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2023.05.17

-事例研究- 経営企画における成功要件

はじめに:経営企画の目的と業務の進め方

 企業における経営企画とは「経営陣の意向を汲み取りながら会社の中長期的な経営方針を定め、ゴールまでのプランを立案すること」を目的とした、企業の中核を担う組織です。そして、その目的を①中期経営計画の策定、②単年度の予算変成、③特命プロジェクトの推進といった業務に落とし込み、実現へ導いていくため、正しい手法や体制で複数事業を管理する必要があります。

 そして経営企画における業務の進め方については、1.現状分析→2.ヒアリング→3.アクションプランの策定の3STEPで進めていくことになります。

(※上述の詳細は過去掲載の記事「中小企業における経営企画室の役割とは」と「経営企画の進め方とは」を是非ご一読ください)

 しかし実際に経営企画部門を運用するにあたり、様々な課題に直面することとなります。そして、本来必要とされるファンクションを果たすことが出来ずにいることもあるでしょう。それでは、経営企画の取り組み・業務を成功へ導くためには、どのようなポイントがあるのでしょうか。

 本稿では、中小/中堅企業の経営企画部門が実際に取り組んだ『組織変革』や『新規事業参入』の事例を参考に、経営企画が注意を払うべき重要事項を説明していきます。

 

経営企画における取り組みや業務の成功のポイント

 早速ですが、この記事をご覧いただいている皆様は、どのような要素が経営企画の取り組みや業務に重要であり、成功に影響を与えるとお考えでしょうか?正直、企業の形は千差万別であるように、経営企画の設営目的にも様々であるため、この答えは決して一つに限って語れるものではありません。

 しかし、経営企画が企業の中核を担う組織であることを念頭として考えた場合、下記の3点が重要であると私たちは考えています。

1.各部門が抱えている問題を俯瞰してとらえる

  • ファクト・数字など定量情報のデータを用いて正確に分析する
  • 各部門の収益構造や課題を把握・分析し、現場に投げかける

 経営企画において、全体を俯瞰的にみることは重要な要素となります。もちろん、現場の想いも大切ですが、一度感情などを抜きにして、実際の数字で見て、考えてみる必要があります。そして、その問題がなぜ起こっているのかを分析し、対策を練る必要があります。

2.各部門と密にコミュニケーションをとる

  • データでは見つけることのできない定性的な課題を捉える
  • 各部署の協力を得る

 経営企画だけでは事業を動かすことが出来ません。実際に現場で業務をおこなう部署・従業員と共同する必要があります。そのために必要となるのが、コミュニケーションです。コミュニケーションを取ることで数字として出てこない課題を発見できる可能性があります。また関係の質が高まり、より良い思考・行動に結びつけていく必要があります。

3.経営陣の考えを汲み取りながらも、トップダウンではなく、ボトムアップとなるように実行する

  • 課題の解決方法を企業一丸となって考える
  • 従業員全員の意思を方向づける
  • 順調にいく部署の理由分析と順調にいかない部署のサポートを行う

 企業経営はいわば舟です。例え優秀な船長でも、船員がマストを広げ、舵を切らなければ、舟は一向に進むことはできません。そのために、船員と共に航海することが求められます。経営企画は目指す先を社長から汲み取るだけでなく、それを部署・従業員に伝達し、実行していく必要があるのです。そして誰も漏れることなく実行していく必要があります。

 それでは上記で申し上げた3つの重要なポイントについて、各社の経営企画の事例をみながら考えていきましょう。

 

成功事例1:組織変革

■大幅な組織変更

1.背景

  • ITプラットフォームを運営するS社において、営業部門・企画部門・開発部門が、それぞれバラバラに存在していました。これまでのS社は業界を問わず様々な顧客のセキュリティに関するニーズに応えていくフェーズだったため、そのような組織形態の方が効率も良かったのです。
  • しかし、現在ではセキュリティだけではなく、顧客の業界ごとに異なる、より複雑な課題に向き合っていかなければならないフェーズに入っていきました。「すべての部門があらゆる業界の顧客に対応する」という以前の組織では、業界ごとに異なる複雑な課題に対応しきれない可能性もあったため、各業界の特徴を深く理解した上で業界特有の課題に向き合えるような組織を作っていく必要があったのです。

