KNOWLEDGE & INSIGHTS

世界一のスポーツリーグ”NFL”の運営・マーケティングについて

NFLって?

 

 スポーツ観戦が好きな方は多くいると思います。日本で最も視聴者数の多いスポーツであるプロ野球をはじめ、サッカー・バスケットボール等、プロ・アマ問わず様々なプロスポーツのファンが日々様々なスポーツを観戦しています。特に昨今、TVだけでなく、PC・スマホ・タブレット等のデバイスを活用したインターネットの配信も行われており、日本国内だけでなく様々な国の様々なスポーツを観戦することが可能な時代が訪れたといえるでしょう。

 そんな中、今回はNFLについての話を取り上げたいと思います。NFLはアメリカ国内で運営・開催されているプロのアメリカンフットボールリーグの事です。多くの日本人選手が活躍する野球のMLBと比べると、日本人にとってはなじみのない競技かもしれませんが、NFLの優勝決定戦である「スーパーボウル」という言葉を耳にしたことのある方は多くいらっしゃるのではないでしょうか?アメリカ国内だけで視聴者数1億人前後、視聴率は50%

近くを記録することもある人気コンテンツで、例を挙げると、2019年のアメリカ国内視聴率ランキングTop10は、1位のスーパーボウルを含めた9つをNFLの試合が占めています(Top10の残りの1つはアカデミー賞授賞式です)。この例からもわかるように、NFLというコンテンツは、もはやスポーツという枠組み超えた、アメリカを代表するコンテンツの1つなのです。

 アメリカ国内では大人気な一方、その他の国ではあまり知名度・人気のないNFLですが、実は世界で最も収益を上げているスポーツリーグとなっております。今回の記事では、NFLが国内における圧倒的な人気と高い収益を獲得するためにどのようなことをしているのか、マーケティングの観点から見ていきたいと思います。

 

NFLの人気と売上

 

まずはNFLの利益についてです。NFLは世界で最も利益を上げているスポーツリーグであり、コロナ禍で経営の厳しかった2021年のシーズンで、110億ドル(約1.6兆円)の種益を計上しています。コロナ禍の前にあたる2019年には140億ドル(約2兆円)もの売り上げを計上しており、これは世界のスポーツリーグが1年で出した売り上げとしては史上最大のものとなっております。

 上記した売り上げからもわかる通り、NFLはアメリカで最も人気のあるコンテンツの1つです。それらを伝えるエピソードとしては下記のようなものが存在します

 

2019年にアメリカ国内で放送された全てのTV番組の視聴率を調査したところ、Top100のうち78個がNFLの試合中継だった

・スーパーボウル(NFLの優勝決定戦)のアメリカ国内のみで1億人前後がTV視聴

20222月に実施されたスーパーボウルのチケット平均価格は1万ドル(当時のレートで115万円程度)、最も安い席でも5,300ドル(約60万円)

・スーパーボウルのTVCMは約30秒の枠で7億円

 

 これらのエピソードからもわかるように、スーパーボウルをはじめとしたNFLは、アメリカ国内において非常に高い人気を博しており、その人気を活用した収益化の結果が、世界で最も稼いでいるスポーツリーグとしての現在のNFLなのです。

 

マーケティング施策について

 

 そんなNFLですが、その高い人気を維持し、収益を拡大するために一体どのような施策をとっているのでしょうか?NFLa.運営・b.マーケティング施策の2点からみていきましょう。

 

運営

 まずは構造についてです。NFLというリーグ自体は非営利の団体として運営されており、そこに民間企業である各チームが計32個所属しているという構造になっています。各チームは企業にあたるのでそれぞれのチームにオーナー(多くは裕福な個人)がいますが、彼らはあくまでチームという企業の社長という位置づけであり、リーグの運営等に関する発言権はあまり持っておりません。日本のプロ野球のように、特定のチームやそこに所属する人物の発言力が強いということはなく、あくまでも強い裁量を持ったNFLという組織が、各チームを統括するという構造になっています。

 収益に関しても、”Revenue Sharing”と呼ばれる収益均衡策がとられています。これは、各チームによる収益の多くをNFLに一旦プールしたうえで、その総額を全チームに均等に配分する仕組みです。これにより経済規模や人口が小さな街に拠点を置くチームが不利益を被ることを防ぐことに成功しています。

 また、スポンサー契約等に関しは全額NFLにプールしたのち、全チームへの配分を行っており、選手の年俸に関しても、各チームが利用可能な金額の上限と下限を一律で設定し戦力均衡を図っています。

これらはNFLがビジネス面・競技面での公平性を担保するために設けたルールであり、各チームは遵守しなければなりません。強い裁量を持ったNFLが、収益面・戦力面の均衡を推進していることが、NFLの人気の理由の1つとなっています。

