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2022.09.15

業務改善における「分析」ステップの効果的な実施方法 ~「BPMN」と「ECRS」とは~

日本企業における業務改善の重要性

公益財団法人日本生産性本部が公表している「労働生産性の国際比較 2021」によると、日本の1人当たり労働生産性(就業者 1 人当たり付加価値)は、78,655ドル(809万円)で、OECD加盟38カ国中23位と世界的に見ても低水準となっています。

さらに、GraphToChart(2022)「日本の生産年齢人口データ」によると日本の生産年齢(15歳以上65歳未満)は1990年代をピークに減り続け、2020年時点では約7400万人にまで減少しています。

日本の労働生産性OECD内で下位に位置しており、さらに、生産年齢人口も減少し続けており、現状のままでは日本企業の発展は厳しいと言わざるを得ないでしょう。したがって、日本企業に求められていることは、労働生産性を向上させ、今の業務をより少ない人数で実施できるようにすることです。

 そこで、重要となるのが業務改善です。業務改善とは、現状の業務を可視化し、課題を抽出したうえで改善することで、顧客に対して、より効率的に商品やサービスを提供できるようにすることです。

 業務改善は基本的には、以下の通り、設計・分析・実行・評価のステップで進められます。

各ステップでの詳細な実施事項や業務改善とBPRの違い等については『いまさら聞けない「BPR」と「業務改善」の違いとは?~BPRを失敗させないためのポイント~』をご参照ください。

 本記事では、上記のうち「分析」ステップにおける効果的な業務改善の進め方についてご説明します。

 「分析」ステップにおいて、「現状把握」では「BPMN」という表記方法が、「問題・課題の抽出と分析」と「優先順位付け」ではECRSというフレームワークを活用することで効果的に業務改善を進めることができます。 

 

業務を可視化するBPMN

「分析」ステップにおいて、重要な実施事項の1つが業務の可視化です。各業務担当者が普段どのように業務をしているのかを明確化することで初めて課題を抽出することができます。

 業務の可視化をする際は、一般的に業務フローを作成します。その業務フロー図の表記方法の1つとしてBPMNBusiness Process Model and Notation)があります。BPMNは、マルチベンダーで構成されているOMG(Object Management group)によって維持されている国際標準(ISO19510)であり、国際的に統一された「誰が読んでも同じ意味として伝わる」業務フロー図となっております。

基本的にBPMNでは、トリガーを表す「イベント」、業務内容を表す「アクティビティ」、分岐条件を示す「ゲートウェイ」 それぞれの記号を繋いで実行順序を示す「シーケンスフロー」によって業務が表記されます。

 

業務フロー図の作成方法

ヒアリングによって現状の各部署の状況、業務の実施状況を洗い出したら、BPMNを用いて下記の流れで業務フロー図を作成していきます。

①関係者を整理する

ヒアリング結果をもとに、対象となる業務や関わる担当者や部署などを全て一覧化します。ここで一覧化した関係者を必要に応じて業務フロー図のレーンに追加します。

②業務をリストアップする

各関係者がどのような業務をするのか、開始や終了のタイミング、判断をする際に必要な情報等をリストアップし整理します。

③業務を時系列で並べかえる

整理した作業を業務の流れと照らし合わせて時系列に並びかえます。

④業務をフローチャートに落とし込む

時系列に並びかえた作業をフローチャートに落とし込みます。

 

BPMNを作成する際には、業務担当者/業務フロー図作成者以外が業務フロー図を見ても理解できる業務フロー図を作成することが重要です。そのためには、業務フロー図にラベル(説明文)を記載することがおすすめです。

業務フロー図の例

製品の注文から受領までの業務フロー図を例として作成しました。

上記のフローでは、①顧客による製品の問い合わせ、②営業による製品の説明、③顧客による注文書送付、④営業による製造担当への製造指示、⑤製造担当による製造、⑤営業による出荷、⑥顧客が製品を受領という流れを表しています。

このように業務をフロー図に落とし込むことで業務が可視化され、これによって業務における課題の抽出と分析に取り掛かることができます。

 

課題を抽出するECRS

ここまでは、業務ヒアリングによって洗い出した業務を可視化する方法についてご説明しました。続いては、可視化した業務から課題を抽出/分析し、改善する方法についてご説明します。

可視化した業務から課題を抽出/分析し、改善する際にはECRSというフレームワークの活用がおすすめです。

ECRSとは、業務工程の見直しをする際のフレームワークで、その名称はEliminate(排除)、Combine(結合)、Rearrange(入替)、Simplify(簡素化)の頭文字からきています。

