中期経営計画とは、企業の理念・存在価値や中・長期のビジョン(ありたい姿)を3~5年後の具体的なロードマップへと落とし込んだものです。またそれらの達成プロセスを具体的な数値で表し、目標に対しての施策を決めていきます。経営計画にはほかにも、毎年の目標を立てる短期経営計画と10年前後の目標を立てる長期経営計画がありますが、短期も長期も中期経営計画に含まれることが多いです。
この記事は弊社の実績より、実際の中期経営計画策定プロジェクトを参考とし、中期経営計画の項目ごとにどのようなアプローチをするのか、実務的に紐解くものです。その前に中期経営計画とはなにか、自社で策定するときの注意点等を述べていきます。
(参考: 中期経営計画の作成方法~実際のプロジェクトを基に解説~)
中期経営計画は企業において持続的な成長を実現させるために必要な計画であり、計画を実行することで安定した成長軌道に乗せることができます。その中期経営計画を自社で策定する際に、主に次の3つの観点が求められます。
1つ目の観点が「客観性の担保」です。自社だけでの主観的な意見に基づいた中計は非現実的な目標の設定や組織内の認識ズレを生じさせる危険性があります。よくある失敗のケースとしては中計策定プロセスの中に外部環境分析が盛り込まれていない、自社内に客観的な市場分析ができるケイパビリティがないことが考えられます。
2つ目の観点が「持続的成長性の担保」です。企業内に適切なストレッチが内包されているかということです。もう少しかみ砕いて説明すると、個人や組織において「背伸びして工夫することではじめて手が届く」難易度に設定されたストレッチ目標が企業内に設定されており、その課題に対して努力や成長もできるケイパビリティが内包されているかということです。よくある失敗のケースが中央から各部門への監督機能が低下しており課題や持ち玉が把握できていなかったり、中央&各部門の責任者が中計に必要な要素・構造上の理解に乏しかったりするケースです。
3つ目の観点が「実行性の担保」です。計画が実務に紐づき、実行可能な体制を構築できているかということです。中計は策定することが目的ではなく、実行に移さなければただの言葉です。そのため、よくある失敗のケースとしてKGI/KPIの設定方法に理解がない、ロードマップがどう作用し運用していくのか実務面でのイメージができていないといったケースがあります。
ここからは各項目の説明と作成における具体的なアプローチを解説していきます。中期経営計画のすべての項目ではなく、重要な項目を抜粋して解説します。
※補足として、今回モデルケースとするプロジェクトのクライアント企業様は、上場企業グループの子会社という立ち位置であったため、基本的な親会社の意向などを鑑みた中期経営計画の策定が求められていました。また中期経営計画のテーマとしては既存事業の強化・拡大ではなく、新規事業創出という前提のもと策定しています。
以降の基本的な構成要素と合わせてご参考ください。
中期経営計画の項目説明(一部)
市場動向と競合他社の動向は中期経営計画に入れるべき重要な項目です。
この2観点と自社分析も含めた3C分析があるように、ここでは自社のポジションや差別化ポイントを明らかにすることを目的とします。それだけではなく、プラスの影響やマイナスの影響、つまり事業環境に影響を与えるキードライバーを特定し、以降の施策に反映する要素を抽出していきます。
市場動向においてオーソドックスなのは、市場予測とその原因の可視化です。
調査レポート等で公表されているデータを基に、市場の伸び率であるCAGR(年平均成長率)を算出します。CAGRとはある一定期間におけるビジネスや投資の平均的な年間成長率を表す指標であり、売上予測や投資対象の成長性分析などに活用されています。しかしCAGRはあくまで1つの指標であるため、他の指標や情報と組み合わせて総合的に分析し、企業の将来性を判断する必要があります。では実際にCAGRを活用してどう分析するのか。