 

 

マーケティング施策

 では、NFLが実施するマーケティングについてはどうでしょうか?こちらについても上記した通り、強い裁量を持つNFLが全体のマーケティングを統括しています。そして、NFLはデータを活用したLTV”Life Time value”の略で、「顧客生涯価値」とも訳される)を重視する方針のマーケティングを実施しています。NFLではこれを”Fan Centric Marketing”と呼んでいます。

 この” Fan Centric Marketing”の流れとしては、まずNFLに関心のあるファン層はどのような人なのか、それぞれの顧客がどの程度NFLへの関心を持っているかをよく知り、そのうえでそれぞれのファンの関心度合いに応じた接点を作り、そしてより熱心なファンとなるよう誘導する、というものです。

 まず、NFLに関心を持ち始めた段階のファンを対象に、試合のハイライトやSNS上で展開するコンテンツ等、無料で提供するコンテンツを配信し、NFLとの接点を作るようにします。この段階で、より深いNFLの情報を得ることができるチャネルのプロモーションも実施します。

 次に、上記した施策によりNFLへの関心が高まったファンを対象に、有料のサービスを案内する、という施策を実行します。有料のサービスと一口に言っても様々なサービスを用意していますが、主要なものは下記3つとなります。

 

有料の試合配信サービス

NFLが運営するサブスクリプション型試合配信サービス”NFL GAME PASS”をはじめとして、様々なチャネルを活用して、NFLの試合を配信しています。アメリカ国内の各種ケーブルTVの他、日本でも利用可能な一部のCS放送や、DAZNといったスポーツ配信サービスとの提携を通じて、アメリカ国内だけでなく、海外に向けても配信を実施しています。また、Amazonが提供するサブスクリプションサービス”Amazon Prime”でも一部試合の配信が去年より開始されており、ファンはその関心の度合いと料金に応じて、様々なチャネルの中から各自に適したサービスを選択できるという形になっています。

 

“Fantasy Football”

こちらは複数人のプレーヤーで架空のリーグを作りポイントを競うゲームです。最大の特徴は、NFLの実在のプレーヤーを使ってゲームをすること、そしてその実在のプレーヤーの活躍度合いに応じて勝敗が決まる仕組みとなっている点です。リーグに参加するプレーヤー間でドラフト形式により、実在の選手を取り合う形でチームを編成し、自分のチームに所属する選手の直近の活躍によりポイントが割り振られるシステムとなっています。

NFLの試合や選手の活躍と連動したゲームを提供することにより、「地元のチームの試合しか見ない」「自分の好きなチーム以外は興味がない」といったファン層に対して、より広く、NFL全体へ興味を持たせる効果が期待できます。

試合観戦チケット

スポーツの醍醐味は、やはり現地での観戦です。NFLの場合こちらの幅も広く、年間何十万・何百万ドルといった金額を払ってシーズンシートを買うことも可能である一方、何十ドルという安価なチケットも提供されており、こちらもファンの関心(と予算)に応じた選択肢を用意しています。

 

 また、上記の施策を実施する前提となるのが顧客情報です。NFLマーケティング部部長を務めるアロン・ジョージ氏が2019年に語ったところによると、「20年ほど前まで、我々は顧客の情報をほとんど持っていなかった」ものの、「近年はデジタルにフォーカスし、オンライン上での接点を増やすことで、1億人以上ものファンの情報がデータベースとして登録されている」と述べています。また、部長自身が2010年前後にデータアナリストとしてNFLでのキャリアを始めたと述べており、このころからNFLはデジタルマーケティングへのシフトと顧客情報の収集をはじめたと考えられます。

 これらのマーケティングが功を奏し、NFLは世界で最も収益を上げるスポーツリーグへと成長したのです。

 

終わりに

 

 NFLは今やデジタル面でのマーケティングにフォーカスしており、顧客の関心の度合いに応じて、様々なチャネルを通じたサービス・コンテンツを配信しているといえるでしょう。その人気はアメリカ国内に大きく依存しているものの、昨今はイギリス・メキシコ・ドイツ等の国での試合開催を実施する等、これからどんどん海外への進出を強める方針を示しています。実際、著者自身そのマーケティングにより熱心なNFLのファンとなった身であり、彼らのマーケティングの有効性は身をもって痛感しているところであります。

 顧客をよく分析したうえで、その関心の段階に応じて様々なサービス・コンテンツの選択肢を提供するというマーケティングの手法はスポーツビジネスの世界でも有効であり、コンテンツビジネスをはじめとした多く領域で活用できる知見となるのではないでしょうか。

 

 

高田 匠唯

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト