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CO2算定の新たなトレンドとなるか?CDPサプライチェーンプログラムの取組

CO2算定に対するCDPの取組

昨今、プライム市場のTCFD賛同義務化に伴いサプライチェーン上のCO2排出量公開が求められる等、企業のCO2排出量の対外報告を求められる場面が増えております。また、これまでは自社の燃料・電力の消費に伴うCO2排出量(Scope12)のみ公表が求められていましたが、現在ではサプライチェーン上の排出量(Scope3)の算定も必要になります。

ただ、サプライチェーン上流・下流にいる企業の情報取得は難しいことから燃料、電力由来の排出量と比べ算定が非常に困難であり、多くの企業がCO2算定に対して課題を抱いております。(参考:CO2可視化の課題と可視化システムについて(後編)

そんな中、CDPCarbon Disclosure Project)という国際NGO団体が、サプライチェーン全体の排出量算定における新たな概念を提唱し、それにより算定の難易度が急減するのではないかと考えられております。今回は、CDP提唱している概念及び具体的な取り組みについて紹介いたします。

                                 

CDPとは                        

CDPCarbon Disclosure Project)とは、イギリスに本拠地を置く国際NGO団体で、全世界15,000社以上のパートナー企業や公共団体等に対して環境問題に対する取組の実績及び情報開示を要請する取り組みを行っています。

CDPのパートナー企業例

CDPはパートナー企業に対して、以下の活動に対するレポート作成及び提出を要請しています。

  • 気候変動レポート
    • 地球温暖化に関わる情報(CO2排出量等)
  • 水セキュリティレポート
    • 水質汚染に関わる情報(取水・排水量、水質等)
  • フォレストレポート
    • 森林保全に関わる情報(伐採量、緑地化への取組)

CDPが回答要請する各種レポートは、企業自身の環境問題に対する取組を評価してもらえるだけでなく、企業はCDPから高い評価を受けることでブランドイメージを向上させることができ、投資家は公正な評価基準に沿って投資先企業の判断ができるようになるため、企業・投資家の双方がメリットを得ることができます。

企業、CDP、投資家の関係図

 

CDPサプライチェーンプログラムとは

CDPサプライチェーンプログラムは、CDPが回答要請を送った企業と取引をしているサプライヤにも同様に各種情報開示を求めるプログラムです。

そのため、投資家のESG投資先となる上場企業の他にも、中小・非上場企業の情報開示を求めることになります。   

サプライチェーン上の企業にも先ほど紹介した3つの情報開示が求められますが、その他にも「アロケーション排出量」の算定も求められます。                                 

アロケーション排出量とは、自社がサプライチェーン下流の企業に対して排出したCO2の量を意味します。このアロケーション排出量は、CO2排出量のScope・カテゴリにおけるScope3関連の排出量に該当します。

例えば、パソコンメーカーが企業に対して自社製品を販売する際、製品の製造に用いた燃料や電気からの排出量はScope12に該当しますが、パソコンを購入した企業にとっては、パソコンメーカーが製造する際に発生したCO2は「製品・サービスの製造」に伴う排出量になるため、Scope3のカテゴリ1に該当します。(各カテゴリの内訳は下表を参照)

 

このことから、CDPにおいてはサプライチェーン上の排出量は、サプライチェーン上流の企業から按分(アロケーションされた)CO2を集積して算定することを提唱しています。

今後のCO2排出量算定のトレンド予想

筆者は、今後はCDPのサプライチェーンプログラムで提唱する「アロケーション排出量」という概念がCO2算定におけるトレンドになると考えております。

この算定方法がトレンドになると考える根拠は大きく2つあります。

  • Scope3排出量にサプライヤの排出量削減努力を反映することができる
  • アロケーション排出量は算定難易度が低い

以下、それぞれの根拠について説明します。

 Scope3排出量にサプライヤの排出量削減努力を反映することができる

これまでScope3の排出量は、自社が購入した製品やサービスの調達金額に対して、各国・環境団体(日本では環境省)が公開している平均原単位を乗じて算定していました。