2.そのための対応

  • S社の経営企画部経営企画グループは上述の背景から経営陣やマネジメント陣の考えを汲み取りました。そしてそれを実現するための組織を立案・計画し、実際に組織の変革を実施することにしました。

3.結果

  • S社は対象業界ごとに3つのビジネスユニットを設け、それぞれのビジネスユニットの中に、その業界に特化した営業チーム・企画チーム・開発チームを内包する組織形態をとることとしました。
  • 社長やCFOなど経営陣と協議を重ねた上で実施した組織変更であり、経営企画グループとして全社横断的に実施できた大きな施策となりました。

ポイント

  • 組織変革は一部署のみでは出来ないため、全社を横断できる経営企画の影響は大きい

事例1は組織変革について注力した事例となります。近年ではビジネスがより複雑化する中で、一つの部門だけではイノベーションが生み出せないことが往々に増えています。一部門が問題を解決するだけでは、他の部門にイノベーションは波及していかないのです。

その状況下において、一部門では出来ない組織変革を担うのが経営企画の役割となります。経営企画にはいろいろな部門を経験した優秀な人材が揃うことがほとんどですが、中立的な立場としてどの部門にも所属しない性質上、様々な立場をとることが可能です。そのため、柔軟に全社を横断した対応が可能になるのです。

この事例においては、社長やCFOなど経営陣と協議を重ねると同時に、現場とコミュニケーションをとることで現場の理解も上手に行うことができました。そのため組織変革を成功させることができたのです。

 

成功事例2:新規事業立ち上げ

■未来型ライブ劇場の新規事業立ち上げ

1.背景

  • P社の経営本部経営企画部に以前は現場での仕事に就いていた従業員が新規で配属されました。この従業員はライブ会場で遠方から足を運ぶお客様の姿を見てライブがもっと身近なものになったらいいと感じていました。

2.そのための対応

  • 新規配属の従業員が担当となり、ライブと配信を同時に行うライブ施設を設営するという新規事業の立案と実行をしました。

3.結果

  • 緊急事態宣言下のような制限がある中でも配信でライブができ、物理的に収容人数が増やせなくても、配信であれば望む人すべてが好きなアーティストのステージを観ることができるようになりました。さらに、インタラクティブ(双方向)なコミュニケーションも楽しめるというエンターテインメントの新たな可能性を示すことができました。

ポイント

  • 経営企画では各部門が抱えている課題を俯瞰的にとらえ、それを解決するための選択肢やアプローチの仕方も多い

経営企画は事業を持ちません。そのため、ゼロからの思考で物事を考えることが可能であり、その制約はありません。例えば、一部署で出た問題が実は他部署でも同様の問題を抱えていた場合、経営企画は大きな役割を担うことになります。昨今のデジタルトランスフォーメーションの取り組みについても、このような経緯から経営企画がその一翼を担うことが多いようです。

事例2の担当者は元々現場の仕事をしている従業員でした。しかし、現場での活躍もあり経営企画に異動したとのことです。その際に俯瞰して物事をみることが出来るということが経営企画の大きな強みであると気づいたようです。そして、それを一部門としてではなく、全社として周りを巻き込んだことが成功に結びついたと言えます。

 

 

成功事例3:営業会議の設置

■営業会議の設置

1.背景

  • H社ではここ数年で売上拡大や組織拡大していました。そんな中で、従業員はよりコミュニケーションをとることの重要性に気付いていました。しかしそのような場がありませんでした。

2.そのための対応

  • 経営企画が中心となり、各部門の情報共有や意思決定の場として、事業別の収支をもとにした「営業会議」を実施することにした。

3.結果

  • 各部署とのコミュニケーションを図ることがよりできるようになり、全社目標の達成に向けて各部署が半年間で何を目標に取り組むかを、各部署の責任者とやり取りしながら設定し進捗を確認していくことができるようになりました。

