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小売業界における画像認識技術活用のススメ

小売業界で注目を浴びる画像認識技術

大きな課題に直面している小売業界は、現在注目を集めている画像認識技術・顔認証により変革の時期にいます。

 

人口減少による人材確保の難しさやハードワークが故の求職者減少による慢性的な人手不足の他、感染症対策などへの対応にも迫られており課題が山積みになっています。

 

こうした状況を打開するため、各企業はDXによる対策に取り組んでいる中、特に注目を集めているのが画像認識技術・顔認証です。

顔認証による決済、情報提供や各種マーケティング、店舗側のオペレーション改善、セキュリティ対策など、業務工数の削減と人材育成を両立させ、人的リソースへの依存を回避できる技術として様々ある対策の中で、一際期待されています。

 

本記事では、小売業界における課題を深堀するとともに、画像認識技術・顔認証導入による効果や導入の優先度、そしてそのユースケースなどについて解説していきます。

 

小売業における画像認識技術の市場規模

実際、画像認識技術への期待がどの程度あるのか、市場規模をベースにご紹介いたします。

 

202181日にREPORTOCEANが発行したレポートによると、小売業における画像認識の世界市場は、2019年に約1,140百万米ドルとなり、2020年から2027年の予測期間ではCAGR21.8%以上の成長率が見込まれているため、期待が高い事が見受けられます。

 

 

一方国内では、小売業に限定した数値ではないものの、デロイト トーマツ ミック経済研究所が20211013日に発行した『AI活用の画像認識ソリューション市場の現状と展望 2021年度版』によると、2021年度の国内ディープラーニングを活用した画像認識製品・サービスの市場規模は、前年比162.8%の322億円に達するという見込みで、20212025年度まで年平均60.8%増で成長を続け、2025年度には2,300億円に達すると予測されています。

 

上記に加え、同レポートでは、デロイト トーマツ ミック経済研究所が下記のような見解を示しており、AIを活用した画像認識技術は、今後の実務レベルでの本格的導入が期待されているため、今後の画像認識技術活用拡大が見込まれます。

  • AIは『〈過度な期待〉のピーク期』を過ぎ、希望的視点から実際の業務課題解決に適用していこうとするフェーズに突入した」
  • 「ユーザーのニーズが明確化したことによって、業務の課題に適合した業務アプリケーションが誕生しているほか、PoC(概念実証)を経て実運用に移行する案件が徐々に増加している。また、多店舗展開しているユーザー企業が、試験的に数カ所で導入した後、効果が見込めたので導入を拡大するケースも増えている」

 

小売業界における画像認識技術市場拡大の要因

国内において画像認識技術の市場拡大を後押ししている要因として、大きく人手不足とコロナの影響が挙げられます。

 

人手不足

どの業界でも人手不足の声が多く聞かれますが、特に小売業界の人で不足は多く、その解消のため、DX推進が求められています。

そのDXの取り組みの一つとして挙げられるのが画像認識技術です。

そんな小売業界に置ける人材不足の原因としては、以下の事柄が考えられます。

 

  1. 少子高齢化
    そもそもの生産年齢人口が減少傾向であり、日本全体で人材の確保が困難となっています。
    母数が減少しているため、従来の人材スコープでは確保可能な人数が減少してしまうのが現実です。

 

 

  1. 働き方の多様化
    インターネットの普及により、場所や時間の束縛が少ない働き方を各個人が選べる時代に変わってきており、特に昨今では、コロナの影響もあり、リモートワークが急速に拡大しました。
    小売業界の従業員の多くは店舗のスタッフであり、現場への出勤が必要不可欠な職業であることから、求職者が選ぶ職業の上位候補から除外されてしまう割合が高くなっている可能性があるため、人材不足の一因となっている事が考えられます。

 

  1. 労働環境の過酷さ
    一般的な小売業では、カレンダー上の休日に多忙となるため、従業員はシフト体制を敷いており、決まった休日を取得できずに、家族や友人とスケジュールを合わせ辛くなってしまうなど、プライベートを大切にする労働者にとっては避けたい勤務体系であるのが現実です。
    また、人材不足によって従業員一人当たりの業務量を増加してしまい、結果的に長時間労働へ繋がるなど、従業員が不満を抱きやすい環境になる恐れもあります。

 

コロナ

新型コロナウイルスは、大勢の感染者を出すだけにとどまらず、私たちの生活様式や商習慣を大きく変化させました。

そのコロナの影響を大きく受けた業界の一つが、小売業界です。

実店舗では、感染拡大防止の観点から、人との接触を極力避ける取り組みが必要とされており、対応を求められております。

 

 

画像認識技術の導入による効果

 

  1. 人材不足の解消
    これまで従業員が行っていた業務の一部を、顔認証により代替することが可能です。
    例えば、顔認証を利用し、個人と決済を自動的に紐づけることによるレジレス店舗の実現や、画像認識による減少在庫分の自動発注、顔認証による従業員の出退勤を自動で管理するなどで、管理者と従業員双方の手間を削減可能です。
     
  2. マーケティング戦略の高度化
    顧客の顔の分析で属性(年代や性別など)を分類し、どの属性の人がどのような製品をどの時期・時間でどのくらい購入したのかなど、顧客情報を自動整理することが可能になります。
    さらに、その分析結果を蓄積してビッグデータ化することで、顧客の行動傾向の予測や属性に応じたクーポンの配布など、高度なマーケティングを実現します。
     
  3. 感染拡大の防止
    非接触による自動検温で体調不良の従業員や顧客を検知する事が可能です。
    また、顔認証決済によるレジレス店舗の実現で、従業員と顧客の接触や、レジ前の混雑による顧客同士の接触を最小限にすることで、店舗としての感染拡大防止対策を推進可能になります。

 

このように、画像認識技術は小売業界としての課題を解決しながら、ビジネス上で有益な機能を有しています。

 

画像認識技術導入の優先度評価

 

小売業界への画像認識技術活用例として、分類すると以下6つに分かれます。

  1. 原材料/在庫の最適化:購買データ等から需要を予測し、原材料や在庫最適化
  2. 決済の簡略化:消費者のクレジットカードなどと紐づいた、手ぶら決済
  3. 商品・サービス提案の最適化:対話型の消費者の感情の揺れ等の観測による潜在的なニーズの予測
  4. 迷子・遺失物の捜索:画像などを活用した個人と物の照合
  5. ダイナミックプライシング:消費者の行動・感情等の分析による価格設定最適化
  6. 防犯の強化:消費者の来店数や購買履歴などの蓄積された個人データの即時把握

 

その中で、小売業界の直近の課題である人手不足を解決する画像認識技術活用方法が優先すべき取り組みであると考え、事例の実現段階(構想or実装)も加味して画像のような評価を実施しました。

 

結果、もっとも優先すべき画像認識技術は、決済の簡略化であり、この事例をご紹介いたします。

 

画像認識技術のユースケース(優先度高の事例)

 

  • 静脈認証による決済簡略化

日立が、小売店における「汎用カメラ静脈認証技術」を活用した、本人認証ソリューションを公開しております。

買物カートにタブレット端末が固定されており、顧客はタブレットに指をかざして本人を認証し、名前や決済方法を確認。タブレットのカメラで商品のバーコードをスキャンしながらカートに入れていく事で、カートごと出口にいくと会計処理が可能となります。

スキャンした商品とカート内の総重量を確認した後、タブレットに指をかざして認証するだけで、決済が完了する仕組みです。

また、このシステムにより、購買履歴を基にしたリコメンドによる購買促進も可能となります。

https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2010s/2018/03/05a05/index.html

 

  • 顔認証による無人店舗(高難易度事例)

株式会社セキュアは、無人店舗「SECURE AI STORE LAB」を住友新宿ビル地下1階で実証実験的にオープンしました。(顔認証等生体認証による入退管理、監視カメラシステム等によるソリューションを株式会社ヘッドウォータースが提供)

この無人店舗では、顧客が個人情報を事前登録しておけば、入店~購入~決済までを手ぶらで実施することが可能です。

また、映像解析や複数のセンサーによって、来店者の行動データ(顧客の動線/表情、手に取られた商品/手に取られた時間など)を収集/分析しており、収集したデータを基に各個人にカスタマイズされたAIによる広告を表示し、購買行動を促進しています。

https://robotstart.info/2020/06/25/secure-ai-store-lab.html

 

【参考】

吉田暁壮

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト。