電力を供給できないときにも、蓄電池の電力を放電させることで、生活インフラに必要な機械へ電力を供給させ、事業サービスを継続的に顧客に提供できます。なお、蓄電池に用いられている材料によって、充電速度や最大放電容量が異なり、それに伴い費用も変わってきます。
      • 水素:水素を火力発電で混焼、または専焼させることで、温室効果ガスの排出量を削減させることが近年注目されています。また、政府は2030年までに天然ガス・LNG火力発電の30%を水素混焼や水素専焼にすることを目標として掲げています。水素は重量が軽い一方で、体積が大きいことから運びづらいというデメリットが存在します。そこで、水素を液化させることで、体積を圧縮させ、大量に輸送・貯蔵できるようにしています。水素にも種類が存在しており、化石燃料を燃焼させて、ガスにし、ガスの中から水素を取り出す「グレー水素」や再エネ電源によって発電した電気で水を電気分解させて作られる「グリーン水素」、等の種類が存在します。

      • アンモニア:アンモニアも石炭火力への混焼により、温室効果ガスの排出量削減が期待されており、政府も2030年までに石炭火力の20%をアンモニア混焼にするという目標を掲げています。アンモニアは燃焼時に、CO2を排出しないため、CO2排出量の多い石炭火力との混焼において高い親和性を持つと考えられています。アンモニアもガスを液化させることで、体積を圧縮させて、効率的に輸送できるようにしています。アンモニアも水素同様、複数種類存在しています。グレー水素に窒素を合成させて製造される「グレーアンモニア」、グリーン水素に窒素を合成させて作られる「グリーンアンモニア」等が存在していますが、実証実験中のものが大半を占めています。

      • CCUS:CCUSCO2を回収・利用するCCUCarbon Capture and Utilization)とCO2を回収・貯留するCCSCarbon Capture and Storage)を組み合わせた技術です。CCUにより、火力発電所等で排出されたCO2が分離・回収され、液化炭酸ガス、ドライアイス、化学品等に用いられています。CCSでは、分離・回収したCO2を、枯渇したガス田や地中深くにある石炭層や帯水層等のCO2貯留に適した地層に封印し、長期間貯留しています。

終わりに

      • 今回は、再エネ電力を導入する際に、必要な情報を網羅的に記載しました。実際に再エネ電力を導入する際には、多数の考慮すべき論点が存在し、それらを紐解きながら、自社にとって最適な再エネ電力の導入方法を解明しなければいけません。弊社では、論点の洗い出し・整理から、それぞれの論点に対する調査および解の提示、それらを踏まえた結論の導出までを支援させて頂いています。ご興味のある企業・団体様はご連絡頂けますと幸いです。

森田 橋之介

アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/コンサルタント