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2021.02.12

今からRPA導入は遅くない:RPA今後の成長性について

RPA幻滅期突入の背景

業務上の定型化された作業を代替するツールとしてRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は大きな注目を浴びている。働き方改革も進められる中、RPAはデジタルレイバー(仮想知的労働者)を担うと考えられている。しかし近頃、RPAは幻滅される時期を迎えるのではないかという風潮がある。201810月に調査会社のガートナーが発表した「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2018年」において、RPAは幻滅期に差し掛かっていた。本稿ではRPAが一過性の流行として終わってしまうのか、それとも長期的に使われるテクノロジーとなるのかについて考察を行う。

 

RPA発展の経緯

RPAが注目され始めた背景には、人がやらざるを得ない細々とした定形作業の自動化への需要が高まったことが挙げられる。企業では1960年代から1990年代にかけて、情報管理の重要性が増し、ERPCRMなどの大規模情報システムの導入が相次いで行われた。これによって大量処理の自動化は達成されたが、その一方で発生頻度が少なく、一定量の意思決定を含む作業などは人がやらざるを得なかった。このような背景でRPAは注目されることとなる。2013年頃から欧米を中心にして、企業に導入され始めたRPAだが、大きな注目を浴びたことには①高度なプログラミング技術を必要としないこと②低コストで小規模な自動化を実行できるということも関係している。これまでの情報システムは大規模かつ、導入にも高いコストを要した。そのため気軽に導入することはできず、ましてや小規模な定形作業の自動化のために新たなシステムを導入することは資金力がなければ困難であった。これらの問題をクリアしたのがRPAであり、評価を受けるに至ったと考えられる。日本においては、2016年から少子高齢社会における働き手の不足、それに伴う「働き方改革」の推進などの要因によりRPAが社会を担う大きな労働力になるのではないか、と高い期待を寄せられていた。2017年には欧米の有力RPAベンダーが日本に参入し、先進的なユーザーのRPA導入が順調に行われた。このような活況が続くと思われたRPAだが、201810月には前述した通り幻滅期に差し掛かっていると予想された。

 

幻滅期移行の原因

なぜ幻滅期に差し掛かってしまったのか、その背景には①導入コストの高さ②活用の難しさが関係していると考えられる。2018楽天リサーチ株式会社が実施した調査によると、導入前段階の課題として「コストがネックになっている」という回答が67%と一番多く(図1)、導入後の課題としては「期待していたほどの効果が出ない/投資対効果がわからない」という回答が40.5%と二番目に多かった(図2)。

(図1

(図2)

 

導入コスト

①導入コストに関しては、RPAが企業に導入され始めた当初、初期投資が大きく必要となるサーバー型のRPAツールを扱うベンダーが多数を占めていた。世に出て間もなく導入効果も未知の部分が多いRPAに対して多額な初期投資を行うことができるのは、資金力のある先進ユーザーのみであり、中小企業が導入することは難しかった。大規模情報システムに比べれば、費用は少ないものの導入のハードルが高かったことは否めない。

 

活用の難しさ

次に②利活用の難しさに関してだが、「期待していたほどの効果が出ない」という回答が多くを占めたことにはRPAが現場担当者のみで手軽に扱えるツールだという過度な期待があったことが関係していると考えられる。RPAはほとんどプログラミングを必要としないツールである。しかし、だからといって処理フローの知識などがない状態で満足に扱うことのできるツールではないことも確かである。さらに付け加えるとRPAは導入すれば自動化ができるツールではない。業務プロセスの分解や社内での連携など必要な工程があり、ここが不足すると最適な活用には至らない。このような背景があり、RPAに掛けられた大きな期待はその分、幻滅へと変貌してしまったのではないかと考えられる。

 

RPA市場の動向

では、RPAはこのまま普及が滞ってしまうのかというと、そうはならないと考えている。

矢野経済研究所の『RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)市場の実態と展望 2019』によると、RPAソリューション全体市場2016~2022年のCAGR97.4%で推移し、8027000万円になると予測されている。RPAツール製品の2022年度の前年度比が100.7%、RPA関連サービスの2022年度の前年度比は110.6%と成長がやや鈍化しているように見られるが、いずれも成長は止まっていない。幻滅期に差し掛かっていると予測されているRPAであるが、成長が今後も拡大していくのには前項で挙げたRPAが幻滅期に差し掛かったとされる理由が改善されつつあることが関係していると考える。

 

導入コスト

導入コストの面では、ベンダーの多くが多額の初期投資を必要とするサーバー型のツールを扱っていた。そのため、そもそも導入する余裕のある企業が限られていることと、多額な投資を回収するだけの効果があるのかという不明瞭感がつきまとい、導入ハードルが高い状態であった。しかし2018年からベンダーは新たに小規模向けのライセンス形態を開始し、使用期間に合わせて契約を変更しやすいクラウド型RPAツールなども市場に台頭し始めた。これまでは中小企業の多くはコストの面から導入を断念していたが、柔軟なライセンス形態によって格段に導入のハードルが下がった。繁忙期とそうではない時期に柔軟に契約を変更しやすいクラウド型RPAツールも導入のしやすさに大きく貢献している。

