2022年11月、セブン&アイ・ホールディングスの保有するそごう・西武全株式の米・フォートレス・インベストメント・グループへの譲渡契約*1や、同月第一生命ホールディングスがアイペットホールディングスの完全子会社化を目的として、公開買い付け(TOB)により全株式を取得する*2など、近年でもM&Aによる企業買収・企業価値の増大は活発に行われています。
*1セブン&アイ・ホールディングスはミレニアムホールディングスを傘下に収めることで、百貨店事業の発展とセブン&アイグループ各社とのシナジーを企図するも、昨今のコロナ禍や少子高齢化などの影響から赤字営業が続いていた。今回のM&Aでセブン&アイ・ホールディングスはセブンイレブンを中心としたグローバル成長戦略を進めるとしている
*2第一生命ホールディングスの子会社である第一生命保険とアイペットホールディングスの子会社であるアイペット損保は、もともと2019年に業務提携契約を締結していたが、今回のM&Aを通じて、第一生命ホールディングスは協業関係を深め、両社の顧客基盤の拡大を企図している
実際、M&A(合併・買収)は、企業が成長戦略を実行する上で重要な手段の一つとされています。近年、特に日本においてはM&Aの件数は、リーマンショックや東日本大震災などの大規模災害などを由来とする一時的不況のタイミングを除くと右肩上がりに増加している傾向にあります(2022年には過去最多件数である4,304件のM&A事例を記録しています)。
上記の例は規模も話題性も大きく、あまり身近に感じませんが後継者不在を背景に事業承継を目的とした小・中規模のM&Aもその数を増やしています。
ゆえに、経営において企業価値の増大または事業拡張を見込み、手段としてM&Aをストラテジックに志向することは、他人事ではないのかもしれません。
M&Aを進めていくにあたっては、一例として以下のステップを踏んで進めることが基本となります。
当然、各ステップにはM&Aを成功させるための要因が多数存在し、それらをあらかじめ認識しておくことで、スムーズかつ成功確度の高い取引を遂行できるでしょう。
加えて、M&Aには多くの関係者を巻き込んで進めていくことになります。
【M&Aの当事者】
【M&A専門家】
【その他の関係者】
本稿では、特に重要な役割を担うM&A仲介業者、金融機関についてどのように関係するか、またこちら側でどのように活用できるのか、弊社の過去事例から得たインプットをもとに深堀していきます。
(M&Aを進めていく際のキーポイントなどの詳細は、「M&A戦略に基づくソーシングの進め方-投資ターゲティング~企業選定-」や「中長的なM&A戦略に基づく買収をどのように進めるべきか」でも説明しておりますので、ぜひご参考までにご一読ください)
M&A仲介業者は、M&Aアドバイザーが売り手(譲渡企業)から譲渡ニーズを拾い、譲受ニーズを持つと買い手(譲受企業)へ紹介・取引を持ちかける役割を有し、M&Aの最初のきっかけとなる接点を生み出します(譲渡案件の紹介のみならず取引の交渉の窓口・FAロールを担うことも)。
【M&A仲介業者を活用するメリット】
譲受企業が譲渡企業を探す場合、本来は一から企業情報等を収集し、候補を探さないといけません。しかし、M&A仲介業者では既に売りに出されている企業からを紹介してもらえるため、一から企業を探すという手間が省けることがメリットです。
反面、譲受企業にとって必ずしも条件が一致する企業を紹介されるとは限らないため、注意は必要です。
一から探す場合は、譲受企業の条件と照らし合わせて探すことが可能ですが、M&A仲介業者の場合は既に「売り」のステータスにある企業の中から紹介されるため、条件と一致しない企業も紹介される可能性が存在します。
そのため、自社での企業探索と並行する形でM&A仲介業者を活用するのが賢明です。
M&A仲介業者は、当然のようにその豊富な実績からM&Aや会計、法務などといった多岐に渡る知識や経験を備えています。
そのため、M&A仲介業者へ依頼をすることで経験豊富なアドバイザーから適切なアドバイスを受けることも期待できるでしょう。
候補となっている相手が自社の経営風土に合う企業なのか、事業を実施するにあたってシナジーを有効に発揮できる企業なのか、といった自社だけの目線のみでは気づくことが難しい情報を、間に立つ仲介者という立場からヒントをもらうことができます(ただし、取引の成功報酬をメインのプロフィットとしている仲介業者は売り手の「見栄えの良さ」のみを押すことも考えられるため、買い手側の専門家を交えて精査をすることは肝要)。
また、M&Aは通常業務を行いながら並行して進めていくケースもあります。その場合、M&A仲介に買い手側のFAロールとして依頼をすることで実務面も含めた取引遂行のサポートを受けることができるため、M&Aを進めていくうえで通常業務に支障をきたす可能性は自分たちで行うよりも低くなると考えられます。
M&Aの交渉を進める際は、広範囲に渡る各種事項の取り決めが相次ぎます。
株価交渉や、役員・社員の処遇、業務の引継ぎ方法など決めなければいけないことが多岐に渡り、さらには会社法や各種税法などといった多くの法律が関係してきます。
加えて、契約書や覚書といった書類を多数作成しなければいけません。
契約後に検出するリスクを考えた場合、知識・経験が豊富な仲介者を立てることで、それぞれの書類・取り決めの意味やリスクを把握しつつ、逐次判断することができるでしょう。
つまりそれは、後々発生しうるトラブルを回避するための予防策にもつながります。
法的効力をもつ文書に関しては、企業・M&A案件に明るい法律家・弁護士の厳正なる精査に基づくべきでありますが、各文書の内容や条件面については、戦略的な観点で優位性を保てるよう、連携するとよいでしょう。
【M&A仲介業者を選ぶポイント】
M&A仲介業者といっても規模の大きいところから小さいところまで幅広く存在しています。規模だけではなく、仲介会社によっては業界に特化して仲介事業を行う会社もあります。その場合は、特定の業界に対して専門的な知識があることや、その業界同士でのマッチングが得意というメリットがあります。
その一方、特定の業界に特化するのではなく全業界対応型の会社では、一定の業界に縛られずに売り手候補を選定できることから、業界の垣根を超えたシナジー効果を生むマッチングを期待することが可能です。
近年では、市場の縮小から異業種に参入するためにM&Aを検討する譲受企業も増加しているため、譲渡企業としても幅広い選択肢を有することが可能となります。
以上の観点から、実績が豊富な大手仲介会社であれば、広いエリアで様々な業界に対応しているケースが多い一方、特定のエリアや特定の業種に特化する仲介会社も存在するため、依頼しようとしている仲介会社がどのような実績をあげているのか、エリアや業種に一定首位純の傾向はあるのかといった情報の確認を行うことが必要です。
M&Aを成功するポイントとして多様な選択肢が不可欠です。
多くの売り手候補企業とのつながりがあることで、より条件に合った企業を見つけやすくすることができます。
実際、M&A仲介業者は、どのくらいのネットワーク数を保持しているのかを自社HPなどで公開していることが多く、自身で依頼先のM&A仲介業者の保有しているネットワーク数を確認はしておいた方が良いです。
さらに、成約実績やインタビューといった事例を掲載している場合は、過去にどのようなM&Aを取り扱ったのかを確認することも可能です。これらはその仲介会社が自社に合った仲介業者なのかを判断する材料の一つとなります。
M&A仲介業者を利用する上では様々な報酬が設定されていますが、その中でも主に留意すべきポイントとして以下の3点があげられます。
(M&Aに関する報酬については以下の図を参照)
※レーマン方式とは
「レーマン方式」とは、多くのM&A会社が採用する、取引金額に応じて報酬料率が変わる報酬体系です。譲渡金額が大きいほど手数料率は低く、譲渡金額が少なければ手数料率は高くなります。
