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Scop3排出量の削減に向けたSAF(持続可能な航空燃料)の活用方法

はじめに

近年、カーボンニュートラルの実現に向け、Scope 3排出量の削減が重要視されています。特に、航空輸送はCO2排出量が多く、持続可能な取り組みが求められる分野の一つです。そのため、今回は、航空業界における持続可能な航空燃料(SAF)の活用が、どのようにScope 3排出量削減に寄与するのか(SAFの特性やSAFを活用したCO2削減量の取引サービスを主題とする)を紹介します。

 

カーボンニュートラルとは

さて、SAFの活用手法に入る前に、各国政府/各企業が推進する“カーボンニュートラルの全体像”から改めて整理しましょう。カーボンニュートラルとは、温室効果ガス(特にCO2)の排出量と吸収量を相殺し、全体として排出ゼロの状態を達成することを意味しています。具体的には、企業や国が自らの活動で排出するCO2などの温室効果ガスを削減し、排出を避けられない部分については、植林や炭素回収技術、カーボンクレジットの購入などを通じて吸収・相殺するものです。このプロセスにより、実質的に温室効果ガスの排出量をゼロにすることを目指します。

カーボンニュートラルは、気候変動を抑制し、地球温暖化を2℃未満、さらに1.5℃以内に抑えるための国際的な目標として、パリ協定などで広く掲げられています。企業、国、自治体は、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目標としており、これにはエネルギー効率化、再生可能エネルギーの導入、持続可能なサプライチェーンの構築など、さまざまな取り組みが必要です。

カーボンニュートラルの達成は、地球環境を保護し、持続可能な社会を実現するための重要なステップであり、産官学/消費者が協力して取り組むべき課題と設定されています。

 

 

カーボンニュートラルの達成に向けたScope3排出量削減の重要性

カーボンニュートラルの達成に向けてScope3排出量の削減(サプライチェーン全体の活動:製品の製造/使用/廃棄、調達物流/配送物流などサプライチェーン全体における排出量削減)は、Scope1(自社の直接排出)/Scope2(購入電力などの関節排出)排出量に比べて、とても重要な焦点になっています。それは多くの企業にとって、Scope3排出量が全体排出量の7090%を占めることが背景です。また、Scope3排出量の削減は、消費者/投資家の関心が向いている分野の一つです。

特に、環境意識の高い消費者やESG(環境・社会・ガバナンス)に注力する投資家は、企業がサプライチェーン全体で持続可能性に関心を持っています。そのため、Scope3排出量の削減は、企業の競争力を高め、ブランド価値や投資家からの支援を獲得するためにも重要な焦点になってきています。

 

Scope3 航空輸送分排出量の削減が注目される背景

では、今回の焦点である「SAF(持続可能な航空燃料)」が使用される航空輸送について、日本国内におけるCO2排出量、また近年SAFが注目される背景を整理しましょう。

まずは航空輸送業界のCO2排出量についてです。

日本国内におけるCO2排出量を部門毎に見ると、運輸部門(自動車/船舶/航空)からの排出量はCO2総排出量のうち18.5%を占めています。また、運輸部門に限定すると国内航空は約5%を占めています。

前述でまとめた航空輸送領域におけるCO2排出量を見ると、カーボンニュートラルの達成に向けた排出量削減のインパクトは限定的なように見えるかと思います。では、なぜ近年よりSAFの利用が注目されているのでしょうか。

それは、①業界団体による脱炭素目標の設定、②航空業界における脱炭素化技術の進展が主な要因です。

  • 業界団体による脱炭素目標の設定について
    国際航空運送協会(IATA)は、2050年までにカーボンニュートラルを達成する目標を掲げており、これによって多くの国や地域で業界航空に対する規制/排出量削減の推進が強化されています。
    また、国際民間航空機関(ICAO)によるCORSIA(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)プログラムも航空業界の排出量削減を推進しており、当機関はSAF導入を推進しています。
  • 航空業界における脱炭素化技術の進展について
    他の運輸業界に比べ、航空業界は他の交通手段と比較して脱炭素化が難しい分野とされています。それは、自動車/電力分野では電気自動車や再生可能エネルギーの導入が進んでいますが、航空機は長距離飛行や大量輸送の要件から、バッテリー電動化や水素燃料の導入について、技術的/経済的な課題が多いことが背景です。
    そのため、航空業界の脱炭素化においては、最新の技術により従来のジェット燃料に代わるSAF(持続可能な航空燃料)が注目されています。SAFは従来の化石燃料と比較して、ライフサイクル全体で最大80%のCO2排出削減が可能とされています。従来のジェット燃料と物理的特性がほぼ同じため、既存の航空機やインフラをベースに活用できるため、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという業界航空の目標に向けた具体的なアプローチとして期待されています。
    ちなみに、別のアプローチとして、運行の改善、空港施設/航空車両の省エネ化、空港の再エネ拠点化などの取り組みも推進されています。

     

    SAFを活用したScope3環境価値の取引サービスとは

    さて、ここからは「SAFを活用した環境価値の取引サービス」を紹介します。

    そのために、①SAFとは何か、②Scope3環境価値の取引サービスとはどのようなものか?という流れで当サービス事例を整理いたします。

    • SAFとは何か?

      SAF(Sustainable Aviation Fuel)とは持続可能な航空燃料のことです。
      SAFは、従来のジェット燃料が原油から精製されるのに対して、廃食油、微細藻類、木くず、サトウキビ、古紙などを主な原料として製造されます。
      SA​​Fの燃焼時には、従来のジェット燃料と同様にCO2が排出されますが、その原料の多くは再生可能な資源です。そのため、原料の生成過程で吸収されたCO2が排出されるため、ライフサイクル全体での炭素排出が相殺されるものになります。
      例えば、「バイオジェット燃料(微細藻類/木くずから製造)」は燃焼させるとCO2を排出しますが、その元となるバイオマスはCO2を吸収して再生産されるため、全体として見れば大気中のCO2が増加しない燃料とみなすことができます。
      このような特性より、SAFはジェット燃料と比較して約60~80%のCO2削減効果があると見込まれています。
      しかし、これからSAFの普及を推進するにあたり複数の課題(コスト/供給量/製造技術/認知度と需要喚起など)があるのも現状です。ここでは、(1)製造コスト、(2)供給量での課題を紹介します。

      • 課題①: 製造コストが高いこと
        SAFの生産コストは従来の化石燃料を基にしたジェット燃料の数倍高いのが現状です。具体的には、従来のジェット燃料は100円/リットルほどですが、SAFは200円~1,600円/リットルほどの製造コストを要します。
        これは、SAFの生産に必要な原料(廃棄物、バイオマス、廃油など)は供給が限られており、入手コストが高いことが要因です。また、SAFの生産設備には高額な初期投資が必要であり、この設備投資が価格を押し上げる要因にもなっています。
        このようなコスト問題を解決するため、政府は補助金などの政策支援を推進し、製造技術の発展、生産規模の拡大を推進しています。
      • 課題②: 供給量が限定的なこと
        2022年時点における世界のSAFの供給量は約30万キロリットルであり、これは世界のジェット燃料供給量の0.1%程度とされています。
        航空輸送の業界団体である国際航空運送協会(IATA)は、2050年に航空輸送分野でネットゼロを達成するためには、約4.5億キロリットル(ジェット燃料の90%程度)のSAFが必要と推計しています。
        このように、航空輸送業界におけるカーボンニュートラルの達成に向けては、SAFの供給量はまだまだ不足しているのが現状です。
        日本国内における供給量の拡大に向けては、2030年時点のSAF使用量について、国内エアラインによる燃料使用量の10%をSAF に置き換えることを目標として各社が取り組みを進めています。(SAF原料 収集体制の構築、SAF製造コストの低減、SAFを活用したScope3環境価値 取引サービスの提供など)

     

    • Scope3環境価値の取引サービスとはどのようなものか?

        上記のように、政府/各企業の取り組みによりSAFの製造/使用などが推進されていますが、近年ではさらなるSAF利用促進のために“Scope3環境価値(SAFの利用によって生じる間接的なCO2排出量の削減効果)”を取引する新サービスが展開されています。   

        この仕組みは、次のようなものです。まず、航空会社がSAFを利用すると、航空機から直接排出されるCO2(航空会社のScope1)を削減できます。航空会社はこの削減量をScope3環境価値として、航空機の利用客(貨物輸送: フォワーダー/荷主、旅客: 各事業会社)へ販売することが可能です。このScope3環境価値は、Scope3 Cat4(航空貨物の輸送/配送(上流物流))Scope3 Cat9(航空貨物の輸送/配送(下流物流))Scope3 Cat7(旅客航空機を活用した社員の出張)の“インセット*1“に活用されます。

        このような流れで、「Scope3環境価値=SAFの利用によって生じる間接的なCO2排出量の削減効果」が発生していきます。上記サービスを活用することで、SAFによる航空輸送を利用した企業は自社のScope3排出量を削減することができるのです。(インセットできる)

        *1: インセット: カーボンインセットとは、自社のバリューチェーンに関連するCO2排出量を削減していく取り組みのこと。企業が自身のサプライチェーン内での直接的な環境改善活動を通じて排出量を相殺するアプローチ

        *1: オフセット: カーボンオフセットとは、自社のCO2排出量を認識した上で、対策を行ったにも関わらず削減できなかった排出量を、他者が創出したCO2排出削減量で埋め合わせる取り組みのこと(カーボンクレジットの購入など)
        外部の環境プロジェクトへの投資によって間接的に排出量を相殺するアプローチ

      国内サービス事例

      では、国内において、SAFを活用したScope3環境価値の取引サービスはどのようなものがあるのでしょうか?

      本章では主要企業の取り組み状況より、各事業者におけるインセットの機会を整理できればと思います。

       202410月時点では、航空会社のANA/JAL、フォワーダーの郵船ロジスティックス/近鉄エクスプレス/日本通運より、該当するサービスが提供されています。航空会社/フォワーダーの各社は、SAFによるScope3環境価値を“CO2削減証書として販売し、各事業者のScope3排出量のインセットを推進しています。航空会社は、シンプルに自社の利用顧客に直接CO2削減証書を販売しています。一方で、フォワーダーは各航空会社からScope3環境価値を仕入れ、それらを自社が手配した航空輸送便のインセットとして販売しています。

      中でも、日本通運が発行するCO2削減証書は、利用する航空会社の制限がない点が国内初事例となっており、事業者目線だと利用しやすいサービス形態だと見込まれます。これは、日本通運が手配するANA便分をインセットする際においては、ANA以外の航空会社から調達した環境価値を適用するものだと考えられます。(他サービスはANA便のインセットは、ANAの環境価値を利用している)

       

      おわりに

      前述のように、国内の航空会社/フォワーダーはSAFを活用した環境価値取引サービスを様々な形態での展開しており、これらによってSAFの需要喚起が進み、航空輸送業界の脱炭素化も推進していくと見込んでおります。

      今回は航空輸送業界における脱炭素の取り組み事例としては、事業者目線だと、Scope3 Cat1(購入した製品/サービス)Cat4(上流物流)9(下流物流)、6(従業員の出張)に関わる事例を紹介いたしました。しかし、事業者が携われる脱炭素のアプローチは、省エネ製品/再エネ電力の購入、その他カーボンオフセットサービスの活用など幅広く存在します。

      今後もこのような形で、事業者の皆様にとって有益なサービス事例を紹介できればと思います。

      弊社は以下の記事のように脱炭素関連のナレッジを随時公開しています。

      また、脱炭素に関する支援実績(Scope3排出量の可視化支援など)も多々ございますので、ご興味がある方は以下リンクよりお申し込みください。

      【参考: 社内ブログ】

      【参考】

      増田森一

      アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/コンサルタント