活用の難しさ

 利活用の難しさの面では、RPAに対して過度に期待を抱いていたため、想定していた扱いやすさと活用方法とにギャップが生じてしまった。少子高齢化などにより労働力に課題の多い日本ではRPAというツールが他国と比べより重要な役割を担うと期待されたがために、このような認知の誤解を生んでしまったのだろう。しかし、今後はRPAソリューションベンダーと導入企業の両者の歩み寄りによって、スムーズかつ効果的に各社へのRPA導入が進むと考えられる。ソリューションベンダーはこれまで多くの企業への導入を経験し、導入作業の習熟度向上に伴い、プロジェクト工期の圧縮を実現している。導入時の課題なども把握し、より効果的に導入を進めることができるだろう。そして、RPA導入企業においては、RPAの普及に伴ってその実態を正確に理解し始めている。幻滅期に繋がることとなった過度な期待はなくなり、認知のズレも解消されつつある。そのため、適切なプロセスを踏んで最適なRPA導入を実現する心構えが整いつつあると言えるのではないか。いずれにせよRPAに爆発的な注目が集まった2016年とは状況が大きく異なり、今後も市場は発展していくと予想される。

 

RPA主要各社の動き

続いてRPA主要各社の動きからも、今後のRPA環境について考察していく。

取り上げるツールは日本で特に利用率の高い①Blue PrismUipathWinactor3つとする。

 Blue Prism

2001年設立のBlue Prism社の提供するRPAツールである。中央管理方式のサーバー型システムを提供しており管理性・高度なセキュリティが大きな特徴として挙げられる。その特徴からセキュリティ堅牢性が重視される金融機関や医療機関への導入が多い傾向にある。近頃の動きとしては、201811月にBlue Prism利用企業へ向けたマーケットプレイスである「Blue Prism Digital Exchange」の提供を開始した。当マーケットプレイスではBlue Prismパートナーが提供するAPIなど60~70種類の機能をダウンロードすることが可能だ。Blue Prism Digital Exchangeによってユーザーは開発にかかるコストを削減することに加え、RPAの活用効果を増大させることも容易となる。そして、パートナー企業は販促活動への活用などのメリットを得ることができ双方にメリットのある場となる。今後は先進的なパートナーとの連携によって、AI機能をユーザーに提供する展望を見据えている。

 Uipath

2017年設立のUipath式会社の提供するRPAツールである。開発環境であるUipath Studio、実行環境であるAttendedロボット・Unattendedロボット、管理ツールであるUipath Orchestratorの3つから構成されていることが特徴として挙げられる。これら3つの構成要素により、ユーザーはスモールスタートしやすく、その延長線上で大規模導入を実践することが可能となっている。近頃の動きとしては、201810月にマーケットプレイス「Uipath Go!」を開設した。ユーザーは当マーケットプレイスを利用することでロボット開発のスピード・正確性を高めることが可能だ。さらに今後はAI技術の取り込みにも関心を向けていて、OCRAI技術をUipath製品自体に搭載することを画策している。

 Winactor

株式会社エヌ・ティ・ティ・データの提供するRPAツールである。純国産RPAツールであり、フローチャート形式のシナリオ作成であるため操作が容易であることが特徴として挙げられる。日本語サポートが充実していて、コンサルティングから導入、保守、運用まで一気通貫で対応するためユーザーにとって最適なソリューションを提供しやすく多くの企業に導入されている。近頃の動きとしては20187月に「Winactorマーケットプレイス」を開設した。当マーケットプレイスではOCRソフト利用のための「OCRライブラリ」に加え、サンプルシナリオなども提供しておりWinactorを最適に利用するための環境として活用されている。20189月にはAI inside社と業務提携を開始した。当社はAI-OCRソリューションに強みを持っており、一元的な事務効率化を実現していく方針を持っている。今後はより多様な専門的RPAツールを組み合わせ、ユーザー企業の個々な要望に対応できるサービスを展開していく方針だ。

 

主要3社を分析すると、各社ともにマーケットプレイスの拡大・AI技術によるRPAツールのサービス性向上に力を入れていることが確認できる。ユーザー企業はこれらの動きにより、RPAをさらに導入し活用しやすくなることが予想され、RPA市場はさらなる発展を続けていくと考えられる。

 

結論

本稿ではRPAが幻滅期に差し掛かり、一過性の流行として普及が止まってしまうのかについて考察を行った。RPA2016年頃に少子高齢化による人手不足、それに伴う「働き方改革」の推進などを背景に大きな注目を浴びた。しかし①導入コストの高さ②利活用の難しさなどの要因により、幻滅期に差し掛かることとなったと推測される。しかし、各ベンダーによるライセンス形態の見直しや、ユーザー企業のRPAへの理解によりそれらの問題も解消されつつあり、RPAの市場規模は今後も拡大していくと思われる。RPAツールを扱う主要各社はマーケットプレイスの開設・AI技術との連携によるツールのサービス性を向上などに力を入れており、よりRPAを導入しやすく、効果的に活用しやすい環境となっていくだろう。これらのことからRPAは今後も発展しさらに伸びていくと考えられる。

 

 

出典

株式会社矢野経済研究所「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)市場の実態と展望 2019

楽天リサーチ株式会社「RPAに関する調査」,2018, https://www.toolhouse-vxc.com/special/rpa-research201808/result-1/

 

王 立云

アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/マネージャー
2016年上智大学大学院経営学部卒業、大手量販店入社。2018年当社入社、Consulting & Solution事業部にて戦略コンサルティング案件、BRP、RPAを始めた業務改善に伴うITコンサルティングなど、豊富な実績を有する。社内効率化のために、最適なソリューションをご提案いたします。