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【よくわかるビジネスデューデリジェンス実務】本質から理解するビジネスデューデリジェンス

 

本コラムでは、一からMA戦略を推進する投資チームならびにそれを外部からサポートする戦略コンサルタントを目指される方向けに、実務的なアプローチでビジネスデューデリジェンスの本質を探っていきたいと思います。

今回はビジネスデューデリジェンスにフォーカスを絞って、その本質をとらえていきたいと思います。

※あわせて「【よくわかるビジネスデューデリジェンス実務】デューデリジェンスの目的を知る」をご参照ください

 

 

 

ビジネスデューデリジェンスの目的

前回、デューデリジェンスの目的として、「当該M&A取引を実行するか否かの意思決定と、もし実行する場合の買収価格(価格のバリュエ―ション)を含めた買収条件をどう設定するかを検討するため」としましたが、その中でビジネスデューデリジェンスを行う目的は、

  • 対象会社の経営実態を詳らかにし、事業の将来性を測る
  • MAを実行することで買い手が対象会社にどのようなシナジー効果をもたらせるかを見極め、それを上乗せした「対象会社が将来的に生み出す価値」を評価すること
  • 上記2点を鑑み、対象会社に対していくらまで投資できるか(買収価格を出せるか)、自社の経営合理性を踏まえて評価すること

といったことが挙げられます。

つまり、対象会社由来の将来的な価値+買い手がもたらすシナジー効果の価値を総合的に評価することにあります。

 

「将来的な価値」を見極めるステップ

対象会社の将来的な価値を知るためには、

① 過去から現在まで生み出してきた価値を測る

② その価値をどのように生み出してきたかその仕組みを明らかにする

という入口からアプローチをはじめ、

③ 将来的な価値を生み出すであろう仕組みを明らかにする(あるいは構築する)

④ 将来的な価値を測る

という形で落とし込まれていくイメージを持って臨むとよいでしょう(「(過去の)結果⇒要因⇒(将来の)結果」の流れ)。

筆者も駆け出しのころは実態把握に苦戦してよく勘違いしましたが、対象会社のこれまでの実績を把握することは、ビジネスデューデリジェンスの本質ではありません。

当然ながら買い手が知りたいのは将来的に生み出される価値ですから、他のデューデリジェンスと比べて、限りなく未来志向型の姿勢で臨むべきところです。

ゆえにビジネスデューデリジェンスで将来的な価値が十分見込めない場合は、投資価値がないと判断されることになります。

 

 

では、具体的にどのように将来的な価値を測るかですが、これは前述の②、③を考察し、突き詰めていかなければなりません。

将来を見据えるためには、これまで価値を生み出してきた仕組みが市場環境や経営リソースの変化によってどのように変化していくかを追う必要がありますし、その変化の中にはもちろん買い手が経営を担うことで発生するインパクトも想定されますので、それを織り込んでいくことになります。

 

この①~④のステップは何もMAに限ったことではなく、(精査する情報の多少/濃淡はあれど)企業研究を突き詰めていく際は、同様のアプローチを踏襲することができます。

自社の経営戦略を構築する際の実態把握や、マーケティングにおける主要競合の調査と比較は、どんな業種であれ検証する機会が多いと思いますが、このアプローチにより単純なファクト収集よりもずっと大きな示唆をもたらすことにつながるでしょう。

 

分析の入り口たる事業計画

さて、M&Aに話を戻して。

デューデリジェンス開始時にもたらされる主要な資料の中に、対象会社作成の事業計画があります。

前段までの話を勘案すると、いかに対象会社が作成した事業計画が重要なものかご理解いただけると思います。

 

開示される事業計画の粒度は、対象会社によりさまざまではありますが、売上・コストの定量的な情報のみならず、対象会社が現時点で見込んでいる事業戦略を含めた事業計画を把握する必要があります。

この事業戦略の中には、対象会社が属する将来的な市場動向と、競合との競争ポイント、内部リソースとしての人員計画等、まさに経営基盤を構成する多角的なインプットが含まれています。