ただし、レーマン方式では起算基準が会社によって異なるため、契約する際は何に対して成功報酬料率を定めているのか確認をすることが重要です。
例えば、会社の資産と営業権(のれん代)をもとに成功報酬を算出する場合などがあり
基本的に、仲介会社のHPを見ることで報酬体系を確認することが可能です。しかし、プロセスを進めていくうえでの金銭面でのトラブルを回避するためにも、M&A仲介業者に問い合わせ、事前に詳細を確認しておくことが必要です。
金融機関では融資による資金援助といった財務の面だけではなく、税務や法務などM&Aの手続き全般に関して、相談から成約までのサポートを手がけることができます。
各観点においては、弁護士や税理士といった専門家への相談も可能ではありますが、法務や税務など一部の知識しか持ちあわせていないことが多く、取引全般に関しての相談を行うことが難しいケースも。
銀行においては、M&Aに特化した専門部署を保有していることもあり、またFAロールを担うケースもあるため、取引全般に資するインプットが期待できると言えます。
【金融機関(銀行)を活用するメリット】
各銀行によって対象としている企業や詳細な報酬額は異なりますが、一般的に銀行は大規模なM&Aを得意としている傾向にあります。
メガバンクなどの規模の大きい銀行のM&Aアドバイザリー業務での手数料は、特に高く設定されているケースが多いです。
そのため、数億~数十億円以上の規模を有する企業を主な顧客としており、中小企業から見るとそのサイズ感が合致しないケースがほとんど(中小企業はM&Aを行う場合は手数料での負担が重くなってしまう場合も)。
しかし、その分大規模なM&Aに関する情報や実績を持っており、結果として強みを発揮することが可能となります
銀行はM&Aに限らず、本業として融資など企業からのさまざまな相談が持ち掛けられます。つまり、幅広い顧客網を保有しているということです。
前述のとおり、手数料の水準から大企業を相手取った取引が多くなりがちではありますが、多種多様な規模・業種の企業に対してのM&Aの実施を打診することも可能です。
【金融機関(銀行)を選ぶポイント】
銀行の報酬額や料金体系は各銀行によって異なってはきますが、主に報酬は3つの要素から成り立っており、料金設定は各銀行によって異なるため、必ず契約前の確認が必要です。(前述にて記載)
ここまでで、M&A仲介業者と金融機関(銀行)でのM&Aへの関わり方と特徴について述べていきました。
しかし、これはM&Aを行う上での初期段階の情報です。
共通しているのは、利用しようとしている機関がどのような情報や知識を保有しているのか、得意領域はあるのか、どのような実績をあげているのか、報酬体系はどうなっているのか、などといった情報を事前に調べる必要があるということです。
自社のニーズや予算規模に見合った期間を選定することでM&Aの成功率や円滑な推進を狙う可能性を高めることができます。
スコープの設定や企業調査~譲渡契約締結までは多くの手間と費用が掛かることから、本記事を参考に自社に適した機関の選定を行っていただければと思います。
ここまでお読みいただいたことにより、一部分ではありますが、M&Aに関与する機関を選定するだけでも多くのポイントを加味する必要があることを感じていただけかと思います。この選定だけでも大変手間があると感じてしまう方もいらっしゃるのかと思いますが、
もしも外部機関の活用を検討しておられましたら、ぜひ弊社の活用も検討いただければと思います。
【参考】
帝国データバンク『第二回:M&Aのプロセス(1)~M&Aの具体的な手順~』
『M&A仲介とは?仲介会社のメリットや選び方、FAとの違い【動画付き】』
『M&Aにおける銀行の役割とは?成功させるための特徴と注意点を紹介』
『M&Aの手数料は?仲介会社の報酬体系や相場、計算方法を解説』
M&Aマガジン『M&A仲介とは。その役割・メリットについてご紹介』
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト