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M&Aに着目した市場分析-アパレル業界における市場動向-

はじめに

 2018年にビギホールディングスが三井物産およびその関連会社に買収されるなど、近年アパレル業界でもM&Aが加速しています。

 従来、アパレル業界は事業譲渡や買収などのM&Aが活発に行われている業界の1つと言われておりましたが、近年は他業界の企業を買収するケース、他業界から買収されるケースが増加傾向にあります。そういったM&Aがなぜ増加しているのかを分析することで、買手企業の戦略や市場の傾向を把握することができます。

 そこで、今回はアパレル業界に焦点を当て、現在・今後の市場動向、及び業界のプレイヤーがM&Aを用いてどのような戦略を描いているのかを分析します。

 

アパレル業界の定義

 アパレル業界とは衣類の製造、流通、販売を行う業界のことですが、アパレル業界には様々な業態があります。

 メーカーから卸売業までを統合して手掛ける企業や、メーカー・卸売業から商品を仕入れて店頭などで販売を行う企業、また、衣類のデザイン企画から流通までを一貫して手掛ける企業などが存在しています。

 今回は、一般的な位置付けにある、「メーカー・卸売業から商品を仕入れて店舗で販売する」業態に焦点を当てます。

 

アパレル市場分析

 M&Aを行う際、市場分析は欠かせない要素となります。

 買収先企業の事業や価格などの条件がそろっていたとしても、市場自体の成長を見込めない場合、M&Aによる買収価値は小さくなってしまいます。また、市場自体は拡大傾向にある場合でも、買収先の競合他社がシェアを拡大している場合には、M&Aを行わない方が良い場合もあります。

 このように、M&Aを成功させるためには、買収先自体やその取り巻く環境を事前に調査することが非常に重要であり、市場分析は欠かせないステップとなります。

 

市場分析には1つの決まったフレームワークがあるわけではなく、その手法は様々存在しますが、代表的な例として「3C分析」というものがあります。3C分析とは、Customer(顧客)、Company(自社)、Competitor(競合)という3つの観点から分析し、その関係性を鑑みて成功要因を導き出す手法です。 

 今回は「市場規模/動向」及び「PEST分析」を用いてCustomerを、「市場の主要プレイヤー」をCompetitorとして分析します。Company については、特定の企業を設定していないため、今回は除外します。それでは、アパレル業界の分析に移ります。

 

市場規模

 下図は、2020年までのアパレルの市場規模及び2021年の市場規模予測です。

 2016年から2019年のCAGR(年平均成長率)は-0.2%と、横ばいの状態が続いていたが、2020年はコロナの影響を強く受け、市場全体の規模が大きく縮小しました。2021年はEC販売やサステナブル製品の需要の高まりもあり、前年と比較し徐々に売上を伸ばしている企業が出てきているため、微増ではありつつも回復が見込まれます。

 

PEST分析

 PEST分析とは、市場の動向をPolitics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の観点から外部環境を分析するフレームワークです。

 この分析結果を基に、市場におけるプラス/マイナスのインパクトを与え得る要因を整理し、外部環境による影響を受けやすいのか、また、成長性がある市場なのかを判断します。アパレル市場のPEST分析結果は以下に示しています。

 Politicsの観点では、コロナによる緊急事態宣言や外出自粛に伴い、アパレル製品への消費が減少しており、Economyの観点でも、消費活動自体が縮小傾向にあることが分かります。しかし、SDGsの普及によるサステナブル製品の需要増加や、ECを活用した購買の増加が見込まれるため、アパレル製品の売上は今後回復する傾向にあると思われます。

 

主要プレイヤー

 次にアパレル市場に属している主要なプレイヤーを把握します。競合のシェアや自社の潜在的な競合の把握、また、トッププレイヤーのビジネスを参考に自社のターゲットやポジショニングを検討することが可能です。2020年のアパレル市場における主要プレイヤーとシェアは以下のようになっています。

 プレイヤー全体の中で、ファーストリテイリングがダントツでシェアを持っており、次点のしまむらと合わせると2社だけで約5割のシェアを持っているのが分かります。今後アパレル市場に参入するのであれば、トッププレイヤーに習い、幅広い層をターゲットに低価格の製品ラインナップを展開するか、あるいは差別化を図り、デザイン性の重視や高品質、高価格製品を展開するなど検討する必要があります。

 

M&A事例

 ここまでは3C分析を活用した市場分析方法について説明してまいりましたが、ここで実際にアパレル業界であった近年の代表的なM&A事例をいくつか紹介します。

 各企業がどのような目的をもってM&Aを行ったかを分析することで、各社の今後の動向や市場全体の傾向を読み取ることも可能となります。以下、2021年までに行われた近年のM&A事例です。

 

事例①

【買収企業名】

三井物産

【譲渡企業名】

ビギHD

【譲渡日】

2018年118

【買収目的】

 単一ブランドごとの事業展開、ブランドポートフォリオの構築、川上事業の強化 

【事例概要】

 ビギHDの前会長(現名誉会長)の高齢に伴い、アパレル製品の生産委託やブランドライセンスをとおして30年以上の取引関係にある三井物産と手を組むことが最善と判断し、M&Aに至りました。

 三井物産ではビギHDの企画・販売プラットフォーム機能を強化しつつ、川上事業の強化を目的としており、また、新たなアパレルブランドの導入や成長市場に向けた販路の強化も図っています。

 

事例②

【買収企業名】

オンワードHD

【譲渡企業名】

株式会社大和

【譲渡日】

2019年31

【買収目的】

新規事業進出 

【事例概要】

 オンワードHDはアパレル事業をはじめグルメなど生活に関連する事業を展開する企業であり、大和はギフト商品の規格や販売を行い企業です。

 M&A以前から両社はギフトカタログについて、仕事の発注、請負を行う関係にありました。オンワードHDは大和を買収することで、ギフトという新規事業に参入し提案の幅を広げ、顧客満足度の向上を図っています。

 

事例③

【買収企業名】

TSIHD

【譲渡企業名】

HUFHD

シーダー株式会社 

【譲渡日】

2017年1214

【買収目的】

国内および海外市場での販売強化

【事例概要】

 TSIHDはアパレルブランド「STUSSY」などを展開しているアパレル企業で、HUFHDは世界30ヵ国でグローバル展開しているアパレルブランドです。

 TSIHDの子会社である「ジャック」がHUFHDの国内販売権を取得しており、2015年より代理店として販売を行っていました。

 TSIHDはHUFHDの株式90%を取得し、子会社化することで、アジアを中心に海外市場での販売強化を図っています。 

 

最後に

 今回紹介した事例のように、アパレル企業は他業界に参入、あるいは他業界の企業がアパレル業界に参入するためにM&Aが用いることが多い傾向となっております。今回の事例はほんの一部であり、これ以外にも過去に多くのM&Aが行われております。また、コロナの影響を強く受けている業界なだけに、今後も買収や事業譲渡、売却をとおして企業の強化を図るケースが増加すると予測されます。

 今回は「3C分析」と事例を基に市場の傾向を分析しましたが、先にも記載した通り、市場分析に用いられる手法は1つではありません。様々なフレームワークを用いて多角的に分析することで、より至当な市場動向を把握することが可能となります。

 本稿の情報から皆様に得るものがあれば幸いです。

 

【参考】

 

笠川和哉

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト


5F, 1-3-18 Hiroo, Shibuya-ku, Tokyo
150-0012 Japan

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