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AIチャットボット「ChatGPT」:カスタマーサポート業務への活用可能性

はじめに:ChatGPTとは

20221130日、高度な性能を誇るAIチャットボット「ChatGPT」が、OpenAI(人工知能の研究開発企業)から発表されました。ChatGPTは、AIを利用した自然言語処理ツールで、ユーザーが投げかけた質問に対して、まるで実在する人間が作成したかのような自然な回答を返すことができます。

さらにChatGPTでは、高度な対話能力に留まらず、物語・メール・エッセイ・記事・コードなど、多岐に渡るクリエイティブ生成もであり、
その高い性能に対する危惧として、世界最大のユーザー数を誇る検索エンジンを持つGoogleの経営陣は、「コード・レッド(事業に対する深刻な脅威への警戒)」を宣言したと報じられています。

このように、ChatGPTは高度な性能を誇ることから、今後様々なビジネスに対して影響を及ぼす可能性が高いものと思われます。中でも、対話型言語モデルという性質から、カスタマーサポートにおいて特にその価値を発揮し、大きなインパクトを及ぼすのではないかと考えられています。

本稿は、カスタマーサポート業務に関連するビジネスマンに向けた記事となっており、ChatGPTの仕組み、および性能から予測される、ChatGPTを用いたカスタマーサポート業務の将来的展望について論じます。
カスタマーサポート業務の効率化、省人化を考慮する上での一助となれば幸いです。

ChatGPTの歴史

OpenAIは、AIを搭載した大規模言語モデルGPTシリーズを開発しており、その最新モデルがGPT-3(正確には、マイナーチェンジ版のGPT-3.5)をベースとしたChatGPTです。
この章では、ChatGPT開発までの経緯を述べてまいります。

①:自己回帰型言語モデル(特定の単語に続く単語を予測するモデル)GPT-3を開発

GPT-3は、自然言語技術処理モデルの1つで、人間のような自然な文章を作成することができます。
GPT-3は、この「人間のような自然な文章を作成できる」という能力が、他言語モデルと比較しても卓越しているわけですが、その技術の根幹となっている要素が用いられている「アルゴリズム」です。

GPT-3では、「Attention」と呼ばれるニューラルネットワークのアルゴリズムが用いられています。
GPT-3はこの「Attention」を用いることにより、他言語モデルと比べて優れた言語処理能力を得ることができるようになりました。

その理由は、「Attention」の特性にあります。
Attention」は、従来用いられていたアルゴリズムとは異なり、「文章の重要な部分のみ」に着目するという特性を持っています。

これまでのアルゴリズムは、文脈によって単語の持つ意味が変わるという文章の特性上、特定の文章を何度も循環させて、文章を正確に学習するスタイルを取っていました。
しかし、この方法は、ネットワークを循環する必要があるため、学習データ量が膨大になると負荷に耐えることが難しいという問題を抱えており、結果として実用性の高い言語モデルを生み出すには至りませんでした。
それに対して「Attention」は、文章の要点にのみ着目するため、学習データ量が膨大であっても問題なく処理することができます。

そのため、GPT-3は、2016年から2019年の間にインターネットで収集された570GB以上の文章データを学習することができており、他の言語モデルより高精度な文章を作成することができるのです。 

②:GPT-3に改良を加え、人種差別などのバイアスを排除したInstructGPTを開発

一方でGPT-3は「非道徳的な文章を生成してしまう」という欠点も持ち合わせていました。
GPT-3は、インターネット上の文章をデータセットとしているので、データセットの中に含まれている非道徳的であったり、攻撃的であったりする文章を学習し、作成してしまう傾向が少なからずありました。 

この問題に対して取られた対策がRLHFという学習方法です。
RLHFReinforcement Learning from Human Feedback)は、人間のフィードバックによる強化学習で、言語モデルをチューニングする手法です。

そのRLHFによって、GPT-3における特のバイアスを排除するようにチューニングされた言語モデルが、InstructGPTと名付けられました。 

③:InstructGPTをベースとし、より対話に特化したChatGPTを開発

ChatGPTは、InstructGPTがベースとなって開発されました。
そのため、学習方法自体はInstructGPTと差異ないのですが、ChatGPTは、より対話に特化した出力を行うため、InstructGPTとは異なる学習データが用いられています。

そのデータが、ユーザーとAIの対話を人間が再現したデモデータです。
このデモデータを用いることによって、ChatGPTは学習済の報酬モデル(出力結果別の評価がインプットされたモデル)に応じて、どのような会話がよりユーザーに求められているのかを学習し、よりユーザーが意図する回答を出力することができるようになるわけです。 

ChatGPTの活用可能性(カスタマーサポートの将来的展望)

ChatGPTは様々なビジネスへ活用することが可能と思われます。
既存の技術と比較しても高性能な文章作成能力を活かし、コンテンツマーケティングにおいて文章コンテンツを作成することも考えられれば、コーディング技術を活かし、ソフトウェア開発の一部を担ってもらうなど、多種多様なビジネス・業務に活用することができます。

可能性は広く考えられるのですが、その中でも、ChatGPTの特色である「対話への適合性」を発揮することができるカスタマーサポートにおいて、特に大きなインパクトを及ぼすのではないかと私は考えています。 

現状、カスタマーサポートでは、一部にチャットボットが用いられるなど効率化が図られていますが、電話対応に必要な人員を削減することは難しく、抜本的な効率化を図ることはできていません。

いずれは全行程を自動化することが求められますが、ChatGPTを活用することで、大部分の行程を自動化し、大幅なリソース削減を実現できる可能性があります。

一方で、実装に向けて解決すべき課題はいくつかあり、回答の正確性や回答スピードは特に、実業務へ転用する上で解決が必要な課題と思われます。

ChatGPTは、現時点で高い精度で回答できることは間違いないのですが、一部、正確性に欠けており、中身の伴わない文章を作成してしまうケースも散見されており、わずかでも誤答の可能性がある限りは、業務上では安心して用いることができません。また、口語調で質問を受けた場合、正確に意図を把握し回答することができるのかも、業務上での懸念点として捉えられます。
その他、スムーズな顧客対応をする上では、回答のスピードも一定水準を超えていないと実用化が難しいなど、
課題はいくつかありますが、まだリリースされたばかりですので、今後のアップデートが期待されます。

まとめ

本稿では、ChatGPTの仕組み・性能を解説した上で、ビジネス(特にカスタマーサポート業務)への活用可能性について言及しました。

ChatGPTの活用により、カスタマーサポート業務を自動化できる展望がある一方で、業務上で実現する上では、まだまだ課題が残存しているのが現状ですが、ChatGPTがより大規模なデータセットを用いた学習やRLHFを繰り返すことによって、いずれは解消されるのではないかと考えられます。

ChatGPTが実現した対話への適合性が卓越したものであることに違いはなく、カスタマーサポートにおいて既存の業務形態を大きく変える可能性が高いため、今後もその動向に着目することが求められます。

【参考】

Gigazine「対話型チャットAIChatGPT」開始から1週間も経たないうちにユーザーが100万人を突破、そもそもChatGPTとは一体何なのか?」

Gigazine「自然なブログを書いてしまうほど超高精度な言語モデル「GPT-3」はどのように言葉を紡いでいるのか?」

OpenAI HP

TEXAL「OpenAI が「GPT-3.5」と間違いを認める対話型AIモデル「ChatGPT」をリリース」

データアーティスト「GPT-3とは」

ビジネス+IT「超高精度の言語AIGPT-3」は何がスゴい?要約、小説、コーディングなど広がる可能性」

 

安原 拓海

アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/アナリスト
2020年早稲田大学文化構想学部卒業。ITコンサルティング分野において、CRM/SFAシステム導入支援の実績を保有。