ポイント

  • 横断的な立場として、情報の共有を行い、活用することが可能

経営企画はただ独自にデータを収集・分析するだけではなく、その結果を活かして、企業を動かしていく必要があります。そのためには積極的な情報収集はもとより、積極的な情報の開示・共有も必要になってきます。

事例3はそもそもありそうでなかった「営業会議」の事例です。企業によって経営企画の役割は異なります。さらに要なことは他社から見た場合には、当たり前と考えられるものかもしれません。だからといって他の企業がやっていることを実施すれば必ず伸びるわけではありません。その企業によって実際に何が必要か異なるからです。だからこそ、俯瞰的に物事を見定め、企業全体でコミュニケーションを図り、トップダウンではく、ボトムアップとして実施していく必要があるのです。

 

増益傾向企業と減益傾向企業の違い

 ここまで見てきた3社の事例が特殊だと考える方もいらっしゃるかもしれません。しかしこれまでみてきた事例とは別に、日本総合研究所は「経営企画部門の実態」調査の中で、増益傾向の企業と減益傾向の企業とで回答を比較分析しています。そしてその結果として下記記載のように回答に差異が出たとしています。

特に経営企画の要素として見るべき点は「企業活動の時間割当」・「取得情報の扱い」・「意見提案」についてでしょう。

■企業活動の時間割当

  • 減益傾向企業は「情報収集活動」に注力しており、本来行うべき戦略の立案や計画に時間を割くことができないようです。一方で、増益企業は「企画立案」などのやるべきことに注力していることが読み取れます。このように「情報収集活動」という利益を生まない作業でなく、実益を生む行動に取り組む必要があるということです。

■取得情報の扱い

  • 減益傾向企業は取得情報について「蓄積」しているだけと見受けられますが、増益傾向企業は「分析」をし、先述の企画立案に結びつける動きが見受けられます。こちらも上記と同様ですが、次へ繋げるための行動を起こす必要があるということです。

■意見提案

  • 減益傾向企業は「一方的な指示、提案、報告」といったトップダウンの経営体制が敷かれているのに対し、増益傾向企業においては「経営トップ・現場と互いに意見を持ち寄って議論」とフラットな位置づけであることが伺えます。この内容は、如何に自立した組織であるかということが伺えます。

 このアンケート結果をみても、増益傾向の経営企画部門は受け身ではなく能動的な態度で、ただの分析するのではなく分析結果を元に立案し実践していると考えられます。

 経営企画はただの社長のブレインとして情報を集めた存在ではなく、経営企画自らが新規創造を率先していく存在であることがわかります。

 

 

まとめ:中小企業の経営企画における成功要件

 掲載した成功3事例や「経営企画部門の実態」調査の結果を元に、中小企業の経営企画における成功要件についてまとめると下記記載の3つの成功要件と言えます。どれも経営企画を意味あるものにするための重要な要件となります。ご覧いただいている皆様も是非、これらの要件を元に本来のあるべき経営企画の取り組みを実現していきましょう。

 

 

おわりに

 本稿では、各社の経営企画が実施した事例を参考に中小企業の経営企画が成功するための秘訣を見てきました。本ブログでは、経営企画の経営人材不足の課題、個別業務の具体的な推進方法も掲載しておりますので、ご参考いただければ幸いです。

 弊社では、経営企画が本来あるべき姿になるため、3つのステップをゼロから支援する「社長の右腕を育成して、経営企画のあるべき姿に」サービスを提供しております。「中期経営計画の作り方」「経営判断に資する情報集約の方法」、「経営人材リソースの育て方」などでお悩みをお持ちでしたら、是非とも一度お問い合わせください。

 

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【参考】

 

柏原健太

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/コンサルタント

立命館大学卒業。海外でのボランティアを経て、ベンチャーにて経理・労務などコーポレート業務主任や東証一部上場旅行会社にて本社直轄店舗の所長代理、海外支店、本社内部監査部など幅広く業務に従事。当社入社後、事業戦略立案やコーポレート・ESG関連取り組みの事業支援などのプロジェクトを担当