CAGRを活用した分析方法はいくつかありますが、1つだけ例に挙げて説明していきます。その分析方法としては、当該企業が属する市場に影響するパラメータの増減をみていくことです。例えば新聞・雑誌市場に影響するパラメータの1つはオンライン記事やデジタル雑誌(電子出版物)です。オンライン記事やデジタル雑誌の購読者数が増加すると、新聞・雑誌の購読者数が減少することは簡単に想像できます。つまりCAGRに話を戻すと、オンライン記事やデジタル雑誌市場のCAGRの増加率は新聞・雑誌市場のCAGRの減少率と比例するのではないかという予測が可能に。新聞・雑誌市場の減少には他にも要因はあり、現実ではもっと複雑化していますが、一例としてこのような分析が挙げられます。
CAGRを活用した市場分析(例)
次に競合他社。競合他社の調査は多様な手段で調査できますが、どの軸で比較するかといった比較軸がとても重要になってきます。
今回のプロジェクトにおける競合他社との評価軸は、どのような先進的な取り組みをおこなっているかという現状の観点と、何を目標(あるべき姿)としていてどのように取り組んでいくのかという未来的な観点を評価軸としました。
もう少し具体的に説明すると、まずは競合他社の中期経営計画や社長のインタビュー記事等をもとに各社どのような戦略や目標を掲げているのかを把握します。その未来的な観点である戦略や目標のために、現在何を始めようとしているのかをニュースリリースや記事等で最新の取り組みや動向等でチェックします。その際、取ってくる情報のばらつきをなくすために比較軸を設ける、できるだけ定量的な数字を拾うということを意識しました。
目指す姿とはその企業が最終的に目指していく将来像やゴールのことです。企業が将来どのような状態になりたいかを具体的に示していきます。
この項目では現状の課題の整理と変革ポイントの明確化の2点を重点的に行いました。
現状の課題を内外部に分け、まず組織内でどのような課題を感じているのかをクライアント企業様のご意見を基に整理していきます。本プロジェクトではクライアント企業様が上場企業グループの子会社であったため、グループ全体に対しての貢献方法と役割が議論の焦点。議論の中での抽象的な思いや意見を言語化し、分かりやすく具体化させ、会議参加者のイメージを一致させることもコンサルタントの仕事です。またクライアント企業様のご意見の中に変革ポイントのヒントは必ずあるため、1回1回の議論を大切にし、その議論から多くの情報を構造化・整理しました。それがコンサルタントの役割、価値になると思います。
価値観とは、組織が大切にしている考え方や信念です。組織のメンバーが共通して持つべき価値観が、組織の行動や文化を形作り、組織全体の目標達成に貢献します。
行動指針とは組織が定めた、社員が日々の業務でどのように行動すべきかを示す具体的な指針のことです。企業理念や価値観をより具体的な行動レベルに落とし込み、社員一人ひとりが共通の価値観と行動基準を持つための指針となります。
この項目については特段、調査や分析をおこなったというよりはクライアント企業様のご意見やご意向を基に作成していきました。我々コンサルタントの役割としてはクライアント企業様の壁打ちとなり、潜在的な意見をいかに引き出すかという意識で議論を進めていきました。
数値目標とは、目標達成の基準となる数字の指標を設定することです。企業の成長や成功を測るための具体的な指標を数値で設定することで、計画の実現度を客観的に評価し、進捗状況を把握することができます。数値目標は企業が最終的に達成したい目標を数値化したものであるKGIと、KGIを達成するためのより具体的な中間目標KPIにわけられます。
数値目標を作成する際の流れを簡単に説明します。まずは企業が最終的に達成したい目標(KGI)を言葉で掲げます。次にそのKGIを達成する基準である目標を数値で定量的に設定します。最後に、最終的な目標に達するための段階であるKPIを設定。これが数値目標を決める際の一連の流れです。
では本プロジェクトにおいてKGI、KPI設定で注意した点などを説明していきます。
まずは最終的な目標であるKGIの設定。本プロジェクトではKGIを設定する際に3つのポイントに注意して進めていきました。
1つ目が期限や期間です。中期経営計画だからといって3~5年ぐらいと曖昧に決めてしまうと、実行や振り返りも曖昧になってしまいます。そのため本プロジェクトではKGIを30年後の長期的な2053年に設定し、長期的な目標と短期的な目標をバランスよく設定し、組織全体が一体となって目標達成に向けて取り組みました。
2つ目が親会社への貢献方法・貢献度です。売上高や利益が高いことは評価に値しますが、結果的にそれが親会社に貢献できていなければなりません。利益がたとえでていなかったとしても、新規事業の創出や新たな顧客開拓の先駆けなど貢献方法は様々です。どのような貢献方法があるのか、また貢献度をどの指標で測るのかという部分を固めていきました。
3つ目は達成可能な目標かどうかです。設定の際によくあることとして、高すぎる目標を設定してしまうことが挙げられます。そのため期限や期間を考慮しつつ、現実的な目標を設定する必要があり、この現実的な目標かを判断し決めるために我々コンサルタントがいます。自社内での主観的な経験則から決めるのではなく、シミュレーションロジックやCAGR等を用いて確度の高い目標設定をしていく必要があります。
次に、最終的な目標に達するための段階であるKPIの設定です。KPIを設定する目的は最終的なゴールであるKGIを達成することであるため、KPIはKGIと紐づいてなければなりません。本プロジェクトではまずKGIを満たすようなKPIを優先的に検討していきました。基本的にはコンサルタントが関連するいくつかの指標をご用意し、その指標を会議の場で組み合わせたり取捨選択したりしていきました。KPIの候補が会議の場であらかた決まると、そのKPIをシミュレーションロジックに落とし込み、具体的にどのぐらいのパラメータを置くか、またそもそもKGIを満たす指標になっているのかの確認をおこないました。数値目標に関してはグループの親会社からのどのぐらいの予算が下りるかという判断軸にもなっていたため、何度もクライアント企業様と議論を重ねながら、より現実的なKPI設定をおこなっていきました。
最後に、プロジェクトの内容から離れ、コンサルタントの価値とはなにかということを考えていきます。コンサルタントの基本的な仕事はクライアント企業様との議論の中で生まれた論点や課題の整理、そこから出せる示唆出し(調査・分析)が中心的です。いかにクライアント企業様のご要望に付加価値をつけて答えることができるのかに全力を尽くしております。
コンサルタントという仕事を説明する際に、コンサルタントの仕事は医者と似ていて、クライアント企業様の課題を見つけ(診断)、その課題を解決する(処方・回復)仕事という説明をします。しかし、そんなに簡単に課題を見つけられ、クライアント企業様の課題を解決できるのでしょうか。
回答はもちろんNoです。簡単ではありません。それはそうですよね。実情をより理解しているクライアント企業様でさえ、なかなか解決できない問題を依頼されているわけですから。ではコンサルタントは何が求められているのか。それはクライアント企業様が潜在的に感じている課題を言語化し、本質的な課題の整理、それに対する客観的な視点からの解決策提示、実行支援です。どうやって解決するかというよりもまずは本質的な課題整理。その次に、課題解決への道筋を明確にし、実行可能にすることです。
コンサルティング会社はよく「クライアント企業様と伴走する」という言葉を使います。その言葉の意味とは高度な分析や手法を使って巧みに調査・分析するという自分たち視点ではなく、まずはクライアント企業様のご意見やご意向が起点。その起点から共に議論しながら潜在的なニーズも引き出しつつ、目標に向かってサポートしていくということだと考えております。
弊社は事業を持つコンサルティング会社として、大手企業だけではなく、中小企業の中期経営計画作成も手掛けたことがございます。そのため、多くの知見と実績がございます。
中期経営計画の作成を検討している、もしくは興味だけあるという方でも是非ご連絡お待ちしております。下のフォームから回答できます。
アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/アナリスト