ECRSは上記図の通り、Eliminate(排除)では、「その業務をなくすことはできるか。」、Combine(結合)では「その業務と他の業務を同時に実施できないか。」、Rearrange(入替)では「業務の順序を入替ることで効率化できないか。」、Simplify(簡素化)では、「その業務のやり方をより簡単にできないか。」をこの順番で検討していきます。

Eliminate(排除)

最初に実施するのはEliminate(排除)です。先ほどご説明した業務フロー図等をもとに業務全体を見直し、排除しても問題がない業務はないかを探すステップです。

排除しても問題がない業務を探すには、業務フロー図における各業務の目的や実施の理由について見直していきます。その時に、業務の目的や実施の理由が曖昧なものがあれば、排除しても問題がない業務である可能性があります。

Eliminate(排除)の対象となる業務の具体例としては、日報等の書類作成業務があります。現状、入社歴に関わらず、全社員が日報の作成を義務付けられ、作成に毎日20分かけており、一方で、上司は日報を毎日確認しているわけではないとします。この場合、日報の作成の目的は曖昧であり、ただ慣例的に続けられていると言え、排除を検討することができるでしょう。

Combine(結合)

次に実施するのはCombine(結合)です。これは、類似した業務を複数の担当者が実施している場合、結合することによって人員/設備等のリソースの削減を狙うステップです。

また、業務の結合によって、別々の担当者が実施していた業務を特定の担当者が集中的に実施することで、その担当者の業務習熟度の向上も狙うことができます。

Combine(結合)の対象となる業務の具体例としては、発注作業の一括化等があります。現状、発注業務を部門ごとに別の担当者が実施しているとします。この場合、発注業務をまとめて1人の担当者が実施することで、トータルの所要時間の削減が期待できる可能性があります。

Rearrange(入替え)

次に実施するのは、Rearrange(入替え)です。これは、業務に優先順位付けをし、業務の順番を入替たり、業務担当者や業務の実施場所を変更したり、その業務を他のやり方に変えたりすることで効率化をするステップです。

作成した業務フロー図等を参考にすることで、業務の順番を入れ替えてよいか、担当者を変更してよいかを検討することができます。

Rearrange(入替え)の対象となる業務の具体例としては、上司への業務確認のタイミングの変更等があります。現状、自身が作成したアウトプットを上司に確認する業務を業務全体のフローの後半に実施しているとします。その場合、上司から修正の指摘が入った場合、大幅な修正が必要になる可能性があります。そこで、上司への確認を業務全体のフローの前半に実施することで、修正箇所が最小に抑え効率化を実現できます。

Simplify(簡素化)

Simplify(簡素化)は業務をより簡素化できないか検討するステップです。業務は複雑になればなるほど、人為的なミスは発生しやすくなり、また、それを防止するために二重チェック等の体制を整えることでより手間がかかることになります。

そのため、業務内容をもっと簡素化することができないか、作業を単純にすることができないかといった観点で検討を実施します。

Simplify(簡素化)の対象となる業務の具体例として、資料テンプレートの標準化等があります。現状、会議資料/報告書等を各担当者が0から作成しているとします。この場合、会議資料/報告書等のテンプレートを作成し、また内容を簡潔なものにしたうえで社内に共有することで、資料作成にかかる工数が削減されるだけでなく、テンプレートが統一されることによって上司の確認作業もより効率的なものにすることができます。

 

上記の通り、ECRSは改善効果の高い順番で並べられており、この順番で実施することで、より効果的な業務改善を実施することができます。

 

最後に

本記事では、業務効率化や業務改善を検討する上で役立つBPMNECRSについてご紹介しました。

BPMNのルールに基づいて、業務フロー図を作成することで業務を可視化することで課題を抽出できます。そのうえで、抽出された課題をECRSの考え方に基づいて、業務上の無駄の排除や、業務効率向上のための結合や入替え、そして、業務の簡素化をすることで効果的な業務改善を実施することができます。

自社の業務に何かしら課題を感じておられるようでしたら、本記事を参考に取り組みしていただけたら幸いです。

本記事が、業務改善の実施方法についてご興味をお持ちの企業様にとって有意義な情報提供となれば幸いです。

 

 

当社はITコンサルタントとして、RPAを始めとしたITツールの導入を、対象業務の選定/業務設計からシステム導入までトータルサポートしております。

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【参考】

副嶋 雅樹

アーツアンドクラフツ Consulting & Solution事業部/アナリスト
2020年神奈川大学経営部卒業