ビジネスデューデリジェンスでは、こうした事業戦略が現実的なものであるかという分析を入口として、それが定量的に落とし込まれているか、段階を分けて検証することになりますが、ここに重点的に労力をかけます。

それは、最終的に整理された事業計画に基づいて、企業価値を算定するために他なりません。

買収価格にも当然影響が出るため、事業計画を過大に見積もると、対象会社のポテンシャルを超えた高い評価を下してしまい、最終的に折り合いがつかなくなってしまいます。

 

事業計画からみる対象会社・売り手の思惑

あくまでも参考として、という前置きをしつつ、対象会社の目線で事業計画を紐解いてみましょう。

本格的なデューデリジェンスが始まる時点では、当該取引におけるスキーム(誰から(株主)/何を(株式)/どのくらい(譲渡株式数))と前提条件を把握できていると思います。

この前提条件の中には、M&A取引実行後における現経営陣の処遇についての対象会社の意向が含まれています。以下はその一例です。

  • 現経営陣が取引後に退陣(=買い手が直接的な経営を担う)
  • 現経営陣が取引後一定期間ののち退陣(=引き継ぎ後退陣・有期の経営委任契約を買い手と締結)
  • 現経営陣が引き続いて経営を行う(=経営委任契約を買い手と締結・一部再投資で経営者が株式を保有)

この前提条件と経営者の位置づけに基づいて事業計画を見ると、対象会社・売り手の思惑が見えてくることがあります(実際はこれに株式譲渡意向に至った背景・経緯が絡んできます)。

そのため、提示された事業計画が誰によっていつ作成されたかが重要になってくるのです。 

 

 

M&A取引実行前に経営者が経営と所有(株式を保有)を兼ねており、取引実行後に即退陣する場合は、この経営者にとっては「いかに高く売り抜けられるか(=どれだけキャピタルゲインが得られるか)」という観点が主になりやすいです。

その視点に立てば、一番高値で買ってくれる買い手を探したくなりますし、買い手が高値をつけてくれるように、その事業計画も実態を超えたややアグレッシブな数値に落とし込まれている可能性があることも想像に難くありません。

買い手としては、アグレッシブな計画でバリュエーション行っても、取引後に企業価値を上げられる算段があればよいですが、得てしてそうはならないのが経営の難しいところです。

そのため、ビジネスデューデリジェンスでは、提示された事業計画の値が実態・実力に伴うものとして設定されているかを精査し、バリュエーションの基となる修正事業計画を策定していくことに注力しなければなりません。

 

反面、事業計画が保守的に引かれている場合もあります。

その背景はいくつかありますが、多くは各事業部の評価精度が業績の達成度合いとリンクしている場合です。

各部の計画値が中期計画を構成する要素となりますが、下手に高い数値を掲げその目標を下回ると事業部責任者の評価が下がるような会社では、その意図が反映されて保守的な見立てがなされている場合もあります。

また、経営者が取引実行後も引き続いて経営を行う場合も、結果に対しての責任を残る経営者が負うわけですから、同様の理由で保守的な事業計画になることがあります。

バリュエ―ションが実態よりも低くなるため、買い手は「お得感」がありそうですが、将来展望の考え方・目線感が、現場・経営者・買い手でずれてくるリスクが大きく、取引実行後に成長阻害の要因となるためこれも危険です。

 

いずれの場合においても、ビジネスデューデリジェンスにおいては定量的な分析に終始せず、対象会社の経営者・キーマンの心理的な背景を汲み取りながら「時には疑い、時には寄り添い」で遂行していく必要がありそうです。

 

日下部峻

アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/マネージャー
新卒で大手飲食チェーンに入社。2018年当社に入社し、C&S事業部に参画。主に、M&Aサポートやビジネスデューデリジェンス、新規事業の事業性検証や事業モデル策定といった戦略コンサルティング案件、BPRをはじめとする業務コンサルティング案件においてセクターを問わず多数実績を有する。クライアントへの価値創出に全身全霊をかけて取り組み、最大のパフォーマンスを発揮することをモットーとしている。