しかし、平均原単位は取引した企業に関わらず全て固定値であるため、CO2を削減するにはサプライヤ達との取引金額を下げるしかありません。

一方でアロケーション排出量を用いれば、サプライヤ自身が製品やサービスの製造段階でCO2削減努力を行った場合、取引金額が同じでも自信に按分される排出量も少なくなることから、自社のScope3排出量を削減することができます。

また、複数社と取引を行っている場合はアロケーション排出量がより少ないサプライヤとの取引を増やすことでScope3排出量を削減できるため、より自社のCO2を減らす取組を検討することができます。


アロケーション排出量は算定難易度が低い

アロケーション排出量の算定は非常にシンプルで、以下の数式の基に算定できます。

サプライヤの総排出量×(サプライヤからの総購入金額÷サプライヤ総売上)

そもそもアロケーション排出量とは、サプライヤのCO2総排出量のうち、サプライチェーン下流に位置する各企業のScope3に相当する排出量を意味します。そのため、自社がサプライチェーンの下流企業に製品を販売した場合は、以下の式で求めることができます。

自社の総排出量×(下流企業への販売額÷自社の総売上)

また、アロケーション排出量は自社がサプライチェーン上流の企業から購入した分も、以下の数式にて算定することができます。

上流サプライヤの総排出量×(上流サプライヤからの購入金額÷上流サプライヤの総売上)

この様に、アロケーション排出量は①企業間の取引金額②製品・サービスサプライヤの売上③製品・サービスサプライヤの排出量が分かれば簡単に求めることができます。

アロケーション排出量の概念図

 

実は、サプライヤの削減努力を反映する算定方法がもう一つ提唱されています。それは「調達する製品・サービス単体からの排出量を集積する」方法です。

具体的には、自社が購入した個々の製品やサービス単位でのCO2を集積し、それらの合計値をScope3排出量として計上します。製品単位で排出量の算定を行うことから、この方法であればどの製品を買えばよりCO2を削減できるかまで細かく分析することができます。

ただし、この方法で算定を行うためには、サプライヤ自身が自社製品等の排出原単位を個別に求める必要があり、算定する際も調達した製品全ての原単位や調達金額等のデータを集めなくてはなりません。一部の企業では製品単位のCO2原単位を求めている場合もありますが、殆どの企業ではそれらの取り組みを行っていないため、アロケーション排出量の算定と比べてこの方法で算定するまでには非常に多くの情報収集や細かい算定が求められます。

 

アロケーション排出量算定を行っている事例紹介

2022年初めに、NTTデータがCO2算定プラットーフォームサービスの提供を開始しました。そのサービス紹介をしているプレスリリースにて、サプライヤとの取引金額及び排出量を基に、自社のScope3に該当する排出量を算定する仕組を紹介しております。

NTTデータプレスリリース抜粋

こちらで紹介されている、売上と調達金額の割合を基に排出量を按分する方法は、CDPサプライチェーンプログラムで提唱されているアロケーション排出量に該当します。

また、4月には同社プレスリリースにて日本初のCDPサプライチェーンプログラムのプラチナパートナーになった事を公表しております。このことから、CDPと密接な関係を構築し、日本におけるパイオニアとしてアロケーション排出量のトレンドを作ろうとしていると考えられます。

 

おわりに

CO2算定の需要が高まる中、既に様々なCO2算定サービスが展開されており、どのサービスが自社に適しているかの判断が難しい状況と思われます。その際は、どの様な方法で排出量を算定しているのか、どの様なデータを基に算定を行うのかというのを判断軸とし、自社にとって最も実現可能性が高い方法で算定しているサービスを導入するのが良いでしょう。

弊社でもこれまで複数の気候変動関連プロジェクト支援やCO2算定サービス調査実績がありますので、最適なCO2算定サービス選定やCO2算定業務にてお困りのことがあれば、我々の知見を基に貴社の一助になれればと存じます。

 

参照

大須賀功

アーツアンドクラフツConsulting & Solution事業部/コンサルタント。