ERP(Enterprise Resource Planning)パッケージとは、所謂基幹システムのことで、企業活動に必要な機能を備えた情報システムのパッケージ製品です。企業内に散在するデータの一元管理の実現や、業務の統合等を推進することができます。
スクラッチ開発(0ベースでシステム開発を行うこと)と比べ、費用が抑えられ、且つ既製品であるため導入までの期間が短いため、導入を検討する企業が増えてきています。
経営支援の側面が強いERPパッケージですが、具体的に「もっと社内で情報の共有化を図りたい」、「セキュリティを強化したい」、「業務効率を向上させたい」といった期待をする場合、自社の業務の隅々まで把握せずに導入したことで、コストに見合った成果が出ないという落とし穴に嵌りかねないことを理解しておく必要があります。
ERPパッケージは企業の経営や業務を幅広くサポートしてくれる製品であるため、全社視点が必要になります。細部まで業務を理解し、本当に求めるべきERPパッケージの機能やコストを見極めるため、『Fit&Gap(フィット&ギャップ)分析』を行います。また、必要に応じてERPパッケージに合わせる形での業務プロセスを変更することも重要です。
本記事では、主に自社へのERPパッケージ導入に興味のある事業者様に向け、実際の事例を踏まえながら『Fit&Gap分析』についてご紹介いたします。
システムと業務プロセスとのFit(適合)とGap(乖離度)を測り、分析することを指します。
言い換えると、導入するERPパッケージの仕様が、自社の業務プロセスと合うかどうかを調べる作業です。
まず、ERPパッケージを導入しようとする場合、大きく以下4つのフェーズに分かれます。
『企画』フェーズでERPパッケージの導入を企画、計画し、『要件定義』フェーズで求める機能を定義し、『導入』フェーズで業務に落とし込み、『運用』フェーズで実運用に乗せて業務を遂行します。
『Fit&Gap分析』は、『要件定義』に含まれるプロセスです。
導入したいERPパッケージの機能の詳細を提供会社よりヒアリングしていても、自社業務への理解度が足りなかったことによって、導入後に期待していた程の効果を発揮しなかった、という失敗が考えられます。
企業規模が大きければ大きいほど多種多様な部署が発足しており、各部署で行っている業務プロセスも複雑化しています。
例えば、ERPパッケージの導入検討プロジェクトを立ち上げ、参画者として全部署の社員を集めたとしても、実務者レベルでないと知り得ない、重要な業務プロセスや業務課題が潜んでいることは往々にしてあります。
プロジェクトの一存で判断するのではなく、全部署の業務プロセスや課題、絶対に落とせないポイント等を隅々までヒアリングし、見える化した上でERPパッケージの導入可否やカスタマイズを検討する必要があります。
実際に当社が請け負った事例をご紹介いたします。
本事例では、当社がクライアント企業様より依頼を受けた事例としてご紹介しておりますが、自社内で『Fit&Gap分析』を遂行する際も同様です。
ERPパッケージを導入する目的を明確化します。
今回の事例では、主にコスト削減を目的とし、プロジェクトの目的は「費用対効果の測定」であるため、これらを軸に据えて現状把握を進めていく必要があります。
目的に沿った対象へ、目的に沿った内容のヒアリングを心掛けます。
事例では、ERPパッケージ機能に関わる部署は全て対象としました。
ヒアリングにおいては、プロジェクトの目的は「費用対効果の測定」であるため、『業務プロセス』や『課題』に加え、『業務工数』や『現行システムの運用コスト』についても、具体的に把握していきます。
なお、コストは「人件費」と「現行システムに係るランニングコスト」の視点でヒアリングしています。
本フェーズが最重要で、特に自社で行う際は「知っているつもり」にならず、関連部署の隅々まで十分にヒアリングすることを意識する必要があります。
現状把握の結果を、全て見える化します。
ヒアリング部署を跨がる広域な業務フローを作成し、業務工数の削減可能性の高い業務や解決すべき課題をマッピングしていきます。
結果の精度を高める意味で、必要に応じてマッピングした内容をヒアリング部署へフィードバックを依頼することも重要です。
事例では、見える化した後に一度STEP2へ戻っています。ヒアリングは2周に分けて実施し、1週目は業務概要の把握した上で見える化し、2週目で見える化した資料をベースに、気になる箇所を深堀りしながら工数や課題の確認を進めることで精度を高めていきました。
見える化した資料を用いて、目的に沿った効果検証を行います。
事例では、「現行の業務別人件費」と「削減想定人件費」、および「現行システムのランニングコスト」と「ERPパッケージのイニシャルコスト、ランニングコスト」を、それぞれ10年後までの長期視点で比較しました。
この検証結果が導入の意思決定を左右することになるため、数字の齟齬や目的を逸脱した軸での比較などが無いように注意します。
なお、本事例は一例であり、目的や企業の状況によってはより簡易的な方法でのヒアリングを行ったり、効果検証の比較対象が異なったりすることがありますので、必要に応じた手法を取ることが望ましいといえます。
自社の業務プロセスや課題等を把握した結果、ERPパッケージによって規定される標準機能に沿わない部分は、必ずと言っていい程見つかります。
ERPパッケージの標準機能と現在の業務プロセス、課題を照らし合わせ、適切に業務プロセスを変更することも重要です。
前述の事例は導入要否検討フェーズのみであったため、業務変更はスコープではありませんでしたが、必要に応じて柔軟に対応する必要があります。
今回は、ERPパッケージ導入プロセスにおける要件定義の最重要フェーズ『Fit&Gap分析』についてご紹介いたしました。
なお、Fit&Gap分析は導入時だけでなく、カスタマイズを検討する際にも有用です。
導入、カスタマイズ後にGap(乖離)が発覚し、無駄な支出や業務煩雑化を招かぬよう、『Fit&Gap分析』を行う必要性をご理解いただき、参考にしていただけましたら幸いです。
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/プログラマー。得意分野は業務コンサルティング。